ISOGAL (7, 15 μm)と MACHO (V, R) の天体同定からセミレギュラー変光 星の一般的性質を決めた。バーデの窓で約 300 のセミレギュラー星を集めた。 これらは主に M-型巨星で、AGB に沿って進化している。それらの log P - Mbol 関係を調べた。ISOGAL から質量放出率は 1 10-8 - 5 10-7 Mo/yr となった。 | 質量放出率は光度と周期に依存する。いくつかのセミレギュラー星は短周期 ミラと同程度の質量放出を示すが、ミラ程の振幅は持たない。周期 70 日は 質量放出の必要条件であるが、十分条件ではない。放出率を dM/dt ∝ TαLβ で近似すると、 α = -8.80, β = +1.74 である。これはモデル予想と合う。 もし LMC の極端に大きな質量放出星を加え、 T = 一定とすると、 dM/dt ∝ L2.7 となる。この式は [10-8, 10-4] Mo/yr にあてはまる。 |
1.イントロダクション現在、脈動とダスト輻射圧の結合がマスロスの原因と考えられている。 基本メカニズムは脈動に伴う周期衝撃波が大気外層を広げ、ダスト形成半径で のガス密度を上げ、ダスト輻射圧の効き目を増すというものである。この筋書 きに基づき、ミラ型のような大振幅脈動星の動力学計算も行われている。しかし、AGB 変光星の多くはミラ程に振幅が大きくないセミレギュラーで ΔV < 2.5 mag である。ミラ型星は周期的衝撃波から生じると考えら れるバルマー輝線を示すが、セミレギュラーからは周期的輝線が検出されない。 その上、ミラ型星が示す赤外域でのライン分裂 ( Hinkle, Lebzelter, Scharlach 1997 ) がセミレギュラーでは見られない。 これまでセミレギュラーの詳細な研究は数個の明るい、しかし距離不定な星 を除いてなかった。しかし、MACHO, OGLE, Hippparcos によりその構図は大き く変わりつつある。一方、 ISOCAM が中間赤外データを提供している。特に、 バーデの窓では 15 分角四方内に 1193 天体を 7, 15 μm で検出した。 その結果、中期 M から晩期 M、さらにミラ型星に至るマスロスの連続的な 系列のサンプルが得られるようになった。 そこで、我々はバルジ AGB 星の 新しい研究を開始した。それは MACHO の可視変光曲線と ISOGAL の中間赤外 測光を結びつけ、質量放出 AGB 星のだ大規模サンプルの解析である。 |
2.データ2.1.ISOGALデータ2.2.MACHOデータ![]() 図1.NGC 6522 と Sgr I の窓 15 分角四方での ISOGAL CMD. [7-15] - F15 の特徴的な系列に注意。黒丸=ミラ。十字=MACHO 前データで変光非検出。 RGB 先端は1 [15] = 8 mag. それより上は AGB 星。 |
1. V < 13.5 + 4.67(V-R) で暗い主系列星を落とす。4 万個残る。 2.(V-R) > 1.5 星で予備同定し、そのズレのメディアンをオフセット。 3.1193 ISOGAL 天体の 3" 以内の最近距離 MACHO 天体。 ![]() 図2.ISOGAL-MACHO 間座標の差 (arcsec). 斜線=わざと15" ずらしたリストで作った時の同定=偶然の一致がどのくらいあるか。 |
同定=904/1193 ISOGAL. 非同定ISOGALは観測ミス天体?以降の
解析は V, R, 8, 15 測光の揃った 332 天体に行う。![]() 図3.MACHO/ISOGAL 同定天体の VR CMD. 黒丸= V, R, 8, 15 が揃う。 (V, V-R) = (13, 0.9) RC 付近の塊りは偶然の一致同定だろう。 |
![]() 図4a.左:5つのミラ型星 MACHO R 光度曲線。右:左データを位相で揃えた。 |
![]() 図4b.左:5つの SRa 星 MACHO R 光度曲線。右:左データを位相で揃えた。 |
![]() 図4c.左:5つの SRb 星 MACHO R 光度曲線。右:左データを位相で揃えた。 |
![]() 図4d.左:上=2つの二重周期星 MACHO R 光度曲線。下=3つの大振幅 SRa 星。 右:左データを位相で揃えた。 |
4.1.周期サンプル星のうち 305/332 = 92 % は周期的または準周期的変光を示した。 振幅はあまり大きくなく、より長い期間の不規則な変光がそれに被さっている。 残りの 27 星中 26 は MACHO が飽和してよい変光曲線が得られなかった。1 星 は食連星である。この領域には既知のミラ型星が 14 ある。 SR 星はその 20 倍 見つかった。4.2.セミレギュラーlog P = 2.2 で区切り332 星の光度曲線全てが調べられた。周期の近似値を直視でまず決め、次に フーリエ解析でより正確な値を求めた。観測に季節的な重みがかかるので、 log P < 2.2 の変光 280 星はシーズン毎に周期解析を行い、その後振幅周期図で まとめた。残り 25 星 は log P > 2.2 である。 SRa と SRb SRa は P = 35 - 1200 日で、周期はほぼ一定であるが、ミラ型星より振幅が 小さい。 SRb は = 20 - 2300 日だが、周期星はやや弱く、不規則変化も示す。 通常は平均周期を適用する。 我々のサンプルの 3/4 は SRa で残りの大部分が SRb である。しかし、この 分類自体はかなり主観的である。周期が長くなると SRb の割合が増える。 4.3.ミラ既知ミラの同定14既知ミラ中6個は表2にあるように、明確な変光曲線が得られた。5個は MACHO がサチって、MACHO カタログに載っていないので、 332 サンプル中にない。 残り3個は同定ミスで近くの暗い星とされていた。 周期精度 MACHO 周期を Lloyd Evans 1976 や Glass et al 1995 の値と較べた結果、 ΔP/P = 0.07 - 0.09 であった。 |
![]() 表2.ミラ型星リスト |
SRの log P - [7] 関係 図5a は我々のサンプルの log P - [7] 関係である。K と同様に [7] も Mbol と相関が強い。参考のために図中に Bedding, Zijlstra (1998) のヒッパルコス SR 星の関係を重ねた。このためには NGC 6522 領域での 51 晩期型非ミラ型星の Ko (Frogel, Whitford 1987)と ISOGAL の [7] から導いた [7] = 1.04 Ko - 0.20 を使用した。 (カラーの補正はナシ。 ) バーデの窓の DM = 14.7 とした。Bedding, Zijltsra 1998 ラインは、 [7] = -1.85 log P + 11.27 となる。このラインはサンプル点の真ん中(ほんとは少し上)を通っている。こ のラインは Whitelock 1986 が球状星団の log P = [0, 2.8] の変光星に対し て最初に見つけた関係より 0.8 mag 上を通っている。 ミラの log P - [7] 関係 図5a にはミラに対する関係式 [7] = (-6.9±1.4)log P + (23.5±3.4) も重ねた。SR と違いミラの [7} はダスト放射が含まれているので、Mbol の物差しにはなりにくい。 図5b = log P - Ko 関係 ミラの Ko にはダスト放射はあまりないので、 Mbol の指標には向いている。 そこで、[7]を Ko に変換して SR の log P - Ko 関係を図5b に示した。 (図5a をずらしただけの絵になる? ) 図中には Bedding, Zijlstra 1998 と Whitelock 1996 のラインも引いた。 (LMC の PLR との関係は? ) 図5c = log P - Mbol 関係 図5c は log p - Mbol 関係を示す。そこでは上の関係を使って、SRs の [7] を Mbol に変換した。Glass et al 1995 のミラ PLR も重ねた。図5 a, b, c で SR の PLR 勾配がミラに較べ緩いのは進化系列を反映しているのかも知れ ない。そのように緩い進化経路は、今回より狭い log P = [1.8, 2.8] 範囲で だが、Vassiliadis, Wood 1993 が提案している。Alves et al 1998 も同様な 進化経路を P - L 図上に描いた。彼らは Vassiliadis, Wood 1993 モデルを 解析的に内挿して、初期質量とメタル量に依存する P-L 関係を導いた。彼らは メタル量は似ているが年齢の異なる 47 Tuc と NGC 1783 で SRs の性質が モデル P-L 系列の相対的光度を支持しているとした。 SR から Mira へ セミレギュラーは P - L 面上を星毎にほぼ平行な進化経路に従って進み、 ついにミラ系列に達する。銀河系球状星団ではそれは P = 200 d 付近に生じる。 太陽近傍の星では P = 460 d 付近になる。太陽近傍ミラの周期分布は現在知ら れていない。 ("solar neighbourhood line" は不明確。 今 2016 太陽近傍 P 分布は? ) |
![]() 図6.上:log P 分布ヒストグラム。下:log P 区間毎の平均振幅。 ミラは省く。散布度も重ねた。 しかし、 Sgr I バーデ窓領域の調査は完全で(Glass et al 1995) その平均周期は 346 d である。この値は球状星団ミラでの平均値 200 d よりずっと大きく、また バーデ窓でホワイトロック 1986 P-L 系列の上にあるセミレギュラーと一致する。 SRの Ko 散らばりの意味 Sgr I バーデ窓ミラ型星の log P - Ko 関係の周りの散らばりは 0.35 mag である。その大部分は視線に沿ったミラの分布、= バルジの厚み、が原因で ある。図5a の SR 散らばりはそれよりずっと大きいということはなく、進化 経路の巾があまり大きくないことを意味している。 振動モード 図6上から分かるように、SR の周期にはっきりした集中は見えない。しかし、 図5a, b, c ではミラとセミレギュラーの間には Wood, Sebo 1996, Wood 2000 が LMC で述べたものと似た間隙がある。この間隙は、しかし、MACHO 観測で 季節性による周期もどきが起きる周期に相当する。Wood, Sebo 1996, Wood 2000 はミラ系列を基本振動でセミレギュラーは高次振動ではないかとしている。 第1倍音振動は基本振動の左 Δlog P = 0.35 の所にミラ系列と平行に 並ぶはずである。LMC にはより高次の振動系列が明白に見えるが、バーデの窓 では観測誤差が大きいのと、距離が様々なためそれほどはっきりした分離は見え ない。SRの短周期端では非常に高次の倍音振動が必要であるという議論は Koen, Laney 2000 が行っている。 |
SRとミラの分離 セミレギュラーの短周期変動には不規則な長期の揺れが加わるので R バンド 変動の解析はまず眼視で行った。図4a の5つのミラは全て ΔR > 4 mag であったが、SRは ΔR < 1 mag であった。 |
短・長周期星 周期 50 - 60 d の3つに星が 400 d 付近の長い変動も示す。ただし、観測の 季節性が解釈の邪魔になっている。それらの短周期振幅は 0.1 - 0.2 mag で、 長周期の方では 0,5 mag の巾(図4d を見よ)を持つ。しかしその明るさはミラ よりも SR にふさわしい。似た星が LMC MACHO データの中にも見られる。 周期と振幅 図6を見ると、短周期ほど小振幅になる傾向が明らかである。 |
距離既知セミレギュラーの最初の中間赤外研究 サンプル中 Frogel, Whitford 1987 が同定した星の SED をモデルフィット した。それらの星はモデル SED を用いて 15 μm 超過をに基づく質量放出 率の較正に使われる。また、我々は質量放出率が光度や有効温度にどう依存 するかを調べる。これは距離が知れたセミレギュラーの中間赤外測光の最初 の研究である。我々は脈動の性質と質量放出を較べる。 大気モデル Frogel, Whitford 1987 の表1から選んだ、25 SRs + 1 Mira = 26 星の Jo, Ko から SED と Mbol を求める。Mbol は以前議論したように DM = 14.7 を考 慮して -0.5 mag の調整を加えた。赤化補正には Av = 1.5, AR/ AV = 0.75 を仮定した。有効温度は (V-K)o に Bessell et al. (1998) を適用して定めた。星本体の SED は Lejeune, Cuisinier, Buser 1997 の モデルスペクトルを、太陽 [Fe/H], log g = 0.28, 0.00, Teff = 2500, 2800, 3000, 3200, 3350, 3500, 3750, 4000 K を集めた。注意しておくが、これらは 静止モデルであり、脈動の結果の大気の拡大は考慮されていない。 (このモデルとBessell et al 1998 は 同じ Teff - (V-K) 関係を与えると書いてあるが、理屈が分からない。) DUSTY の入力と出力 このモデルスペクトルを DUSTY コードに入力する。グレイン成分にはシリケ イトを採用した。また、ダストシェルの内側温度は 1000 K に固定した。 等々で計 200 の DUSTY モデルを計算した。DUSTY は L = 10,000 Lo に規格化 した質量放出率、膨張速度を出力する。真の値はこれにスケーリングして求める。 フィット 表3にはフィットの結果を示す。表の第6,7列には 10,000 Lo に対する Tmod と (dM/dt)L4 が示されている。スケーリングした (dM/dt) は第8列 に載っている。図7にその内の4例を示す。 |
![]() 図7.黒丸=4つの星の観測例。実線= DUSTY モデル。点線=星本体。 |
5.2.質量放出率、有効温度、光度質量放出の温度、光度依存性表3の結果を (dM/dt) ∝ TαLβ の 形でフィットした結果は α = -8.80-0.24+0.96, β = +1.74-0.24+0.16 であった。 Arndt et al 1997 による炭素星質量放出率のモデル計算では、 (dM/dt) ∝ T-8.26L1.53 であり、今回の結果と 良く合っている。 5.2.15 μm 測光からのダスト放射質量放出率赤外超過から質量放出率表3は F(7 μm) からレーリージーンズ外挿した星フラックスに対する 15 μm 超過 x[15] を載せている。この量と DUSTY で導いた質量放出率と の間の関係は log (dM/dt) = (0.87±0.08) log (x[15]) - (7.88±0.11) である。 |
この式によると SRs の 15 μm 超過が 3 - 130 mJy は質量放出率
10-8 - 5 10-7 Mo/yr に相当する。説明した通り、
これは 7 μm からレイリージーンズ外挿した上の超過を仮定していて、
シェルが短波長で光学的に厚い場合は適用できない。 ユラの式 ユラ1987は次の質量放出の式を発表した。 ![]() この式と我々の結果を較べてみた。F(15) を F(60) に変換するため、 Jura 1986 の炭素星に対する式 F(ν) ∝ ν1.54 を転用した。色々数値を仮定して計算すると、15 μm 超過 100 mJy に対し 質量放出率 2 10-7 Mo/yr が得られた。我々の較正式は 4 10-7 Mo/yr なのでこの値はかなり良い。 |
5.4.質量放出率と周期図8は [15] - log P 関係図8には 7 μm からのレーリージーンズ外挿を仮定して、その上の超過分 x[15] と log P との関係を示す。図にはミラも含めた。周期が長くなると 外挿の前提が怪しくなることに注意。 大振幅は質量放出の必要条件でない 長周期セミレギュラーの質量放出率はミラのそれと重なっている。これは 質量放出に大振幅脈動が必要でないことを物語る。P < 60 d で目立つ 質量放出がないことは Kerschbaum et al 1996 の P < 75 d に CO が検出 されないという発見と合致する。 5.5.CO との関連で歴史Kahane, Jura 1994 は 11 SRs (P=[100, 160] d) から CO を検出した。それ らは K = 0 より明るい。彼らはそれらの質量放出率を 1 - 1.5 10-7 Mo/yr と求めた。似た結果が p = [300, 400] d ミラで求まるので、 SRs は 基準振動するミラに対応する倍音振動星ではないかと思われた。Kerschbaum et al 1996 は彼らのサンプルを ARa と SRb に広げた。Kerschbaum, Hron 1992 は青い SR では CO を検出しなかった。一方赤い SR とミラでは検出率は 50 % であった。 P < 75 d と P = [175, 325] d の SRs では CO が検出されないが、 P = [75, 175] d では CO が検出される。Young 1995 による近傍の薄いダスト シェルを持つミラの研究によると、M5.5 より晩期型の星でのみ CO が検出され る。M7 より晩期では検出率は 100 % になる。 |
![]() 図8.15 μm 超過と周期の関係. P > 70 d が質量放出の必要条件。 しかし、十分条件ではないことが判る。 |
SRs の質量放出が T と L の関数であることを見てきた。高い光度と 長い周期は共に低温と結びついていて独立な変数ではない。図9には われわれの SRs と van Loon et al 1999 による LMC のダスト AGB 星 の結果を合わせた。合わせると (dM/dt) ∝ L2.7 となる。 |
![]() 図9.(dM/dt) と Mbol の関係。四角=バーデ窓のセミレギュラー。 黒点=LMC C 星。白丸= LMC M 星。バツ= LMC 超巨星。実線 =直線フィット。 |
1.非ミラ=SRs MACHO と ISO で見つけた非ミラの殆どは SRs であった。 2.SRs は多い セミレギュラーはミラの 20 倍多い。 3.ギャップ SRs と Miras の間にモードギャップがある。 4.PLR バルジ SRs は PL 面上でヒッパルコス SRs と同じ場所を占める。 その P-L 関係の勾配は多分球状星団と同じ。ただしメタル効果で明るい。 5.振幅 SRs の振幅は周期と共に大きくなる。 |
6.質量放出率は振幅に無関係 質量放出率は光度と周期による。しかし振幅は無関係。質量放出率は 短周期ミラに匹敵する。 7.質量放出に最小周期 質量放出に 70 d 以上が必要。 8.温度と光度 質量放出率は (dM/dt) ∝ T-8.8 L1.7 9.質量放出率の巾 SRsの質量放出率は 1 10-8 - 5 10-7 Mo/yr. |