O-, 早期 B- 型星は銀河系でまだあまり多く登録されていない。南銀河系で g = 20 等まで OB-星候補を探した。探査領域はカリーナ腕の方向、若い大 質量星団 Westerlund 2 の周り 2 平方度である。この星団内にある OB 星を 我々の手法の確認に用いた。この方法は (u-g, g-r) 図を用いる。 マルコフ鎖モンテカルロ法により VPHAS+ u,g,r,i 等級と公表されている J, H, K 等級を組み合わせ、星のパラメタ― log Teff, DM と減光パラメタ― Ao, Rv を導いた。 | 星のパラメタ―は OB 星を確定するに十分であり、一方減光パラメターの 誤差は σ(Ao)≈0.09, σ(Rv)≈0.08 の精度であった。 B2 より早期と判定された星が 489 個見つかった。この中には大質量 O-型星と 考えられる星が 74 個、青色超巨星候補が 5 個、赤化を受けた準矮星が 32 個 含まれる。この結果、領域内の OB 星及び候補星の数が 10 倍に増えた。新候補 星の大部分は 3 - 6 kpc にある。また以前から指摘されていた、弧の視線方向 では赤化則が Rv = [3.5, 4] で非標準的であるという事実が再確認された。 |
フィールド O-型星は少ない OB 星は通常星団に生まれ、フィールドで見つかることは少ない。 銀河系では 96 % が星団内かその周辺で見出される。O-型星の 4 % が孤立星と して見つかっている。しかし、孤立環境での O-型星の大規模探査は今のところ 行われていない。 OB-星カタログ Cardelli et al. (1989), Fitzpatrick, Masaa (2007) は OB 星を用いて減光の分布を調べた。OB 星の数が増せば減光マップの精度 も上がる。過去のカタログ、Garmany et al 1982, Reed 2003, Maiz-Apellaniz et al 2004 は近傍の明るい星に限定されている。 (最近の Maiz-Apellaniz et al, (2013) は落とされている!) Reed 2003 の "The Catalog of Galactic OB Stars" には既知または候補の 16,000 OB−星が載っている。内 95 % は V < 13 mag である。今や この限界を 20 mag まで押し進め、 2017 年から予定されている GAIA のデータ 配布に備えるべき時である。 Q-法 Johnson-Morgan 1953 は Q-法で OB 星を晩期型星から分離する方法を提唱 した。本論文は測光的手法により g = 20 mag までの OB 星を探す手法を確立 することである。今回の結果に基づくと OB 星の数を 2 倍にできるであろう。 VPHAS+ データは VST 南天銀河面とバルジ 測光 Hα サーヴェイ ( VPHAS+ ) Drew et al (2014) は ESO VLT Survey Telescope = VST を用いて u, g, r, i, Hα で南天 銀河面(|b| < 5)とバルジをサーベイする観測である。VST の OmegaDam カメラは 0.2" ピクセルで中間シーイング 0.8 - 1.0 秒角の画像を撮る。 |
Wd 2 における OB-星の検出 この論文では、若い大質量星団 Westerlund 2 = Wd 2 を中心とする (l, b) = (284, -0.7) の 2 deg2 領域から OB-星を抽出する方法と、 結果を報告する。星団には大きな HIIR RCW 49, 散光星雲 NGC 3199 が付随する。 以前の可視光及び近赤外観測によるこの星団の星種族の研究は星団近傍 4arcmin サイズの領域、および X-線での 17 arcmin サイズ領域で行われた。ごく最近 には Hur et al 2015 が 17.9x9.3 arcmin2 区画を調べた。 カリーナ腕中の星形成域 8 μm 放射帯を追跡して、Rahman, Murray 2010 はこの星団がより大きな 星形成複合体 G 283 に属することを突き止めた。天空上で Wd 2 はカリーナ腕 の接点方向 Russeil et al 2003 にある。 Dame 2007 が示した CO データは Wd 2 が 接点の丁度内側に、しかし接点からは離れて位置することを確信させる。この星団 の年齢は 1 - 3 Myr で、 Av = 6 mag という大きな減光に拘わらず、多数の OB-星が分光的に確認されている。Wd 2 までの距離は 2.8 kpc から 8 kpc まで 散らばる。ただし、この問題に深入りしない。 より重要なのは、VPHAS+ による OB-星の検出が Av = 8 - 10 mag, D = 2 - 10 kpc の範囲で行われるということである。 HST観測 Vargas Alvarez et al 2013 は HST で Wd 2 を観測した。32 の OB 星の 観測 SED を分光から決めた固有 SED に赤化を掛けてフィットすることから Rv = 3.77, Av = 6.51 を導いた。この結果は我々のデータのテストに有用である。 |
等級較正 2サンプル領域の観測を行った。5σ 限界等級は u = 21.0, g = 22.4, r = 21.5, i = 20.6m Hα = 20.4 である。等級はベガシステム。 バンド間の同定は CASU パイプラインで行った、初期の VPHAS+ 較正の不定性 を補正するため、 APASS サーベイの g, r, i 観測と較べた。二つのサーベイ間 の等級差中間値を用いて VPHAS+ g, r, i 等級を補正した。次に (u-g, g-r) 二色図上で、赤化なし主系列と G0V 赤化線の間の星数が最大になるように u-g 目盛をずらすことで、 u 等級を較正する。こうして決まったオフセットは、 u: -0.34, g: 0.06, r: 0.01, i: 0.01 であった。 図2.VPHAS+ データの2色図。実線=主系列。破線= ( Drew et al. 2014 ) による G0V 赤化線。 |
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Q−法による選択 この論文では Johnson, Morgan 1953b の Q-法を用いて OB-星を選ぶ。 (u-g, g-r) 二色図上で B3 より早期型の OB-星赤化線は主要恒星経路の上を 通過する。まず、B3V 赤化線より上にある星を候補天体として選ぶ。選択領域 の上限はレーリージーンズ限界の赤化線とする。それより上の天体は第5章で 議論する。 二色図 図3には青十字= OB-星候補、の分布を示す。赤化線の計算には u-バンド フィルターの赤領域リークを考慮した。Vargas Alvarez et al 2013 は Wd 2 方向で Rv = 3.8 を得た。 図中 B1V と R-J 赤化線にはこの減光則を採用した。 この非正統減光則の採用によるバイアスを避けるため、B3V 赤化線には Rv = 3.1 を採用し、さらにそれを 0.1 mag 下げて測光エラーなどで散らばった B 型星も救い上げるようにした。 NIR マッチ 2MASS カタログとの 1″ マッチを行った。Wd 2 中心 4′ は混み具合が高いのだが、そこでは Ascenso et al 2007 の NIR カタログを使った。 図3.3本の内、下側赤化線は B3V を 0.1 mag 下げて、早期 B-型星を捕ま えられるようにした。Rv = 3.1 採用。上の二つの赤化線は B1V とレーリー ジーンズ型に Rv=3.8 赤化線を引いた。青十字=OB星候補。赤三角= Vargas Alvarez et al 2013 の OB 星。 |
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ベイズ推定 d = {d1, d2, d3, ..., di} = 観測データ、 θ = {θ1, θ2, θ3, ..., θi} = パラメタ― とする。ベイズ定理は以下のように表現される。
ここに、 P(θ | d) = パラメタ― θ の事後確率、 P(d | θ) = θ が与えられた時、 d が得られる尤度、 P(θ) = パラメタ― θ の事前確率 である。 P(d) は規格化定数として扱えるので、今後は考慮の対象から外す。従って、 事後確率分布は以下の式で表す。 P(θ | d) ∝ P(d | θ)・P(θ) (2) |
![]() 表1.OB 星の固有 SED. ベガ等級で表示。 観測データ データは観測から得られる可視、赤外の見かけ等級である。 SEDobs = {u, g, r, i, J, H, Ks} (3) σ(SEDobs) = {σu, σg, σr, σi, σJ, σH, σKs } (4) パラメタ― パラメタ―は、 θ = {log(Teff), Ao, Rv, μ } ここに、Ao = λ = 4595 A における減光である。 |
モデル SED パドヴァ等時線モデルからモデル SED (Bressan et al 2012, CMD v2.2) を 採った。OB-星の SED は光度クラスの影響が小さい(Martins et al 2005)。 このため、主系列に対する log(g) = 4.0 に固定して作業する。また、太陽メタル Z = 0.019 も固定する。このようにパラメタ―を固定した結果、絶対等級 Mλ は log(Teff) の二次関数として一意に与えられる。 パラメタ―の決まり具合 Fitzpatrick, Massa 2007 減光則を用いて、固有 SED を Ao, Rv をパラメ タ―として、赤化を施す。次に距離指数 μ で SED を縦にずらす。 O-, 早期 B-型星の見かけ SED はこれ等の量で大きく左右される。 OB-星の固有 カラーは有効温度が変わってもあまり大きな変化はない。(Martins et al 2005) これはレーリー型に近づいているからである。光度クラスに関するパラメタ―が 含まれていないので、距離指数 μ の拘束力も薄弱である。一方、 Ao と Rv はよく決まる。 |
P(SEDobs | θ) = パラメタ―セット θ の時 SEDobs となる確率。観測誤差が正規分布し、相関がないと仮定 すると、この確率は次の多変量正規分布で与えられる。 P(SEDobs | θ) ∝
ここに、Σ = 共分散行列で、対角線上には分散 σ2 が乗る。データ誤算間が無相関と仮定したので、上式 (6) は以下のようになる。
(式(6)は虚仮おどし過ぎる。) |
3.2.2.事前確率一様な事前確率モデルパラメタ―の事前確率分布 P(θ) として、以下の一様分布形 を採用する。 ![]() パラメタ―の範囲 log(Teff) の上限は入手可能なモデルで規定され、 (u-g, g-r) 図における 選択と一致して、B3V より僅かに低い。Rv は銀河系で測定された範囲に限定 される。Ao の上限は VPHAS+ で OB-星の検出が可能な減光の最高値よりもずっ と大きく設定されている。距離指数 μ の最大値 20 は銀河系の大きさを 越えている。 |
3.2.3.MCMC を用いた事後確率分布の計算MCMC アルゴリズム確率分布をパラメタ―空間で積分して、事後確率を得ることは大変な計算量 が必要である。その代りに、 MCMC アルゴリズムで分布をサンプルする。 酔歩計算 計算には Foreman-Mackey 2013 のパイソンパッケージ emcee を用いた。 簡単に言うと、ソフトは一組のパラメタ―を取り上げて、n-ウオーカーに 与える。ウォーカーは準酔歩を行ってパラメタ―空間内をサンプルして回る。 各サンプル毎に確率が計算される。相互間の相対的な確率を通信しあって、 ウォーカーは低確率のパラメタ―セットに計算時間を浪費せずに、高確率 領域を発見し、サンプルを収集する。次に、ソフトは鎖=チェインとして 知られるものに戻る。そこには酔歩の各ステップ毎のパラメタ―値が貯めら れている。パラメタ―空間内で酔歩が訪れる頻度はその確率に比例する。 詳細は Foreman-Mackey et al 2013 を見よ。 |
![]() 図4.VPHAS+ の Wd 2 g-バンド画像。数字は Vargas Alvarez et al 2013 によるスペクトル型既知の星。赤三角は VPHAS+ で識別された星。青四角は 混み合いのため VPHAS+ で検出されなかった星。 Wd 2 の OB-星 Vrgas Alvarez et al 2013 は Wd 2 中心領域に存在する 29 の B-星の減光 を調べた。その内 24 個は VPHAS+ により 1″ 精度でマッチ している。論文の命名を使うと、#597, #826, #843, #903, #906 は非常に 混み合った領域にあり、VPHAS+ の角分解能ではそれらの星を個々に分離できない。 図4 は Wd 2 領域の VPHAS+ g-画像である。 |
![]() 図5.Wd 2 付近の OB-星を選別する方法のテスト。スペクトル型既知の星は Rv = 3.8 の赤化則による選択領域に入る。 Wd 2 の 2 色図 図 5 は図 3 の拡大図である。赤い斜線= (O9 - O6) 星。青い斜線= (O6 - RL) スペクトル。Rv = 3.8 減光則がうまく仕分けるように見える。 #771 は RJ 限界線の上に位置する。この星の スペクトル型は O8V であり、この位置は明らかに異常である。ただし、よくよく見るとこの星のすぐ 脇に明るい星が存在しており、その光が測光に影響した可能性がある。 |
![]() 図6a.MCMC シミュレイションの結果得られた、パラメタ―の確率密度分布。 # 913 O4V. SED フィット結果の表示 既知星 24 個中 21 星が SED フィット可能であった。その結果を表 2 に示す。 # 896 と # 771 は混み合いで検出不能であった。 # 1004 は近赤外データが 不十分であった。SED フィットした 21 星に対しては、各天体毎に 100 ウォーカー による 10,000 逐次計算を行った。バーンイン(収束)は 1000 回であった。 各ウォーカーの自己相関典型値は 100 以下である。これは事後サンプルがほぼ 完全であることを意味する。 (ここの意味が分からない。 ) 各パラメタ―の確率密度分布 各パラメタ―の確率分布は他パラメタ―を無視してそのパラメタ―のみを 取り出して得られる。各パラメタ―毎に1次元ヒストグラムを作って可視化した。 また、共分散と縮退を見るために、パラメタ―対の2次元分布図を作った。 図 6 には、 O4V 星 #913 と B1V 星 #549 に対するパラメタ―分布を示す。 |
![]() 図6b.図6a に同じ。# 549 B1V. 高温度星の Teff と μ は決まりにくい 二つの星の間のパラメタ―確率分布の差は明らかである。熱い星ほど log Teff と μ の分布が非対称になることが判る。これは熱くなると RJ 型 になって行くからである。そのため高温度側の星は温度を正確に決め、その 結果として距離を精度よく求めることが難しくなる。確率分布の高温側では 確率分布の低下は緩く浅くなる。高温側の星は log(Teff) と μ の精度は 低く、反対に Ao と Rv の精度は高い。 採用するパラメタ―値は分布の中間値とした。Ao と Rv はそれぞれ 0.09 mag, 0.08 mag の精度で決定できた。Rv と Ao の共分散も小さい。しかし、 log(Teff) の誤差 0.06-0.07 は例えば # 913 では Teff = 40.1 - 41.3 K, スペクトル型では O8V - O2V に広がる。また、μ の誤差も d = 2.9 - 6.3 kpc と大きい。しかも、これは光度クラスの不定性、メタル量効果を考慮していない 誤差である。その上、二重星の可能性もありその場合には距離指数を最大で 0.75 mag 狂わせる。Teff の誤差は主に距離見積もり誤差に影響される。それは図6左下 で、log(Teff) と μ が強い正の共変を示すことに現れている。 |
図7=パラメタ―分布を SED で表す 図 7 は図 6 に示した # 913 O4V のパラメタ―分布を SED 空間に投射した ものである。図 7 上はパラメタ―事後分布図 6 からランダムに選んだ 30 組 パラメタ―によるサンプル SED を重ね描きした。図 7 下はそれらの残差である。 ( 残差の基準破線は何なのか?) 既知 OB-星の結果 表2には既知 OB-星 21 個のパラメタ―を Vargas Alvarez et al 2013 と較べた。 ここでは比較のため、 Ao を Av に、g 等級を V 等級に変換した。SDSS から Johnson システムへの変換には Lupton et al 2005 を用いた。また、 SED から 導いた我々の Teff は Vargas Alvarez et al 2013 に分光温度が得られる場合には それと比較した。得られない場合はスペクトル型と有効温度との関係、 Martns et al 2005, Zorec, Briot 1991 を用いた。比較に使用した減光則は Fitzpatrick, Massa 2007 に限定した。 図8=二つの研究から得られたパラメタ―の差 図8は二つの研究から得られたパラメタ―の差を示す。 # 584 は周囲の星 の混入がひどいので解析に含めない。図4と表2を見よ。 ![]() 図7. # 913 と # 549 の SED データ空間における事後分布。 上図:図6の事後分布からランダムに選んだパラメタ―サンプルから 作った 30 モデル SEDs. 丸=測光値。下図:残差。 |
VPHAS+ と HST 等級の差 VPHAS+ の g-等級を V に 変換した値と HST の V 等級の間には 0.18 mag という大きな差が見られる。 VPHAS+ 等級が明るく出る。Vargas Alvarez et al 2013 は彼らの HST B, V 等級を Moffat et al 1991, Rauw et al 2007 の地上観測と較べたが、前者は は 0.18, 0.15 mag, 後者は 0.22, 0.12 mag 明るいことを見出した。彼らは その差の原因として、地上観測のシーイングによる星の混じり合いを考えた。 もしそうなら、最も込み合うところで最も差が大きいだろう。しかし、そのような 現象は見られない。較正による差が疑われる。Hur et al 2015 も同様な問題に 直面したが、彼らの可視域測光は Rauw et al 2007 と良く合った。もし、 Rauw et al 2007 が正しいとすると、我々の測光は 0.05 mag 明るい。 見かけ等級の差は Av と μ にはね返る 見かけ等級の差は Av にはね返る。中間値では我々の導いた Av は Vargas ALvarez et al 2013 より 0.14 mag 小さい。 しかし、 Av に較べると μ の差は小さい。これは Wd 2 星が主系列にいて 我々の仮定と合っているからだろう。同様に Teff の差も小さい。 方法もデータも信頼できる HST の結果との比較は有望であった。我々の方法も我々の VPHAS+ データも 信頼できることが判った。 ![]() 図8. この論文と Vargas Alvarez et al 2013 から得られた既知 OB-星パラ メタ―の比較。実線=ゼロ差。破線=差の中間値。 |
5.1.フィットの良さ上に述べた手法でデータに対し最も可能性の高いパラメタ―が決まる。しかし、 フィットの良さは別途検証する必要がある。事後分布の中間値パラメタ―を使った SED フィットに対して χ2 値を調べた。中間値は尤度極大に 必ずしも対応はしていないことは分かっているが、それらは代表的なサンプル なのである。( ピーク値を使えばよいのか?) 図9にはフィットの χ2 分布を示す。上図は観測した 1050 星に対するフィット分布である。 7 バンド測光データを 4 パラメタ―でフィッ トしているので k = 3 χ2 分布が期待される。この分布は χ2 = 1 でピークになるが、図もその通りになっている。 そこで、χ2 > 7.82 をフィット不十分と判定する。この 判定基準を Vargas Alvarez et al 2013 に適用すると、OB 星と確認された内、 この基準外の 10 星は皆、混み合いのため、測光に問題が生じたケースである。 ( 図9下には4個しか見えないが?) そのようなわけで、我々はこのカット限界を越えた星も表には載せた。しかし、 解析には使わない。 5.1.1.既知星との照合X-線源辻本その他 2007 は Wd 2 と その近くの星形成域 RCW 49 中心に 17x17 arcmin2 X-線画像を撮った。彼らは 17 個の X-線放射天体を同定 した。彼らは Vargas Alvarez et al 2013 の観測領域を取り囲むより大きな 領域内に17個の新しい X-線放射 OB-星を同定した。その中の 8 個は Simbad に載っていて、我々の選択に入った。失われている内の 8 個は g < 13 mag で明るすぎて VPHAS+ では選択されなかった。逆に残りの 4 個は g > 20 mag で VPHAS+ から落ちている。これらは大きな赤化を受けていると考えられる。 SIMBAD X-線源以外に、表3には SIMBAD で同定された 14 個の星が載っている。それ らは、6 WR-星、 3 OV 星、2 OIII 星、1 OVb 星、1 B5ne 星、1 C-星、1 M1III 星である。WR-星、C-星、それに OV 星の一つは χ2 > 7.82 で OB-星と同定しがたい。一方、残りの星は χ2 < 7.82 で あった。OVb は Vargas Alvarez et al 2013 により O3V+O5.5V の連星であること が判った。M1III 星は近くの星と位置が混同していた。 |
![]() 図9.χ2 分布。下:既知星。上:より広い選択。分布のピーク が 1 付近にあるのは自由度 k = 3 から予想されることである。 5 % 有意レベル を採用して、χ2 > 7.82 をフィット不十分と判定する。既知 の星でフィットが不十分な場合は近傍星による光の混入が起きていた。 散開星団 Zhu et al 2009 は散開星団 DBS2003 45 内に 7 つの OB-星を検出した。 VPHAS+ も 7 つの明るい星を検出したが、Zhu et al 2009 の位置とは一致しない。 彼らの位置にずれがあるのではないか。 |
![]() 図10.(u-g, g-r) 図上に選択過程を示す。赤三角=以降の議論で使う最終 分類。RJ赤化線の上にある天体は悪いフィットとする。 図10=選別過程 図10には選別過程を図示する。第1に、灰色十字=NIR 精度劣る星を 除く。第2にシアン四角= χ2 が悪い星を選り分ける。第3に フィットの良い星をTeff で、赤三角= Teff > 20,000 K と、青四角 = Teff < 20,000 K 二つに分ける。赤三角は B2 かそれより早期型である。 |
![]() 表4.新 OB-星候補、既知OB-星候補、スペクトル型既知 OB-星の数。 図10の検討 直観に反し、g-r < 0.5 領域では NIR 測光精度が高い星は 12 個しかない。 そのわけは、低赤化の星は長波長側でフラックスが低くなり過ぎて 2MASS では うまく測光できないのである。多分幾つかは低光度高温高密度星であろう。 当然のことだが、フィットの悪いシアン四角は RJ リミットの上に多く見られる。 この領域にあるフィット良好天体は2つしかない。元気づけられることには、 B3V Rv=3.1 赤化線と高温天体分布との間にずれが見られる。 表4、5、6=観測と分類結果 表4には 1073 天体の分類を載せた。それらの測光とパラメタ―の結果は表 5と表6に示す。 |
χ2 > 7.82 となる原因は幾つか考えられる。最も多いのは
接触連星と測光不良である。
WUMa 型連星 図11を見ると χ2 ≤ 7.82 の約半数は (r-i, g-r) 図 上で OB 星から上にずれている。これは W UMa 型連星の標しである。W UMa 連星は食連星であるが、どのバンドでも光度は常に変化し続ける。典型的な 周期は 8 時間で、周期内に二つの強い極小がある。u/g/r 観測の時間差が 変動等級の影響で誤ったカラーにして、 OB-星のように見せることがある。しかし NIR まで加えると良いフィットは期待できない。 Rucinski 1992 によると、 主系列星 130 個に1個は W UMa 型である。したがって、 2 平方度の我々の観測中の 100,000 個の星に 100 個程度の W UMa 型星が OB 星候補に混じるのは無理もない。 測光不良 第2の測光不良は混み合いや不正確なマッチによるものである。 Wd 2 の 中心部ではこれは頻繁に起きる。 χ2 が大きいフィット 5.1.2.で示したように、 χ2 が大きいフィットは WR や炭素星のように極端なタイプの天体で起きるらしい。他には稀な例として 白色矮星と M-矮星の連星が青い u-g と赤い r-i の組み合わせとして現れる。 その場合図11の (g-r, r-i) 二色図上で OB-星赤化線の右側に現れる。 このような天体は (u-g, g-r) 図では赤化を受けた OB-星と同じ個所に位置する か、 RJ 赤化線の上に出現する。 Smolcic et al 2004. |
![]() 図11.(g-r, r-i) 2色図。青= χ2 ≤ 7.82。 灰色十字= χ2 > 7.82。 黒線= O9V Rv=3.8 赤化線。破線=主系列。 フィット不良点は OB-星赤化線から離れていることがわかる。それらのカラーは W UMa 食近接連星と一致する。 |
![]() 図12.χ2 < 7.82 の最適フィットパラメタ―の分布。 赤棒は Wd 2 を含む 8 分角領域内の星。 Wd 2 に付随する星(赤棒)の Ao は狭い範囲に集中して、 5.5 ≤ Ao ≤ 7 に密度超過を生み出して いる。そこでの Rv の散らばりは大きい。 図12=パラメタ―分布 図12には、χ2 < 7.82 で log Teff ≥ 4.3 の OB-星 候補最適フィットパラメタ―の分布を示す。 赤は Wd 2 を含む 8 分角領域(図17)内の星。 Wd 2 に付随する星(赤)の Ao は狭い範囲に集中して、 5.5 ≤ Ao ≤ 7 に密度超過を生み出して いる。図12右上も参照。そこでの Rv は大きく平均 Rv = 3.84 である。選ば れた星の多くは μ = [11, 14], D = [2, 6] kpc に分布している。Wd 2 内 または近傍の星は μ 分布の大きい方の端付近に多く、 Rv = [3.5, 4.5] に かけて広い散らばりを示す。 Teff の分布 Teff は区間の低い方の端に集中している。これは VPHAS+ の O - B2 有効温度 に関する選別がほぼ完全であることを示している。候補星の最低温度は 16,000 K であった。Teff ≥ 30,000 K の星は O-型星と看做せる。新発見天体中 74 星が この基準に合う。内 7 個は sdO かも知れない。 |
![]() 図13.パラメタ―不定性と g-等級との関係。不定性はパラメタ―事後分布 16 % と 84 % の区間から決めた。 Wd 2 の質量分布は頭でっかち 予想されるように、最も熱い星の多くは Wd 2 内部または近くで見つかった。 銀河系のこの辺りでは Wd 2 は際立って目立つ星団である。その上、図12の 左上は星団を中心とする 8 分角に低温 OB 星が欠けていることを示す。 これは Wd 2 において質量分布が頭でっかちになっていることを意味する。 同時に、星団距離 μ = 13 - 14 では思い星の側に検出バイアスが掛かること も本当である。しかし、混み合いや検出限界だけでこの頭でっかちを説明するには 無理がある。 Ao と Rv はよく決まる 図131は χ2 < 7.82 天体のパラメタ―不定性の端値を g-等級の関数として示す。 log Teff と Ao の不定性は暗くなると共に増加する。 Rv の不定性は明るい方へ等級が下がると共に僅かに増加する。それでも Ao と Rv はよく決まっている。 Ao の誤差は g = 18 mag まで 0.09 mag 以下で、 20 mag でも 0.25 mag 以下である。Rv の中間値不定性は 0.081 以下である。 |
赤丸=低光度 OB 星 ? 図14左と中は μ - logTeff と μ - Ao の散らばりを示す。灰色の 領域はサーベイの限界を示す。赤丸は低減光 なのに非常に遠方と言うパラメタ― 値を持つ。低光度 OB 星を主系列 OB-星と間違えて扱ったための結果と考える のが自然な解釈であろう。 黄色丸=明るい B-型星? 逆の場合が黄色丸で、大きな減光を受けているのに近いという組み合わせを持つ。 これらは本当はもっと明るい進化した B-型星であろう。 HR図上の位置 図14の右図を見ると、上述の解釈が最もであることが分かる。表7にはこれら 極端天体を載せた。 ![]() 図15.χ2 < 7.82 で log Teff ≥ 4.3 の内、 13 個 が Hα 超過を示した。放射には通常星周ダストがともない、得られた 減光は不正確である可能性がある。実線= 09V 赤化線を 0.1 mag 上げた。 |
輝線星 VPHAS+ Hα 測定は輝線星の探索に使える。それらは古典的 Be 星の可 能性がある。(r-i, r-Hα) 図上で、09V 赤化線より 0.1 mag 以上上に ある星を選んだ。それらは Hα 等値巾 10 A 以上に対応する。 輝線星候補は表6に載せた。 ![]() 表7.低光度星及び超巨星で χ2 < 7.82 で log Teff ≥ 4.3 のリスト。 |
図16の左は、Wd 2 中心 8 分角ボックス内の天体の Ao - Rv プロット。 右はその外である。どちらも穏やかな相関が見られる。 一般に Rv の増加はグレインサイズの増加に伴うと考えられている。Rv > 3.5 は濃い分子 | 雲環境を示唆する。今回のサンプルはカリーナ腕接点の丁度 内側に当たる。我々の視線は最初希薄な原子星間空間を通過し、次にカリーナ 腕の濃い空間に入ると考えられる。Wd 2 はそこに位置している。 しかし、 Ao - Rv プロットの散らばりが大きいことはダストの性質は それほど綺麗に変わるわけではないのだろう。Rv の典型的な値は Rv = 3.8 である。 |
分布 図17には 2 平方度領域内の χ2 < 7.82, log Teff ≥ 4.3 で選んだ新しい OB-星候補の位置を示す。背景は H α 画像である。527 天体が領域全体に広がっている。色分けは Ao の 大きさによる。 Ao ≤ 5 の低減光星は南半分に多い。 Wd 2 から離れた所で は北半分では分布はまばらで減光が大きい。NW と 接点方向、RA 10h11m, Dec -56 14 (J200)、に最も赤化の強い天体が見つかる。 明るい側限界 480 個は新しい OB-星候補である。この領域では以前、Reed 2003 や Kaltcheva, Golev 2012 が B3 より早期の星を発見している。これらは全て V ≤ 11 mag で IPHAS の明るい側限界に引っ掛かるので重複していない。この明るさ限界のせいで IC 2581 の星はない。Turner 1978 はこの星団を研究し、 D = 2.87 kpc, Ao = 1.5 とした。それだと B3 主系列星は g = 13 となってしまう。 |
高い Rv はカリーナ腕で生まれる Dame 2007, Grabelsky et al 1988 は CO で追跡されるカリーナ腕の接線領域 が距離にして 3 kpc から 5 kpc に亘るとした。それより遠方側では、視野が 含む錐体部が太陽円を越え、分子ガス密度の低下が検出された。これらを考慮 すると、高い Rv 値 3.6 - 3.9 はカリーナ腕のダストによると考えられる。 同様に、 Povich et al 2011 は l = 287 のカリーナ腕天体に対し Rv = 4 を 見出した。反対に Turner 1978 はこの領域で Av < 2 の OB 星を用いて、 Rv = 3.11 とした。これらは明らかに前景星である。実際 Ao = 2 - 9 の OB- 種族はカリーナ腕に集積している可能性が高い。図14を見ると、DM > 14, つまり D > 6 kpc では主系列 OB-星は殆ど見られない。 |
Wd 2 天体の Rv 図12、図16から、 Wd 2 の全ての天体に単一の Rv による減光則を適用 するのは無理と分かる。星団内では Rv は 3.5 - 4.5 に亘る。Rv が星団内 で同様な散らばりを示すことは、Fitzpatrick, Massa 2007 により以前指摘 されていた。Hur et al 2015 は Ao < 3 では Rv = 3.33, Wd 2 内の星に は Rv = 4.14 を提案した。しかし、図16はこのような切り分けが現実的で ないことを示している。 星団外の O-型星の意味 図12は Wd 2 に属する天体の Ao が狭い範囲に集中していることを示し ている。Wd 2 中心 8 分角ボックスの内側には新発見の O-型星はないが、その 外側には同じくらいの Ao をもつ O-型星候補が数個存在する。それらを表8に まとめた。それらは Wd 2 から力学作用や連星での超新星爆発の結果放出された のかも知れない。D(Wd 2) = 5 kpc とすると、 Wd 2 中心から 20′ 離れた所まで最低 30 pc を 1 - 2 Myr で渡るには 25 km/s 以上の速度が必要 である。連星系同士の遭遇では 200 km/s の逃散速度が可能 Gvaramadze et al 2010 なので、これらの星が最近 Wd 2 から抜け出したと考えることに無理はない。 別の可能性として、 Wd 2 と同時期により広い星形成活動域の中で生まれた星 かも知れない。 DBS 2003 45 図17にはもっと赤化の強い星団 DBS 2003 45 が見える。それらの周りには 赤化が星団と同じくらいの OB-星が散らばっていることは興味深い。 |
![]() 表8.Wd 2 中心 8 分角ボックスの外にあり、log Teff > 4.477, Ao = [5.8, 7.2] の O-星候補に対する、 Wd 2 中心 (RA, Dec) = (10 24 18.5, -57 45 32.3)J2000 からの距離と Ao の一覧。 |
青色超巨星 5.3.節の結果は領域内に 5 個の高光度 B-型星が存在するらしいこと を示す。もしそれらが早期 B-型超巨星なら、Mv ≈ -6.5 Crother et al 2006 となる。初めの主系列星という仮定を修正すると、μ は 9 から 13 に上がり、我々が扱ってきた OB-星の仲間になる。Meylan, Maeder 1983 は銀河面上での青色超巨星の面密度を 10 - 20 BSGs kpc-2 とした。我々の距離範囲を 2 - 6 kpc とすると、面積は 1 kpc2 程度となる。したがって、その領域内に 5 個の青色超巨星は少し平均を 下回るがおかしくない。 |
低光度天体 図7と図14には低光度天体種族が見られる。その内 9 個は sdO 型星で、 残り 23 個が sdB 型星であろう。sdB の絶対等級は Mv = 3 - 6 等である。 それらの絶対等級は主系列仮定した場合より 6 等暗くなり、距離も μ = 16 から μ = 10 となる。これらの星は A0 = 4 程度の減光を受けた前景 星である。 距離による分別 今回はカリーナ接線方向なので、距離がその付近にない天体を分別できた。 他の方向では OB-星の分布はもっと一様になり、この方法は使えない。 |
選択方法 VPHAS+ と 2MASS を使い、OB-星の赤化と星パラメタ―を決める方法が有効 であることを実証した。その結果、848 個の OB-星の減光を決めた。 その内 489 個は 20,000 K より高温の OB-星として良くフィットされた。 おそらく 74 個の O-型星が含まれている。これは観測が g = 20 mag まで 深くなった結果で、これまでそこに見つかった O - B2 型星を 10 倍に増やした。 2MASS の利点 VPHAS+ u, g, r, i に 2MASS を加えたので、我々は Ao に加え、 Rv も決めることが出来た。 |
早期 O-型星の確実な検出 Wd 2 領域で過去の研究と我々の結果を較べることで、我々の手法は早期 O- 型星を確実に捕まえることが出来ると分かった。それらの星の分光観測を 実施して、星のパラメタ―をより正確に決め、 VPHAS+ 測光データに 立ち戻れば、減光則に対しさらに精度の高い研究が可能となる。 将来 将来は南天銀河面全体で OB-星種族と減光則の変化を 5 kpc か以遠まで 研究する予定である。Garmany et al 1982 は 2.5 kpc までの体積限界 探査を宣言した。今回はそれを体積にして 4 倍に拡大した。 |