Evidence for a Milky Way Tidal Stream Reaching beyond 100 kpc


Drake+11
2013 ApJ 765, 154 - 168




 アブストラクト

 RR Lyr が 100 kpc の先に伸びている 
 マウントレモン望遠鏡を使ったカタリナ測光サーベイで見つかった 1207 個の RR Lyr の解析を報告する。これらの星の距離をカタリナシュミット望遠鏡での 14,000 ab 型 RR Lyr 星の観測と合わせ、星の集合が 100 kpc の先まで延び、 サジタリウス星流と重なることを見出した。

 破壊された星系の潮汐流か?
 この結果は、破壊された星系の潮汐流が外側ハローに存在するという以前の発見を 確認するものである。RR Lyr 密度をハローモデルの予測と比較して、今回の検出は 8 σ で確かである。 RR Lyr の距離、視線速度、メタル量、周期ー振幅関係 を調べた。
星流の性質 
 視線速度と距離は現在のサジタリウス星流モデルと合致しないことが判った。また、 最も遠方の星のメタル量に分離がある定性的な証拠が見つかった。以前の解析に従い、 RR Lyr の位置を測光法で選択した水平枝星候補と比較した。その結果、この構造が 60° の長さを持つことを見出した。この星流と異常球状星団 NGC 2419 との 関係を調べた。


 1.イントロ 

 星流 

 星流は多くの注目を集めているが、全天の完全なマップはまだできていない。 Belokurov et al 2006 はサジタリウス星流の分岐を発見したがその原因は説明 されていない。

 青色水平枝候補星  

Newberg et al 2003 は銀河系反中心方向 90 kpc にサジタリウス矮小銀河に関係する星流の存在を 提唱し,それがサジタリウス星流の追尾腕であるとした。これ等の研究では青色水平 枝星候補が測光的に SDSS データから選択された。 Newberg et al 2007 はSDSS DR5 から彼らの発見を再確認した。また Ruhland et al 2011 は SDSS DR7 から青色水平枝候補星を選び、 この密度超過を支持する追加結果を得た。 これらの研究は 80 - 90 kpc 距離に超過を見出した。

測光法では混入率が高い 

 Sirko et al 2004 や Ruhland et al 2011 が示したように測光だけでは 100 % 純粋な青色水平枝星を選り分けることは不可能である。カラーカットと等級に よっては、ブルーストラグラーが圧倒的になる。カラーカットを厳しくし、大きな 割合の青色水平枝星をあきらめるとブルーストラグラーの割合を 30 % まで 下げられる。しかし、もし水平枝星の数を保持したいなら混入率を 50 % かそれ以上 覚悟する必要がある。(Brown et al 2005, Bell et al 2010)
 分光法は明るい星に限定 

 青色水平枝星はブルーストラグラーより表面重力がずっと低い。(Yanny et al 2000) SDSS SEGUE-I, -II 計画では 300,000 星の分光 (Yanny et al 2009) を行い、 青色水平枝星を同定して、銀河系ハロー構造を見出そうとしている。しかし、g = 20.3 までなら視線速度を測れるが、log(g) を測るには g = 19.5 までが限界である。 Newberg et al 2003, Newberg et al 2007 Ruhland et al 2011 が発見した青色水平枝星は殆どが この限界より暗い。

 RR Lyr

 RR Lyr はきれいに分離が可能である。Mv(RRab) = 0.6 で、距離もよく決まる。したがって トレーサーに最適だが多数の観測が必要である。今日まで数万の RR Lyr 星が バルジ、マゼラン雲で知られている。これは重力レンズ観測の副産物である。 最近我々は(Drake et al 2013) 1万個の RR Lyr を空の広い範囲で見つけた。 しかし、 それでも 60 kpc より遠いハロー領域は未開発であった。


 2.観測 

 カタリナスカイサーベイ 

 カタリナスカイサーベイは次の3つの複合で、Dec = [-75°, +65°] で 地球近接天体を探している。
(1)Catalina Schmidt Survey。
(2)Mount Lemmon Survey。-10° < β < 10°  
(3)Siding Spring survey
銀河面近く 10 - 15° は避けている。

 マウントレモン 1.5 m 観測 

 Drake et al 2013 の前論文では Catalina Schmidt Survey データを解析した。 今回はマウントレモン 1.5 m 観測を中心に解析する。

図1.マウントレモン観測で見つかった8つの RRab 変光曲線の例。  


 3.RRab 距離  


図2.RR Lyr 等級の分布。実線=マウントレモン探査の 1207 RR Lyr. 破線= カタリナシュミット単さの 14500 RR Lyr. マウントレモンサンプルの V = 19.5 付近のピークは主にサジタリウス星流の分離した二つの腕による。V = 20.5 付近 のピークは遠い Gemini feature による。

図3.マウントレモン RR Lyr の太陽距離分布。サジタリウス星流と ピシス密度 超過を記した。サジタリウス星流の中央部はマウントレモン探査に含まれないが "Sgr gap" としてマークしてある。


 4.既知 RR Lyr との比較 


図4.マウントレモン探査で求めた周期と他の研究で決められた周期との差の 分布。赤三角= Drake et al 2013a から。青四角=この論文。

図5.SEKBO 探査との V 等級差。 SECBO は MACHO 観測での -10° < β < +10° 1675 deg2 観測から 2016 RR Lyr を発見。 バツ=マウントレモンとの比較。青四角=カタリナシュミットとの比較。 赤三角=サイディングスプリングとの比較。


 5.外側ハロー 

PTF サーベイ 

 PTF = Palomar Transient Factory から Sesar et al 2012 は Praesepe 領域、 124° < α < 133°, 18° < δ < 24°, 77 kpc < d < 96 kpc に RRab を 8 個発見した。 この領域は以前に、 Newberg et al 2003, が青色水平枝星候補を発見した個所の縁にあたる。

図7. サジタリウス面から 11° の星の銀河中心距離分布。 黒点=マウントレモン、カタリナシュミット探査。バツ= PTF(Sesar et al 2012) RRab。シアン四角= NGC2419. 破線=ただの直線フィット。

図6. 6/8 RR Lyr は我々の探査でも独立に発見された。 三角=8個の位置。バツ=マウントレモンで 76 kpc < d < 97 kpc で発見された RR Lyr の位置。黒四角= d < 76 kpc の位置。

図8. Majewski et al 2003 のサジタリウス座標系による極座標プロット。 赤=マウントレモン探査 RRab。青=カタリナシュミット RRab. 破線= V = 17, 18, 19, 20 mag 3本の太い破線(見えにくい)は三つのサジタリウス 星流の平均位置。大きな黒丸=サジタリウス矮小銀河。



図9.Majewski et al 2003 サジタリウス座標系での RR Lyr 分布。 (左):サジタリウス面から 15° 内の RR Lyr 分布。 (右):青点= RR Lyr, 黒点=モデル




図10.ハローを差し引いた残りのサジタリウス座標系での密度分布。
(A)サジタリウス先行腕での RRab の位置。(B)サジタリウス追行腕での RRab の位置。 (C)Gemini 星流の提案位置 (D) もう一つの密度超過候補



図11.サジタリウス座標系の X-Y 面上に投影した、ハロー差引後の RRab 星分布。
(A)サジタリウス先行腕での RRab の位置。(B)サジタリウス追行腕での RRab の位置。 (C)Gemini 星流の提案位置 (D) もう一つの密度超過候補



図12.RR Lyr のハロー密度。破線= Sesar et al 2010 のハローモデル。実線= Watkins et al 2009 モデル(調整)(左)Sgr に対する。(右)サジタリウス星流で平均した。


図13.RRab 星の周期・振幅関係


図14.遠方 RRab の位置。ボックス=マウントレモン探査領域。黒丸= 70<dG <95kpc で周期・振幅が Oosterhoff-I 型(Sgr dSph 型)の RR Lyr 星。緑三角= 70<dG<95kpc で周期・振幅が Oosterhoff-II 型(NGC 2419 型)の RR Lyr 星 マゼンタ三角= 70<dG<95kpc で Oosterhoff 型不明。赤バツ= 85 kpc < dG のマウントレモン RRab 星。単破線=黄道。大きいシアン四角 = NGC2419、 実線=二つのサジタリウス星流。




 5.3.SDSSデータとの比較  

 RR Lyr カラーは主系列ターンオフ星が 100 倍も多い

 SDSS データは g∼22 までで少し深い。以前の研究ではサジタリウス星流を カバーする領域で青色水平枝星を探した。ここでは RR Lyr 候補も含めて探す。 RRab の大部分は (u-g)o=0.25, (r-i)o=0.1, (i-z)o=0.05 付近にある。しかし、 このカラーは主系列ターンオフ星が 100 倍も多い。(Koposov et al 2012)

 選択 

 そこで、第1選択を 0.95 < (u-g)o < 1.5, -0.2 < (r-i)o < 0.2, -0.35 < (g-r)o < 0.22、 SDSS type = 6 (star), 17 < go < 22 として 1.6 milion 星を選んだ。
 第2選択は、2.7×(r-i)o + 0.25 > (g-i)o > 2.7 × (r-i)o - 0.1, (g-i)o < 0.05 を加えて、81,552 星に減らした。-11° < Λ < 11° という条件で総数は 23,507 水平枝星候補に減った

 水平枝候補の分布 

  Newberg et al 2003, Newberg et al 2007 Ruhland et al 2011 にあるように SDSS 水平枝分布は大きな混雑と混入に悩まされた。 図15を見ると、水平枝星候補が RRab ジェミニ星流を忠実に再現していることが判る。 これは Ruhland et al 2011 の水平枝星候補分布と合致する。RR Lyr 星に加え、選択カラー 域に重なったブルーストラグラーは水平枝星より 2 等暗いので、それらがゴーストを 作るのがやはり見える。

図15.サジタリウス面 (-11°<B<+11°) での SDSS 水平枝星候補 (17<V<21.5) 位置。短破線=図8の RRab 星流の位置。長破線 =水平枝星の星流を反映したブルーストラグラーの予想位置。  


 遠方 SDSS データ 

 SDSS データを 17 < V <18.5 と 18.5 < V < 19.8 19.8 < V < 20.7 の3つに分けた。図16にそれらの位置を示す。明るい星は近くの 水平枝星と一角獣座星流(銀河反中心方向 α = 110° - 120°) のブルーストラグラーである。中間の明るさの星はサジタリウス星流の先行腕 の水平枝星を含むようにした。暗いグループはジェミニ星流の水平枝星を 表す。しかし、暗いグループにはサジタリウス先行腕内のブルーストラグラーが 混入している。図はサジタリウス星流に付随した密度超過を明らかにしている。 しかし、Belokurov et al 2006 が用いた主系列ターンオフ星に比べると 青色水平枝星の数ははるかに少なく、従って、サジタリウス星流を二つに 分けることは明らかでない。

図16. 緑=17 < V <18.5、 青= 18.5 < V < 19.8, 赤= 19.8 < V < 20.7 の分布図。黒四角: dG > 80 kpc の RR Lyr の位置。シアン四角= NGC 2419. 破線=マウントレモン探査区間。 実線=サジタリウス星流。


 5.4.RR Lyr 星の SDSS スペクトル 

 

 

 

 

 

 

図17. RR Lyr の視線速度。青三角=Sesar et al 2012 の Cancer A と B グループ。 緑四角= マウントレモン RRab, 赤三角=マウントレモン RRc。黒点=モデル。  




 6.議論 

 混入の問題 

 Secar et al 2007 は測光と数回の反復観測から決めた RR Lyr 星、その分布 から決めた密度超過は実は固有光度が低い δ Scuti 型変光星と非変光星 の寄与が大きいことを見出した。全体では最初の候補の 70 % が真の RR Lyr で あった。

  Ivezic et al. 2005 は SDSS 測光に基づいて、 RR Lyr の 28 % を含むカラー選択サンプルならその 中の RR Lyr 率は 61 % であることを示した。

 遠方星流の発見 

 平均等級 V ∼ 20.5 の RR Lyr 集団が発見された。この集団をカタリナ シュミット探査、カラー選択水平枝星と合わせて、 60° の長さの星流が D = 70 kpc から D = 110 kpc に渡って伸びていることを見出した。これは   Newberg et al 2003, の仮説を確認したものである。

 ハロー密度 

 モデルとの比較からハロー密度は D = 30 - 50 kpc の先で急速に落下すること を確認した。これは Watkins et al 2009, Sesar et al 2010 が提言した。しかし 彼らの観測は薄いスライスで行われており、解釈に注意が必要である。
 ジェミニ星流

 ジェミニ星流 はサジタリウス星流と重なっているが、距離が大きいことは サジタリウス星流モデルと合致しない。この結果は Ruhland et al 2011, Secar et al 2012 とは合う。さらに、視線速度はサジタリウス星流のシミレイション とも合わない。

 NGC 2419 

 ジェミニ星流と NGC 2419 との関係も調べた。星団の周囲 10° 内で HB 星を測光、分光して潮汐流が付随するかどうかを調べることは重要である。