LMC 炭素星 6 個の L-バンドスペクトルを示す。3.1 μm に HCN, C2 H2, 3.8 μm C2H2 の吸収帯がある。それらの 等値巾は系統的に太陽近傍の炭素星より大きい。二つの炭素星には 3.5 μm に HCN 吸収帯があった。EW(3.8 μm)/EW(3.1 μm) は LMC では太陽近傍星より 大きい。これは n(C2H2)/n(HCN) が高いことを示唆する。 | LMC 炭素星の吸収強度が強いことは、炭素星に関してもスケール太陽近傍炭素星が 成立して、分子組成も低いという仮定とは矛盾する。銀河系炭素星では n(C)/n(O) = 1.05 - 1.1 であるが、我々の化学モデルによれば n(C)/n(O) > 1.2 である。高い C/O 比は n(C2H2)/n(HCN) が高いこと も説明する。 |
サンプル LMC の炭素星 6 個の L-バンドスペクトルが VLT Infrared Spectrometer And Array Camera (ISAAC) で 2001 12月に撮られた。サンプルは Tram et al 1999 と van Loon, Zijstra, Groenewegen 1999 から選んだ。 分光器 ISAAC の分解能は λ/Δλ = 600 で、大気吸収補正用に ヒッパルコスカタログから選んだ B-型矮星と巨星を各対象星の観測後に撮った。 分子吸収バンド 図1にスペクトルの例を示す。以下のバンドが見える。 1.3.1 μm に C2H2 と HCN 2.3.5 μm に HCN 3.3.8 μm に 多分 C2H2 ![]() 図1.LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 のスペクトル。2.9, 3.3 μm 付近に 大気吸収線が残っている。 |
LMC 炭素星と銀河系炭素星の比較 図2には、LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 を銀河系炭素星 V Cyg と比較した。 3.1, 3.5, 3.8 μm のどのバンドでも LMC 炭素星の吸収帯の方が強い。 3.8 μm の同定 3.8 μm の同定は確定していない。Goebel et al 1981 は KAO の V CrB スペクトルで C2H2 とした。Hron et al 1998 も ISO R Scl で同じく C2H2 とした。しかし、波長が少し 異なり、分子種の差か励起温度が原因か分からない・ ![]() 図2.LMC 炭素星 IRAS 04496-6958 と銀河系炭素星 V Cyg の比較。両者の K - L カラーは同じくらいである。3.1, 3.8 μm 分子吸収線の深さに 差がある。分解能が違うので、 IRAS 04496-6958 では小さな特徴も見える。 |
![]() 図3.3.1 μm 等値巾と K-L の関係。実線= LMC 炭素星。 破線=銀河系炭素星。 等値巾の決定 図3に 3.1 μm 等値巾と K-L の関係を示す。表1には、等値巾決定に 使用した波長域を、表2にはその結果が載せてある。銀河系炭素星の 赤外スペクトルは ISO/SWS を用いたが、1 < K-L < 3 の炭素星 は欠けているので、野口その他 1981 で補った。 3.8 μm バンド強度 表2を見ると、 LMC 炭素星の 3.8 μm バンド強度が銀河系炭素星より 強いことが判る。このバンドが C2H2 だとすると、LMC 炭素星では C2H2 のコラム密度が高いことが想定される。 Aoki et al 1998 の WZ Cas 解析によると、3.1 μm バンドは主に HCN で C2H2 の寄与は 10 % 程度である。LMC 星における 強い 3.8 μm バンドは LMC 炭素星では分子組成が異なることを示唆する。 それは図4からも分かる。この図では 3.8 μm 等値巾と 3.1 μm 等値巾との 関係を示した。LMC では 3.1 μm において C2H2 の寄与 が系統的に大きいことが予想されるのである。 ![]() 表1.等値巾決定のための波長区間 |
![]() 図4.3.8 μm 等値巾と 3.1 μm 等値巾との関係。 3.8 μm 非検出は 矢印で示す。 本当に C2H2 ? 3.5 μm は HCN だが、この値からは LMC で 3.1 μm が強い原因は C2H2 のみではなく、HCN が寄与している可能性もある。 ダスト放射の影響 等値巾は K-L と共に落ちていく。これはおそらくダスト輻射により吸収帯が 埋め立てられるからであろう。K-L > 1 の星ではこのカラーはダスト超過の目安 であり、有効温度の指標とはなりにくい。 ![]() 表2.各バンドの等値巾 |
化学平衡 Markwick 2000 により、化学平衡を解いた。図5には分圧の比として 分子化学組成を表した。[Z/H] = 0 は太陽、-0.3 は LMC を表す。 同じ Teff と C/O 比の場合、予想通り LMC は太陽の半分になることが わかる。したがって、 LMC では C/O が太陽よりも系統的に高い必要がある。 C/O 比 銀河系炭素星では C/O = 1.05 - 1.1 であることが知られている。我々の 赤外吸収帯観測は C/O > 1.2 を要求する。また、 PN の観測からも LMC では C/O が高いことが言われている。 |
![]() 図5.化学平衡計算に基づいた、C/O による C2H2 と HCN 存在比の変化。 |