簡単な準解析的な式でダストシェルからの赤外放射を特性付けた。輻射輸達の
数値解をダストシェルについて得た。モデルの自由パラメタ―は、ダストの吸
収特性と密度分布である。輻射圧で吹き出されるダストの密度分布に近似的
解析表現を与えた。フリーパラメタ―がスペクトルに与える影響を見るために、
大きなモデルグリッドを計算した。 観測から、Tc = 近赤外カラー温度 と A10 = 10 μm の放射 または吸収強度の相関が知られている。この関係は本質的には近赤外光学的 深さと 10 μm 光学的深さの関係である。理論的 A10 - Tc 関係を計算し、観測と較べた。その結果、この関係は近赤外と 10 μm との 星周シリケイト吸収効率の比を決める鋭敏な方法であることが判った。 |
これ等の結果と、以前に得られた結果とは、星周シリケイトグレインの近赤外
吸収効率は地上鉱物から予想されるよりもずっと大きいことが判った。我々は
その原因は星周シリケイトに含まれる鉄イオン F2+ によるカラー
センターと考える。近赤外と 10 μm との吸収効率の比を用いて、観測された
A10 - Tc 関係をダストシェルのコラム密度として較正し、そう
することで、マスロス率を容易に導けるようにした。 R Cas, IRC 10011, OH 26.5+0.6 の3天体の赤外放射の詳細モデルを作った。 特に、 10 μm 放射または吸収の形に注意した。その結果、 10 μm 共鳴帯 の本来の形が天体毎に違い、 R Cas では太く、 OH 26.5+0.6 では狭く、IRC 10011 が中間になることが判った。この差の原因を考察した。マスロス率は、 3 10-7 Mo/yr (R Cas), 2 10-5 Mo/yr (IRC 10011), 2 10-4 Mo/yr (OH 26.5+0.6) である。 ( パラメタ―が違うモデルを同じ コラム密度同士で較べている。しかし、コラム密度は観測量でないから、 観測の解釈に役立たないのが残念。) |
A10 - Tc 関係 Jones, Merrill (1976), Bediin 1977 はモデル計算と観測との比較から、M型星星周シリケイトの ≤ 6 μm 吸収断面積は地上鉱物から予想されるより大きいことを示した。 それらの解析は少数の光学的に薄い τ(10) < 3 サンプルの解析に基づ き、結論も定性的であった。この論文では 35 個の光学的に厚いシェルを含む サンプルの A10 - Tc 関係を解析する。OH/IR 星の厚い光学的深さ はこのような解析に甚だ有用である。と言うのは、中心星の温度や、境界条件 のような他のパラメタ―に対してこの関係は鈍感になるからである。 10 μm バンドの固有形状 Mitchell, Robinson 1981, Rogers, Martin, Crabtree 1983, Pegourie, Papoular 1985, Schutte, Tielens 1985 の研究は 10 μm バンドの固有 形状は星毎に変わることを示した。Tielens, Allamandola は格子の熱収縮に より、Si-O 伸縮振動の性質が変化する、つまり吸収効率の温度効果であると 考えた。Schutte, Tielens 1985 は凝縮過程の差によると唱えた。 |
マスロス率 ダストの赤外吸光係数が決まると、モデルフィットから、コラム密度、シェ ル内側半径が決まり、 CO, OH 観測からの脱出速度と合わせて、マスロス率が 決まる。我々は A10-Tc 関係から 35 天体のマスロス率を決定した。 モデル 我々のモデルは Leung 1975, 1976a,b が開発した拡散法に依っている。 このモデルで広範なパラメタ―空間を探った。特に、内側では加速域まで 含めた現実的な密度分布を考えた。研究目的がシリケイトダストの光学的性質 とマスロス率なので、解析は 1 - 15 μm に限った。 論文の組み立て 第2章では、ダストシェルの特徴を述べる。観測からダストの性質を導くのは 本質的に逆問題である。その解法もここで論ずる。第3章では輻射輸達モデル を述べ、仮定するシリケイトの光学的性質を与える。パラメタ―グリッドでの スペクトルは付録Aで述べる。第4章では A10-Tc 関係を調べる。 マスロス率をサンプル星について求める。第5章は個々の天体の詳細な解析を 行う。 |
星周層の3領域 Hinkle, Hall, Ridgway 1982, Hinkle,Scharlack, Hall 1984, Hinkle 1985 は星周層を3領域に分けた。 (1)脈動大気。脈動により、内部からの強い衝撃波が極大期の頃に大気に 突入し、星半径の5倍程度の距離まで物質を放り上げる。 (2)放り上げられた物質は準静的な構造を作る。この領域のガス温度は 800 K くらいで、かなり低く、ダスト粒子はそこで形成される。 (3)外側に広がって行く星周シェル。輻射圧がそれらのダストを外側に加速 する。ダスト・ガス衝突によりガスはダストに引きずられ、外側に膨張する 星周シェルを形成する。 3階構造からのスペクトル このような3階構造はスペクトルに反映される。例えば、Hinkle, Hall, Ridgway 1982 は、3領域のそれぞれを CO 吸収線で研究した。 Wilson 1976 は水素輝線が衝撃波領域から出ることを示した。一方、金属吸収線は (2) の 準静的領域から光球へと落下していく物質内で生じることが Hinkle, Hall, Ridgway 1982 により示された。ピーク速度と、激しい乱れがないことから、 Hinkle, Scharlach, Hall 1984 は メーザーに要求される大きな励起エネル ギーに拘わらず、SiO メーザーの発生場所を、冷たくて、静かな層であると考 えた。赤外ダスト連続光、分子回転遷移ライン、H2O, SiO メーザー は冷たい、膨張層で生じる。 (さっきは2階から SiO メーザーと 言っていたのに、今度は3階? ) この解釈は脈動赤色巨星大気中の衝撃波モデル Willson, Hill 1979, Willson 1987, Wood 1979, Bowenm Beach 1987, Bowen 1988 でも支持されて いる。 |
加速層 我々の輻射輸達計算では、冷たくて膨張する外層のみが重要である。 形成されたダストは輻射圧により直ちに加速され、最終速度に達する。従って、 膨張ダストシェルと準静的層とは非常に薄い加速領域により隔たれている。 ダストの凝結条件 ダストシェルの内側境界を定めるダストの凝結条件は全く不確かである。 熱平衡計算から、カルシウム・アルミナ性シリケイトが 1400 K で最初に 凝結すると期待される。Hackwell 1971 はシリケイトの大部分はマグネシウム シリケイトの形で 1050 K で凝結することを示した。しかし、熱平衡という 仮定自体が怪しい。10 μm バンドが幅広で、無構造なのは非晶質ダストを 意味しており、したがって、Tielens, Allamandola 1987a が述べているように、 ダスト形成は極度に過冷却な状態で進行するのであろう。 (ここ、大事。だけど、さらっと流してるな。 ) シェル内側境界条件 つまり、凝結層でのダスト温度は熱平衡過程から期待されるよりずっと低いらしい。 Tielens 1983 は、ダスト凝結を決めるのは膨張した大気と準静止層での生存率 であると述べている。通常のダストシェルモデルでは、ダスト凝結温度を内部 境界条件に採用する。しかし、ここではシェル内側境界条件が放射スペクトルに及ぼ す影響をより詳しく解析する。 Martin, Rogers 1987 も参照。 |
熱平衡ダスト温度 この論文の目的は、ミラや OH/IR 星からのスペクトルを解析して、星周空 間で形成されたダストの光学的性質を導くことである。それにはダストの温度 勾配を知る必要がある。そこで、第1歩として光学的に薄い場合を考察する。 星から Teff 黒体放射を浴びるダストの温度を Td とする。Qabs = Teff の プランク関数で平均したダスト吸収効率。Qem = Td のプランク関数で平均した ダスト吸収効率。c = 定数として、 Td(r) = c[(Qabs/Qem)(r*/r)1/2Teff Qabs(λ) ∝ λ-n と仮定すると、Td ∝ r -2/(4+n) となる。シリケイトは λ = 10, 20 νm に 強い吸収帯を持つが、 Td < 200 K ではそれらは励起されないので、 n = 1 - 2 である。 (Qabs の温度依存性の話か、放射の際のプランク関数との 積分で 10 - 20 μm 部分が効かないことをこう表現しているのか? ) Td = 200 - 1000 K では、放射は λ = 10, 20 νm バンドが支配的となるので、 n = 0 が妥当である。 (プランク関数との積分の話だったらしい。 ) ダスト温度の距離依存性 一般にはシェル内側境界 r0 において、ダストはその昇華温度 Ts (シリケイトの場合 1000 K)で形成される。光学的に薄いシェルではダスト温度の 分布は、 Td(r) = Ts (r0/r)2/(4+n) (2) 内側の Td > 200 K の領域では n = 0 に近く、温度変化は r-1/2 に近い。外側では n = 1 - 2 となるので、勾配が緩くなる。星周ダストからの放射 モデルでは、フリーパラメタ―として、r0 でなく Qabs/Qem を選ぶ。 この値が決まると与えられた光度 L と昇華温度 Ts に対し、エネルギーバランスの 式 (1) から r0 が決まる。 光学的に薄いシェルからの放出光 光学的に薄いシェルからの放出光スペクトルは L(λ) = ∫4πr2nd(r)4π a2Q(λ)πB(λ,Td)dr (3) 一定速度 v の球対称質量放出を仮定すると、距離 D でのフラックスは、 F(λ) = 4π(r0/D)2Ndπa2 Q(λ)∫B[λ,Td(x)]dx (4) ここに、 Nd = コラム密度、x = r/r0 である。積分は x = [1, r1/r0] で行われる。近赤外、中間赤外のフラックスを 求める場合、実際には x = [1. ∞] で計算しても結果は変わらない。 式 (4) は変形すると、 F(λ) = 3(dMd/dt)/(4vρs)[Q(λ)/a] (r0/D)2∫B[λ,Td(x)]dx (5) ここに、ρs = ダスト物質の比重。レイリー限界内 (2πa/ λ) ≤ 0.5) では Q/a はグレインサイズに依らない。積分は式 (2) を用いて、数値的に行われる。図1には、積分の値 [∝F(λ)/ Q(λ)] を二つの昇華温度 Ts = 1000 K と 750 K に対して、n = 0 の場合の積分を示す。 |
![]() 図1.放射スペクトルの解析表現、式 (5) 中の重み関数。1= 凝結温度 Ts 1000 K. 2= 凝結温度 Ts 750 K. 3=黒体 B(T=1000K) 式5と図1から分かること (1)光学的に薄い時には、マスロス率に無関係に、同じ Ts からは同じ放射 スペクトル が観測される。 (2)温度勾配のため、SED はBBより幅広になる。簡単には、 Td(r) = 3000 /λ(μm) までのダストが効くので、長波長ほど広い体積からの寄与 がある。 (3)式5の積分の勾配は黒体のレイリー・ジーンズ領域と似た形になる。し かし、その値は黒体の4に対し、3程度の緩やかなものである。 (4)もし、内側半径を一定に保つと、つまり r0 でなく、 Qabs/Qem を変動させると、低い Ts のシェルは低い平均 Td を持つようになり、 積分の形が変わる。しかし、 Ts > 750 K では λ > 5 μm の スペクトルはレベルが多少変わるだけで形はあまり変わらない。 10 μm 帯の形 光学的に薄いシェルからの 10 μm 帯の形はシェルパラメタ―からの影響 が小さく、ダスト吸収係数の形をほぼ忠実に再現する。もちろん、バンドの外 の波長帯の吸収係数を出すことは、光学的に薄い場合は困難である。 近赤外 Qabs/Qem 光学的に薄いシェルの 近赤外 Qabs/Qem を観測から導くのも困難である。 というのは、それには r0 の値を知る必要があるからである。 光学的に厚いシェル 光学的に厚いシェルの場合、ダストシェルからの赤外光もダストの加熱に効 くので、温度構造は光学的に薄い場合ほど単純ではない。この先はこの問題を 扱う。 |
3.1.輻射輸達の式Leung 1975, 1976a,b の準拡散法を使用する。この方法は輻射場の非等方性 も考慮されており、ダストの種類やサイズ分布も入れられるが、ここでは、 1種類の同一サイズのダストに限定する。3.2.ダストの吸光特性(この後に出る NIR, MIR, FIR をどう つないで全体の吸光強度が出来るのか、具体的な記述がない。肝心なところが ぬらりとしているのが残念。) 3.2.1.近赤外域レイリー粒子と仮定するλ > 1 μm で、2π/λ ≤ 0.5 と仮定する。吸収、 散乱効率を以下の式で与える。 Qabs(λ) = Q0[2/λ(μm)] (6) Qsca(λ) = Q1[2/λ(μm)]4 (7) この領域では光学定数は一定で、Q1 = 1.6 10-4 と 固定する。Q0 はフリーパラメタ―にしておく。我々の標準モデル では Q0 = 0.018 としたので、Q1/Q0 = 9 10-3 となる。屈折率 n = 1.7 とすると、上の Q はグレインサ イズ 500 A に相当する。 (ここ、ついていけない。 ) 取扱いの単純化 あとで述べるが、星周ダストの近赤外吸収は、遷移金属の電子遷移によると 考えられる。誘電物質の共鳴帯から遠い波長域で妥当な屈折率定数の仮定は 殆ど正当性がない。原則としては光学定数とサイズを仮定し、ミー計算を行う ことが出来る。しかし、それは近赤外吸収が何に起因するかが確定するまでは 待つべきと感じる。サイズ分布の仮定もフリーパラメタ―の数を増やすので、 単純に1パラメタ―で進む。 3.2.2.10 μm 帯3天体で異なるバンド形状OH26.5+0.6, IRC10011, R Cas の予備的フィットの結果を図2に示すが、 それらは 10 μm バンドの形のみが異なる。モデル1=OH26.5+0.6 のバン ド幅はモデル3=R Cas より鋭く見える。しかし、注意しておくが、 FWHM の値自身はそう変わらない。 |
![]() 図2.仮定した星周シリケイトの吸収効率。単位は不定。1= OH26.5+0.6, 2 = IRC10011, 3 = R Cas のベストフィット。10 μm 帯の形、特に 8, 13 μm 付近、が違う。 Gillett,Jones,Merrill,Stein (1975) が導いたオリオンダストの 10 μm 帯の形は R Cas と最も近い。 Qpeak = ピーク吸収効率 10 μm 帯は Qpeak = ピーク吸収効率に対して規格化される。 吸収強度 S(10μm) との関係は、 Qpeak = 4aρsS(10μm)/3 (8) ここに、ρs = ダスト物質の密度で、シリケイトでは 2.5 g cm -3 程度である。S(10μm) = 2 103 cm2 g-1 (実験で決めた非晶質シリケイト Day 1979) と仮定し、 a = 500 A とすると、Qpeak = 3.3 10-2. ダスト温度と放射スペクトルの形は Qabs/Q0 で決まり、Qabs の 絶対値ではないことに注意せよ。 式8について τ=πa2QnsL n=ρ/(4πa3ρs/3) τ=(3/4)(Q/a)(ρ/ρs)L=SρL S=(3/4)(Q/a)/ρs Q=(4a/3)ρsS になった。お目出とさん! |
3.2.3.20 μm 帯ローレンツ振動子20 μm 帯はローレンツ振動子でモデル化する。そのピークは 17.5 μm, FWHM = 5.5 μm, ピーク吸収強度は 10 μm の 0.65 倍とする。 IRAS 観測の結果は、その強度比が天体毎に変わる Gal et al 1987, Bedijn 1987, Volk, Kwok 1988, Simpson, Rubin 1988 ことを明らかにした。上の値はそれらの 平均値としての意味しかない。 3.2.4.遠赤外波長依存性λ > 25 μm では、 Qabs(λ) = Q2(25μm/λ)n (9) ここに、Q2 と n は定数である。Q2 は 20 μm 帯と 滑らかにつながるようにとる。Q2 = 0.26 Qpeak とした。 |
星間ダストの遠赤外吸収係数は λ-1 Gatley et al 1977,
Campbell et al 1976, Thronson, Harper 1979 である。このような波長依存
性は層状の非晶質物質に期待される。一方、結晶物質や3次元非晶物質は
λ-2 となる。ただこの違いは 100 μm より長い方で効く。
クラマース・クロニッヒの関係 光学定数の実部と虚部はクラマース・クロニッヒの関係 Wooten 1972 "Optical Properties of Solids" で結ばれる。原理的にはこの関係を使い、 物質の吸収と散乱係数に制限が課せられる Draine, Lee (1984). しかし、それらはまた粒子サイズや形にも依存する。それで、面倒なので この関係による制限は考慮しない。 |
ここは面倒くさいので一部省略。
星風解 v(dv/dr) = (GM*/r2(Γ-1) (12) Γ = ダストによる引きずり力/重力 であり、次の式で与えられる。 Γ = (3Qrp/4aρs)(L*δ /4πcGM*)(v/vd (13) Qrp = フラックス重み付き平均輻射圧効率。δ = ダスト/ガス。 ρs = ダスト物質の固有密度。光学厚みが大きいと Qrp は輻射が長波長側に移るにつれ小さくなっていく。しかし、計算では一定とした。 式 (12) を解くと、 v = v∞[(x-y0)/x]1/2 (14) ここに、x = r/r0. y0 = 1 -(v0/v∞)2 (15) v0 はダスト凝結点での膨張速度で、大体音速程度である。 (臨界点と一致? ) v0 << v∞ の時、Jura 1984 によると、 v∞ = [2GM*(Γ-1)/r0]1/2 (16) ![]() 表1.標準モデルパラメタ― |
脱出速度 ミラの典型的な値は、 Qabs/a = 2500 cm-1, ρs = 2.5 g cm -3, δ = 4 10-3, L* = 104 Lo, M* = 1 Mo, r0 = 2 1014 cm, v/vd = 1. これらから、v∞ = 13 km/s となる。 密度分布 ダスト密度 nd は nd = n0/[(x-y0)1/2x 3/2] (17) n0 = (dM/dt)δ/(4πr02 v∞md)(v/vd) (18) y0 = 0 はダスト凝結点でいきなり v∞ で走り 出す解である。しかし、通常 y0 は 1 に近い。その場合の密度 変化は図 3 に示した。 コラム密度 式 (17) を x = [1, r1/r0] で積分して、 コラム密度を得る。 Nd = 2n0r0[1 - (1-y0)1/2 ]/y0 (19) y0 = 0 (一定速度)の場合、Nd = n0r0. となる。y0 が増加するにつれ、シェル内側半径付近に溜まるダス トが増えて行く。y0 = 1 (境界で静止)の極限ではコラム密度は 倍の Nd = 2n0r0 となる. 質量放出率 後のために、y0 と質量放出量の関係を書くと、 dM/dt=2πr0v∞[τ(10μm)/S(10μm)] (vd/v){y0/[1-(1-y0)1/2]} /δ S(10μm) = 10 μm ピークでの吸収強度である。 ![]() 図3.加速域での密度分布。x = r/r0. 密度は n0 で 割って、(r/r0)2 を掛けて、一定速度への収束を 強調してある。曲線の数字は y0 の値である。 |
Tc Tc = 3.8 - 12.5 μm でのカラー温度。3.4 μm データしかないものも ある。水の吸収が掛かるので、F(3.4) は位相により変光する。また、12.5 μm は10 μm バンドの端になる。それでも K-M カラーよりまし。 というのは、散乱の影響が少ないし、多くの天体データが揃っている。 A10 A10 = 2.5 log(Fobs/Fc) (10) ここに、 Fc = 連続光のレベルである。連続光の求め方は書いていないが、 8.7 μm と 12.5 μm のフラックスの内挿らしい。 A10 - Tc 関係 図4には、観測された A10 - Tc 関係を示す。A10 と Tc の間に一定の関係があることが判る。Tc は 3.8 - 12.5 μm のカラーエ クセス,つまり A3.8-A12.5 の指標であるから、これは A3.8 と A10 の相関と看做せる。 Kwan, Scoville 1976. 変光の位相との相関 最後に強調したいのは、A10、Tc が変光の位相と共に変化する ことである。Evans, Beckwith 1977, Willems. de Jong 1982. その変化は、一般的な A10 - Tc 関係に沿っている。 明らかに、温度構造は位相と共に変化している。 |
![]() 図4.観測された A10 - Tc 関係。Tc = 3.8 - 12.5 カラー温度。 記号は文献の違いを表す。実線=同じ星の異なる変光位相をつなぐ。二本の 矢印は Av = 30 mag の赤化。 |
図5=パラメタ―の影響 図5には、マスロス率を変えて行く時の、 Tc - A10 関係 を示す。曲線上のマークとその横の数字がマスロス率である。 それぞれの枠はモデルパラメタ―を変えた時の関係の変化を表す。各枠毎の パラメタ―変化の効果を下の図の説明に付けた。 低い Ts 図5を見ると、良いフィットが得られるのは、凝結温度 Ts が 750 K 程度に 低い場合であることが判る。実際、Rowan-Robinson, Harris 1982 は光学的に 薄いシェルではさらに低い Ts = 500 K がベストフィットになると述べている。 彼等と我々との差は主に, Qo/Qpeak の違いによる。 |
Qo/Qpeak の値 我々が得た Qo/Qpeak の値 0.4 は Bedijn 1977 の得た 0.36 とほぼ同じで、 Jones. Merrill (1976) の値の半分である。これらの値は、 10 μm 帯が自己吸収を開始する時のコ ラム密度を決定し、赤外フラックスを中心星の減光量と比較することで決め られてきた。典型的には、自己吸収は Tc = 600 K 前後(IRC天体)で始ま る。この付近では、観測スペクトルは OH/IR 星に較べてパラメタ―の影響が 強く効く。我々の計算では Qo/Qpeak = 0.8 ( Jones. Merrill (1976) ) は非常に厚い OH/IR 星に対して否定される。もっと薄いシェル、τ(10μm) ≤ 10、でなら、このように高い値も Ts = 500 K という低い値と組めば可能 である。 しかし、これはダスト形成が 100 r* という非常に遠いところで起 きることを意味し、無理がある。その上、そこまで星大気の物質を運ぶことも 困難である。従って、Qo/Qpeak はシェルの厚みに寄らず 0.5 程度と結論する。 (Qo/Qpeak が幾つがいい、悪いという のは具体的にはダストモデル1,2、3のどれがよいかということか? ) |
1:標準モデル。Ts=1000 K, Teff=2000 K.
2:Ts = 750 K 3:Teff = 2700 K コメント Teff が重要なのは、 Tc ≥ 650 K または A10 > -0.3 である。これは τ(10μm) ≤ 5 に相当。 Ts が Tc - A10 関係に影響するのは、 Tc ≥ 500 K 又は A10 > -1 である。これは τ(10μm) ≤ 10 に相当する。 ( 2: Ts=750K の方が 標準モデルよりフィットがよい ) |
![]() |
1:標準モデル。Ts=1000 K, Teff=2000 K.
2:r0/r* = 7. 3:Teff = 2700 K コメント r0 を一定に保つと、コラム密度=光学的厚さが 大きくなると、内側温度が上昇する。その結果、 τ(10μm) > 10 で、 Tc - A10 関係に影響する。 ( 内側温度上昇で、To > Ts になってもそのまま放って置く ということなんだろうか? ) |
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1:標準モデル。Ts=1000 K, Teff=2000 K.
2:y0 = 750 K 3:Teff = 2700 K y0 =1 - (v0/v∞)2 ここに、v0 はダスト凝結点での膨張速度で、大体 音速程度を想定。加速域での速度分布は、x = r/r0 として、 v = v∞[(x-y0)/x]1/2 である。 コメント y0 の Tc - A10 関係への影響は小さい。 |
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1:標準モデル。Qo/Qpeak = 0.40
2:Qo/Qpeak = 0.20 Qo = 式(6) で定義される、Q(2μm)。 コメント τ(10μm) ≤ 5 では、 Tc - A10 関係が Teff, Tc に よって変化する。このため、ミラや IRC のように光学的に薄い天体では ダスト吸収の性質を一意に決められない。 (論理が良く分からない。) 一方、OH/IR 星のように光学的に厚い星では Tc - A10 関係が 主にダストの近赤外吸収の性質で決まる。これは光学的に厚くなると内側 境界条件が見えなくなってしまうからである。図5d では Q(2μm)/Qpeak = 0.2 と 0.4 について Tc - A10 関係を比較した。予想されるよ うに、同じ A10 に対し、 Q(2μm)/Qpeak が大きい(標準モデル) の方が低い Tc を与える。 (そうなのかな? 2 μm で吸収が とよいからかな? Tc は連続光部分で決まると思ったが、Qpeak はバンド だが、カラーにどう影響するのか?) これは A10 を決めるのに使う連続光 8.7, 12.5 μm が実際は 10 μm 帯のウィングに乗っているからである。 |
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1:ダストモデル2。IRC 10011 採用。
2:ダストモデル3。R Cas 採用。 コメント 10 μm 帯のウィングの影響を示すために、ダストモデルを変えた 計算結果を示す。しかし、減光と放射の過程が複雑に関係し、簡単には 解釈できない。いずれにせよ、影響は小さい。 |
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"ダーティ" シリケイト 星周シリケイトの 1 - 5 μm 吸収 ( Jones, Merrill (1976), ) Bedijn 1977 は地上鉱物のおそらく不純物による吸収 より遥かに強い。そのため、星間シリケイトはしばしば "ダーティ" シリケイト と呼ばれる。多数の観測に対する我々の解析は、1 μm 吸収が大体 10 μm 吸収ピークと同じくらいであることを示す。この高い吸収率の原因は良く分から ない。可能性のあるのは、 1.基本振動 シリケイトの基本振動は 10, 20 μm 付近に生じる。倍音とそれらの結合 モードが 1 - 5 μm にあるが弱すぎる。水化物の吸収が 3 μm で強い が、それらは通常狭い。そういう訳であまり有望でない。 2.別の種類のダスト 金属鉄中の自由電子が近赤外吸収に寄与するかも知れない。Greenberg 1968 はシリケイト中に埋め込まれた金属鉄粒子は 1 μm で k = 4 10-3 までは上げ得ることを示した。しかし、要求される値は 0.07 である。これは プラズマ振動数から離れすぎているためなので、それ以上は上げられない。 また、 VY CMa の観測 Taam, Schwartz 1976 は "くりーん" シリケイト中の Si の10倍の Fe 原子がフィットに必要であることを示す。 |
おまけに熱平衡計算
からは鉄粒子の形成には圧力が 10-4 気圧より大きい必要がある
ことを 小笹、長谷川 1988 が示した。これは予想される巨星周辺のダスト形成
領域の圧力に較べ 4 - 6 桁高い。そこでは、鉄原子は FeO として、Mg シリケ
イトの中に組み込まれるだろう。高度に過冷却なダスト形成条件では、凝結
過程は非常に非一様となるので、二つ以上の分離した成分のダストが出来る可
能性は低い。という訳で、鉄粒子の可能性も低い。
3.不純物の電子遷移 ガラスに溶け込んだ遷移金属または希土類が様々な色合いを付けることはよく 知られている。そのような元素の 3d 縮退電子準位が隣接イオンの非一様電場に より分岐する。それらの間の遷移は禁止されているが、 3d と 4p 準位の混合 の結果弱く容認される。準位間のエネルギーは遷移金属の結合状態、幾何学配 置、座位などで変わる。文献によると、Fe2+ イオンのみがかなり 強い 0.7 - 2 μm 近赤外吸収をもたらすようである。問題は強度で、ソーダ ガラス中の微量鉄分の測定では Fe2+ イオンのピーク断面積は 5 10-20 cm2/Fe2+ で、 SiO 伸縮振動の 場合から 10 桁小さい。この弱さは深刻である。ただ、この電子遷移の強度は 周囲の環境で大きく変わることが期待される。今後の実験的研究が重要である。 |
A10 - Tc 関係の利点 マスロス率は式 20 で与えられている。この式を用いてマスロスを計算した。 用いたパラメタ―は、 vd/v = 1, v∞ = 10 km/s, δ = 3 10 -3 S(10μm) = 2 103 cm2/g, L* = 104 Lo 図5には標準モデルについて、A10 - Tc 曲線上にマスロス率を マークした。光学的に厚いケースでは、A10 - Tc 曲線上の位置は ダストコラム密度に直接比例するから、導かれたマスロスはフリーパラメタ― の選択からかなりの程度まで独立である。このことは図5 a - e を詳しく調 べて裏付けられる。観測される 10 μm 帯の深さからコラム密度、マスロス率 を導く手法は複雑な輻射輸達効果により精度が下がる。同様に、Tc の観測から の導出も近赤外オパシティの知識を必要とする。、A10 - Tc 関係 は基本的にこの近赤外吸収率を 10 μm 吸収強度との相対比として較正する ものである。重要なのは、導かれた Qo/Qpeak がエネルギーバランスの式 (1) を通じて、シェル内側半径を直接決定することになることである。 厚いシェルでの A10 - Tc 関係 A10 - Tc 関係が厚いシェルでは Ts に依存しなくなるというこ とに関してはコメントが要るだろう。 Ts を下げると、シェル全体でダスト温度が下がるので、与えられた Tc また は A10 を得るために必要なコラム密度も低下する。(付録A-4 を 見よ)しかし、対応するマスロスは内側半径の増加で相殺される。 光学的に薄いケースでは、10 μm 放射帯強度から導くマスロス率は 仮定するダスト凝結温度に依存することを注意する。図5a と式 5 を見よ。 最後に、星光度 L はスペクトルのレベルには関係するが、光学深さには 関係しないのだが、マスロス率には内側境界の条件を通じて dM/dt ∝ L1/2 の関係がある。 マスロス率の範囲 A10 - Tc 関係が輻射輸達関係の詳細に影響されにくいので、 この関係はマスロス率を決める際の第1候補になる。図5を調べると、 可視のミラ型星は < 10-5, IRC 天体では 3 10-6 < (dM/dt) < 3 10-5, OH/IR では 3 10-5 < (dM/dt) < 3 10-4 である。観測された最大値は 10-3 Mo/yr である。表2に、個々の星に対するマスロス率を 載せた。 |
![]() 表1.A10 - Tc 関係から導いたマスロス率 変光効果 図5にある個々の天体のマスロスは表2にある。それらの不定性はファクター 3である。変光位相によるスペクトルの変化は図4の A10 - Tc 関係に沿っている。その原因は主に L の変化による。 ダストの性質 ダストの性質もマスロス率の決定に重要である。ピーク強度 S(10) は 非晶質シリケイトの 103 から結晶の 104 cm2 g-1 まで変わり得る。我々は表1に示すように非晶質シリケイト を採用した。10 μm 強度は一般に SiO4 テトラへドラの数に 相関するので、 Mg, Fe を加えるとピーク強度は減る。 |
4.5.1. 星間減光薄いシェルでは影響大OH/IR 星の赤さが星間減光に影響されているという話は、 Evans, Beckwith 1977, Forrest et al 1978, Werner et al 1980, Herman 1983, Gehrz et al 1985 などにある。図4には Av = 30 の場合の効果を矢印とした。 光学的厚みが薄い星にはその影響が大きい。厚い場合、星間減光の効果が A10 - Tc 関係と平行するので分離しにくい。 大きく外れた天体 図4を見ると、OH0.2+0.0, OH4.6-0.4 など A10 - Tc 関係から 大きく外れた天体は多分強い減光を受けている。それらが実際は可視ミラであ る可能性は高い。AFGL 2855 もおそらく星間減光の影響が強いのだろう。しか しこの天体の場合はデータが測光分光観測によるためかも知れない。 他の OH/IR 星では星間減光の影響は小さいと思われる。 |
4.5.2. 双極流天体=PPN?OH231.8+4,2 = OH 0739-14関係から大きく外れた天体があと二つある。最初の天体、 OH231.8+4,2 = OH 0739-14 は非常に深い (A10 = 1.75) 10 μm 帯を示す。しかし、 Tc = 900 K と高い。この M9 III 型ミラはほぼ横向きの 赤外反射双極流を有する。高い Tc はローブを通ってきた近赤外散乱光による ものだろう。 OH 17.7-2.0 第2は OH 17.7-2.0 で Tc = 280 K と低いのに、吸収帯は A10 = 1.75 と浅い。中心星は K1 - K4 巨星、または超巨星 で、おそらく小さな双極流に埋もれている。近赤外光はこれもローブから の散乱光であろう。 1- 3 μm カラー温度が 1700 K と高いのは散乱光 だからである。 3.4 - 12.5 μm カラー 温度が 280 L なのは広がった遠方のシェルの存在を意味する。 A10 = 1.75 と浅いのは、 おそらく円盤を正対して見ているからであろう。 二つの天体は最近 AGB 期を終えて、PPN期に入りかけているのでないか? |
![]() 表3.R Cas, IRC 10011, OH26.5+0.6 星周シェルの観測及び導出特性。 ベストフィットはダストモデル3 R Cas は M7e(位相 0.14) ミラである。10 μm 放射帯を持ち、光学的に 薄いことを示唆している。距離等のデータは表3に示すが、Ts は想定値である。 星の半径、光度は 3.5 μm 等級から出した (Forrest, Gillett, Stein 1975). v∞ は OH 観測から採った。y0 は式 15 に、 v0 = 2.8 km/s (T = 800 K の H2 音速)を入れて求め た。図6のベストフィットはダストモデル3を使用して、τ(10μm) = 0.10 の時に得られた。モデル3はオリオンで得られたものと似る。 モデル1と2は良いフィットを与えない。2−1節と付録Aの議論から、 10 μm 帯の固有形状は他のフリーパラメタ―からの影響をあまり受けない ことが判るのでかなり確かと考えられる。例えば、10 μm 帯に対しては、 図6ベストフィット (Ts=1000K, τ(10)=0.10)とほぼ同じレベルのフィット が 2-2 節の Ts=750K, τ(10)=0.073 で得られている。Q0/Qext を動かした 時も τ(10) を調整するとやはり良いフィットが得られる。 パラメタ―の不定性 逆に言えば、10 μm 付近のスペクトルだけでは Ts, y0, Qo/ Qpeak に制限を掛けることは難しい。強調したいのは、Ts, Qo/Qpeak を変え ても 6 μm 以下のスペクトルは殆ど変らない。 |
![]() 図6.R Cas の分光観測とモデルとの比較。実線=図2のダストモデル3 を使ったベストフィット。破線=モデル1の場合。 この波長域では観測される 光は光学的に薄いシェルによる星周減光を受けた光球からの輻射である。例え ば標準モデルでは τ(2μm) = 0.05 である。我々のモデルで、 Ts = 1000±300 K, Qo/Qpeak の不定性 30 % と仮定すると、 τ(10μm) の不定性は 40 % 程度になる。 マスロス 標準モデルの τ(10μm) と y0 を用いてマスロス率を計算 した。Ts = 750 K モデルでは r0 が 70 % 大きくなるが、τ(10μm) が小さくなり、マスロス率としては 25 % 増加に留まる。同様に、Qo/Qpeak = 0.25 とすると、τ(10μm) が 50 % 上がり、r0 は 13 % 小さくなる。その結果マスロスが 40 % 大きくなる。 (Qo/Qpeak が下がり、 Ts 点が星に 近くなる。それが13%、τ=nrで、それが 50 % 増しだから、新しい点の 密度は 63 % まし、それを元の点に戻すと、 元の点の密度が 63-12*2 = 38 % 増しになる。これがマスロス 40 % 増しの原因。) y0 もマスロス率に影響する。それらを考えるとマスロス率の不定性は 50 % である。 |
![]() 図7.IRC 10011 の分光観測とモデルとの比較。実線=図2のダストモデル2 を使ったベストフィット。破線=モデル1の場合。 IRC 10011 SED IRC 10011 は 自己吸収 10 μm 放射帯 Merrill, Stein 1976 を示す。 これはかなり厚いシェルの証拠である。表2にはダストモデル2を用いたベスト フィットモデルのパラメタ―を示す。図8にはモデルスペクトルを観測と較べた。 τ(10) = 4.6 である。測光データの位相が異なるが、スペクトルの形はそう 変わっていないと仮定し、 Merrill, Stein 1976 に合わせた。 |
![]() 図8.IRC 10011 測光観測。観測値は 丸=1.97, 三角=1.51, 四角=0.88, ひし型=1.0 倍してフラックスレベルを合わせた。本文参照。 実線=図2のダストモデル2を使ったベストフィット。 ダストモデル2 10 μm 放射帯の固有形状は、図7に示すような自己吸収のために、やや 複雑である。モデル2が良いフィットを与えるが、測光データとの一致は不十分 である。他のダストモデルは 10 μm 帯を再現できない。図7にはモデル1 の例を示した。 12 μm 付近で高くなり過ぎることが判る。 λ < 5 μm スペクトル R Cas と異なり、λ < 5 μm スペクトルは Ts と Qo/Qpeak に 敏感である。付録Aの図15を見ると分かるように、 Ts を下げるか、Qo/Qpeak を上げるかすると、NIR フラックスを下げる。勿論 Ts と Qo/Qpeak で相殺さ せることは可能だが、完全なキャンセルは無理である。特に 3 μm 付近は 熱いダスト放射の寄与がある。 Ts が低いと、この寄与が消えるので修復が無理に なる。 |
![]() 図9a IRC 10011 の 2.2 μm 規格化消失曲線。横軸=月の縁からの角距離。 実線=標準モデル(Ts=900K) 破線= Ts 750 K モデル。 図9=月の掩蔽観測 輻射強度の角分布はダストシェルの構造を調べる強力な道具である。短波長 λ < 3 μm では、強度分布はシェル内半径付近の熱いダストの 分布を反映する。長波長側では冷たい外側シェルの光が支配的となる。 図9には月の掩蔽を使った 2.2, 10, 20 μm の角度分布 Zappala et al 1974 を示す。予想されるように、長波長放射は中心から広がっている。 Ts が決まるか? Ts は短波長輻射の角度分布に大きく影響すると予想される。理論的強度分布を 図9の実線 Ts=900 K, 破線 Ts 750 K の二つに対して示す。仮定した 光度とシェル半径は観測の際の測光値と合わせるため、標準モデルより少し 小さい、 L = 4.6 10 3 Lo, r0 = 4.9 1013 cm とした。2.2 μm 図は Ts = 900 K 曲線が良く合うが、 Ts = 750 K を 否定するほどではない。 不定性 我々は Ts と Qo/Qpeak の不定性を 10 % と評価する。τ(10) は 15 % である。式 15 から導くマスロスは 1.9 10-5 Mo/yr である。 この誤差は 10 % 程度。 |
![]() 図9b.IRC 10011 の 10 μm 規格化消失曲線。横軸=月の縁からの角距離。 実線=標準モデル(Ts=900K) 破線= Ts 750 K モデル。 ![]() 図9c.IRC 10011 の 20 μm 規格化消失曲線。横軸=月の縁からの角距離。 実線=標準モデル(Ts=900K) 破線= Ts 750 K モデル。 |
![]() 図10.OH 26.5+0.6 の測光とモデル計算の比較。実線=ダストモデル3 を使ったベストフィット。 ダストモデル3 OH/IR 26.5+0.6 = AFGL 2205 は深い 10 μm 吸収帯を示す。中心星の 有効温度は不明である。そこで Teff = 2000 K を仮定した。図10、11 は τ(10μm) = 28.0、ダストモデル3のベストフィットを示す。 図11にはオリオントラペジウム放射スペクトルで合わせた曲線も示すが、 幅が広すぎる。マスロスは 2 10-4 Mo/yr である。 近赤外オパシティ ベストフィットは全体として観測と合うが、いくつかズレが見える。第1は 3.4 μm 付近で、第2は 20 μm の先である。近赤外の差は 3.4 μm 付近で吸収が弱く、3.4 - 10 μm に掛けて減光則が平坦になり、2.2 - 3.4 μm では急になることを意味する。 IRC 10011 のモデルフィットでも同じ ような兆候が見えた。これは、近赤外で強まる吸収がシリケイト中に溶け込ん だ遷移金属の電子遷移に依るならば、予想されることである。 中間赤外オパシティ 中間赤外 λ > 20 μm では我々のモデルが仮定しているよりは 弱い吸収らしい。OH/IR 星の IRAS による観測の解析もそれを支持する。 遠赤外のオパシティの波長依存性はもう少し詳しい解析を必要とする。 |
![]() 図11.OH/IR 26.5+0.6 の分光測光観測 (Forrest et al 1978) と モデルの比較。実線=図2のモデル1を使ったベストフィット。破線=オリオン 10 μm バンドを使ったベストフィットモデル。 スペクトル変化の説明1 Forrest et al. (1978) は変光の2位相で分光測光観測を行い、この星の光度が 50 % 低下した時に 10 μm シリケイトバンドの光学的深さが 60 % 上がる ことを示した。光度変化の影響を調べるために、星の半径を一定にしたままで 光度だけ低下させた。これは Wallerstein (1977) Wallerstein 1977 がミラ型星で見出したことである。シェルが光学的に厚い ため、付録 Ae に述べたように、有効温度は放出スペクトルには何の影響も 及ばさなかった。密度構造は変光位相で変わらないと仮定している。しかし、 光度が変わるために温度構造は変化する。特に、シェル内側半径の温度は 830 K となった。シェル全体でのこの温度低下は 10 μm 吸収強度の増加 を引き起こす。このモデルは図12の観測結果を上手く説明する。 (密度構造が変わらなければ、光学的 深さは同じはず。変だ! ) スペクトル変化の説明2 別の説明はこうだ。ダスト凝結温度を一定とする。すると内側半径は光度に 依って変化し、その結果式19にあるように光学的深さが変わる。こうして 光度が下がると、光学的深さが増し、冷たいスペクトルになる。 |
ビジビリティ OH25.6+0.6 の角度測定は Dyck et al 1984, Fix, Cobb 1988 により行われ た。図13のモデルは Hankel 変換を用いたビジビリティ曲線である。 密度分布 式17の光学的に厚い場合への補正について。 図12.OH/IR 26.5+0.6 の分光測光観測 Forrest et al 1978 とモデルの比較。 観測時光度 L は図11の時の半分くらい。実線は標準モデルと同じ密度分布 だが、光度は低いモデル。 (同じ r0 なのか? L が小さくなるので、 To < Ts になってしまう。 ) |
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10 μm 吸収プロファイル 3つのサンプルを較べると、光学的に薄い R Cas の 10 μm のバンド巾 は最も狭く、IRC 10011, OH/IR 26.5+0.6 と光学深さに連れて、広くなっていく。 10 μm 帯の固有プロファイルの変化は μ Cep に対して Rogers, Martin, Crabtree 1983 が、幾つかの巨星に対し Pegourie, Papoular 1985 が述べている。 説明1=サイズが原因? Pegourie, Papoular 1985 は、この差がダストサイズが原因とした。しかし、 以下の理由により否定される。 (1)13 μm での差は 8 μm での差より大きい。これはサイズ効果の予想と 逆である。 (2)3つの天体で、Qo/Qpeak は大体等しい。これもサイズ効果ではないことを 意味する。 説明2=光学定数は? Plendl 1970, Tielens, Allamandola 1987 は温度が下がると吸収帯が鋭く なると述べた。光学的深さが増加すると、平均温度は下がるので、傾向とし ては合っている。ただ、シリケイトの光学定数に関する温度依存性は分かって いないので定量的評価は出来ない。注意すると、この仮説はオリオンの幅広な バンド Tielens, Allamandola 1987 と Sgr A 方向の星間吸収プロファイル との差の説明でも述べられていた。 説明3=ダスト構造の違い? 第3の説明はダストの構造または組成の違いで、特に光学的厚みが増加した 際に、シリケイトの熱平衡凝結層の温度が上がる結果ダストの光学的性質が 変化するという説明である。この考えでは、ダスト形成層 3 - 7 r* の位置は脈動で決まり、熱平衡凝結温度では決まらない。凝結シリケイトの温度 は熱平衡凝結温度よりずっと低く、極度に非晶質の物質が生じる。Tielens 1983, Tielens, Allamandola 1987 を見よ。ダスト凝結層で形成されたダストは、 光学的厚みが大きいほど高温である。その結果できるダストはより結晶性が高い。 実験室の結果に依ると、グレイン温度が高いほど結晶度は上がり、10 μm 帯が鋭くなる。Kratschmer, Huffman 1979. 参照。しかし、 OH 26.5+0.6 と IRC 10011 の数値モデルは同じ T = 1000 K という内側温度を示しているので、 この説明は怪しい。 |
![]() 図14.OH/IR 25.5+0.6 の解析的密度分布と標準モデルで加速を計算するため の局所輻射場を使った二次近似との比較。図3と同じく (x2/n 0)を掛けて規格化した。 表4=マスロス 表4ではモデルフィットから求めたマスロスを他の研究からの値と比較した。 最後の列は Salpeter 1974 の次の式に基づいている。 dM/dt = L*τ/cv∞ (22) 計算したマスロスは距離に比例することを注意する。 (良く分からないが、まあいいや。 ) |
R Cas 赤外マスロス率が過小 R Cas の赤外マスロスは CO マスロスの 1/3 である。この違いは距離の不定 性に帰するには大きすぎる。S(10) を下げることは Si 組成を以上に上げなければ ならず不可能である。Si depletion を下げるのも SiO メーザー強度との関連で 矛盾がある。恐らくダストがこれくらい少ないと、ダストとガスの結合は弱く、 ダストのドリフト速度が大きくなるためではないか。付録Acを見よ。 (距離依存性が異なるのか? ) IRC 10011 赤外マスロス妥当 IRC 10011 の赤外、および CO マスロス率は大体合っている。実際 SiO の熱 放射観測からシリコンの 99 % がダストに沈殿済み(Morris et al 1979)と 分かっている。ダストからのサブミリ連続光を用いて導いたダストマスロス率 も赤外マスロス率と合う。これはサブミリメーター放射効率が正しいことを意味 する。我々のモデルの (サブミリメーター放射効率/10 μm 効率) はこの 値よりファクター2大きい。τL から導いたマスロスもほぼ一致する。 |
OH/IR26.5+0.6 赤外マスロス妥当 OH/IR26.5+0.6 の赤外マスロスもτL から導いたマスロスとほぼ一致する。 注意しておくが、式 22 を使った以前のマスロス評価では、τ を 1 程度に 取り、τ(10) = 30 を取らない。しかし、光子がシェルをすり抜ける長波長 に達するまでには、吸収と再放出を何回も繰り返す。従ってこの近似は正しくない。 (再放射は等方だから膨張には効かない? ) 値をそのまま受け取ると、R Cas と OH26.5+0.6 の CO マスロスは同程度である。 (表4の "CO DATA" の計算がおかしい? CO/H = 3 10-4 を使った計算が合うのは OH26.5+0.6 だけ。) しかし、 IR マスロスはそうでない。この点に関し、 van der Veen 1987 が 多くの OH/IR 星で CO の検出が難しいと述べていることを注意する。 CO が R = 3 1016 cm の遠方を見ているのに対し、 MIR はもっと 内側の R = 1016 cm を見ることを考えると、これは最近のマスロス 増加を意味するのかも知れない。この矛盾が解決するまで CO マスロスには 注意が必要である。 |
1.Tc - A10 Tc - A10 関係は、近赤外と中間赤外の光学的深さの比を反映する。 この関係は、したがって、Qo/Qpeak 比を測るのに使える。 2.ダーティシリケイト 星周シリケイトの近赤外吸収は地上鉱物からの値より大きい。これはシリケ イト中に溶け込んだ Fe2+ のためかも知れない。このようなカラー センターは d 電子準位が近接配位子による非一様電場のため分裂すること による電子遷移を有する。シリケイトの乱れた構造がかなり幅広の吸収帯を 形成するのだろう。 3.コラム密度 1.で導いた Qo/Qpeak を用いて、Tc - A10 関係をダストコラム 密度へと較正できる。それはマスロスの導出に繋がる。輻射輸達計算から 導かれるマスロスは、特に光学的深さが大きいな OH/IR 星では他のフリーパラ メタ―にあまり影響されないことが判る。 |
4.個別天体の解析 個別天体のモデルフィットから 10 μm バンドの固有形状は、 ダストシェルが冷たくなると鋭くなることが判った。光学定数の温度依存性 が原因ではないか。凝結経過の差かも知れない。 赤外マスロスを求め、他の方法と較べた。いくつかの問題を指摘した。 |
付録A−1 マスロス率コラム密度を上げて行くと、 10, 20 μm 放射帯総フラックスが増加する。 しかし、それらの波長で τ > 3 になると、自己吸収が始まり、 τ > 6 では吸収帯と変わる。ダスト凝結温度は 1000 K 以下なので、λ < 3 μm ではフラックスはダスト放射でなく、減光を受けた星の光である。 ダストコラム密度をさらに上げると、スペクトルは赤くなっていく。2 μm 領域のスペクトル変化は Qo/Qpeak を通じて 10 μm 変化と繋がっている。付録A−2 ダスト吸光の性質Qo/Qpeak の影響Jones, Merrill (1976), Bedijn 1977 が示したように、Qo/Qpeak の値はシェルスペクトルの形に決定的 な影響を及ぼす。光学的に薄い、&tau(10) ≤ 3 のケースでは、コラム密度 一定のまま、この比を下げると 10, 20 μm 放射帯を弱める。図15a, b を 見よ。注意するが、この時内側シェル境界半径は小さくなる。その結果、 Qo/Qpeak が低下すると、温度勾配が同じでも暖かいダストの総量、つまり 10, 20 μm 放射を行う総質量が減少するのである。 厚いダストシェルのスペクトル ダストコラム密度が τ(10) > 3 に上がると、同じコラム密度を持つ 標準モデルの 10, 20 μm 付近のスペクトルとの差は小さくなって(図15a,b を見よ)来る。これは基本的にこれらの波長での放射がダストシェル外側の 冷たいダストから来て、そこでは星の NIR 光よりはダストからの λ > 10 μm 輻射の方が加熱に効くからである。Ts が不変だから、内側 シェルのダスト温度は変わらない。 近赤外スペクトル 勿論、星からの光が支配的な λ < 3 μm スペクトルは Qo/Qpeak に強く影響される。同じコラム密度=同じ 10 μm 光学的深さ、で較べると、 Qo/Qpeak が小さいモデルの近赤外光学的厚さは小さく、近赤外カラーは青く なる。この効果は星周シリケイトの近赤外オパシティを決めるのに使える。 Jones, Merrill (1976), Bedijn 1977 参照。 |
![]() 表5.モデルの 2.2 μm フラックス。 |
付録A−3 ダストの密度分布ダスト密度分布つまり y0 は、コラム密度が同じならスペクトル にはあまり影響しない。図 15c, d を見よ。y0 が大きくなると、 ダストは内側境界付近により積み重なる。その結果、グレイの平均温度は上がる。 しかし、1000 K ダストの放射は 10, 20 μm 付近ではレイリー・ジーンズ領 域に入り、10, 20 μm 帯の形には影響しない。勿論、光学的に薄い場合、 シェルは短波長側でより多くのエネルギーを出す。しかし、y0 = 0.9956 から 0.64 に下げても 10 μm 強度は 5 % しか下がらなかった。光学 的厚みが大きい時には二つのスペクトルは同じである。これは、放出光の大部分 が外側から出て、内側の密度分布の詳細は失われるからである。付録A−4 ダストの凝結温度図15e では Ts = 750 K でコラム密度を変えた系列を示した。これはシェル 内側半径が大きくなることを意味する。シェルの平均温度が下がるから、Tc も 下がる。光学的に薄いケースでは、同じコラム密度で較べた時、標準モデルとの 差は小さい。勿論、平均温度が低いから、中間赤外がやや強く、近赤外がやや 弱いという違いは存在する。光学的に厚くなると、差は大きくなる。平均温度が 低いため、同じコラム密度で較べると低い Tc モデルは早く自己吸収が始まる。 しかし、コラム密度を下げると、標準モデルと類似のスペクトルが得られる。 これは、ダスト温度が全体として低温なので、シェル外側の温度密度構造が 似てくるからである。しかし近赤外部のスペクトルは温度構造でなく、コラム密度 で決まるから、コラム密度を変えるとそこで差が出る。 |
付録A−5 星のパラメタ―総光度はコラム密度が一定ならダストシェルスペクトルには影響しない。 我々の計算では、シェル内側半径がダスト凝結温度で決まる。勿論、半径の 絶対値は総光度に依存する。他のパラメタ―を共通にすると高温の星は 短波長の光が強い。これは Qo/Qpeak を変えたことと似た効果を生み出す。 光学的に厚いケースでは、 λ > 6 μm のスペクトルは星の 有効温度と無関係に決まる。付録A−6 シェル内側半径r0/r* はモデルパラメタ―が決まれは決まる。 しかし、ダスト凝結は、ダスト凝結温度よりは、広がった恒星大気中の衝撃波 の減衰により起こるのかも知れない。r0/r* を固定 してダストコラム密度を上げて行くと、シェル内側境界温度が上がる。 r0/r* = 7 の場合、 τ(10) = 0.3, 3, 30 に 対して、 Ts = 615, 710, 930 K と変わる。 |