VLT Spectra of Carbon Stars in the LMC and Their Metallicity Dependence


Matsuura, Zijlstra, van Loon, Yamamura, Markwick, Woods, Waters
2002 ApJ 580, L133 - L136




 アブストラクト

 LMC 炭素星 6 個の L-バンドスペクトルを示す。3.1 μm に HCN, C2 H2, 3.8 μm C2H2 の吸収帯がある。それらの 等値巾は系統的に太陽近傍の炭素星より大きい。二つの炭素星には 3.5 μm に HCN 吸収帯があった。EW(3.8 μm)/EW(3.1 μm) は LMC では太陽近傍星より 大きい。これは n(C2H2)/n(HCN) が高いことを示唆する。  LMC 炭素星の吸収強度が強いことは、炭素星に関してもスケール太陽近傍炭素星が 成立して、分子組成も低いという仮定とは矛盾する。銀河系炭素星では n(C)/n(O) = 1.05 - 1.1 であるが、我々の化学モデルによれば n(C)/n(O) > 1.2 である。高い C/O 比は n(C2H2)/n(HCN) が高いこと も説明する。


 2.観測 

 サンプル 

 LMC の炭素星 6 個の L-バンドスペクトルが VLT Infrared Spectrometer And Array Camera (ISAAC) で 2001 12月に撮られた。サンプルは Tram et al 1999 と van Loon, Zijstra, Groenewegen 1999 から選んだ。

 分光器 

 ISAAC の分解能は λ/Δλ = 600 で、大気吸収補正用に ヒッパルコスカタログから選んだ B-型矮星と巨星を各対象星の観測後に撮った。

 分子吸収バンド 

 図1にスペクトルの例を示す。以下のバンドが見える。
1.3.1 μm に C2H2 と HCN
2.3.5 μm に HCN
3.3.8 μm に 多分 C2H2



図1.LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 のスペクトル。2.9, 3.3 μm 付近に 大気吸収線が残っている。
LMC 炭素星と銀河系炭素星の比較 

 図2には、LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 を銀河系炭素星 V Cyg と比較した。 3.1, 3.5, 3.8 μm のどのバンドでも LMC 炭素星の吸収帯の方が強い。

 3.8 μm の同定 

 3.8 μm の同定は確定していない。Goebel et al 1981 は KAO の V CrB スペクトルで C2H2 とした。Hron et al 1998 も ISO R Scl で同じく C2H2 とした。しかし、波長が少し 異なり、分子種の差か励起温度が原因か分からない・




図2.LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 と銀河系炭素星 V Cyg の比較。両者の K - L カラーは同じくらいである。3.1, 3.8 μm 分子吸収線の深さに 差がある。分解能が違うので、 IRAS 04496-6958 では小さな特徴も見える。


 3.等値巾 


図3.3.1 μm 等値巾と K-L の関係。実線= LMC 炭素星。 破線=銀河系炭素星。



 等値巾の決定 

 図3に 3.1 μm 等値巾と K-L の関係を示す。表1には、等値巾決定に 使用した波長域を、表2にはその結果が載せてある。銀河系炭素星の 赤外スペクトルは ISO/SWS を用いたが、1 < K-L < 3 の炭素星 は欠けているので、野口その他 1981 で補った。

 3.8 μm バンド強度 

 表2を見ると、 LMC 炭素星の 3.8 μm バンド強度が銀河系炭素星より 強いことが判る。このバンドが C2H2 だとすると、LMC 炭素星では C2H2 のコラム密度が高いことが想定される。 Aoki et al 1998 の WZ Cas 解析によると、3.1 μm バンドは主に HCN で C2H2 の寄与は 10 % 程度である。LMC 星における 強い 3.8 μm バンドは LMC 炭素星では分子組成が異なることを示唆する。 それは図4からも分かる。この図では 3.8 μm 等値巾と 3.1 μm 等値巾との 関係を示した。LMC では 3.1 μm において C2H2 の寄与 が系統的に大きいことが予想されるのである。


表1.等値巾決定のための波長区間

図4.3.8 μm 等値巾と 3.1 μm 等値巾との関係。 3.8 μm 非検出は 矢印で示す。



本当に C2H2 ?

 3.5 μm は HCN だが、この値からは LMC で 3.1 μm が強い原因は C2H2 のみではなく、HCN が寄与している可能性もある。

 ダスト放射の影響 

 等値巾は K-L と共に落ちていく。これはおそらくダスト輻射により吸収帯が 埋め立てられるからであろう。K-L > 1 の星ではこのカラーはダスト超過の目安 であり、有効温度の指標とはなりにくい。


表2.各バンドの等値巾


 4.化学平衡モデル 

 化学平衡 

 Markwick 2000 により、化学平衡を解いた。図5には分圧の比として 分子化学組成を表した。[Z/H] = 0 は太陽、-0.3 は LMC を表す。 同じ Teff と C/O 比の場合、予想通り LMC は太陽の半分になることが わかる。したがって、 LMC では C/O が太陽よりも系統的に高い必要がある。

  C/O 比 

 銀河系炭素星では C/O = 1.05 - 1.1 であることが知られている。我々の 赤外吸収帯観測は C/O > 1.2 を要求する。また、 PN の観測からも LMC では C/O が高いことが言われている。

図5.化学平衡計算に基づいた、C/O による C2H2 と HCN 存在比の変化。