On the Impossible NGC 4372 V1 and V2 : an Extended AGB to the [Fe/H] = -2.2 Cluster


McDonald, Zijlstra,Rajoelimanana,Johnson
2013 MN 429, L65 - L69




 アブストラクト

 二つの明るい AGB 星 
球状星団 NGC 4372 の AGB は予想外の明るさにまで伸びているらしい。固有 運動と空間運動とから、伸びたAGB が実際に星団のものであることを示した。また、 その先端に位置する低温 2600 K, 明るい 8000 Lo, でダストに 覆われた O リッチな二つの LPV V1, V2 のスペクトルを示した。特にそれらの視線速度は V1, V2 はおそらく星団メンバーである。

 マスロスの欠落? 
 この原因はおそらく脈動の欠落と高いガス/ダスト比のためマスロスが阻害され、 マスロスとダスト形成が遅れたからであろう。これは、M15 のWD Pease 1 の大きな質量 を説明するために以前考えられた説明だが今まで実証されなかった。これが正しければ、 星からの質量還流、炭素星、超新星の形成に大きな意味を持つ。


 1.イントロ 

NGC 4372 の概説 
 球状星団の AGB はTRGB の1等より上にはめったに伸びない。特に低メタル星団ではそうである。 NGC 4372は[Fe/H]=-2.17 と非常に低メタルであり、(l, b, d) = (301, -10, 5.8 kpc), E(B-V)=0.39 に位置する。年齢は 47 Tuc, M 15 と同程度の年齢を有し、その AGB 初期質量 は 0.89 Mo と推定されている。AGB と RGB 先端光度は同じくらいと考えられる。
 明るい AGB 先端 
 それにも拘わらず、星団方向にいくつかの星があり、それらは RGB 先端の3等上まで AGB を伸ばす。V1, V2 は星団付近の変光星である。Clement 2001 . しかし、全天サーベイの測光以外には何の研究もなされていない。この論文では、 メンバーシップの確定と拡張AGBの存在を示す。


図1.赤点=NGC 4372 < 12.5" の 2MASS (J-Ks)-Ks 色等級図。
シアン点= ω Cen [Fe/H]=-1.6. 緑点=47 Tuc [Fe/H]=-0.7.
斜方形は RGB と AGB 領域。黒線=Marigo2008等時線 [Fe/H]=-2.17, t=11 Gyr に距離と赤化補正。大きなマゼンタ丸=AGB outlier



 2.V1と V2 

 2.1.観測 

 SAAO における分光観測 
  V1 643-928 nm R=4800
  V2 609-998 nm R=3600、832-894 nm R=24,000
を行った。そこに測光データを加えたものが図2である。どちらの星も O リッチでかつ低温である。スペクトル型は Fluks et al 1994 を参考に V1 が M7-M8, V2 が M8-M9 である。視線速度は V2 が vr=100 ±10 km/s, V1 は精度が悪く、vr= 50 - 100 km/s である。 これらの速度は前景星に期待される 3±21 km/s から大きく離れている。

 変光 
 ESO 2.2m/WFI の公開データ4点を使った。V2は ΔB > 0.85, ΔV > 0.81, ΔIc > 0.46, V1 は ΔB > 0.67, ΔV > 0.49, ΔIc > 0.23 であった。周期や振幅を このデータから決めるのは困難である。

 SED 
 図2下を見ると赤外超過が明らかである。DUSTYに鉄、炭素、シリケイトダストを 仮定してフィットした。どのダストでもなめらかな変形BBをフィットできる。 L=8000Loを仮定すると、
 dM/dt > 10-5 SQRT(ψ/30,000), v< SQRT(30000/ψ)km/s である。ここにψ = ガス/ダスト比である。

図2.上:V1とV2
下:V2のSED。黒い点線=2600K, log(g)=0, [Fe/H]=-2 BT-Setti モデル + E(B-V)=0.39 。箱の中はDUSTY でのフィット。鉄粒子=マゼンタ点線。非晶質炭素 =青破線。シリケイト=赤実線。



 2.2.星団メンバー? 

 銀河面から外れた巨星 
 晩期型スペクトルからそれらは前景矮性、YSO、晩期型星のいずれかと考えられる。 視線速度、変光、および強い KI 7665, 7699 A ラインの欠如は矮性、YSOを排除する。 暗黒雲 Sandqvist 149 ("Dark Doodad" Sandqvist 1977) が星団近傍にあるが、星形成 は活発でなく、星団のほかの部分より星のあたりに特に強い減光を及ぼしてもいない。 暗黒雲の距離は不明だが、分子雲のスケール高= 81 pc (Cox 2005) から、多分 500 pc 以下であろう。脈動から光度は 680 Lo 以上と考えられるのでその場合距離は 1.5 kpc 以上、銀河面の下 200 pc となる。以上をまとめると、銀河面から離れた遠方の 巨星という描像が残る。

 極度に低い温度 
 V1, V2 は [Fe/H]=-2.17 の星にしては極端に温度が低い。分子バンドは強いため 通常のメタル量指標には使えない。普通の低温度星スペクトルに現れる CaII, FeI, TiI ラインは分子吸収線と区別がつかないが、低メタル星では予想されることである。 このため、星のパラメタ―を決める手法が適用できない。我々は間に合わせの以下の 方法を採用した。

 方法1.
 R Leo は V2 スペクトルと細部も全体もよく似ている。R Leo は距離 110 pc, 光度 8200 Lo である。両星を同じと考え、フラックスを合わせると、V2 距離 は 5 ±1 kpc となる。NGC 4372 は 5.8 kpc である。

 方法2.
 観測SEDをBT-Setti, MARCS モデルと合わせ、距離=5.8 kpc を仮定すると L(V1)=7000 Lo, T(V1)=2300K, L(V2)=8000Lo, T(V2)=2000K を得る。ただし、この 温度はモデルの適用範囲(2600K, 2500K) 外である。
 方法3. 
 規格化スペクトル(8470-8930 A)の χ2 フィットを調べた。 Te と log g の間に強い縮退が存在する。さらにモデル適用範囲の問題もある。 さらに、どのモデルも観測された VO バンドを再現しない。、 V2 に対し、BT-Setti モデルでは図3に見られるように、 T = 2600 K, log g = 0.5 の領域の端がベストフィットを与える。不完全グリッドのMARCS モデルは 2500 K の方が 2600 K よりフィットが悪い。これらの値に基づき、V2 のパラメタ― として L=8000Lo, T=2550K, R=460Ro, log g = -1.1, vesc=23km/s を得る。V2 のベストマッチは L=7000Lo, T=2700K, R = 380Ro, log g = -0.9 であった。

 視線速度 
 V2 視線速度= 100 ±10 km/s で星団視線速度 = 72.3 ±1.2 km/s である。この差の説明として考えられる一つは脈動運動である。例えば、 47 Tuc の強い変光星では視線速度に ±10 km/s の変動がある。連星の 可能性もある。


図3.V2 スペクトルと BT-Setti [Fe/H]=-2 大気モデルの間のフィット に対する reduced χ2 分布。暗い色ほどフィットが良い。



 3.拡張された AGB   

 等時線との比較 
 12.5' 以内の拡張された AGb 星は7つある。それらは、系列を成している。 図1のパドヴァ等時線は RGB 先端が Ks=8.4 mag にあることを示す。等時線は TP-AGB を経ているが、拡張された AGB を再現するものはない。彼らのモデルでは このメタル量だと M > 0.9 Mo の星は炭素星になる。V1, V2 はO-リッチなので、 それより若い等時線でO-リッチ系列は期待できない。

 動径分布 
 提案された拡張 AGB の動径分布は図1に見られるように RGB 星と同じ形を持つ。 視線速度による制限と合わせて考えると、この分布は V1, V2 が星団メンバーである 可能性を強めている。

 固有運動 
 星団メンバーの固有運動は ≤ 1 mas/yr である。表1を見るとそれより 大きな固有運動だが、形式エラーは混んだ領域では低く見積もられがちである。


図4.灰色=RGB 星の動径分布。赤= AGB 星の動径分布。青=前景星。 矢印= V1 と V2. 縦線=ポアソンエラー。

表1.上部 AGB 星のデータ。

 4.議論 

 M15 の例 
 [Fe/H] < -2 の 13 球状星団の中で NGC 4372 のみがはっきりと拡張された AGB を有している。多くの星団の星の数は少ないので、拡張 AGB の出現は 一つか二つが現れるかどうかのストカスティックな現象となる。ただ、注意したい のは最も低メタルな M15 [Fe/H] = -2.37 が白色矮星 Pease I 0.58 - 0.62 Mo を 含んでいることである。この質量は他の星団で観測された質量 0.53 Mo より大きいが Blocker 1993 PhD Thesis による NGC 4372 V2 のコアマス見積もりとも一致する。 したがって M15 でもいくつかの星は予想外に高い光度に達したらしい。

 拡張 AGB を作る 4つの方法. 
(1)若くて高メタルの第2種族 
(2)星の合体から生まれた第2種族 
(3)標準的なコア質量ー光度関係の上への超過光度(例えばHBB) 
(4)抑えられたマスロス 

 Ks = 7 - 8 には 4 星、8.4 - 9.4 には 26 星ある。これは 1/6.5 の減少である。 これは全ての AGB 星が 上部 AGB まで生き延びるという想定での期待値 1/4 (Sandquist and Bolte 2004) に合致し、星団の 40 % が拡張 AGB の形成に寄与する種族であることを示唆する。 0.62 Mo の白色矮星を生む星は 2Mo, 1Gyr でケース(1)は無理がある。NGC 4372 は 最も中心密度の低い星団の一つで星の合体確率は低い。ケース(2)も難しい。M < 1.5 Mo で HBB を起こすメカニズムは知られていないので(3)も無理。
 ケース(4) 
 したがってケース(4)のみが残る。 Woitke 2006 によると、標準的なウインドモデルでは太陽メタル量ですらマスロスを起こすには 精一杯である。まして低メタルではより困難となる。Zijlstra 2004 は低メタルでは マスロス率が大きく低下すると主張した。 するとスーパーウィンドが始まる前に AGB を上る時間が伸びる。

 遅延マスロス? 
 水平枝が青いことはAGB以前にマスロスが起きていることを示唆する。残った 外層 0.1 Mo は L > 700 Lo で始まる脈動で強化されたダスト放出マスロス で失われる。しかし、V1, V2 以外の星ではダストができていない。かつ、 V1, V2 は唯一ではないが唯二のLPVである、(松永)したがって、我々は、 脈動とダスト形成の欠如が通常のダスト駆動型星風をうんと低温になるまで遅らせる と考える。もしこれが低メタル星で普通ならば、その影響は大きい。AGB 寿命が 伸びるとWD質量が大きくなる。星間空間への質量還元が減少する。
 類似の拡張 AGB が他の似たメタル量星団で見られないことは詳細な元素分布が 重要なことを示す。



 5.結論 

 NGC4372 の質量放出が遅滞している証拠を見出した。それがこの星団 AGB が 8000 Lo まで拡張している原因である。AGB 先端のV1, V2 は 異常に低温のスペクトル を示した。この拡張 AGB は M15 にある大質量白色矮星と合致する。