研究成果

Paαサーベイプロジェクトの成果

2009年にプロジェクトを開始して以降、現在までに合わせて38天体の爆発的星形成銀河のPaα輝線観測に成功しました (図4)。これは銀河のPaα撮像サーベイとして最大規模のものとなります。また、高い解像度での観測を得意としていたハッブル宇宙望遠鏡に対して、miniTAO/ANIRは一度に銀河全体をすっぽりと覆う事が出来る視野の広さを有しているということも、これまでにない新しい点です。 これらの爆発的星形成銀河の星形成活動がどこで起こっているのかを銀河内の星の分布と合わせて調べてみると、銀河の中心部分に集中しているものと、銀河全体に広がって分布しているものの2種類に明確に分類できることが明らかになりました(図5)。これまで地上観測では水蒸気や塵に邪魔されて見ることができなかった、またハッブル望遠鏡でも捉えることができなかった爆発的星形成銀河の姿を、史上最大規模のデータによって示すことに成功したのです。

今回の結果の意義

銀河は様々な姿・形をしていますが、そのほとんどはハッブル系列と呼ばれる形態分類法で大きく楕円銀河と渦巻銀河の2つに綺麗に分類する事ができます(注2)。しかし、この形態がいつ、どのようにしてできたのかはよく分かっていません。 今回の発見は、銀河の形成段階で星形成を行なっている領域自体がこの2つに明確に分離することを示しており、銀河の形がその形成段階からわかれていた可能性を示唆しています。これは、銀河の形態がどのような過程を経てできるのかを解き明かす手がかりとなります。現在の銀河進化の枠組みの中では、楕円銀河は遥か昔の衝突合体によって一気に星を作ったあとで楕円銀河の形状に落ち着き、その後は星形成を殆ど行わないと考えられていました。しかし、今回の観測では楕円銀河の中心でいまだ爆発的な星形成を行い、その星質量を増やしつつあるものがあることを示しています。これは楕円銀河の質量形成に、これまで考えられていなかった経路があることを示唆します。 今後もさらに多くの爆発的星形成銀河の観測を行い、その性質と成長過程を詳細に明らかにしてゆく予定です。

(図4)取得した全銀河の画像。1.65μmを青, 2.1μmを緑, Paα輝線を赤に割り当てた擬似3色合成図


(図5)今回観測した銀河の形状の中心集中度を測定した結果。横軸が古い星の分布の中心集中度、縦軸が新たに生まれた星(星形成領域)の分布の中心集中度です。一般に、中心集中度が高いほど銀河の形状は楕円銀河的になります。