The Red Tail of Carbon Stars in the LMC: Models Meet 2MASS ] and DENIS Observations


Marigo, Girardi, Chiosi
2003 AA 403, 225 - 237




 アブストラクト

 炭素星の赤い尾 
 炭素星は M-型星に較べ系統的に赤いことが知られている。2MASS, DENIS の 色等級図で LMC 炭素星は印象的な赤い尾を引いている。これまでこの特徴は モデル等時線にはなかった。

 赤い尾の再現に失敗 
 その再現を目指し、TP-AGB 段階の進化を取り入れた等時線から種族合成を 2MASS j-(J-Ks) 図で試みた。シミュレーションは、2MASS データに現れる 銀河系前景と LMC O-何本かの垂直指を上手く再現した。
炭素星のオパシティ 
 その代り、炭素星の赤い尾の再現は出来なかった。通常採用される、太陽組成 相対比のまま Z を変えてオパシティを計算する方法で TP-AGB モデルを作って も炭素星の赤い尾は作れない。この失敗は炭素星の Teff - (J-K) 関係には 押し付けられない。そうではなく第3ドレッジアップで炭素が増加するに連れ 新しいオパシティを計算する必要がある。この方法で赤い尾を再現することに 成功した。





図1.左:LMC (α=[61, 101], δ=[-77, -63]) の 2MASS Ks - (J-Ks) 図。 可視炭素星の赤い尾が赤色巨星系列から (J-K)=1.4 で別れて (J-K)=2 まで伸びることに注意。 右:同じ図だが、DENIS から採った。

 1.イントロダクション 

 赤い尾 

 近赤外二色図上で炭素星が特異な位置を占めていることは昔から知られていた。 図1では、赤色巨星が (J-Ks) = 1.1 付近でほぼ垂直に立ち上がり、Ks = 11 で 傾いた分枝が (J-Ks) = 2 まで伸びている。この枝を「赤い尾」= red tail と 呼ぶ。この赤い尾はダストで隠されていない炭素星である。また、(J-Ks) = 1.1 の垂直帯は晩期 K から M 型の O - リッチ巨星である。

 どこが悪い? 

 これまでのモデルでは最も赤い TP-AGB 星でも J-K = 1.3 が最高であった。 ではなぜ炭素星モデルに赤い尾が出来ないのか? Marigo, Girardi 2001 計算 では、炭素星が観測と合う光度で出現するように、第3ドレッジアップを較正 した。したがって、問題は
(1)Teff - (J-K) 関係が不適当。
(2)炭素星の半径と有効温度のモデル化が悪い。Teff が数百度狂っている。

図2.Marigo, Girardi 2002 の等時線。TP-AGB モデルは κfix を用いて計算した。Z = 0.008. 点線=炭素星。等時線間隔は Δlog t = 0.1. 赤い尾は見当たらない。


 2.炭素星モデル 

 2.1.我々の処方箋: 新旧 

 κfix  

 Alexander, Ferguson 1994 の太陽組成比に濃淡をつけた元素組成に対する オパシティテーブルが T < 10,000 K で利用可能。Marigo et al 1999 が典型。

 κvar 

 Marigo 2002 で導入された。与えられた元素組成に対してオパシティを新しく 計算する。

 2.2.炭素星の他モデル 

低質量星 

 M < 2 Mo ではドレッジアップの効率が悪い=炭素星ミステリー。 まだ完全には解決していない。

 オパシティ 

 C/O が 1 を越すとオパシティが急増する。これが突然進化経路が 低温化する原因である。


 3.LMC 方向の K - (J-K) 図 

 3.1.選択領域 

 我々が使用するのは 2MASS 第2次カタログの 10σ 検出データ、 J < 16.3, H < 15.3, Ks < 14.7 の星である。図3を見ると 分かるようにそれらは LMC 全体をカバーしている。ただし、二本の帯が 抜けるが。前景の銀河系天体と後景銀河の比率を下げるため、 我々は LMC 光学中心 α = 5h24m, δ = -69°44' から 4° 以内の星を選んだ。空白帯を考えると、この領域の面積は 48.2 deg2 である。

 3.2.シミュレーション 

 シミュレーション法 

 仮定した星形成史(SFR), 年齢メタル関係(AMR), 初期質量関数(IMF) に従って、 ランダムに星が選ばれる。L, Teff, g などの星の性質は恒星進化経路ライブラリー から内挿して決める。TP-AGB 進化は静謐期の光度で基本進化経路を計算し、次の 二つの要素を付加した。


 TP-AGB 進化で考慮したこと 

(1)熱パルス。
Boothroid, Sackman 1988a から熱パルス期間中の光度変化を得て、熱パルス初期の短期光度上昇と その後の低光度期を再現した。有効温度は事前の外層積分グリッドの計算 から内挿で決める。このようにして、 HR 図上での TP-AGB 星の固有分散 を再現した。


図3.Ks < 12.5 2MASS 星の分布。丸=解析エリア。
低質量星では熱パルスの結果、 TP-AGB 期間の 30 % の間、 log L で -0.4 又は 1 等の光度低下が起こる。

(2)脈動
2MASS は一回観測なので変光は等級分布に新たな分散を加える。ただし、この 効果は今回のシミュレーションには取り込まなかった。変光の範囲がよく 分かっていないからである。しかし、 TP-AGB の分布が十分の数等ぼやける ことは念頭に置いておくべきである。
 

輻射補正 

 星のモデルが決まると、 C/O < 1 星については Girardi et al 2002 による輻射補正を、C/O > 1 星については 4.1.節に述べる経験式を適用 して測光値を決める。JHK システムは Bessell, Brett 1988 を採用した。 2MASS, DENIS は Ks フィルターを使っているが、Cutri et al 2002 が示したようにその差は J-K で 0.1 mag 以下である。

 測光エラー 

 測光エラーはモンテカルロシミュレーションで調べ、 Ks ≤ 13 では σ < 0.03 であった。

 種族合成プログラム 

 最後に種族合成プログラムが LMC と前景銀河系の星を造る。図5に κ で計算した結果を 示す。 κ との比較については以下で 論じる。


図4.LMC 内側 4° の 2MASS データ。赤い尾が J-K = 2 まで伸びる。





図5.前景銀河系と LMC のモデル色等級図。左:銀河系。緑=円盤、黒=ハロー。 右:LMC.黒= TP-AGB 以前。シアン= O-リッチ TP-AGB、 赤= C-リッチ TP-AGB. このモデルは κ で計算したので、 C-星が垂直に立っていることに注意。

 3.2.1.前景銀河系 

 円盤 

 銀河系は Groenewegen et al 2002 と Girardi et al in preparation から採った。円盤は二重指数関数型モデルで、スケール長 2.8 kpc, スケール 高 H は星年齢と共に以下のように変化する。
     H = z0(1 + t/t0)α
z0 = 95 pc, t0 = 0.5 Gyr, α = 1.66 を 採用した。このパラメタ―は Ng et al 1997 の円盤に合致する。 この H は年齢と共にスケール高が非常に大きくなり、古い厚い円盤が含まれる ことになる。モデル計算には、t(星の年齢) = 0 - 12 Gyr の間 SFR 一定、 Rocha-Pinto et al. 2000 の観測的年齢・メタル関係に各年齢で [Fe/H] に 0.2dex の分散を加え、IMF には Chabriel 2001 のログノーマル型を使った。

 ハロー 

 ハローには軸比 q = 0.65, コア半径 2.8 kpc の回転楕円体(Gilmore 1984) を 用いた。ハローの星は t = 12 - 13 Gyr とし、メタル量は平均 [He/H] = -1.6 で σ = 1.0 dex のガウス分布と仮定した。

 可視で決めたパラメタ―を近赤外に使用 

 これ等のパラメタ―セットは Groenewegen et al 2002 が DMS, ESO Imaging Survey の可視域多波長サーベイと突き合わせて得たものである。面白いこと に今回解析するデータは近赤外である。比較のためにモデルの中心は (l, b) = (280.46, -32.89) とした。その結果、渦状腕、バルジの影響はない。モデルの 面白いところは色等級図でどの成分がどこにいるかが分かることである。

縦縞の起源 

 前景銀河系の色等級図を図5左に示す。ここには、3本の緑=円盤星縦帯が 見える。位置は J-K = 0.35, 0.65, 0.9 である。それらが何に起因するかは図5 左のカラー・絶対等級図を見るとわかる。左から、古い円盤 M = .9 Mo のターン オフ、暗い RGB と RC 星、そして右端は M ≤ 0.6 Mo の低質量矮星で ある。

 現れない星たち 

 注意したいのは t < 4 Gyr (M > 1.3 Mo) の円盤星はこの図ではっきり と現れないことである。それらはスケール高が小さく、従って低銀緯で 明るい (K ≤ 10 mag)所で見える天体なのである。
黒点=ハロー星の寄与も図5左では小さい。それらは図5では K > 13 の 暗い星をいくつか説明するに過ぎない。
( 図5左中央帯のほとんどは 緑点。)

図6.銀河系モデルに使った円盤=緑とハロー=黒の色・絶対等級図。



前景星は J-K < 1.0 

 最後になるが、重要なことは前景銀河系星は J-K = 1.0 より赤く ならないということだ。したがって、 LMC AGB 星が占める領域に 銀河系星が混入する恐れは少ない。


 3.2.2.LMC 種族 

 最初に考えられた LMC 種族 

 LMC の非常に単純なモデルは以下の通りであった。
(1)距離 52.3 kpc
(2)SFR は t = 0 - 15 Gyr で一定
(3)Z = 0.008 = 一定


 LMC 色等級図 

 図5右がそのシミュレーションの結果である。J-K < 0.5 には、年齢の若い、 中間の主系列星、 J-K = 0.8 の中間年齢 He 中心核燃焼期の星、 J-K = 1 で  K > 12 の中間年齢と古い年齢の明るい RGB 星の系列、RGB 先端の左側 から同じ傾きで別れる弱い系列の中間年齢早期 AGB 星が見える。
( He 中心核燃焼星は光度一定で ないのはどうしてか? HB, RC 星のことではないのか?)
AGB 星の系列 

 O-リッチ TP-AGB 星は図5右ではシアンの点で示され、二本のはっきりした 系列を作る。初めの系列は中間年齢星から成り、早期 AGB 星の噴煙をさらに 明るい方向に伸ばしたものである。第2系列は RGB 先端の上に直接乗る低質量 星の系列である。最後に炭素星(赤い点)は第2系列の上に乗っている。

 銀河系+LMC 

 図5の右と左を組み合わせると、図4に見られた「指」をうまく説明できる ことがわかった。ただ、炭素星の位置のみは間違っている。





図7.κfix での TP-AGB モデルを使った色等級図。 緑=銀河系円盤。黒=ハロー。青= LMC TP-AGB 前の巨星。シアン=O-リッチ TP-AGB. 赤= C-リッチ TP-AGB. 炭素星が縦帯になっていることに注意。 色々な Teff - (J-K) 関係を試した。枠(a): M-型星(Flux et al 1994)と同じ。 枠(b): Bergeat et al 2001 の関係。 枠(c): C/O により変化するフィット式。 枠(d): 枠(c) と同じだが C/O の最大値 2.0 の場合のみ。

 4.赤い尾を追って 

 4.1.κfix で、色々なカラー・Teff 関係を評価する 

 図7には、κfix で、色々なカラー・Teff 関係を調べた 結果を示す。第1ステップとして, 4.1.1.節では M-型星(Flux et al. 1994) と炭素星(Bergeat et al 2001) とのカラー・Teff 関係 の違いを調べる。 差が 生じるのは (TiO, VO, H2O) と (C2, CN, SiC) との ラインブランケッティングの差のためである。次に 4.1.2.節では 炭素星内部での組成比による変化を見る。

 4.1.1. 炭素星に適切なカラー・Teff 関係 

 M-型星の Teff-(J-K) は赤い尾を生まない。 

 図7a では、κfix でモデル計算を行い、Teff-(J-K) 関係 には Flux et al 1994 の M 型巨星のものを使用した結果を示す。この図 では観測とモデルとの差は明らかである。炭素星は O−リッチ星の上に続くだけ で赤い尾は現れない。

 炭素星の Teff-(J-K) でも赤い尾を生まない

 Bergeat et al 2001 は銀河系炭素星の Teff-(J-K) を調べ、Bessell et al 1981 と同じ結果を得た。この関係を使った結果が図7b である。M-型星よりも 青い方にずれてしまった。



図8.左:銀河系炭素星の (J-K) - Teff 及び (J-K) - C/O 関係。黒四角= Bergeat et al 2001 に よる観測データ。上図の直線は、式(1)による予想。右:式1のフィットとデータとの残差。 データは式(1)の 0.1 以内に収まることが判る。

 4.1.2.分子ブランケティングだけ考慮しても赤い尾は生まれない 

 C2 と CN 量が赤さの原因 

 Cohen et al 1981 や Loidl et al 2001 が示したように分子ブランケッティング は M-型星と C-型星の区別の原因であり、また炭素星の赤外カラーが赤くなる 原因ともなっている。Cohen et al 1981 は、C2 バンド強度で 定められる炭素星のカーボンクラスが C,2 から C,5 へ上がると (J-K) カラー が増加することを示した。彼らの大気モデル計算も、同じ有効温度に対し C2 と CN 量を増やすと JHK カラーが赤くなることを示した。

 C/O が J-K に影響する 

 そこで、Bergeat et al 2001 の観測的 Teff - (J-K) 関係に C/O 比の効果を 取り入れることを試みた。図8には Teff - (J-K) 関係が C/O = 1.1 と 3 とで どう変化するかを示した。C/O は Lambert et al 1986 から採った。図のデータは 次の式で表される。

     (J-K) = 17.32 - 4.56 logTef + 0.052 C/O      (1)


(図8の点をよく見ると [Teff, C/O,J-K] のセットが分かるが、図の点にはその区別が書込まれていない。それで 誤差評価もはっきりしない。C/O 効果は小さいが本当に効くのか?)


 C/O 効果で赤くする 

 実際、 松浦たち(2002) は LMC 炭素星では銀河系炭素星よりも分子バンドが強く 出ていることを指摘した。これは、図9に示す我々の TP-AGB モデルの結果を 観測的に支持するものである。この図はまた、LMC 種族を再現するには式1で C/O = 4 までの適用が必要なことを示している。図7c は式1の C/O 比が上がると 同じ Teff でも (J-K) が赤くなるという効果を取り入れたシミュレーションの結果 である。その結果 J-K = 1.7 にまで達することができた。しかし、それでも炭素星 は大部分が O-リッチ巨星と混じり合い、赤い尾は見えてこない。

 C/O < 2 サンプルは混在になる 

 もし我々がシミュレーションサンプルを C/O < 2 に限れば、図7d の ようになる。ここでは、低 C/O 炭素星が O-リッチ AGB 星の領域に多数入り 込んでいる。ところが、観測ではそのような混合は存在しない。



図9.横軸=TP-AGB 開始時の星質量。縦軸= TP-AGB 終了時の C/O 値。 モデルは κvar 使用。モデルパラメタ―は、 λ = 0.50, log Tbdred = 6.4 である。 白菱形: Z = 0.019(MW)。黒菱形:Z= 0.008(LMC)。


 Teff-(J-K) 関係では解決しない 

 このように、Teff-(J-K) 関係をどういじっても赤い尾を再現することは 出来なかった。


 4.2.色々な TP-AGB 経路を評価する 

  κvar で Teff を下げるしかない 

 図8右の残差から見ると、式1は炭素星の (J-K) カラーを正しく表現して いるようである。すると我々に残された途は、赤い尾を低い Teff によって 作ることのみである。この要求が Marigo 2002 の κvar TP-AGB モデルで満たされる。

 κvar モデル 

 図10には Z = 0.008 等時線を Marigo 2002 のモデルで描いた。 (J-K) への変換は式1で行った。 様々なドレッジアップパラメタ―とメタル量に 対する等時線を比べる作業は将来の論文で行う。 面白いのは、 Teff が低くなり過ぎて最初から O-リッチ星の Teff-(J-K) 関係の適用範囲外になってしまうことである。

 4.2.1.変動オパシティの効果 

変動オパシティ TP-AGB モデル 

 図11に変動オパシティにより TP-AGB モデルがどう変わるかを示した。 モデルは様々なパラメタ―を変えて計算した。それらは、
Tbdred = 第3ドレッジアップ開始温度
超星風の開始(基本モードか第一倍音モードか)
などだが、いずれでも炭素星系列は O-リッチ星系列から離れる。 赤い (J-K) になるのは主に Teff が低下するからである。進化の間に C/O 比が 増加することによる効果はそれほど大きくはない。 C/O はモデル計算では最大 4 まで増加するが、式1で考えるとそれによる (J-K) の像かは 0.2 である。

 前のパラメタ―での計算結果 

 図11a では Marigo et al 1999 が採用したパラメタ―、Tb dred = 6.4, λ = 0.5 で計算した。観測と良い一致を 示すが、二つ欠陥がある。
1.赤い尾出現の光度が、 K = 11.6, J-K = 1.2 で低過ぎる。観測では それより 0.6 等明るい。これはドレッジアップパラメタ―の調整で解決可能。

図10.色々な変動オパシティを用いた Z = 0.008 モデル TP-AGB 等時線。 ドレッジアップパラメタ―は図2と同じ。点線=炭素星。(J-K) への 変換には式(1)を使った。


ドレッジアップパラメタ―をいじる 

 例えば、図11b では Tbdred = 6.45 とした。こう すると、第3ドレッジアップの開始を遅らせるこうかがあり、開始時コアマスが 大きくなり、炭素星出現光度が高くなるのである。その結果赤い尾は K = 11、 J-K = 1.2 で始まるようになった。注意しておくがこれらの計算は基準モードで 行われた。



図11. κvar 使用モデルによる HR 図。炭素星が赤色巨星枝 から赤い方へ分離することに注意。質量放出は Vassiliadis, Wood 1993 から採った。つまり、 AGB-星が基本振動か第1倍音振動かにあると仮定。 枠(a): log Tbdred = 6.4, 基本モード。 枠(b): log Tbdred = 6.45, 基本モード。 枠(c): log Tbdred = 6.4, 第1倍音モード。 枠(d): log Tbdred = 6.45, 第1倍音モード。

 4.2.2.第1倍音振動で赤い尾を作る 

 もっと赤くしたい 

 第2の問題は、基準モードでは J-K = 1.8 までは行くが、 J-K = 2.0 には 達しないことである。その解法に二つある。

a. ダストシェルで赤化を起こす。実際 LMC 炭素星の中には J-K = 6 まで行く 星もある。問題は、これらの「自己赤化」が (J-K)o = 1.8 の星で起きて (J-K) = 2.0 にまでするのかということである。これはもっと精密なモデルが 必要であろう。

b. 第2の解法は、脈動が第1倍音モードで起きていると考えることである。 そうすると J-K を 0.2 赤くすることができる。図11の下段にそれが示されて いる。第1倍音では与えられた L と Teff に対して短い周期を持つ。その結果、 観測的に得られた質量放出率と周期との関係を用いると、P0/ P1 = 2.2、超星風の開始が遅れ、AGB 進化が延びる。この効果を Vassiliadis, Wood 1993 の定式 dM/dt = F(P1) を進化の計算に 入れた結果、炭素星モデルが少し高い光度と低い Teff, そしてより長い寿命へと 導くことを確認した。

 最終調整 

 図11c では赤い尾が J-K = 2.0 にまで達している。しかし、この図では まだ光度が低すぎる。このモデルは、log Tbdred = 6.4 だったので、log Tbdred = 6.45 に上げた結果が図11d である。
 O-リッチ星が明るくなる不都合 

 この図を観測結果の図4と較べると、図11d は観測を最もよく再現している と分かる。一方で、第1倍音モードを超星風開始を遅らせるために組み込んだので 古い O-リッチ星系列には望ましくない結果を引き起こすこととなった。それらの 星は、図11c では K = 10.4, 図11d では K = 10.0 という高光度まで達する ようになり、観測値 K = 11.2 とは合わない。

脈動モードは未定 

 しかし、現時点では長周期変光星の脈動モードが何であるかの観測的証拠は まだ確かでない。この問題には深入りしない。

 単純なテスト 

 理論の観点から非常に単純なテストを行った。炭素星の赤い尾は第1倍音で 上手く再現できるが、O-リッチ巨星枝は上手く行かないことを考え、我々は 基本振動と倍音振動が混ざった集合を想定する。それは、

(1)M < 1.3 Mo と M > 3 Mo は基準モード。炭素星にならない。

(2)残りの星は 50 % 基準モード、50 % 倍音モード。

基準モードと倍音モードの間を1つの星が切り替えるのが難しいとしても、各星 がどちらかのモードに従うと言うのでもよい。図12はそのような仮定で行った シミュレーションの結果で、全ての観測結果を再現した。



図12.左:Marigo 2002 の可動オパシティと log Tbdred = 6.45 とし、さらに、炭素星に成る星の 半分は基準モード、半分は第一倍音と仮定したシミュレーション。 右: 2MASS データ。比較して、炭素星(赤)の赤い尾と O-リッチ星(シアン)の 先端がよく再現されていることに注意。

 5.結論 

 1.スケール太陽組成はダメ 

 赤い尾はスケール太陽組成のモデルでは作れない。

 2.Teff - (J-K) 関係では直せない 

 この欠陥は、炭素星 Teff - (J-K) 関係が悪いためではない。

 3.可動オパシティなら赤い尾が作れる 

 進化コードに C/O 比に応じてオパシティを再計算する改良を加えた結果、 C/O > 1 になると、Teff が急低下することが判った。
4.第3ドレッジアップ温度 

 log Tbdred = 6.45 は以前 Marigo et al 1999 が得た 6.40 より少し高い。

 5.

 赤い尾の最高カラー J-K = 2 と O-リッチ AGB 先端光度の双方を満足させるには、 O-リッチ星は基本モード、炭素星は半分が基本モード、半分は第1倍音と考える のがよい。