爆発的星形成銀河とは、1年間に数10~数100個分の太陽に相当する大量の星を生み出している形成途上の銀河を指します。 その活発な星形成活動をエネルギー源として赤外線で非常に明るく輝いており、その放射エネルギーは太陽の1,000億倍以上にも及びます。 しかしながら、なぜ活発な星形成が起きているのか、これら銀河がどのように進化して最終的にどのような銀河になるのかについては、まだよく分かっていません。 さらに、これら銀河の非常に活発な星形成活動は、数多くの超新星爆発が起こった際に放出される大量の塵(ちり)によって覆い隠されています。 従来の研究手法で用いられる紫外線や可視光線はこうした塵に吸収されてしまい、その内部まで見通すことができません。 しかし、赤外線であるPaα輝線(⇒注1)はこの塵に対して非常に強い透過力を持っていることから、 Paαを観測することで、塵の向こう側に隠されていた星形成活動を直接かつ詳細に捉えることができるようになります(図2)。
我々研究グループは、東京アタカマ天文台1m望遠鏡 (通称miniTAO:ミニタオ)に搭載された近赤外線カメラ ANIR(アニール)を用いて、爆発的星形成銀河のPaα輝線による撮像観測を2009年から行ってきました。miniTAO望遠鏡は、標高 5,640mのチリ・チャナントール山の山頂にあり、世界一高い場所にある望遠鏡としてギネス記録にも登録されています(図3)。この高い標高と乾燥した気候のおかげで、これまで地上からは不可能だと思われていたPaα輝線観測が可能となりました(⇒注1)。 爆発的星形成銀河をPaα輝線で詳細に観測し、その星形成のメカニズムと銀河の進化史を明らかにする事が本プロジェクトの目的です。 同様の研究はハッブル望遠鏡の赤外線カメラNICMOSカメラでも可能でしたが、ANIRに比べてNICMOSの視野は10倍以上狭いために効率的な観測ができないという弱点がありました。また、NICMOSは2010年に取り外されてしまい、現在Paα観測はminiTAO/ANIRの独壇場となっています。
(図2)星形成銀河VV254の水素Paα輝線画像(左)と、同じ領域を水素Hαで撮影したもの(右:Howard Bushouse (米国 宇宙望遠鏡科学研究所)提供)。星間塵がなければ同じに見えるはずですが、Paα画像にはHα画像で見えていない銀河中心で明るく輝く星形成領域があることから、大量の塵があってこの星形成領域が隠されていることがわかります。