Molecular Clouds in the Extreme Outer Galaxy


Digel, De Geus, Thaddeus
1994 ApJ 422, 92 - 101




 アブストラクト

 運動銀河中心距離 18 - 28 kpc の 11 分子雲を観測した。最も遠い分子雲はこれまで 知られていたものより 10 kpc 遠く、明らかに可視光円盤の縁より遠い。これらは全て より大きな HI 集合(雲?)に含まれているが、HI ピークから約 40 pc 離れている。 CfA 1.2m と NRAO 12 m 望遠鏡の CO 観測によると、雲のサイズは 20 - 40 pc, 速度 巾 1 - 3 km/s, 運動温度 10 - 25 K である。  これ等の雲の CO 光度は太陽付近にくらべ低い。いくつかは IR 源を持つかも知れない。 しかし、遠すぎるため、星形成に関して一般的に言えるのは B1 より早期の星はない ということだけである。雲の存在数から R > 18 kpc では星間媒質中で分子雲の 寄与は大きくない。


 1.イントロダクション 

 外側銀河系と内側銀河系の違い 

 R ≥ 2Ro の極外側銀河にある分子雲については僅かしか知られていない。 これまでの広域サーベイ、Sanders,Solomon,Scoville 1984, Dame et al 1987, May, Murphy, Thaddeus 1988 や小領域観測 Tereby et al 1986, Mead et al 1988 の成果は太陽円の外側数 kpc までしか到達していない。多くの探査は 特に銀緯方向の広がりが不足している。内側銀河系では分子ガスの大部分は 銀経巾 70°, 銀緯巾 2° の分子リングに集中している。それに比べ、 遠方 CO 放射の観測に使える第2、第3象限部分だけでさえ、銀経 150°. 銀緯巾 6° - 8° ある。外側銀河系におけるこの銀緯巾はワープと フレア(Burton 1988) の効果である。それに加え内側の分子密度は高く、 外側分子雲は暗い。

IRAS 点源の CO 観測 

 外側銀河系分子雲の分布の観測で最も広範なのは Wouterloot, Brand 1989 で、彼らは 星形成域カラーを持つ IRAS 点源 1302 個を l = [85, 280] から 選んで CO スペクトルを取得した。CO が検出された 1077 天体の運動距離を 求めた。この観測から Wouterloot et al 1990 は R = 18 kpc までの分子ガス の表面密度を求めた。運動距離に使用したのは平坦回転曲線、 Ro = 8.5 kpc, Vo = 220 km/s である。

HIIR 励起星分布 

  R = 19 kpc より遠方の円盤星の存在の証拠はない。Robin, Creze, Mohan 1992 は種族II 星の密度が R = 14 kpc で鋭く落下することを発見した。 種族 I 星は明らかにそれより先に広がっている。 Chromey 1978 は外側銀河系 で数十の非常に青い星の分光視差を求めた。
そのサンプルから暗い矮星を 取り除き、太陽から 12 kpc に OB 星を発見した。これは光学円盤の半径 18 - 20 kpc に相当する。これは星間減光の補正の精度により左右される。 Moffat, Fitzgerald, Jackson 1979 を参照せよ。Chini. wINK 1984 は遠方 HIIR 16 個の励起星の分光視差を測った。最も遠い HIIR は R = 18.8 kpc であった。 Moffat et al 1979 は第2、第3象限の HIIR 45 個の分光に基づき、大質量星形成 が起きる縁は太陽円から 8 - 9 kpc 先にあるとした。

様々な天体による円盤の縁 

 Schechter 1993 は第2、第3象限の 651 炭素星の分布を調べて R = 2 Ro(17 kpc) に分布の端が存在することを見出した。 Fich, Blitz 1984 は外側銀河系 241 可視 HIIR の CO 視線速度から R = 16 kpc の先にはわずか二つしか存在せず、 18 kpc より遠くには一つもないことを見出した。彼らは星間減光はこの結論に影響しない と考えている。 Wouterloot et al 1990 のサンプル中、反中心方向から 15° 以内 にあり、第2象限では速度負、第3象限では速度正の 888 IRAS 点源中、5天体は R ≥ 17.5 kpc で最大 R = 19 kpc である。可視円盤が 19 kpc まで広がっ ているので、さらに遠方に数個の分子雲を期待してよい。

 HI ピークで CO 観測 

 HI は可視円盤のさらに遠く R = 30 kpc からでも検出される。 これに反し、CO はどこまで広がっているか不確かである。 そこで、ここでは HI のピークにあたる方向、速度の付近に 集中して 22 × 22 の  CO 観測を行った。HI ピークは Westerhout, Wendlant 1982 の Maryland-Green Bank (MGB)サーベイの結果を用いた。 こうして極端外側銀河系に 11 の分子雲を発見した。その大部分は R = 18 kpc の 2 kpc 以内 にある。しかし、一つは R = 28 kpc と光学円盤の遥か先に位置する。 近い方の雲は Wouterloot, Brand 1989 が見つけた最遠 IRAS 点源 とほぼ同じ距離にある。





図1.MGB HI サーベイによる R = 18 - 30 kpc HI コラム密度。N(HI) = (3.5 - 8.5) 1020 cm-2 である。四角は CfA 1.2 m で CO 観測を行った部分。アステリスク=分子雲の見つかった区間。 図右下の白丸= CfA 観測のビームサイズ。

 2.観測 

 CfA 1.2 m

 最初の観測は CfA 1.2 m 望遠鏡で 1991 - 1992 に行われた。システムは HI で定義される広い領域からの弱い CO に向いていた。l = [130, 155] で、 R = 18 - 30 kpc に 71 の HI ピークを見つけた。それらの位置を図1の四角 で示す。図の N(HI) コントラスが低いのは、負速度が小さなガスからの放射が 混ざっているからである。特に銀経が大きくなると、距離による速度変化率が 小さくなるため、混入が増す。それは、図1で全体的に l の増加と共に N(HI) が上がる点に見られる。




図2.速度積分した 1.2 m 望遠鏡 CO 等高線マップ。背景は MGB HI マップ。 図の上の数字は CO 積分速度範囲。HI 積分範囲はその両側 5 km/s づつ伸びている。 図(a), (b) には NRAO 12-m 望遠鏡で観測した領域が点線で囲まれている。 縦棒は 50 pc を示す。左下隅の数字は N(HI) の 1020 cm-2 単位での灰色表示巾である。
 検出結果 

 表1には CO が検出されなかった 63 フィールドが載っている。 CO が検出された 8 フィールドは図1のアステリスクで示されている。 表2にはそこで見つかった 11 分子雲が載っている。図2にはそれらの 等高線図を示した。分子雲の位置は常に HI ピークから少しずれている。

分子雲と HI ピークのずれ 

 CO が検出された 8 フィールドは図1のアステリスクで示されている。そこで 見つかった 11 の分子雲の性質を表2に示す。図2には速度積分 CO 強度を等高線で 表示した。ほぼ常に分子雲位置は HI ピークから僅かにずれている。その典型的な 値は 40 pc である。より冷たいガスによる自己吸収が関係するのかも知れない。

 NRAO 12-m 望遠鏡観測 

 最も遠方にある雲1 と雲2 の NRAO 12-m 望遠鏡観測が行われた。分解能は 1 である。図3にはその結果が CO(1-0), 13CO(1-0), CO(2-1) について示されている。雲が表3にあるように成分 "a", "b" に分解するのが 分かる。


図3.(a), (b) 雲1、2の NRAO 12-m 望遠鏡マップ。雲1の 1950 分点中心は (2h01m11.1s, 62°5320), 雲2は (2h44m44.8s, 58°1500)である。
(c) オリオン A, B 分子雲(距離 500 pc と仮定),(d) 牡牛座分子雲を 21 kpc 離して 12-m 望遠鏡で観測した場合の等高線図。




表1.CO非検出の HI ピーク領域



表2.1.2 m 望遠鏡で測られた分子雲パラメタ―。




表3.12 m 望遠鏡で測られた分子雲パラメタ―。



 3.結果と議論 

 3.1.雲の性質 

 雲距離の誤差 

 図4a には銀河面上での雲、 Aaronson et al 1990 の炭素星、 Wouterloot et al 1990 IRAS 天体の位置、図4b には (l, b) 図を示す。 図4b を見ると、我々の雲の最近端は可視円盤の外縁と重なっている。 ただ、雲も炭素星も距離誤差は 20 - 30 % ある。また、 Brand, Blitz 1993 が示した非円周運動の影響による運動距離の系統誤差もある。

 近傍雲との Lco 比較 

 図3にはオリオンA,B,牡牛座雲を 21 kpc においた時にどう見えるかを 示した。遠方雲と近傍雲の大きな違いは遠方雲の L(CO) が小さいことである。 103 K km s-1 pc2 を単位として、表3の 雲1は二つの成分を合わせて 1.5、雲2は 4.6 である。これに反し、オリオン A,B は 42, 牡牛座雲は 6.1 である。

雲質量 

 表2と表3には雲の質量を載せた。質量評価はビリアル質量と、 W(CO) から N(H2)/W(CO) = 2.3 × 1020 cm-2 (K km/s)-1 を仮定して求めた W(CO) 質量がある。 どちらの質量にも疑問符が付く。力学平衡には問題があるし、例え平衡であった としても、H2 の多分 10 倍はある HI 質量の影響がある。 N(H2)/W(CO) に関しては低メタル環境では数倍大きいという推測がある。 従って、表2から得られた総ビリアル質量 3.1 × 105 Mo が 総 W(CO)質量 1.3 × 105 Mo とこんなに良く合うのは驚き である。

 雲温度 

 雲1の温度 T(1) = 13±5 K, 雲2の温度 T(2) = 22±7 K は 牡牛座雲、オリオン雲、それに R = 3.5 - 8 kpc 雲の温度に近い。一方、 R = 12 - 13 kpc 雲温度 は 7 - 10 K (Mead, Kutner 1988) である。 牡牛座の典型的運動温度は 6 - 10 K である。
(前文との違いは? )
それはオリオンAでは 9 - 34 K, オリオンBで 7 - 24 K である。 R = 4 - 8 kpc 雲の運動温度は 6 - 15 K である。

 雲の加熱源 

 極端外側雲の外部加熱は太陽円付近に比べ明らかに低い。 Hollenbach 1988 によると、可視・紫外星間輻射が分子雲の主要加熱源である。星形成域から 離れると、星間輻射場強度はダストの赤外放射で追跡できる。ダスト放射 のプロファイルは IRAS 60, 100 μm データから Bloemen et al 1990 により求められた。太陽円から R = 13 kpc にかけて放射はファクター3の 低下を示した。IRAS ではその先が求まっていないが、その先はさらに落ちるであろう。

 なぜ遠方雲が暖かい? 

 すると遠方雲が暖かいのは冷却効率が低いか、雲内部の星による加熱という 事になる。 Shaver et al 1983 の酸素量組成変化 -0.08 dex/kpc を外挿すると、メタル量は数倍低いだろう。 メタル量が下がると、雲の最も重要な冷却源 OI 63μm, CII 158μm の 放射率に影響するだろう。

図4.(a) 太陽と雲の位置。斜線=可視円盤の縁。点線=今回観測領域。
(b) 天体(l, v) 図。黒丸=雲。アステリスク= Aaronson et al 1990 による最遠炭素星。 菱形=  Wouterloot et al 1990 IRAS 天体。 破線=運動距離。


 3.2.赤外放射と星形成  

IRAS 源 

 遠方雲の幾つかの近くには弱い IRAS 源が存在する。 雲 2 に存在する IRAS 02450+5816 は、 21 kpc 離れているなら、最も明るい。 60 μm と 100 μm データから求めたカラー温度は 26 K で、 BB を仮定すると L = 3.7 × 103 Lo となる。この光度は B1 星に相当する。 雲2に随伴する HIIR の励起星 Geus et al 1993 はスペクトル型 B1 であるがその位置は IRAS 源と違う。いずれに せよ大質量星形成が雲で起きていることは驚きである。

分子雲内の赤外天体 

 赤外点源が見つからないのは単に距離が大きいためであろう。仮に 10 kpc 離したら、牡牛座の赤外源は IRAS では一つも検出されないし、オリオンでも その最も明るい赤外源が一つか二つ見つかるくらいであろう。遠方雲からの 広がった放射は IRAS 60, 100 μm マップで明らかでない。しかし、それも 以外ではない。たとえば牡牛座雲のピーク輝度は 6 MJy sr-1 で あって、IRAS マップでは見分けられないだろう。

 近赤外探査 

 近赤外探査で B1 よりもっと晩期の埋もれた星探査は興味深いだろう。

 3.3.R = 18 kpc の先の分子ガス 

 発見の完全性 

 今回の研究は個々雲の質量評価の不確定性、HI ピークにサンプルバイアス が掛かっている問題、低い HI ピークの無視などにより、極端外側銀河における 分子の総量を正確には求められなかった。それにも拘らず、我々が見出した程度 の雲が見逃された可能性は低い。新しい CfA 1.2 m W3 及び Cam OB1 領域の サーベイが l = [131, 144], b = [-2, +4] (Puche et al 1993)完全サンプルで 行われた。この領域は我々の l = [130, 155], b = [-2, +2.5] 領域部分サーベイ と一部(かなり?)重なっている。彼らの感度は我々に比べファクター 2.5 低い。 この領域内に雲 2, 3a, 3b それに雲1 の一部がある。それらと同じくらい明るい 雲が他にあれば Puche et al 1993 サーベイにかかったはずである。

 銀緯分布 

 ワープの節線が l = 150 なので(Burton, te Lintel Hekkert 1986)、我々の l = [130, 155] 観測はワープの影響は少ない。それで、われわれの b = [-2.2, 2.4] 範囲のせいで雲を逃すことはないだろう。Merrifield 1992 によると、R = 22 kpc での HI 分布の FWHM は 1.2 kpc である。これは 4° に相当し、我々の観測 とのマッチがよい。

 予想される雲の数 

 今回の狭い銀経範囲での観測から予想すると、 R ≥ 19 kpc には 50 個の分子雲が存在するだろう。その質量 (1 - 3) × 105 Mo は R = 18 - 30 kpc に予想される HI 質量 ∼ 108 Mo と較べると僅かである。


 4.結論 

 遠方分子雲の発見  

 可視光円盤の縁近く、またはその先に位置する分子雲を発見した。そのサイズ、 速度分散、温度は太陽近傍のそれと比べ同じくらいである。違いは CO 光度が 小さいことである。興味深い問題は、このように星間輻射場が弱く、メタル量 が低いところで、どうやってこのような雲ができたのかという疑問である。 銀河中心距離の大きなところに分子雲が存在することは、分子雲の形成以降に 星形成が抑えられることを示唆している。
雲2は幾つかの点で興味深い 

 雲2は幾つかの点で興味深い。まず、その銀河系中心距離 = 28 kpc で、その次に遠い雲と比べても 6 kpc も外側である。さらにその CO 光度 は他の2倍以上明るい。しかも HIIR が付随している。