Long Period Variables in 47 Tuv: Direct Evidence for Lost Mass


Lebzelter, Wood
2005 AA 441, 1117 - 1127




 アブストラクト 

 47 Tuc の中に 22 個の新しい変光赤色巨星を発見し、また既知の変光星8個 の周期を定めた。V-Ic ≥ 1.8 の赤色巨星は δV の検出限界で全て変光 星であった。このカラー限界値は log L/Lo = 3.15 に相当し、それは TRGB の 光度 log L/Lo = 3.35 よりかなり下である。 線形非断熱モデルは巨星枝上でのマスロスなしの場合、観測される低振幅脈動星 の PL 関係を再現できない。マスロスを入れると再現可能であるが、赤色巨星枝 とAGBで 0.3 Mo のマスロスが必要である。  大振幅の基本振動するミラ型星に対して、線形脈動周期は観測と合わない。 この問題への回答は、このように小質量の脈動星に対しては非線形モデルの 与える周期は線形モデルよりかなり短いというものである。非線形効果が 脈動の間に構造の再構築がその原因である。理論と観測の双方が RGB を上がり、 AGB 下部に進化した星は初め倍音振動をして、次に基本モードに移ることを示す。


 1.イントロダクション 

 球状星団に変光星少ない 

 脈動星が6本の系列を成すことは良く知られているが、それらはフィールド星 でメタル量、質量、年齢は分からない。球状星団はそれらが既知の星の集団である。 しかし、Clement et al 2001 によると、僅かな数の脈動赤色巨星しか知られて いない。
 47 Tuc の変光星探査 

 その中で 47 Tuc は 14 個と最大の変光星を有している。残念なことに それらの周期は良く定まっていなかった。そこで、Lebzelter et al 2004 は 銀河系球状星団の変光星探査観測を開始した。47 Tuc は変光星の数が多く、 最初の天体として適当である。47 Tuc は (m-M)o = 13.5±0.08(Gratton et al 2003), [Fe/H] = -0.66 (Carretta, Gratton 1997), E(B-V) = 0.024, t = 11.2±1.1 Gyr (Gratton et al 2003), Mto = 0.86 - 0.9 Mo である。


 2.観測 

 2.1.MSO データ 

 マウント・ストロムロ 50 インチ望遠鏡+早期MACHO用2バンドカメラは 0.5 deg2 の視野を持ち、 一度の露出で星団を撮れる。ピクセルサイズ は 0.62" である。フィルターは標準的でないが、青バンドの平均波長は V バンドに近い。キー観測を 2002 年 8 月に開始し、 1- 2 /週の頻度で行った。 残念なことに 5 か月後に山火事で観測が停止した。全体では 15 点の観測が 得られた。

 2.2. CTIO データ 

 2003 8 月 - 2004 1 月の間 CTIO 1.3 m 望遠鏡 + ANDICAM による観測を継 続した。視野は 6'x6' でピクセルサイズ 0.37" である。視野が小さいため、 モザイクを行っても中心部分しか撮れなかった。キー観測を V, Ic で 1 /週で 16 点行った。

 2.3. その他の データ 

 2002 年 6 月 - 9 月に WFI/ESO 2.2 m 望遠鏡で V, Ic の観測を 6 回行った。 Kiss その他からは 2003 年 7 - 8 月の サイディング・スプリング天文台 40 インチ望遠鏡による観測データを提供された。





表1.47 Tuc の長周期変光星

 3.データ整約 

 4.変光星 

 表1=リスト 

  Clement et al (2001) の命名法を使うと、V1 - V8, V11, V13, V18, V21 の周期は既知で、その変光 曲線は Lebzelter, Wood, Hinkle, Joyce, Fekel (2005) にある。それらの周期は表1の第7列にある。それ以外に V15, V16, V17, V19, V20, V22, V23, V25, V27, V28, A19 は周期不明であるが変光が確認されていた。 Fox 1982 は V15, V16, V17, V25, V28 の周期を与えた。
 表1=リスト 

 表1にはこの研究で検出した変光星を載せた。22個は最初の検出である。 更に既知変光星の6個に初めてその周期を与えた。それらの周期は第6列に 載せた。表1には観測視野にある既知変光星は載せていない。新しい変光星には LWxx という名前を付けた。第4,5列には 2MASS J, K 等級を載せた。 第2,3列には 2MASS 座標を載せた。 





図1.47 Tuc 変光星。ただし、 Lebzelter, Wood, Hinkle, Joyce, Fekel (2005) 記載済みは除く。縦・横軸のスケールは星毎に異なる。 A19, LW5, LW7, LW13, LW14 では、見易さのため時間軸に切れ目が入っている。




図2.幾つかの短周期変光星の位相表示変光曲線。

 長い第2周期 

 図1は変光曲線を示す。周期の信頼度が高く、長い第2周期がない星に対し ては、図2に位相変光曲線を示す。図1でフーリエフィットからのずれが大き いのは、サンプル星のセミレギュラー的な性質の表われである。非常に多くの 変光星が数百から数千日の長い第2周期を持つ。今回の観測期間が短かったため にそれらの周期を確定することは出来なかった。したがって、第2周期は表1 に載せていない。多くの星で第2周期と主周期の比は 10 を超える。

 V20, LW10, LW11, LW12, LW13 へのコメント 

 V20, LW10, LW11, LW12, LW13 へのフーリエフィットにはコメントが要る。 V20 と LW10 の周期は 220 - 230 d である。観測の途中が抜けているため、 周期の誤差は大きい。
図1、図2を見ると、これら二つの変光曲線にはコブが あるようだ。これは太陽近傍のミラの幾つかにも見られる特徴である。LW10 の フーリエ解析からは副周期がはっきり見えるが、V20 の方には見られない。 LW11 のフィットはあまり良くなく、周期精度は悪い。LW12 の場合、マウント・ ストロムロと CTIO とでは変光曲線の周期も振幅も変わっているので、それぞれ のデータを別々にフーリエフィットした。マウント・ストロムロデータは周期 61 d, CTIO データは周期 116 d を与えた。LW13 のフィットも悪い。そして、 フィットを描くと、二組のデータの間に位相差 20 d が見出される。最後に 2MASS は LW13 を伴星と区別していないことを述べておく。


 データの出どころ 

 図3には 47 Tuc の色等級図上に変光星をプロットした。 表1の変光星以外に、我々の変光基準以下だが文献中変光星とされた星と、 振幅は大きいが不規則性も大で周期が決められなかった星もマークした。 V5, V7, V11, V13, V18 では CTIO データがないので Fox 1982 の平均値 を使用した。V3 も CTIO データがないので Eggen 1975 の V, IK 変光曲線を用いた。V - IK から V - IC への変換には Bessell (1979) を用いた。V2 と LW10 はサチュレーション等のためデータ から外した。

 V19 について 

 V19 ははっきりしないが、その他の変光星は全て 47 Tuc 上部 AGB 星である。 V19 は 47 Tuc AGB の左上に位置、その振幅 0.8 mag はそのカラーからの期待 値より大きい。銀河系ハロー星かも知れない。

 赤い星が全て変光星 

 重要なことは V-Ic = 1.8 より赤い星が全て変光星である。

 Origlia et al 2002 の赤外超過 

 Origlia et al 2002 は赤外超過の大きな 47 Tuc の5星を挙げた。ただし彼 らの与えたファインディングチャートが不十分で同定が困難である。その内 彼らの No.1, 3, 5 は LW 10, 14, 19 である。No4 は多分 LW7 と思われる。 No 5 は LPV と同定されない。この星は彼らのリスト中赤外超過最小である。 不思議なのは No5 = V19 で、明るい変光星でも、長周期でもないのに、最も 大きな赤外超過を示している。同様な不思議は Ramdani, Jorissen 2001 の 赤外超過サーベイでは最大超過の V 18 に関してもある。

図3.47 Tuc の色等級図。白丸=変光星。アステリスク=Fox 1982 の星。 三角= Eggen 1975 の V3. 変光星のカラーと等級は平均値。


 5.K - log P 関係 

 等級の出所 

 図4に 47 Tuc の K-logP 関係を示す。Fox 1982, Menzies, Whitelock 1985, Frogel et al 1981 の変光観測データがある物は平均 K を使用した が、その他は 2MASS K を使用した。表1の値は AAO システムである。 一般に K 振幅は V 振幅の 20 % くらいなので、図のエラーバーは V 振幅の 20 % とした。

 系列 

 図4には Ita et al 2004 の系列を LMC 18.55 と 47 Tuc 13.50 の距離指数 の差で補正して示す。大振幅のミラは系列 C に落ちる。他の小振幅変光星 は系列 B+, B-, C' の真上ではないが近くに落ちる。 A+, A- 系列がないのは多分我々の選択基準が 0.1 mag 以上になっているからであろう。

 47 Tuc の PL 関係は LMC と合わない 

  47 Tuc 変光星が LMC 系列の真上に来ないのは明らかである。例えば、 K = 7 より明るい小振幅星は系列 B+ と C' の間にあるが、 K = 7 より暗い星は A- と B- の間、一部は C' の上に来る。 これはおそらく 47 Tuc と LMC 変光星の質量の差による。

 振動モードの切り替え 

 V 19 を除いて考えると、47 Tuc の星は系列 B と C' 上を K = 6.7 まで進化 して行き、そこで系列 C に跳ぶ。 Wood, MACHO group (1999) の結果を用いると、この切り替えは低次倍音モードから基本振動モードへの遷移 に対応する。

 RGB 星の可能性? 

 TRGB は K = 7.1 mag, log L/Lo = 3.355 である。変光星の約半分は TRGB より 明るく、したがって AGB 星である。TRGB より下の星は AGB でも RGB でも有り得る。

図4.47 Tuc LPV の K - log P 図。周期がある程度確実に決まったものだけ を載せた。実線= Ita et al 2004 による LPV 系列。


 6.脈動モデル 

 6.1.モデルの記述 

 混合距離の調整 

 脈動モデルを計算するため、 47 Tuc の次のパラメタ―を使用した:  (m-M)o = 13.5, E(B-V) = 0.024m Y = 0.27, Nto = 0.9 Mo. P の計算には正 しい半径を知る必要がある。47 Tuc の赤色巨星枝が観測と合うように、モデル の混合距離を調整した。図5にモデルをプロットした。 モデルの赤色巨星枝 を変光星が存在する領域を通っている。

 モデルの説明 

 モデルのパラメタ―を表2に示す。Fox, Wood 1982 の線形非断熱脈動モデル のオパシティを内部では Iglesias, Rogers 1993, 低温外層部では Alexander, Ferguson 1994 のものに置き換えて計算した。Mc は Boothroyd, Sackmann (1988b) の L-Mc 関係を使用した。RGB モデルの最も明るいものは 0.9 Mo, Z0.004 の Fogotto et al 1994 の TRGB 光度に対応する。

 レイマーズのマスロス則 

 マスロスのあるモデルは次の処方で作った:
マスロスがないと赤色巨星(AGB のことらしい)は L = 104 Lo まで伸びてしまう。 47 Tuc の AGB は 4000 Lo で止まっているので、この光度でマスロスが水素 外層を飛ばすと考える。マスロス有りの進化モデルにはレイマーズのマスロス則 Reimers 1975 を使用する。η = 0.33 のモデルを図5に示す。質量変化は表2 に示す。

図5.AGB 先端付近の HR 図。 (K, J-K) から (L, Teff) への変換には Houdashelt et al 2000 a, b を用いた。規準赤色巨星枝は Hesser et al 1987 から採った。脈動モデルは図中の説明のような性格の点をプロットした。  




表2.脈動モデル

 6.2.小振幅変光星 

 マスロスなしは小振幅で合わない 

 マスロスを入れないモデルは小振幅脈動星の観測周期、 log P < 2 の 倍音振動、を再現できないことは明らかである。モデルは線形なので、 小振幅系列は再現できるはずである。

 マスロスなしは失敗 

 マスロスなしのモデル系列を観測系列に合わせるには与えられた光度で巨星 枝を冷やせばよい。P ∝ R3/2 Fox,Wood 1982、L = 4πσ R2Teff4 なので、L = 一定では、P ∝ Teff-3 である。図6を見ると log P を 0.15 上げる必要があり、つまり Teff を 0.05 下げなくてはならない。図5を見ると分かるが、これはどんな log Teff の不確 定性をも超えた大きさである。従って、マスロスなしのモデルでは 47 Tuc の 脈動周期を与えることが出来ないと結論する。

 マスロス有りは倍音を再現 

 図6下枠を見ると、マスロスありのモデルは倍音振動を良く再現している。 P ∝ M-1/2 なので、マスロス有りのモデルはマスロスなし モデルより周期が長くなる。光度と共に質量が減るので、K-logP 関係の勾配 は緩くなる。その効果は特に第2倍音で著しい。

図6.K - log P 図。上:マスロスなしモデル。下:マスロスありモデル。基本 振動と第1、2、3倍音振動を示す。  


 6.3.大振幅変光星 

 大振幅ではマスロス線形モデルは合わない 

 小振幅変光星と逆に、大振幅変光星ではマスロスなしのモデルの方が却って 観測と合う。この矛盾は非線形効果で説明できるであろう。これらのモデルに 対する予備的計算の結果によれば、大振幅の振動の周期は線形周期よりも大幅 に短くなる。これは大振幅の場合、外層部の構造が変化するからである。

 図7=非線形モデル 

 図7にはマスロスモデルの中の一つを低振幅で揺さぶり、極限振幅にまで 発展させた結果を示す。このように、非線形基本振動モードは 47 Tuc ミラの 周期を説明できるかも知れない。

図7.M = 0.6567 Mo, L = 3162 Lo 星モデルの L, P, 幾つかの点の R の時間 変化。線形脈動周期は 240 d だが、非線形脈動は 67 年の緩和期間後 185 d に 落ち着く。  


 6.4.振動モードの光度による進化 

 振動モードの遷移 

 図6は巨星枝を上がるに連れての脈動進化のヒントを与える。脈動は K = 7.7 付近で、第1、第3倍音で開始され、 K = 6.9 に達すると基本モードへと遷移 するようである。

 成長率の進化 

 その後の進化は基本モードで行われ、マスロスが K = 6.2 でそれ以降の進化 を止める。それを図8に示す。ただし、対流層の支配的な星の理論的成長率は 信頼度が低く、ここに与えた図は定性的なものと看做されるべきである。一般的 な傾向として、低光度では第2倍音の成長率が最大である。中間光度で第1倍音、 さらに明るくなると基本モードが優先する。第2倍音は高光度でも成長率が高い が、非線形効果が働くと基本モードに圧倒される。

図8.マスロス有りの系列に対する 成長率 ωr (days-1) と光度 L の関係。 ωr = Re(ω), ここに発展表示 exp(ωt) 仮定。 上軸に MK を示す。  


 7.結論 

 変光開始光度は TRGB より下 

 47 Tuc 中に新しく 22 の変光星を発見し、その他既知の8変光星の周期を 定めた。 δV = 0.1 を変光基準とする時、V-Ic = 1.8 以上の赤色巨星 は全て変光する。このカラーは log L/Lo 3.15 に相当する。TRGB は log L/Lo = 3.35 なのでこの値はそれよりずっと低い。

 LMC PL 関係には乗らない 

 K-logP 図上で 47 Tuc 星は LMC の PL 関係線上には乗らない。PL 関係は 様々な質量の関係式の集合であることを暗示する。

 低振幅脈動系列の再現 

 線形非断熱モデルを使い、観測 PL 関係を再現しようと試みた。マスロスモデル では再現は出来なかった。 L = 4000 Lo で AGB 進化を止めるようにマスロス率を 調整したモデルは小振幅変光星の患側 PL 関係を再現した。これは、0.3 Mo の マスロスが実際に起きたことを示した最初の例である。
 線形モデルはミラでは失敗 

 線形モデルは、しかし、ミラの周期の再現には失敗した。解決策は、非線形 効果が働くと周期が大幅に短くなることにあるだろう。

 脈動の進化モデル 

 RGB 上部と AGB 下部の星は低次倍音振動を開始し、高光度に達すると基本 振動に跳ぶことが観測から分かった。 線形非断熱成長率の計算は大体この傾向を支持する。