SMC CMD で古い種族の MSTO まで届く SMASH = The Survey of the Magellanic Stellar History データを用いて、CMD フィットにより SFH を導 いた。過去 3.5 Gyr に5つの星形成ピーク, 3, 2, 1.1, 0.45, それに現在、 があった。それを LMC の SFH と比べた結果、過去 3.5 Gyr で両銀河が似た 時期に星形成が活発になっていることが明らかになった。 | この並行性が意味するのは、少なくとも過去 3.5 Gyr の間、両銀河間の潮汐 作用が SMC の質量を剥ぎとり、 LMC 腕構造を作って、繰り返し銀河進化に影響 していることである。我々は初めて最近の SMC-LMC 関連星形成が LMC 北半分の 腕に限定され、 SMC では全面的に起きていることを示した。これらの新発見は マゼラン雲の軌道史への拘束だけでなく、シミュレイションをどう行うべきかにも 使われるべきである。 |
SMC/LMC 系の軌道 SMC/LMC の星に対し、視線速度 Carrera17, Cullinane20, DeLeo20, 固有運動 Kallivayalil13, Schmidt20, Gaia21 が得られている。 これらのデータは軌道決定に重要で、それにより銀河進化に及ぼす相互作用の 効果を調べられる。現時点で、LMC/SMC 系の進化を探るに際し、不定性の最大 原因はそれらの質量である。Patel20. SFH は両銀河の内部進化の研究に役立つ だけでなく、相互作用を研究するためにも重要である。 LMC SFH LMC SFH にはいくつかのピークがあり、 Harris, Zaritsky (2009) Ruiz-Lara et al. (2020b) Mazzi et al. (2021) それらは恐らく相互作用の結果である。LMC 星団の年齢分布も LMC 全体の SFH と相関するようである。星と星団の形成ピークが 12 - 13.6 Gyr 昔と 3 Gyr 昔にあった. Olzewski et al. (1991) Ruiz-Lara et al. (2020b) しかし、中間年齢でのフィールド星形成にはいくらかの活動があったが、 LMC の中間年齢星団は一つしかない。Mackey et al 2016. しかも、 Bekki, Chiba 2007 はそれを SMC から落ちた星団とした。 |
SMC SMC の SFH には、50 Myr, 100 - 250 Myr, 1 - 3 Gyr 昔の活発な星形成 が記録されている。 Harris, Zaritsky (2009) Noel07, Noel09, Rubele18. その間も SMC Wing や東側では星形成が継続されていた。しかし、SMC 初期 には活発な星形成は見られなかった。 Ribele18. 古い星団も NGC 121 が 一つあるだけであった。それも MW の球状星団の年齢 11.2 Gyr Glatt05 と較べ、明らかに若い。 最初の接近? 伝統的には何度も MW に近接する軌道を巡っていたと思われていた。 Bruns05, Mastropietro05。しかし、 Kallivayalil06a, Kallivayalil06b は そうではなくて、マゼラン雲は銀河系ポテンシャルへの最初の落下の過程に あり、互いには相互作用していた Patel20 ことを示した。 例えば、 マゼランブリッジは最近 150 - 200 Myr 昔に形成された。Zivik18. しかし、固有運動、距離、モデル不定性などにより、LMC 円盤のどの辺りが 最近接接近したのか、過去に何度そのような遭遇を起こしたのか不明である。 円盤北縁の星形成 Ruiz-Lara et al. (2020b) によると LMC の最近の星形成ピーク(< 0.45 Gyr) は LMC 全体でなく、円盤の北縁が目立って激しい星形成を起こした。では、この 局所限定星形成は SMC 全体での星形成とどう相関しているか?そこで、 この研究では、その比較を行う。 |
SMASH = The Survey of the Magellanic Stellar History は CTIO Blanco 4m 望遠鏡を使い、マゼラン雲の SFHs を再現することを目的とする。 観測は ugriz で行われ、 g = 24 mag, 場所によっては 26 mag に達した。 SMASH カタログは Nidever17 を見よ。今回、使う SMC 用データは中心から 4° 以内である。 | データは SHARP = [-2.5, 2.5] として銀河や人工的な天体像を排除した。 赤化マップには RC を使った Choi18 を用いた。距離指標は (m-M)o = 18.9 とした。 |
モデル CMD の作成には BaSTI 恒星進化モデル (Pietrinferni04) を用いた。
INF は Kroupa01 モデルを、また連星率を 50 % とした。マス比は 0.1 から
1 の間とした。測光完全性は人工星テストで行った。 SMC SMASH データを 74 領域に分けた。それぞれがほぼ同数= 281000 個 になるよう Voronoi 分割 (Cappellari, Copin 2003) した。領域毎に THESTORM = Tracing tHe Evolution of the STar fOrmation Rate and Metallicity Bernard et al 2015, 2018 を用いて SFH を定めた。 CMD を"bundle" と呼ぶ幾つかの領域に分けた。各 bundle は更に "bin" に分割され、それらに情報量に応じた重みが与えられフィッティングに使用 される。 MW 前景星は "bundle" 7 を使用して、 SMC から離れた箇所での CMD を 入力にしたフィットで近似した。 図1.左上:観測 CMD. 右上:ベストフィットモデル。左下:MW へのフィッ ト。右下:相対エラー |
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![]() 図2.SMC SFH(本研究)と LMC SFH ( Ruiz-Lara et al. (2020b) ) の比較。縦破線=SMC 0.45, 1.1, 2, 3 Gyr のピークを LMC に結び付けた。 上図の水平棒= 星形成活発期。 4.1.SMC 全体の SFHSMC の混み合いの強い 6/74 ビンを除いた残りの SFH を足して SMC 全体の SFH を作った。図2を見よ。 5つのピーク = 3, 2, 1.1, 0.45, それに現行のもの、が見える。さらに もっと小さく、広がったピークが 6.5 と 9 Gyr 昔に見える。10 Gyr より昔に 強い星形成が起きていた痕跡はない。これは LMC の場合 Monteagudo et al. (2018) ) と較べると大きな違いである。4.2.LMC の場所別 SFHs との比較LMC の北と南図2の下には Ruiz-Lara et al. (2020b) ) による LMC の SFHs を南側と北側に分けて示してある。SMC と LMC北側の SFHs には明らかな同期性が見られる。これは少なくとも 3.5 Gyr 以降は協調した 進化を遂げてきたことを意味する。 (回転すると南と北が入れ替わるのに? ) SMC の強い 2 Gyr 前のピークに対応するピークが LMC 北側にも南側にも見える。 これは両銀河の間で特に強い相互作用が起きたのではないか? SMC に見られる 6 - 10 Gyr 昔の強い星形成は、LMC には対応活動がない。横向きバーで示される エラーの巾を考えると 7 - 9 Gyr の SFH はもっと細かい構造があるのであろう。 |
![]() 図3.SMC で形成された星の質量比分布。質量比の計算には各ビンでの SFH を用いた。年齢区分は図2に示す星形成活発期に合うよう選んだ。SMC 中心部は混み合いのため空白とした。 合体事件 Tsuhujimoto, Bekki 2009 は大きな合体 が 7.5 Gyr 昔に SMC で起きたと主張している。それに比べて、この時期に LMC では何事も起きていないのは、両銀河の相互作用が始まるのは 6 - 7 Gyr より以前ではないことを意味する。 星形成比率マップ 図3には Ruiz-Lara et al. (2020b) ) の始めた星形成比率マップを SMC について示す。図を見ると LMC に向いた SMC 東側が過去 0.7 Gyr の間で星形成が活発であったことが判る。これは 恐らく 0.2 Gyr 昔の SMC/LMC 相互作用に対応しているのであろう。 2 Gyr 昔の大星形成活動は SMC 中に渡って起きている。 |
5.1.他研究との比較VMC図4には VMC SFHs との比較を示す。 PSMC との比較 Harris, Zaritsky (2009) ) と VMC との比較は、 SMC に関しては Rubele18 で、LMC に関しては Mazzi et al. (2021) ) で行われた。LMC に関しては両者の一致はかなり良い。どちらも 3 Gyr 昔に SFR(t) の盛り上がりを検出した。同じ盛り上がりは SMASH の Ruiz-Lara et al. (2020b) ) の方にも現れている。ところが SMC の方の一致は悪い。例えば、 HZ04 は SMC にも 3 Gyr の SFR(t) の盛り上がりを検出しているが Rubele18 にはない。この不一致は我々の研究と R18 の間にも存在する。 時間分解能 我々の研究は中期の時間分解能が高いので SFHs に現れるピークの詳細が 明らかになった。図4には二つの LMC サーベイが 2 Gyr 昔の大きなピークを 再現し、 1, 0.45 Gyr 昔のピークの兆候も捕らえていることが示される。 3.5 Gyr 昔に始まる星形成の盛り上がりは SMASH の方が正確に示されている。 SMC の SFH の方でその時期に現れる SFR(t) ピークは Rubele18 の方では つぶれていて分からない。 SMC は遠いので VMC では 10 Gyr MSTO Ks = 21 が測光の 50 % 完全性の限界ギリギリである。このため、以前の研究では SMC の 5 Gyr と 7 - 9 Gyr のピークは見えなかった。 HZ について HZ は 5 Gyr 昔にマゼラン雲が再点火したと述べた。しかし我々の研究では それが起きたのは 3.5 Gyr 昔である。これは以前の研究の時間分解能が 低かったための見誤りである。LMC には 5 Gyr 昔に星形成のもっともらしそうな ピークがあるが SMC にはない。これは SMC - LMC 相互作用がその時期には なかったことを意味する。これはまた、 SMC で見られる 7 - 9 Gyr の ピークが LMC にはない説明にもなる。 5.2.LMC - SMC 系 に対する意味SFHs 同期性と軌道作用本研究で見出された LMC と SMC の SFHs の同期性は LMC/SMC 系の軌道に 新たな制限を掛ける。実際最近では多くの研究が SFHS の同期性と軌道 相互作用の関係を議論している。 Ruiz-Lara et al 20201,2021, Di Cinto et al. 2021, Rusakov et al 2021. |
![]() 図4.SMASH と VMC それぞれで得た SFHs の比較。SMC に対しては Rubele18 を使用した。LMC に関しては Mazzi et al. (2021) ) のデータを使用した。 軌道タイムスケールの短小化 SMC と LMC の SFHs に現れる 0.45, 1, 2, 3 Gyr のピークは二つの銀河が 近接遭遇した時期と見做せる。この時間間隔の短期化はダイナミカルフリク ションにより遭遇タイムスケールの低下というモデルからの予想、 Murai, Fujimoto 1980, Bekki, Chiba 2005, Ruzicka, Theis, Palous 2010, Besla et al 2012 とも一致する。その他、過去 0.5 Gyr に MW が MCs 軌道 に及ぼす効果は増大してきている。 Besla et al. 2007、Patel et al 2020. 例外的近接遭遇 近接遭遇は SMC に対しては全体的、 LMC に対しては局所的な SFR の増大を もたらした。例外は 2 Gyr 昔の遭遇である。この遭遇は SMC が潮汐力により 刈り取られ Massana et al 2020 また LMC バーの形成 Ruiz-Lara et al. (2020b) ) を引き起こした。また。LMC 北辺は最近の SMC - LMC 遭遇時の LMC 側の 接近箇所だった。 |
(1)SMC と LMC の星形成は 3, 2, 1.1, 0.45 Gyr 昔に同時に星形成活動の
ピークを迎えている。それより前にピークの同期性は見られず、両銀河の
重力相互作用は 3.5 Gyr から始まったと思われる。 (2)ピーク間隔から軌道周期は約 1 Gyr である。しかしダイナミカルフリク ションの結果、この周期は最近では 0,5 Gyr にまで縮んだ。 | (3)両銀河に対する全面 SFH マップから、両銀河の相互作用史を確立 した。それにより両銀河の軌道に制約を与えることができた。 |