The VMC Survey - XLIII. The Spatially Resolved SFH across the LMC


Mazzi, Girardi, Zaggia, Pastorelli, Rubele, Bressan, Cioni, Clementini, Cusano, Rocha, Gullieszik, Kerber, Marigo, Ripepi, Bekki, Bell, de Grijs, Groenewegen, Ivanov, Oliveira, Sun, van Loon
2021 MN 508, 245 - 266




 アブストラクト 

 VMC から LMC 96 領域に対する SFHs を導いた。各 0.125 deg2 = 296 pc x 622 pc の 756 副領域が解析された。得られた SFH マップ log t で 0.2 - 0.3 の時間分解能を有す。LMC 円盤の古い時代の SFH の特徴と、最 近の斑な星形成= 1.6 Gyr に遡る 3 本の腕とバーに集中する星形成が明らか になった。最も強い星形成は t = 0.5 - 4 Gyr の 0.3 Mo/yr の時代である。  RR Lyr とセファイドの数から古い時代と若い時代の星形成率を比較した。 各副領域の平均減光と平均距離を求め、距離分布から円盤の面を決めた。 我々の結果は Harris, Zaritsky 2009 が求めた SFH マップより 50 % 広い。 それとの主な差は、若い時期での星形成率が低くなったことと、星形成の 主ピークが 1 Gyr より少し若い時点に同定されたことである。


 1.イントロダクション 

 SFH マップを作る意味 

 SFH マップを作る意味は二つある。一つはそれが局所群の進化を調べる助け になること、もう一つは恒星と恒星種族進化を理解する助けになることである。

 これまでの大事な研究 

(1)r = 2 - 6 kpc では、外から内に向けて、星形成の停止。Gallart08, Meschin14

(2)t = 5 - 3.5 Gyr の LMC 全体での星形成の低下。 Harris,Zaritsky (2009), Weisz et al. (2013)

(3)フィールド星と星団の形成の相関。 Harris,Zaritsky (2009),

(4)LMC バーと LMC 内側円盤で数 Gyr の間共通の SFH. Monteagudoo18.
(5)固有運動。Kallivayalil13, Gaia Collaboration21.

(6)宇宙シミュレイションからの SFH. Williamson, Martel 2021

 delay-time distribution  

 DTD 法 = delay-time distribution technique はある種類の星の数を SFH と関連付ける方法。これは LMC に適用されてきた。 SNRs Maoz, Badenes 2010, PNe Badenes et al 2015, RR Lyrae Sarbadhicary et al 2021. もう少し 複雑な手法は TP-AGB Pastorelli et al 2019, 2020.

 MCPS = Magellanic Clouds Photometric Survey 

 LMC 本体の空間分解 SFH マップの古典例は、 Harris,Zaritsky (2009), である。この他に可視で更に深い測光を目指す SMASH Nidever et al 2017, 2021 や、 NIR での VMC がある.



図1.左:タイル中の副領域に含まれる J, Ks 検出星の数。幾つかの副領域の 星数が隣接副領域よりへこんでいるのは天候、シーイング等の観測条件による。 タイルの G9 は VIRCAM 検出器 19 の感度が低いのでマスキングを掛けた。 右:完全性が 75 % を割る Ks 等級のマップ。


図2.左=J-Ks CMD. 中=Y-Ks CMD. 中右=エラー。右:完全度。 上段: T32_G5 副領域。下段:T85_15 副領域。

 2.VMC データ 

 3.SFH 回復法 


表1.TRILEGAL に使用した MW パラメター。  

表2.年齢ビンと対応するメタル量区間。  



図3. T32_G5 副領域 CMD フィッティングの結果。橙色枠の内部を合わせた。 左=観測 ヘス図。中= MCMC モデルヘス図。右=差。 右上:SFR(t)(Mo/yr 単位)下:[He/H]


図4.T86_G5 副領域の SFH 例。




図5.SFR(t) マップ。


図6.尤度 マップ。

 4.全ての副領域に対する結果 

 4.2.SFR(t) の整合性チェック 


図7.古い時期の星形成率と RR Lyr 数の相関  

図8.新しい時期の星形成率と セファイド 数の相関  


 4.3.測光ゼロ点の補正 

 4.4.減光マップ 




図9.減光マップ。


図10.図4と同じだが、減光の強い副領域 T75_G5.

 4.5.距離マップ 


図11.左:YKs から求めた距離指標の分布。中:JKs から求めた距離指標 の分布。右:両者の相関。


表3.副領域距離指標全体から決めた LMC 円盤面の幾何学




図13.左:円盤平面までの距離。右:最大勾配に沿った距離と太陽からの 距離の相関。

 5.議論 

 5.1.LMC の幾何学 

 円盤平面を決める作業は以下の様に行った。

(1)幾つかある円盤中心座標の候補(表3)から一つを選ぶ。

(2)副領域の中心位置を定める。

(3)円盤中心位置(αo, δo, Ro) と円盤傾斜角 i, ノード線の方位角 θo を(2)へのベストフィットして決める。

(4)逐次近似は MCMC コードを使用する。

(5)Ks(75%完全度) > 18.5 領域は除く。(バーははじく)

図12.黒/黄=VMC サーベイ領域。 赤/ピンク= Harris,Zaritsky (2009), の MCPS 領域。中央黄色=混み合いのため V の領域。


 5.2.HZ09 SFHs との比較 


図14.タイル LMC 4_3 の北側 3/4 の副領域における Harris,Zaritsky (2009), からの SFR(t) と我々の SFR(t) との比較。北側が上、西側が右である。 影= 68 % 信頼度。


図15.Constelation III という星形成域に一部かかる LMC 8_6 での比較。

 一致度の変動 

 HZ09 と比較すると、一致度は様々である。幾つかの領域では素晴らしい一致 を見せるが、若い時期に対してさえも大きく違う領域もある。若い時期のサン プルはどちらのサーベイも完全度は高いはずなので差が生じるのは驚きである。

 図14=タイル 4_3 の場合 

 t > 1 Gyr では HZ09 との一致は良い: t = 2 - 4 Gyr での強いピーク、 それ以前の低い SFR(t) など。もっと若い時代での一致は悪くて、HZ09 では log t = 8.6 にピークがあるが、我々の SFR(t) にはそれがない。さらに若い 時期に対して我々は上限値しか得られなかった。しかし、HZ09 の与えた上限値 はそれより大きい。我々は log t = 8.1 - 8.4 で SFR(t) の盛り上がりを見出す。HZ09 の log t = 8 にピークを示すが、それが対応するのかも知れない。

 図15=タイル 8_6 の場合 

 8_6 はコンステレーション III のかなりの部分を占めている。中期と古期で の HZ09 との一致は非常に良い。しかし、log t = 8 付近では HZ09 のピーク は本論文より強い。さらに若い log t < 7.2 で我々は爆発的星形成を捕ら えているが、少し弱く、 JKsでのみである。
 IMF の違い 

 我々は Kroupa01 の IMF を使用し、HZ09 は Salpeter55 の IMF を用いた。 これは、観測した星の数を総星形成率に変換する際の係数の違いとして現れる。 IMF の違いが SFR(t) にどのくらい影響するかの定量的な研究はない。

 メタル量、距離指数、減光の扱い 

 我々は参照 AMR の周りに限られた。しかし、 HZ09 では同時に4種類の Z を併存させている。また、我々は各領域毎に独立なパラメターとして (m-M)o と Av を決定しているが HZ09 は事前に決めた値を固定して用いている。また、 我々は異なる "generations of stellar models and methods" を用いている。 バーでは HZ09 は t > 4 Gyr の SFR(t) を HST を用いた他の研究からの 結果を固定させて使っているがわれわれは VMC のみを使っている。

 大きな差はない 

 最大の違いは HZ09 が可視観測、VMC は NIR 観測であるいう点である。 可視データは若い種族を分離するには向いている。一方、減光の影響は大きい。 従ってどちらが良いか決められない。ただ重要な結論として、それらの差に拘 わらず、log t < 8 以外の期間決定的な違いはなかった。


 5.3.非常に若い星の問題 

 若い SFR(t) の不確実性 

 VMC データの解析で最も意外な結果は、YKs データから出した SFR(t) が log t = 6.6 - 6.9 と 6.9 - 7.2 のビンで、 JKs よりも、また HZ09 よりも、 低いことである。このように若い時期には進化星は等級カットより上の Ks < 12 にある。
(VMC にカット? )
結果として、使える情報は少数の上部主系列星、特にカラーがゼロ近傍で Ks = [12, 14] にある星、からのみである。より古い年代ではコアヘリウム燃焼星は 赤い我々の解析領域に入ってくる。それで YKs と JKs の結果の違いの説明に はならないが、若い年代の SFR(t) の不定性が大きいことは確かである。
 同じ領域内でも年齢で異なる減光 

 非常に若い星の形成はしばしば強い減光と結びつく。同じ領域内でも若い星が より強い減光を受けている場合が多い。この効果は我々の解析ではまだ考慮され ていない。


 5.4.大きい領域での HZ09 SFH との比較 


図16.多数の副領域を足した大領域 SFR(t) の比較。左:二つのサーベイが 重なる領域全てに対する SFR(t) の比較。右:Ks(75%完全度)> 18.5 の領 域のみ=混んだ場所は外した SFR(t) の比較。log t < 7.2 の SFR(t) は 不定性が大きいので比較から外した方がよい。

 図16=大領域 SFR(t) の比較  

 図16では二つのサーベイが重なる領域全て=57.42 deg2 に対す る SFR(t)s を比較した。t > 0.1 Gyr での SFR(t) はよく似ている。それ より若い時期には HZ09 が 2 - 3 倍高い SFR(t) を与える。もう一つの著しい 特徴は若い時期の YKs と JKs からの結果が食い違うことである。 YKs は非常 に若い星形成爆発を見逃しているようである。若い星と古い星との赤化のため かも知れない。
 中期 SFR(t) の違い=バーが原因 

 中期での最大の違いは、VMC が log t = 8.8 - 9.0 にピークを示すのに対し、 HZ09 にはない事である。しかし、この差は主にバーにある。そこでは混み合 いが原因で HZ09 は HST データの併用など解析法が異なっている。実際、図 16の右には混み合った領域つまりバー 4.5 deg2 を外した結果 を示す。我々の SFR(t) からは 8.8-8.9 ピークが消えて、 HZ09 との一致は 良い。
(バーだけを取り出す試みはしていない。 )


 5.5.これまでに形成された全星質量 




図17.左:VMC 全領域= 94.5 deg2 での総星形成率。 右:累積星形成量。多分右端が現在。

 図17=星形成量 

 図17左には VMC 全領域での総星形成率を示す。SFR(t) を LMC 形成 log t = 10.2 (t = 15.8 Gyr) から積分した累積質量を求めて右に示す。
(右図では t、左では Time が横軸。 "Time" は look-forward time らしいが明記されていない。 )
 総形成量 

 星形成率を積分した結果は 2.5 109 Mo である。 これは HZ09 の 2.2 109 Mo と合う。


 5.6.マゼラン雲の力学モデル 

 LMC-SMC 遭遇 

 これまでに LMC-SMC 間の最後の強い相互作用は 0.1 - 0.2 Gyr 昔に起きた とされている。Yoshizawa, Noguchi 2003 はそれが大規模星形成を引き起こし たろうと予想した。しかし、かれらは、その相互作用により生じる LMC の若い アソシエイションの分布までは予想しなかった。 t = 0.1 - 0.2 Gyr で 星形 成がピークを迎えるタイルの位置はLMC-SMC 相互作用に強い制限を掛ける。 もっと面白いのは年齢ビン i = 6 のビンである。そこには バーと一本の腕が はっきり写っている。
 バーの形成 

 図5と図B-1 の SFR(t) マップには t = 1 Gyr までバーがはっきり見える。 t=1.6 Gyr でもまだ明らかに存在している。以前のシミュレーション Bekki, Chiba (2005) は恒星バーの形成を示すが、それは古い星も新しい星も同じバー構造を作った。 しかし、古い種族にはバー構造が見られない。これは薄い恒星バーが形成され る以前に、LMC には力学的に熱い厚い円盤が存在したことを意味する。 Bekki 2009.


 6.結論 

 他研究との比較 

 VMC からの SFH は一般的には過去の研究結果と合致する。HZ09 との比較では、 若い時期の星形成が低く出た。

 ピーク 

 星形成が最も盛んだったのは中期 t = 0.5 - 4 Gyr である。この時期総星 形成率は 0.3 Mo/yr に達した。それ以外の時期の形成率はその半分程度である。 二つのピーク、log t = [8.8, 9.0] と [9.2, 9.6], t = [0.63, 1] Gyr と [1.6, 4] Gyr 昔、が見える。その内若い方のピークは主にバー領域での活発な 星形成のせいである。
 SFH マップ 

 SFH マップは LMC の現在の構造をモデル化する上で貴重な情報を与える。 特に興味深いのは、t = [0.1, 0.2] Gyr の星種族の分布である。それは LMC-SMC 相互作用に制限を掛ける。また、t < 1 Gyr の星が作る細い バーは SMC/MW との作用の間/以前の LMC 力学的性質を考える上で重要である。


 A 異なる仮定の影響 


図A1.図3と同じ。ただし、CMD とメタル量シフトは固定値を使用。 T32_G5 副領域 CMD フィッティングの結果。橙色枠の内部を合わせた。 左=観測 ヘス図。中= MCMC モデルヘス図。右=差。 右上:SFR(t)(Mo/yr 単位)下:[He/H]


図A2.図4と同じ。ただし、CMD とメタル量シフトは固定値を使用。 T86_G5 副領域 CMD フィッティングの結果。橙色枠の内部を合わせた。 左=観測 ヘス図。中= MCMC モデルヘス図。右=差。 右上:SFR(t)(Mo/yr 単位)下:[He/H]


図A3.図3、4と同じだが MW 前景星を 1.3 倍にした。


図A4.図3、4と同じだが 背景銀河の空間モデルを加えた。。

 B. 追加のプロット  


図.図5と同じだが YKs CMDs からの SFR(t).


左:図B2.RR Lyr の空間分布。右:図B3.Cepheids の空間分布。