The Milky Way Tomograohy with SDSS I. Stellar Number Density Distribution


Juric + 25
2008 ApJ 673, 864 - 914




 アブストラクト

SDSS による測光距離 
 SDSS |b| > 25 の 6500 deg2, 48 M 星の測光観測から、それ らの星、 100 pc - 20 kpc の距離を決めた。その星密度マップは、関数形を 仮定せずに、銀河構造を直接表す。

 薄い円盤と厚い円盤 
 データは、銀河系がオブレート形状のハロー、円盤成分、数個の密度超過から なることを示す。M-矮星を追跡子とした D < 2 kpc の密度分布は、連星率を 35 % として補正を加えた後、スケール高とスケール長が H1 = 300 pc, L = 2600 pc の薄い円盤と H2 = 900 pc, L = 3600 pc の厚い円盤の二つの重ね合わせで表される。太陽近傍での両者の密度 比は、ρo, thicko, thin = 12 % である。

 ハロー 
 主系列ターンオフ付近の星を用いて調べたハローの形はオブレート形状を支持 した。ベストフィット軸比は c/a = 0.64, ρ ∝ r-2.8 で あった。ρo, haloo, thin = 0.5 % である。
エラー 
 モンテカルロ計算から円盤スケール長エラーは 20 %, 局所密度は 10 % である。 エラーの原因は測光視差の較正と連星の割合の不確定性が大きい。

 新しい密度超過の発見 
 一角獣座星流のような既知の密度超過に加え、厚い円盤領域に二つの密度 超過を発見した。それらは銀河中心円筒座標系で (R, Z) = (6.5, 1.5) kpc, と (9.5, 0.6) kpc である。さらにおとめ座方向 1000 deg2、D = 6 - 20 kpc で大きな密度超過がある。l = 0 面に対して鏡映な位置と較べると、 おとめ座方向の密度は2倍である。これは近傍の潮汐流か銀河系に融合する途中 の矮小銀河なのではないか。この超過に関与する星の (u - g) カラー分布は 厚い円盤より低いメタル量を示唆し、ハローメタル量と合う。以上の密度超過 を除くと、残りのハロー密度分布は平滑である。それら以外には、円盤で 50 pc, ハローで 1 - 2 kpc を越える大きさの副構造はない。


 1.イントロダクション 

 2.データとその処理方法 

 2.1.SDSS の特性 

 2.2.測光視差法 


図1.測光視差関係の比較。 Henry et al 1999 は D < 10 pc の星から。 他の関係はヒアデス MS を用いている。後者は十分の数等違っていることに注意。 Laird et al 1988 は二つのメタル量に対して示した。dMv/d[Fe/H] = 1 mag dex -1 である。

SDSS の 98 % は主系列星 

 SDSS が検出した星の 98 % は主系列星である。そのカラー等級関係はかなり よく決まっている。多くの関係が、視差の分かっている星、星団の星などを使って 求められてきたが、図1から分かるように十分の数等の誤差がある。

図2. SDSS ugriz システムでの測光視差関係。二つの近似式は、 点線=明るい規格化、実線=暗い規格化である。下側の Siegel et al 2002 のラインは低メタル星。黒丸= M 13 の SDSS 観測。

 SDSS の測光視差 

 図2にはいくつかの異なるフィルターシステムの観測を SDSS システムで較べた。 それらを次の4次式で近似した。

  Mr = 4.0 + 11.86(r-i) - 10.7 (r-i)2 + 5.99(r-i)3 - 1.20(r-i)4  (1)

独立な測光視差として、視線速度と固有運動データに基づいた新しい式を論文3 で提案するが、それは

  Mr = 4.0 + 11.86(r-i) - 10.7 (r-i)2 + 5.99(r-i)3 - 1.20(r-i)4  (1)

式(1)を明るい規格化、(2)を暗い規格化と呼ぶ。これらの関係式は勾配 が急で、 青い (r-i) = 0.1 付近で ΔMr/Δ(r-i) = 10 である。 このため、測光には 0.001 - 0.02 という高い精度が要求される。

 2.2.1.メタル量と測光視差 

 δ 法 

 メタル量は測光視差の主なる系統誤差の原因である。Carney 1979 は δ 法を提案した。これは UV 超過を用いて測光視差をカラーとメタル量の二つから 決める方法である。この方法を図3のヒアデス星団に適用した結果は満足のいく ものであった。  δ 法を SDSS 測光システムに応用する可能性が Karaali et al 2005 に より研究されたが、 SDSS の u バンドは完全な AB システムではないため、また メタル量の決定は測光系の差に敏感なため上手く行かなかった。

 Ivezic et al 2006 のメタル量 

 Ivezic et al 2006 は SDSS (u-g) - (g-r) 関係のメタル量効果を調べた。 彼らは SDSS スペクトル (Allende Prieto et al 2006) から導いたメタル量を 用い、(g-r) - (u-g) 面上の星位置がメタル量に強く依存することを示した。 例えば、エクセスが決めやすい青い星 u-g < 1、大部分が F-型星、では
     [Fe/H] = 5.11(u-g) - 6.33
が分光観測から決めたメタル量を rms = 0.3 dex で再現する。この関係式はこの 最も好適なカラー域でも (u-g) カラーのエラー 0.1 mag が [Fe/H] のエラー  0.5 dex となり、絶対等級 0.5 mag のエラーを生み出すことを示す。

 ハローの深い探査 

 ハローを遠方まで探査したい。明るい青い星のメタル量を上の方法で決める 際に、 u-等級の精度が問題になる。例えば、u = 20.5 での u-g ランダムエラー は 0.1 mag になる。これは g = 19.5 より明るい星に相当する。従って u-g カラーによるメタル量の決定にはサンプルの限界等級を 2 等以上浅くする という代償を払わなけれなならない。したがって、この論文では、測光視差関係 にメタル量補正を加えずに用い、第5章での大規模ハロー密度超過の扱い でのみ u-g カラーとメタル量の関係の補正を行う。

 測光視差関係式の適用度 

 メタル量は銀河面からの光度の方が動径方向よりも強い勾配を示す。今回は 高銀緯を扱うので、距離と光度がほぼ対応する。用いる関係式の赤い方 は近傍の幾何学的に視差が決まった星のデータを用いている。 SDSS サンプル は M 矮星では 1 kpc までしか届かない。青い方は 10 kpc まで伸びるが、 こちらの測光視差関係は球状星団とハロー星の運動から決められている。従って 結果として使用する測光視差関係式は近傍の赤い高メタル矮星と遠方の低メタル 星に対し実質的に適用可能な形になっている。

図3.測光視差の比較。図2を主系列星の (r-i) = f(g-r) 関係式を使い、 描きなおした。 点線=明るい規格化。実線=暗い規格化。破線=Girardi et al. は Mg = 6 に対するモデルカラーの範囲を示す。一点鎖線=Siegel et al 2002 は低金属 量星。三角= 球状星団 Pal 5 ([Fe/H]=-1.4). 白丸= ヒアデス([Fe/H]=0.1). 四角=散開星団 M 48 ([fe/H]=-0.2)。 3つの黒丸=球状星団 M 13 ([Fe/H] =-1.5). ヒアデス系列を Laird et al 1988 の処方により M 13 のメタル量に 直した時の一致に注目。参考だが B-V = 0.95(g-r) + 0.2 式の精度は 0.05.


 2.2.2.実視連星を用いた測光視差のテスト 


図4a.間隔が広い連星 17,000 組の δ 中間値の分布。ここで、 (r-i)1 = 主星のカラー、(r-i)2 = 伴星のカラー。 δ = (Mr, 1 - Mr, 2) - (r1 - r1) = (絶対等級の差) - (見かけ等級の差)。 絶対等級の導出に明るい規格化式(2)を使用。

図4b.絶対等級の導出に暗い規格化式(1)を使用。 枠内は δ の分布。  


 2.2.3.巨星の混入 

 深い探査では巨星混入率は下がる 

 SDSS にも他のサーベイと同様、巨星混入の問題はある。しかし、探査が深い ので、混入率は低い。それくらい低フラックスになると、巨星距離は 100 kpc を越えてしまう。そのような遠方での星密度は低くなり、巨星の寄与率も 下がって行く。

 混入の実際の効果 

 それを定量的に示すのが図5である。混入が最も厳しいのは G-巨星で最大で  5 % に達する。図5下を見ると、 混入の影響は Z > 500 pc で密度を 一様に 4% ほど上げることである。この距離領域は明るい青い矮星により探査 されている。一方、低高度域は赤い矮星 M-矮星 により探られ、そこでは M 巨星 の混入は無視できる。

 高銀緯では 

 実際、我々が扱っているサンプルには M-矮星が数千万個あるが、M-巨星は 数千個しかない。

 2.2.4.分解できない連星 

 多重星を単一星と看做すと、距離を実際より近く見積もってしまう。その結果、 スケール長やスケール高を最大 35 % 小さく決めることになる。このバイアスは 多重星を構成する星の種類にはあまり依らないが、多重星の割合には依存する。 解析は全ての星を単一星と考えて行った。従って、距離スケールは下限値と 看做すのが妥当である。

 2.2.5.SDSS 主系列星の距離範囲 

 主系列星の測光視差の問題は RR Lyr 20 kpc, M 巨星 100 kpc に較べ、 近距離 までしか到達できないことである。しかし、その良さは圧倒的な数にある。 例えば、 SDSS で MS/RRLyr > 10,000 で MS/Mgiants はさらに大きい。この 結果、密度分布を高い空間分解能と高い精度で決められる。

図5.巨星を主系列星と考えたための影響。上:スケール高 200 pc と 1200 pc の2円盤モデルにおける R = 8 kpc での密度の高度 Z による変化。短破線= 円盤。長破線=べき乗指数 3 のハロー。中:巨星の割合を 5 % とし、誤同定 により距離を 1/3 に見積もった場合の巨星の寄与。下:混入を受けた星密度の 真の密度に対する比率。



図6.斜線=この論文で使用した SDSS 観測領域。ランベルト等面積射影法。 丸=等銀緯線。北側 5459 deg2, 南側 1088 deg2.

 2.3.SDSS 恒星サンプル 

 2.3.1.観測 

 2.3.2.星間減光補正のエラーの影響 

  Schlegel et al. 1998 の減光マップは精度 10 % である。我々はこの減光をサンプル星全てに適用した。 近傍の星にこの減光を当てはめるのは不適当である。どのあたりから全減光適用が 妥当になるのだろう?そのため、赤色矮星の r-i > 0.9 の星を選んだ。これら の星は r-i に関係なく g-r = 1.4 一定値を持つ。調べると、r > 15 の星の g-r 中間値は一定であった。ところが r < 15 の星では g-r が青くなった。 これは、 r > 15 の星は減光層の向こう側にいることを示す。これは距離に 直すと約 80 pc である。そこで、測光距離が 100 pc 以内にある星は銀河モデル から外すことにした。

 2.3.3.反復観測の扱い 




図7.上:距離の相対エラーの (r, r-i) による変化。測光視差関係の固有エラー を σMr = 0.3 mag と仮定。実線=距離相対エラーの等高線。 σD/D = 15 % から始まり、5 % おきに引いた。

表1.反復観測の統計



表2.星数密度分布のマップ

 2.3.4.最尤法による星カラーの決定 

 カラーと等級 

 測光視差法は絶対等級を求めるために r-i カラーを必要とする。この方法は 青い方では勾配が急で、r-i の小さな誤差でも Mr には大きな誤差となって はね返る。青い星では g-r または u-g を用いる方が良いだろう。一方、 M0 より晩期の星では g-r = 1.4 = 一定となるので、g-r を分類に使うのは無理 である。

 カラーと見かけ等級の最尤値

 図8には (r-i, g-r) 二色図を示す。星の系列は次の式で表される。
 g-r = 1.39{1 - exp[-4.9(r-i)3 -2.45(r-i) -1.68(r-i) -0.050]} (4)
この系列の固有巾は青い方で 0.02 mag, 赤い方で 0.06 mag で、測定エラーより 小さい。そこで、観測カラーのこの系列からのずれは観測エラーと看做す。そして エラー楕円を用いて、最大確率となる (g-r)e, (r-i)e を得る。次に
χ2 = (r - re)2 + (g - ge)2 + (i - ie)2
σr σg σi

を最小にして最尤値 (ge, re, ie) を求める。その結果は、
re = wrr + wg[g - (g - r)e] + wi[i +(r - i)e]
wr + wg + wi

     ge = (g - r)e + re

     ie = (r - i)e + re
(符号逆? )
ここに、wj = 1/σj2, j = g, r, i

 系列投影法 

 (r - i)e から式1、2を用いて Mr が得られる。この方法を 系列投影法と名付ける。

図8.48 M 星の (r-i, g-r) 分布。大部分の星は狭い経路沿いに 並ぶ。その幅は明るい g-r < 1 端で 0.02, 暗く赤い g-r - 1.4 で 0.06 mag である。内枠はカラー評価の向上に用いた最尤法を 示す。楕円=測光エラー。


 2.3.5.クエーサーの混入 


図9.(左上) SDSS ストライプ 82 天体の (r, u-r) プロット。g-r = [0.3, 0.5] の星は青点。u-r < 0.8 は低赤方偏移クエーサー。u-r ∼ 1.3 は低メタルの 明るい星 (r < 18). u-r ∼ 1.6 は厚い円盤の星。円盤星とハロー星が 等級(距離効果)でもカラー(メタル効果)でも分離していることに注意せよ。
(右上) r < 21 の星の (g-r, u-g) 二色図。
(左下)右上二色図上の幾つかの領域の星の累積等級分布図。青=高温度星、 主に白色矮星。赤=クエーサー。マゼンタ=青色水平枝星。シアン=ハロー星。 緑=厚い円盤星。青実線=厚い円盤星、勾配 0.13. 赤実線=ハロー星、勾配 0.34. 破線=クエーサーは r = 20 で勾配 0.7 から 0.4 に折れ曲がる。
(右下)g-r = [0.2, 0.3] の星を u-r = 0.8 で二分して、累積分布を比較。 u-r < 0.8 天体は r < 21.5 では 10 %, 21.5 < r < 22 で 34 %.

 2.3.6.距離の評価 

 距離の計算 

 D = 10(r-Mr)/5+1 pc
を用いて r = 15 - 21.5 mag で計算すると D = 100 pc - 20 kpc くらいになる。
誤差の話を省略。  
不定性 

 距離計算から得た密度分布は以下のような不定性を持つ。
(1)距離エラーや連星効果で動径方向に平滑化される。
(2)系統誤差でスケールが伸びたり縮んだりする。
(3)巨星などの混入
(4)メタル量が沿うてしているのと異なる星br>


 2.4.密度マップを作る 

 カラー区分  

 r-i カラーを19の区分、r-i = [ri0, ri1] に分けた。 区分の巾は、r-i > 0.7 では 0.1, それ以外は 0.05 である。19 組の ri0, ri1 は表2に載せてある。各区分に相当するスペクトル型も表2を見よ。 各カラー区分に対して、最小距離 D0 と最大距離 D1 を次の ように決める。
     D0 = 10[rmin-Mr(ri0)]/5+1 pc
     D1 = 10[rmax-Mr(ri1)]/5+1 pc
ここに、rmin = 15, rmax = 21.5 である。各カラー区分で、 D1/D0 = 15, 区分全体では D1/D0 = 300 である。

 銀河中心デカルト座標系 

     X = Ro - D cos(l) sin(b)
     Y = - D sin(l) cos(b)
     Z = D sin(b)
ここに Ro = 8 kpc (Reid 1993) は銀河中心距離である。この座標系は X 軸が 銀河中心から太陽方向に向いている。Y 軸は銀河中心から南銀河方向に伸びる。 Z 軸は北銀極方向。なので、XYZ 系は右手系を成している。Z = 0 面は太陽を 含む。銀河系は時計向きに回転している
 空間区分の大きさ 

 空間を3次元直方体グリッドに区切った。 小さいとポアソンノイズ、大きいと無駄、で色々試して、各カラー区分毎に最適 グリッドサイズを決め、表2に載せた。r-i > 0.3 では区分内の星の数は 中間値で10、最青い方へ行くと大きくなり 30 である。

データキューブ 

 こうして各カラー区分毎に3次元のデータキューブが作られた。(X, Y, Z) には [X-dX/2, X+dX/2], [Y-dY/2, Y+dY/2], [Z-dZ/2, Z+dZ/2] 内にある星の数が付与される。

 不完全グリッドの補填 

 空間グリッドの一部がサーベイから外れている場合はその体積に応じた修正を 行った。

 空間密度 

 19の r-i カラー区分に対し、(X, Y, Z) 直方体区間にある星の数が得られた。 密度は単純に、
ρ(X, Y, Z) = N(X, Y, Z)
V(X, Y, Z)



図10.銀河系円筒座標 (R, Z) 上での恒星数密度分布。各ピクセル値は角度 φ に関して平均化している。密度は自然対数スケールで表示されている。 左上から右下にかけて、距離スケールが大きく変わることに注意。各図中の白 枠は次の図の大きさを示している。

 3.星数密度マップ 

 3.1.円柱座標 R-Z 面での数密度マップ 

 サンプル星の距離範囲 

 我々のサンプル r-i = [0.10, 1.40] は広い距離巾を持つ。カラーを 19 の 区間に分けてそれぞれのカラー区間毎にマップを作った。マップは r-i = 1.3 M 矮星で 100 pc から始まり、 r-i = 0.1 主系列ターンオフでは 20 kpc まで 届く。

赤い矮星 R < 2 kpc 

 図10下段は赤い星による R < 2kpc の分布が示されている。それは二重 指数関数に極めて良くフィットする。
ρ(R,Z) = ρ(Ro,0) exp ( - R-Ro - Z + Zo )

ここに L = 円盤スケール長、H = 円盤スケール高である。このモデルは等密度 線が次の式で表されることを予想する。
|Z + Zo| = C - H R
L

ここに C = 定数である。この表式は観測データとよく合う。

 青い矮星 

 青い矮星は図10の上中段にしめすように上の単純なモデルからの乖離が 目立ってくる。
(1)R > 14 kpc では円盤のフレアが見えてくる。
(2)高度 Z 依存性が単純な指数関数から外れる。付加成分または別関数形 が必要である。

 軸対称性のテスト 

 図11には R = Ro の円筒壁面上の密度分布を二つのカラー区間の星に対して 示す。完全な軸対称性が成立している場合、等高線は水平になるはずである。 図11上は r-i = [1.0, 1.1] 区間で、 r-i ≥ 0.35 の星を代表している。 等高線は平行で、軸対称性を示す。しかし、 r-i < 0.35 区間の星は 軸対称性からのずれが存在する。図11下の図を見ると、銀河面から数 kpc 上で Z = 10 kpc, φ = 40 付近に等高線が上向きになる。これは密度超過の 存在を示唆する

図11.R = Ro の円筒壁面上での密度分布。上:r-i = [1.0, 1.1]. 下: r-i = [0.10, 0.15]. 等密度線がほぼ水平なのは分布が軸対称 に近いことを示す。それでも、下図で Z = 10 kpc, φ = 40 付近 にずれが見える。
( φ のゼロ点がどの方向なのか?)





図12.r-i = [0.10, 0.15] カラー区間の星。Z = 17.5 kpc (左上) から 6 kpc (右下)までの X-Y 断面図。丸点線=銀河軸中心の円。Y = 0 軸に関して強い非対称がある。




図13.図12と同じだが、|Z| = 5, 4, 3 kpc での X-Y 断面図である。 Z = 5. 4, 3 での R = 16 kpc, Y = 0 付近は一角獣座密度超過。




図14.図12と同じであるが、 |Z| = 0.3, 0.6, 0.9 kpc での X-Y 断面図。 この距離範囲では明瞭な副構造はない。

 3.2.3次元マップの X-Y 断面図 

 図12の 10 kpc 密度超過 

 様々な銀河面高度 Z =一定での、X-Y 断面密度マップを図 12 - 14 に示す。 図12の6図中5図には大きな密度超過が見える。図の上側 Y > 0 は下側 Y < 0 と鏡像関係になっているべきである。さらに、密度は 銀河中心を 中心の円形分布になるはずだが、観測分布はそれと大きく異なる。 これは、図10左上図の (R, Z) = (5, 10) kpc と同じ構造体であり、図11 下図の Z = 10 kpc, φ = 40 に見えた等高線の反り返りがそれである。
 図13の 3 - 5 kpc 密度超過 

 図13の上3枚、 Z = 3 - 5 kpc はまた別の密度超過を R = 16 kpc, Y = 0 付近に示す。これは Newberg et al 2002 がここで扱っているデータの一部から 発見した一角獣座星流である。これは図10左上図の R = 16 kpc, Z = 3 kpc にも見える。このはっきりした輪郭はこの構造が円盤のフレアリングであるという 説を否定する。同様に Ibata et al 2003 のリング説も怪しい。

 図14の 1 kpc 平滑表現 

 1 kpc より内側では密度マップは滑らかで単純指数関数フィットからのズレは 30 - 40 % 以下である。


 3.3.全体の密度分布 

 上に述べたように密度超過や複雑な構造が見つかったが、銀河系全体での 密度変化は何桁に及ぶのに対し、それらの構造はファクターの違いである。 従って、全体構造に関しては解析モデルによる記述が有効である。そこで 多パラメタ―によるモデル化の前に、R-方向、Z-方向の単純な記述がどの程度 有効かを確認したい。

 3.3.1.数密度分布の Z-依存性 

 Z < 2 kpc は単一指数関数則 

 図15には R = Ro = 8 kpc での数密度の Z-変化をいくつかの r-i カラー 区間別に示した。上図は赤いカラーの星で Z = 50 pc - 2 kpc 範囲の密度 を示す。それらは明らかに、スケール高 270 pc 指数関数によくフィットする。 スケール高の値自体の精度は 10 -20 % だが、上図で全てのカラー区間データ が全て同一のスケール高でフィットできるのは心強い。

 太陽の銀河面高度 

 Z > 0 と Z < 0 の指数関数フィットを伸ばすと Z = -25 pc で交差 する。これは太陽が銀河面から北銀極方向にずれている効果である。

 厚い円盤 

 より青い星の分布は 1 kpc を越える。15図中断を見ると、分布が単一指数 関数則から外れていくことが判る。 1 kpc より上方での密度のずれは通常もう 一つの円盤=厚い円盤の証拠と看做されている。実際中段データは二つの指数 関数の和でフィットされた。

 ハロー 

  3 - 4 kpc を越すと厚い円盤でさえもフィットしなくなる。図15下段の データはべき乗則成分の導入によりフィットが可能になることを示す。




図15.R = 8 kpc での垂直密度分布の r-i カラー区間による変化。フィット した線は指数関数モデル。上図の破線=スケール高 270pc の単一指数関数。 垂直な一点破線=密度極大で、太陽位置が銀河面から 20 pc ずれていることを 示唆する。
中図の破線=スケール高 270 pc と 1200 pc、相対規格化 0.04 (薄い円盤と 厚い円盤)の指数関数モデルの和。一点鎖線= 1200 pc 円盤の寄与。この寄与 が効くのは |Z| > 1000 pc であることに注意。
下図データに沿った破線=スケール高 260 pc と 1000 pc、相対規格化 0.06 (薄い円盤と厚い円盤)の指数関数モデル、べき乗指数 2、薄い円盤に対する 相対規格化 4.5 10-4の楕円体成分の和。破線= 260 pc 円盤の 寄与。一点鎖線= 1000 pc 円盤の寄与。点線=ハロー。
ここで示した円盤、ハローモデルは出発点に過ぎず、実際 4.3.9 節の表10 に示す値はここでの値と全く違う。


 3.3.2. 数密度の R-変化  

 図16=赤い矮星 

 図16には赤い星 .r-i = 0.70 - 0.80 (K7-M0) 星の Z = 500, 1000, 1500 pc での数密度動径変化を示す。データ点は太陽近傍 2 kpc 以内に限られる。 ln(ρ) - R プロットが直線状に並んでいるのは指数関数型の分布が成立し ていることを示す。スケール高は銀河面高度と共に増大している。データ巾 が短いので L ∼ 3.5 kpc という値を大きく変える証拠にはならない。

 図17、図18=もっと上 

 銀河面高度が 1 - 2 kpc より高くなると、指数関数の近似はデータにフィット しなくなる。その大きな原因は Z = 2 - 8 kpc の一角獣座星流で、データを |Y| < 1 kpc に絞る(図18)とその影響は著しい。



























































図17.r-i = 0.50 - 0.55 (K6), 0.20 - 0.25 (G6 - G9), 0.10 - 0.15 (∼ F9) 星の一定 Z 高度での数密度動径変化。 Z = 3, 6, 9 kpc の3本を示す。破線=スケール長 3 kpc と 5 kpc (?) でのフィット。

図16.r-i = 0.70 - 0.80 (K7-M0) 星の一定 Z 高度での数密度動径変化。 Z = 500, 1000, 1500 pc の3本を示す。破線=スケール長 3 kpc と 5 kpc でのフィット。


図18.r-i = 0.10 - 0.15 (∼ F9), |Y| < 1 kpc 星の一定 Z 高度 での数密度動径変化。 上段: Z = 2, 3, 4 kpc. 中段: Z = 4, 5, 6 kpc. 下段: Z = 6, 8, 10 kpc. 一角獣座星流は R = 16 - 17 kpc の盛り上がりとして見える。 R = 6 kpc の 幅広の盛り上がり=おとめ座密度超過である。


 4.銀河系モデル 

 前章の定性的な観察から、大規模な構造は解析モデル

   ρ(R,Z) = ρD(R,Z; L1,H1) + f ρD(R,Z; L2,H2) + ρH(R,Z)

でフィットできそうである。ここに、
ρD(R,Z; L,H) = ρD(Ro,0) exp ( - R - Ro - Z + Zo )
L H


ρH(R,Z) = fHρD(Ro,0) [ Ro ] nH
SQRT[R2 + (Z/qH)2]


 4.1.データセットのパラメタ― 

 おとめ座密度超過域の排除 

 以下の領域をおとめ座密度超過域として排除する。
( X ) = ( cos 30 - sin 30 ) ( X )
Y sin 30 cos 30 Y

として、
     - 5 kpc < X < 25 kpc
     Y > -4 kpc
     (X-8kpc)2 + Y2 + Z2 > 2.5 kpc2

これは図19上段の白枠部分である。

 一角獣座星流の排除 

 一角獣座星流は銀河中心からほぼ等距離にある。排除域は以下の式で定める。

     14 kpc > R > 24 kpc, 0 > Z > 7 kpc
または、
     16 kpc > R > 24 kpc, 7 kpc > Z > 24 kpc

この領域は図19下段の二つの白枠である。 

 あと二つ密度超過があった 

 上の二領域を除いた後の r-i > 1.0 データに第1フィットを行った結果、 H1 = 280 pc, H2 = 1200 pc を得た。残差を見ると、 40 % の密度超過が (R, Z) = (6.5, 1.5) kpc, (9, 1) kpc 付近に見られる。 そこで、

-90 < arctan ( Z - 0.75 kpc ) < 18,  Z > 0
R - 8.6 kpc


    R < 7.5 kpc,  Z > 0

も追加排除した。

 追加排除規定 

 こうした後に残ったピクセルを銀河中心極角 φ で
("polar angle" は少し変じゃ ないか?)
平均して図10のような (R, Z) マップを作った。さらに追加で、b < 20 の銀河円盤に近く減光の強い可能性のある星も排除する。その他、例えば |Z| > 2.5 kpc 星もハロー星混入を防ぐため排除するなどいくつかの排除規定 を設けた。

 図20=掃除済みマップ 

 図20には 19 のカラー区分毎に「掃除済みマップ」を示す。図10と較べ ると、等密度線がより規則的である。特に赤い r-i > 0.7 (K7 より晩期) では驚くほどきれいである。0.10 < r-i < 0.15 (∼ F9) では ずれが大きくなる。これが軸対称からのズレなのか、距離決定のエラーに 起因するかまだ不明である。

図19.銀河系解析モデルフィットに使用しない密度超過領域。上段: Z = 10 kpc X - Y 図。白枠部はおとめ座密度超過を避けるため排除。下段: R - Z 図の二つの白枠は R = 18 kpc の一角獣座星流。



図20.図10に類似するが、密度超過部分の掃除済みデータからの (R, Z) マップ。19カラー区分毎のマップを示す。等密度線は対数スケールで 等間隔。

 4.2.モデルフィット 

 4.2.1.フィットのアルゴリズム 

 outlier = 外れ値の排除 

 モデルフィットはニューメリカルレシピ―にある Levenberg-Marquardt 非 線形 χ,sup>2 極小化アルゴリズムによって行う。フィットと残差 が σN 以上の outlier = 外れ値の排除を繰り返す。 σi = {50, 40, 30, 20, 10} で次第に小さな外れ値を 除く。

 4.2.2.太陽位置 

 使用データ 

 最初のモデルは薄い円盤のみを扱うので、|Z| < 300 pc の星のみを扱う。 また、減光補正の誤差による過ちを避けるために |Z| < 100 pc の星は はじく。また 7.6 kpc < R < 8.4 kpc 領域の外側の星も、デコボコ 構造による混入を避ける意味ではじく。

 太陽位置 

 こうして、太陽の銀河面高度として、以下の値が得られた。
     Zo, bright = (25±5) pc
     Zo, faint = (24±5) pc
この値は、 Chen et al 1999 の Zo = (27.5±6) pc などと一致する。


表3.明るい測光距離較正による円盤のベストフィットパラメタ―

 4.2.3.円盤のフィット 

使用カラー区間 

 r-i > 1.0 の4つのカラー区間からの R-Z 密度分布マップを用い、二重 指数関数モデルをフィットした。カラー区間のデータは薄い円盤と厚い円盤 の星で、ハロー星の混入は 1 % 以下である。その上、このカラー範囲のカラー 等級関係は円盤矮星で較正されているので円盤パラメタ―の決定には好適である。

 一括解析のパラメタ― 

 4つのカラー区分データを一括に解析した結果と、それぞれのカラー区分 毎に解析した結果とを比べた。一括フィットでは ρ(Ro, 0) のみが各 区分で自由パラメタ―となり、スケール高、スケール長、f = 厚い円盤と薄い 円盤の相対比、は共通の値を強制される。ここでのカラー区分に対応する 星の質量、年齢、メタル量はほぼ同じと考えられるので、分布プロファイル が同じと言う仮定には十分合理性がある。一括モデルのベストフィット値は 表3、4の第1行にある。図21には reduced χ2 等高線 を示す。








表4.暗い測光距離較正による円盤のベストフィットパラメタ―



図21.1.0 < r-i < 1.4 データベストフィット点周りの reduced χ2 等高線。表3第1行。明るい測光視差関係を仮定。暗い 測光視差関係を仮定した場合、表4第1行、も定性的には同じ様子である。 最内側の等高線は 1.1 χmin2 。残りは log χ2 で 0.5 から 0.5 区切り。

 個別カラー区分での円盤モデル解析 

 χ2 等高線毎の解析結果は明るい測光距離関係の仮定の 場合を表6の第1−第4行に、暗い測光距離関係の仮定の 場合を表7の第1−第4行に載せた。全ての場合で reduced カイ二乗値 = 1.3 - 1.7 の範囲でフィットはよく、ベストフィット解同士は整合している。特に、 薄い円盤のスケール高 H1 と 太陽距離密度 ρ(Ro,Z) はよく決まり、 H1 = 250 pc (明るい関係)、230 - 240 pc (暗い関係)、 ρ(Ro,Z) は 5 % 内で一致する。

 厚い円盤のスケール高と規格化密度 

 厚い円盤対薄い円盤の密度比は約 10 % で、明るい関係で f = 0.10 - 0.13, 暗い関係で f = 0.10 - 0.14 である。厚い円盤のスケール高は、 H2 = 750 - 900 pc (明るい関係)、660 - 900 pc (暗い関係) である。厚い円盤の密度とスケール高は薄い円盤よりしばりが緩い。しかし、 図21の f - H2 図を見ると分かるように、二つは強く相関して いる。f が大きくなると H2 は小さくなるが、カイ二乗値はあまり 変化しない。したがって、そのどの組を選ぶかが決めにくいのである。 この f と H2 との相互関連は表6、7に現れている。特に、 表7第3行にあるように r-i = [1.1, 1.2] (M2 - M3) で著しい。
円盤スケール長 

 図21左の2つの図から分かるように、円盤スケール長 L1, L2 を変えてもフィットの良さはあまり変わらない。これは主に データ距離範囲が短いためである。ベストフィットは、L1 = 1.6 - 2.4 kpc、L2 = 3.2 - 6.0 kpc (明るい関係)、L1 = 1.6 - 3.0 kpc、L2 = 3.0 - 6.0 kpc (暗い関係)である。 図21の左上枠を見ると分かるように、L1 と L2 は 逆相関の関係にある。短い L1 と長い L2 の組は 長い L1 と短い L2 の組と同じくらい良い reduced カイ二乗値を示す。



表6.個別カラー区分での円盤モデルベストフィットパラメタ―。 明るい測光距離関係を仮定。




表7.個別カラー区分での円盤モデルベストフィットパラメタ―。 暗い測光距離関係を仮定。

 

 4.2.4.ハローモデルのフィット 

 ハローは青い星で調べる。

 r-i < 1.0 (M1 より早期)の星はより遠方の領域に到達する。ハロー星が 到達域の端に現れてくる。図15の中断と下段から分かるように、円盤だけの モデルでは Z ≥ 4 kpc ではフィットが悪くなる。

 フィットの前に考えるべきこと 

(1)ハロー内の塊りやマージャー残存物を事前に除くことが必要である。 そうしないと、モデルパラメタ―が適切に決まらない。 

(2) 測光視差関係には Z 依存性が明示的には含まれていない。 しかし、暗く赤い高メタル円盤矮星は近距離の較正に使われ、 低メタルハロー星は青い側に位置しているので、メタル効果が暗黙の裡 に含まれている。その結果、r-i = 0.15 付近は低メタル [Fe/H] ≤ -1.5, r-i ≥ 0.7 では高メタル [Fe/H] ≥ -0.5 となっている。したがって、 ハロー星の形やスケールを調べるには青い端の星、円盤の形やパラメタ― には赤い端の星が要る。同じ理由で、中間カラーの星を使って、ハローと 円盤を同時にフィットするのは困難である。

 使用データ範囲 

 したがって、ハローの形状を調べるには r-i = [0.1, 0.25] 星を用い、 取り敢えずの qH = 0.5, fH = 0.001 ハローモデル で、(R, Z) 面上円盤星の割合が 5 % 以下の領域のみを扱う。このデータ から、べき乗指数 nH, と軸比 qH が決まる。 円盤をデータから排除しているから、fH は決まらない。

 ハローパラメタ―の決定は緩い 

 ハローのベストフィットパラメタ―を表5に示した。図22には カイ二乗の等高線を示した。円盤に比べるとフィットは悪く、reduced χ 2 = 2 - 3 である。形式的には nH = 2.8, qH = 0.64 が極小点であるが、reduced カイ二乗の大きさと 浅い極小点を考えると nH = 2.5 - 3, qH = 0.5 - 0.8 と緩く考えるべきである。

 密度超過 

 図23には、最も赤いカラー区分で決めた厚い円盤と薄い円盤のベスト フィットモデルに4種類のハローモデルを足した結果とデータとの残差を 最も青いカラー区分サンプルについて求めたものである。一角獣座 R = 6.5 kpc とおとめ座 Z = 1.5 kpc の密度超過は明らかであるが、その細かい形 はハローモデルパラメタ―の選択で変わる。また、うんと外側ではフィット が常に過剰か不足になるのは二重ハローの必要性を示している。しかし、 オブレートな形状が必要なことは確かである。

表5.ハローの形のフィット。


図22.データベストフィット点周りの (nH, qH) 面上での還元(?)χ2 等高線。表5第1行。 最内側の等高線は 1.1 χmin2 。残りは log χ2 で 0.5 から 0.5 区切り。



図23.r-i = [0.10, 0.15] カラー区分、4種のハローモデル+同じ円盤モデル に対する (データ - モデル)残差の分布。上段:ハローのべき乗則指数 nH のみ変化。下段:ハローの軸比 qH のみ変化。 nH への拘束は緩いが、qH はオブレート形状を強く 示唆する。

 4.2.5.円盤とハローの同時フィット 

 カラー区分の選択 

 r-i = [0.65, 1.0], K7, M0, M1、4カラー区分の星をサンプルとし、ハロー 形状パラメタ― nH、qH は前節で求めたベストフィット 値で固定して、厚い円盤と薄い円盤のパラメタ―とハローの規格化定数 fH を決めよう。これらの区分星は (R, Z) 空間では ハローの密度が無視できるほど薄くない領域を占めている。

 サンプルの問題点 

 しかし、サンプルの適正には問題がある。
(1)ハロー星は全体に対しては依然として低い割合しか占めない。
(2)円盤で測光視差関係の較正を行ったサンプルをハローに適用可能か
しかし、現在 fH に関して得られている値の不定性を考えると、 バイアスはあるにせよ得られる値には価値がある。

 フィットの結果 

 一括解析の結果は表3、4にカラー別の結果は表6,7に載せた。 reduced カイ二乗 = 1.4 - 2.0 なのでフィットは満足すべきレベルである。 図24にはベストフィット値の周りの reduced カイ二乗等高線を示した。 図24の様子は図21とほぼ同じである。


 表3と4の最上行と最下行を比べると、 r-i > 1.0 と r-i = [0.65, 1.0] との結果が同じであることが判る。特に、薄い円盤のスケール高は同じ値で、 厚い円盤の規格化は 8 - 15 % で観測不定性の範囲内である。スケール長は 拘束が緩いが平均すると円盤のみでフィットした値の 10 - 30 % 大きい。

  fH  

  fH、(R, Z) = (8 kpc, 0) でのハロー/薄い円盤、の ベストフィット値は、fH = 0.5 % で、範囲は [0.3, 0.6] % である。重要なのはこのカラー範囲では明るい測光視差関係と暗い測光視差 関係の差が ΔMr = 0.25 mag と小さいので、 測光視差関係が fH に及ぼす影響は小さい。



図24.0.65 < r-i < 1.0 データベストフィット点周りの reduced χ2 等高線。表3第2行。明るい測光視差関係を仮定し ハローの寄与を入れた。暗い 測光視差関係を仮定した場合、表4第1行、も定性的には同じ様子である。 最内側の等高線は 1.1 χmin2 。残りは log χ2 で 0.5 から 0.5 区切り。

 4.3.解析 

 4.3.1.モンテカルロ法で作る擬カタログ 

 擬カタログ作成コードへの入力 

 擬カタログ作成コードには、考える銀河系モデルに光度関数、 連星の割合などを付けて入力する。等級視差関係には適当な分散の エラーも付随させる。

 光度関数と再規格化 

 このコードを使い、表8の第1行にあるようなパラメタ―の銀河モデルから、 図6に示したサンプル領域でのカタログを作成する。光度関数には Kroupa et al 1993 のモデルに φ(Mv)から φ(Mr) への変換を施し、 r-i =[1.0, 1.1] (M1-M2) のカラー区分に&pho;(R=8kpc, Z=0) = 0.04 stars pc-3 mag-1 の再規格化を行った。比較は擬カタログ と r-i > 1.0 データとの間で行うので、ハローは無視、fH = 0 、した。

 擬カタログの使用 

 この後の比較では r-i = [0.7, 1.6], r = [15, 25] mag の星の擬カタログ を使用する。これは観測の等級範囲 r = [15, 21.5] と円盤星のカラー区間 r-i = [1.0, 1.4] へ測光エラーや測光視差関係の不定性によりその領域に 飛び込んでくるかも知れない星までを、ほぼ完全に覆っている。測光視差 関係には明るい関係の方を使用した。

 4.3.2.データ処理とフィッティングの精度 

 データ処理とフィッティングパイプラインが正しく働いているかどうかを 見るために、最初に等級エラー=ゼロのカタログを作り、4.2.3.節と 同じ方法で解析した。その結果は表8の第2列に示す。第1行と較べると分かる ように、フィットはモデルを再現した。

 4.3.3.マルキストバイアスの効果 

有効測光エラー 

 測光エラーはガウシアンで、その散布度 σ は図7下段に示すような 等級依存性を持つと仮定する。明るい r = 15 で σr = 0.02, 暗い r = 21.5 で σr = 0.12 である。
 測光視差関係には Mr(r-i) の周りに σMr = 0.3 の ガウシアンエラー分布を仮定する。この二つのエラーは二乗和の形で有効測光 エラーとして働く。そしてそれはマルキストバイアスの源となる。

 マルキストバイアスの効果  

 このサンプルから得られたベストフィットパラメタ―を表8第3行に載せた。 薄い円盤と厚い円盤のスケール高は 5 % 低く見積もられた。密度規格化 f は 10 % 高かった。スケール長は少し小さくなった。これらから、測光エラー および測光視差の分散に起因するマルキストバイアスはモデルパラメタ―の 値に対して余り大きくない 5 % 程度の影響しか及ぼさないと判断される。。

 4.3.4.未認識の多重星による効果 

 多重星を単独星と認識すると距離を実際より小さく見積もるため、 密度マップ、銀河系モデルパラメタ―に影響を及ぼす。 この効果を見るため、fm = 未認識連星の割合、を3通りに変えて シミュレートした結果を表8第3行に示す。スケール高は fm = 1.0 で 25 %, 0.5 で 20 %, 0.25 で 15 %, 下がった。スケール長も同様の減少を示した。
( 測光視差関係自体も fm の 影響があると考えるのか? )



表8.モンテカルロ法で作った擬カタログ




表9.Mr(r-i) 較正エラーの効果

 4.3.5.距離決定の系統誤差の影響 

 絶対等級の較正誤差による距離決定の系統的なズレは「明るい」と「暗い」 等級視差の差からも分かる。しかし、ここでは改めてシミュレーションテスト を行った。まず、距離から等級への変換を明るい等級視差関係を使って行い、 擬カタログを作った。そして、それを明るい等級視差関係より 0.5 等明るい 仮定と 0.5 等暗い仮定とで解析した。その結果を表9に示す。スケール長、 スケール高の増減が明らかである。

 4.3.6.軸対称性のテスト 

図25=軸対称モデルからのズレ 

 図 12 - 14, 特に図11に基づいて3.1.節では大規模密度超過を排除した 後の密度分布は軸対称であることを結論した。
図25の上段には、
Δρ = ρ(R,φ,Z) - ρ(R,Z)
σ σP(R,φ,Z)

を4つの r-i カラー区分で示した。ここに規格化因子はポアソンノイズ σP(R,φ,Z) = [N(R,φ,Z)]1/2/ V(R,φ,Z) である。  赤線=ポアソンモデルとデータの一致は良く、平均からのズレはポアソン ノイズであることを示している。

測光視差関係の違いは検出できない 

 では、このようなテストで測光視差関係に制限を加えられるだろうか? 残念ながら答えはノーである。図25下段には、暗い関係を使った上段と同じ ようなグラフを載せた。上段と非常に似ている。つまり、測光視差関係の 差に起因する違いは見出せない。これは驚きであるが、決めにくさの 原因の一端は R = 0 付近がおとめ座密度超過のため汚されていること にもある。



図25.ノイズで規格化した平均密度からのズレ量の分布。 黒ヒストグラム=データ。赤い一点破線=ポアソンノイズモデル。 上段:明るい等級視差関係を使用。下段:暗い等級視差関係を使用。 上段最右側:モンテカルロモデル、未認識連星 25 %, σMr = 0.3 視差散布度, SDSS 測光エラー。




図26.4つのカラー区分でのフィット例。カラーによるスケールの違いに注意。 左列:データ。中列:ベストフィットモデル。右列:データモデルの残差をデータ値 で規格化したもの。残差は -40 % から +40 % までをリニアに表示した。下段: 赤いカラー区分の星に対してデータとモデルとの一致は非常に良い。青い方に行くに 従い密度超過が増してくる。上段:r-i = [0.35, 0.40] ではおとめ座密度超過の 端が右上に、左には一角獣星流が見える。(R, Z) = (6.5, 1.5) kpc の密度 超過と (9.5, 0.8) kpc の小さな密度超過は容易に分かる。(12, -7) の大きな 赤い密度超過は装置効果で本当ではない。

 4.3.7.円盤の副構造 

 (R,Z) = (6.5, 1.5) kpc 構造 

 図26にはフィッティング結果とそれから明らかになった塊り状副構造を 示す。図は左から、データ、モデル、モデル値で規格化した残差を示す。 下3行のモデルはディスクのみのフィットであり、最上行はハローも加えた モデルである。最も目立つ残差は全てのカラー区間の (R,Z) = (6.5, 1.5) kpc に現れ、右上の図で最も著しい。この構造自体は銀河面に対して対称ではない が、弱い対応構造らしきものが Z < 0 に見える。これは、 Larsen, Humphreys 1996, Parker et al 2003 が POSS I の l = [20, 45], b = 30 で 見つけ、厚い円盤の非対称性と考えた特徴と関係するのかも知れない。 この構造は図27の Z = 1.5 kpc X - Y 面図にリング状に現れる。図13の 一角獣図星流とよく似ている。
 (R,Z) = (9.5, 0.8) kpc 構造  

 もっと小さな構造が図26の (R,Z) = (9.5, 0.8) kpc に現れる。図27の Z = 0.6 kpx, X - Y 面で見ると、これは局所的な密度超過であるという解釈も 可能である。

 副構造を残したまま解析すると。 

 これらの副構造を除去しないまま、4.1.節のように解析するとそれらが バイアスとして働くだろう。例えば、(R,Z) = (6.5, 1.5) kpc 構造は厚い円盤の スケール高を増加させ、密度規格化を低下させる。(R,Z) = (9.5, 0.8) kpc 構造 も同様の効果をもち、さらに加えスケール長も伸ばす効果がある。その上、その ような効果が現れるのが密度超過のある枠に限られるので、ベストフィット値 の間に不一致が生じる。



図27.ベストフィットモデルを差し引いた後の密度分布からのリング状のずれ。 左図:(r-i)=[0.7, 0.8] サンプル星の(R,Z) 面での(データ - モデル)/モデル。 図26に見えた二つの密度超過がはっきり見え、破線の丸と四角で示しす。 中段:Z = 1.5 kpc X - Y 面上の残差分布。R 6.5 kpc 構造がリング状に見える。 下段:Z = 0.6 kpc X - Y 面上の残差分布。 50 % に達する強い R 9.5 kpc 構造が 見える。

 4.3.8.ベストフィットからの残差の統計 


図28.(R, Z) 面上での残差強度分布。黒線ヒストグラム=データ。 実線=ガウシャンフィット。


図30.r-i = [0.10, 0.15] 星の Z = 10 kpc X - Y 面分布。円盤成分の寄与 が 5 % 以下のピクセルのみを示す。図の色はノイズで規格化されており、 -3σ = 紫と3σ = 赤で飽和させた。上図の大きな赤部分はおとめ座 密度超過が原因である。この密度超過域はフィットでは排除されている。

図29.左列:3つのカラー区間に対し、(X, Y, Z) ピクセルでのポアソン ノイズ規格化残差の分布。 右列:モデルで規格化した残差の分布。 黒線ヒストグラム=データ。赤点線=残差からポアソンノイズだけ考えた際の 分布。 最下行:モンテカルロで作った擬カタログから作った分布。





省略 



 4.3.9.広域探査領域とパラメタ―縮退 

 一意性の問題 

 10ものフリーパラメタ―があるモデルではパラメタ―間の相互作用や解の 一意性を理解することは難しい。そこで2つの例を示す。

 図31の例 

 図31は2つのモデル、一つは薄い円盤+厚い円盤、もう一つは円盤+ハロー、 を比べた。大きく異なるモデルだが、 R = 8 kpc での Z 分布は殆ど同じに パラメタ―を調整できた。

 図32の例 

 図32の左には図15の上2図を示す。密度分布は2つの指数関数円盤の 重ね合わせで良く再現されている。図32の右にはデータに表3のベスト フィットモデルを重ねた。左は H1 = 260 pc, H2 規格化= 4 %, = 1000 pc, 右は H1 = 245 pc, H2 = 750 pc, 規格化 = 13 % である。パラメタ―は大きく異なるが結果は良く似ている。

 縮退の実験 

 上の例は一般にペンシルビームサーベイに付きまとう問題で、領域が 狭い場合にも生じる。我々は似たような χ2 を生じるモデルの 体系的な探索は行っていないが、ランダムに選んだ 100 組の初期値からベスト フィットを求める実験を行った。個々の "individual bins" (カラー区間のこ とと解す)でフィットした場合には局所的な χ2 極小 に捕まる。それらは全体の最小 χ2 の 20 - 30 % 大きい。 そしてそのパラメタ―値はベストフィットと大きく異なる。一方、一括解析 した場合には、(1)収束に失敗、(2)最小値の数倍大きな局所極小に 収束、(3)同じベストフィット極小に収束、のどれかだった。SDSS データ はこうして、領域の狭さから来る縮退からは免れているようである。

図31.フィッティング主体の例。上:薄い円盤+厚い円盤でハローなしの モデル。中:一枚円盤+平たいハローモデル。どちらも R = 8 kpc, |Z| < 8 kpc でほとんど同じカウントを示すようにパラメタ―調整した。 下:二つのモデルの差。対数表示。ゼロレベルは緑。両モデルは |Z| > 3 kpc と R が 8 kpc から離れた所でのみ差が生じる。







図32.銀河系モデルフィットにおける縮退の例。左の2図は図15の上2図 と同じ。右2図は同じデータだが、表3のベストフィットモデルを重ねた。2 つのフィットパラメタ―はかなり異なるが、結果は R = 8 kpc では区別つかな いほど近い。

 4.3.10.円盤とハローを別個成分とする物理学的理由 

 u-g とメタル量 

 観測範囲が遠方まで及ぶにつれ、銀河系構成要素の数が増していく。これらは 本当に物理的に異なる系なのか、それとも物理的な裏付けのない現象論的な 記述上の区別に過ぎないのだろうか?数密度のみではこの問いに答えることは 出来ない。円盤星=種族I+中間種族IIはハロー星に較べメタル量が 1 - 2 dex 高い。この差により、ターンオフ星の u-g カラーは大きく変わる。Kurucz モデルによると、ターンオフで u-g = [0.7, 1.0] にある星はメタル量が -1 dex 低い。

 u-g の差が空間分布に反映 

 r-i = [0.1, 0.15] サンプルを u-g = [0.60, 0,95] と [0.95, 1.15] に分ける。これで円盤星とハロー星を近似的に分けられる。 図33を見ると、2つのグループははっきり異なる空間分布を示す。 この現象は図15に採用されたような複数成分モデルはデータの過剰解釈では ないことを示す。しかし、ここで示されたデータのみでは円盤とハローの 必要性は確認できても、厚い円盤と薄い円盤の分離に物理的な差は付け加え られない。

図33.r-i = [0.10, 0.15] 星の R = 8 kpc における Z 分布。 星は u-g (メタル指標)でグループ分けして表示した。丸は  u-g = [0.60, 0.95] 低メタルハローサンプル。三角 は u-g = [0.95, 1.15] 高メタル円盤サンプル。上図のラインは2つのサブ サンプルの和。2つのサブサンプルは中図と下図に示す。 単純な区分けのため、円盤星は |Z| > 5 kpc でハロー星の、 ハロー星は |Z| < 2 kpc で円盤星の汚染を受けている。  




 4.3.11.補正されたベストフィットパラメタ― 

 円盤サンプル 

 4.2.節では円盤をフィットするのに、 r-i = [1.0, 1.4] の M 型矮星 と r-i < 1.0 の K-型、早期 M-型矮星の2つのサンプルを使った。 ベストフィットのパラメタ―は両サンプルで一致し、2つの指数関数型円盤 に分布することを示した。

 r-i = [1.0. 1.4] カラー区間が円盤向き 

 r-i = [0.65, 1.0] サンプルへのフィットは第3成分=ハローの必要性を 示唆した。しかし、これはこのカラー区間の等級視差関係を低メタルハロー 星に適用してよいか、密度超過の差引残差によるバイアスが残っていないか などの問題がある。そこで、r-i = [1.0. 1.4] カラー区間の星を円盤パラメ タ―決定には採用する。このカラー区間はハロー星の影響がなく、 密度超過の影響もあまり受けない。

 ベスト解の不定性 

 限られたサンプルと知識の下ではベスト解を求め、それらの不定性が及ぼす 影響を考える以外の途はない。明るい測光視差関係を採用する理由は、それが 運動学データと整合する結果を与える(論文3)からである。




表10.銀河系モデルの最終パラメタ―
連星率の問題 

 様々な連星率の シュミレーションの結果ではその形は r-i > 0.5 では 0.1 mag よりよい。 図34には連星率によりベストフィットパラメタ―がどう影響されるかを示し ている。
(前にも述べたが、測光視差関係 の方は fm の効果を入れるのか?)
正しい連星率の決定は難問である。その値はまた、スペクトル型で変化する 可能性がある。この論文では、パラメタ―の決定に r-i > 1 の M-矮星を 使用していることを考慮して、 Reid, Gizis 1997 が晩期型矮星に与えた 35 % を採用する。

 パラメタ―の補正 

 こうして、 L1, H1, H2 に対して 15 % 増加、 L2 は 10 % 増加という連星率による補正を与えた。そこに さらに 5 % のマルムキストバイアス補正を加える。それと同じ理由で密度規 格化の方は -10 % となる。こうして決まった最終パラメタ―値を表10に 示す。


図34.未認識連星率がフィットに及ぼす効果。計算は表8で行ったもの。各枠には 連星率が変化した時にモデルパラメタ―がどう変わるかを示す。







図35.左上:図10と同じような数密度分布。ただし、X, Y, Z 座標で、もっと狭い Y = 0 切片をとっている。この座標系は Z 軸の周りに反時計 回りに φ = 30° 回したものである。この系では Y = 0 面はおとめ座密度超過を垂直に切っている。 上中:Y = 0 面上での、(観測データ - ベストフィット モデル)分布。上中をモデルで規格化。下:上と同じだが、 Y = -9 kpc. 上と較べて副構造が見えない。 上右:

 5.おとめ座密度超過 

 5.1.おとめ座密度超過の広がりと形状 

 X - Z 面 

 XYZ 座標系は右手系で、X-軸は銀河中心から太陽方向。Y-軸は銀河中心から南銀河 方向、Z-軸は極軸である。X - Z 面 は、X-Y 面を半時計方向に 30° 回転させたものであり、銀河中心とおとめ座密度超過を結んでいる。

 ファクター2の密度超過 

 図35の左上図は最も青いカラー区分の星の分布を示す。(X, Z) = (7-8, 10)kpc 付近に密度超過領域が見える。これは、図36の Z = 10 kpc X-Y 面図でも Y > -3 kpc 図に見える。おとめ座密度超過 は Z = 10 kpc ではファクター2の密度超過の原因である。

 Y = 0 残差に現れる超過 

 さらに詳細を調べるため、図35の中図では(データ - モデル)を、右図 では (データ/モデル - 1) 図を示す。右図には密度超過部がはっきりと見える。 残念ながら、残差のピークは観測範囲より低い Z に存在するので、この密度 超過の中心を決めることはできない。
Y = -9 kpc 残差はクリーン 

 図35の下図には Y = -9 kpc 残差を示す。そこには 有意な残差がない。これは図36の Y > -5 kpc 図でも 同様である。

 融合銀河? 

 密度超過が銀河面にまで達している可能性もある。そしてもしもこれが融合 過程にある銀河ならば、南銀河系がわにまで伸びている可能性もある。 密度超過の極大は Z = 15 kpc では X = 7 kpc, Z = 6 kpc では X = 6 kpc である。巾 FWHM は Z = 20 kpc から Z = 6 kpc までに半分に減った。これらだけでは決定的ではないが、融合 銀河に期待される性質と一致している。

 測光視差関係の不定性 

 図35に見られる密度超過の Y 方向の巾は 5 kpc 以下 である。注意すべきは測光視差関係の不定性のため、視線方向の広がりは 30 - 35 % 小さいと考えるべきである。



図36.r-i = [0.10, 0.15] カラー区分サンプルの Z = 10 kpc 面上、 Y =一定線上での数分布。Y > 0 枠中で X = 8 kpc に強い密度増加が見えることに注意。




図37.左上:b > 0, g-r = [0.2, 0.3], r = [20, 21] 星のランベルト 投影図。北銀極が中心。
( 図6もそうだが、等銀緯線が b = 0, 30, 90 だったらランベルト法ではない。でも何度の線かを書いていない。)
星密度が l = 0, 180 線に関して対称でないことに注意。カラー区間が十分に赤い、 g-r = [0.9, 1.0] と、この非対称性は、図はないが、消える。 右列:(l, b) = (300, 60) と (60, 60) でのヘス図。左上図中の扇形がそれ。 左下:右側2つのヘス図の差。 r ≥ 20, g-r = 0.3 付近に強い密度超過が 存在する。


 5.2.おとめ座密度超過の直接検証 

 天球上の分布図 

 図37には北銀河系における g-r = [0.2, 0.3], r = [20, 21] 星の分布を ランベルト法で示す。カラーと等級の範囲は D = 18 kpc 付近の星を選択して いる。おとめ座密度超過が (l, b) = (300, 65) 付近で顕著である。

 ヘス図 

 図37の右側には (l, b) = (300, 60), (60, 60) 方向のヘス図を示す。 左下はその2つの差分である。差分図には g-r = 0.3, r ≥ 20 での強い 超過が認められる。図38はこの差分を定量的に解析したものである。 赤い星では、両領域のカウントに差は見られない。一方、青い星ではカウント の差は統計的に有意である。青い星のカウントに反転は見られないので、 おとめ座密度超過は SDSS 限界等級の先に伸びていることが窺える。 このように、ヘス図からは、(300, 65) 方向の超過が r = 18 から 21.5 へと 広がることを確認した。

 表面輝度 

 図37左下の差分ヘス図を使って、密度超過の表面輝度を見積もって みよう。g-r = [0.2, 0.8], r = [18, 21.5] の星を対象とする。この 範囲の星の総計は、
     Σr = 32.5 mag arcsec-2
] となる。この値はサジタリウス矮小銀河北側星流の ΣV = 31 mag arcsec-2 より 1.5 等暗い。

 密度超過の総光度 

 密度超過が 1000 deg2、距離 10 kpc, として、全体の r 絶対 等級は Mr = -7.7 mag, 総光度 Lr = 0.09 106 Lo である。

 3.5.おとめ座密度超過のメタル量 

 u-g でメタル量を分離する方法は (g-r, u-g) 面での分離により精度を増す。
     P1s = 0.415(g-r) + 0.910(u-g) - 1.28
     P2s = 0.545(g-r) - 0.249(u-g) + 0.234
を使うと、
  MS:  -0.06 < P2s < 0.06
  低メタルターンオフ: -0.6 < P1s < -0.3
で、P1s = -0.3 はほぼ、[Fe/H] = -1.0 に対応する。
 図39には P1s - r ヘス図を、おとめ座密度超過域、比較域、 差分の3つに対して示した。P1s < -0.3 で大きな超過がある が、P1s > -0.3 には統計的に有意な差は存在しない。この 図は密度超過を形成する星のメタル量は厚い円盤星のそれより低く、ハロー 星に近いことを示している。

図38.図37左下の差分ヘス図の定量解析。左列はおとめ座密度超過を 代表する g-r = [0.2, 0.3] カラー区分サンプル、右列は g-r = [1.2, 1.3] カラー区分の比較サンプルである。上=差分そのまま。中=相対比で表した 差分。 右中図の差込枠は r < 21.5 mag 星のカウント比。 下=ポアソン散布で規格化した差分。赤い星ではカウントが区別できないくらい 小さく、青い星では差分が有意に大きい。



図39.P1s カラー対 r-等級で作ったヘス図。左:おとめ座密度 超過領域。中:図37に述べた比較領域。右:左ー中の差分。 P1s < -0.2 で大きな超過があることが判る。 P1s > -0.2 には統計的に有意な差は存在しない。これは、 おとめ座密度超過を形作る星のメタル量は円盤星より低く、ハロー星に 近いことを示す。

 3.4.関連する塊りや密度超過 

 Newberg et al 2002 の密度ピーク 

 Newberg et al 2002 は SDSS 赤道 δ = 0 データを調べ、(l, b) = (297, 63) に密度ピークを発見した。

 RR Lyr 

 Vivas et al 2001 は QUEST サーベイのデータから発見した RR Lyr を使い、 銀河中心から 20 kpc、(l, b) = (314, 62) に密度超過を見出し、それを "12.4h 塊り" と呼んだ。同じ塊りが、 SDSS の RR Lyr 候補星サンプルの中に 見出された (Ivezic et al 2000, 2003, 2004c, 2004d)。Wozniak et al 2004 は Northern Sky Variability Survey = NSVS RR Lyr サーベイで 同じ方向に密度超過を見出した。

 2MASS M-巨星の選択基準 

 Majewski et al 2003 の方法で 2MASS データから M-巨星を選び出した。 さらにサジタリウス矮小銀河星流に属する M-巨星候補を用いて、選択基準の 最適化を行った。また、 RR Lyr から推定される星流距離を用いて、平均 K バンド絶対等級を導いた。距離 D = 10 kpc 付近に対しては, J-K = [1.0, 1.3], K = [9.2, 10.2] を選択基準とした。
 この基準で選んだ星は全天で 75,735 星あった。大部分は銀河面に属して いる。高銀緯の星の分布を図40に示す。おとめ座密度超過領域に かなりの星の集中が見られる。

 5.5.銀河融合、3軸ハロー、極周回リング? 

3軸ハロー 

 我々と基本的には同じデータを使って、Newberg, Yanny 2005 は3軸ハロー を提案した。このモデルに対する主な反論としては、3軸ハローでは観測される 局所極大が再現されないことが大きい。ただし、3軸ハローが存在しないと いう訳ではない。問題はその軸比を決めることが難しいことである。SDSS データがさらに完備すれば、密度超過域をマスクしてその他のクリーンな 領域を使って3軸比を決めることが可能となるであろう。

 極周回リング 

 別の可能性として極周回リングモデルがある。しかし、これはさらに 怪しい。

 銀河の見間違い 

 密度超過方向におとめ座超銀河団があるので、銀河を星と見誤ったのでは ないかという疑問が湧く。しかし、 r = 21.5 では見誤り率は 5 % レベル であるので考えにくい。



図40.上: b > 45, K = [9.2, 10.2], J-K = [1.0, 1.3] の 189 2MASS M-巨星の分布。星の色は左下のカラーコードに則る。左下:全天の K = [9.2, 10.2], J-K = [1.0, 1.3] を満たす 75,735 星の色等級図。 右下:上の星のランベルト写像。背景グレースケールは SDSS 密度分布。 l > 0 の M-巨星数は l < 0 の 2.5 倍である。これも密度超過の 傍証である。

 6.議論 

 6.1.パラダイムシフト 

 以前のサーベイとの違い 

 測光視差は以前から用いられてきた。最近では Siegel et al 2002 が素晴 らしい仕事を行った。彼らの測光は SDSS と同程度の精度を持つ。しかし、 ここで調べた領域の広さは彼らの 400 倍大きい。この差の結果、我々は モデルに頼らず、銀河系の構造を直接調べられるようになった。また、その ようなマッピングの結果、副構造を同定し、解析モデルを導く際にマスクを 掛ける等の事前処理が可能となった。SDSS の特性は以下のようである。

 1.主な対象は主系列星 

 SDSS で検出された星の大部分は主系列星である。それらはかなり良く決まった カラー等級関係を持つ。そこで、正確なカラー測定から、光度を得、さらに 個々星の距離を求めることが可能となった。 0.02 等精度の測光から求まる 距離精度は 15 - 20 % である。また、同じ塊りに属する同じ年齢とメタル量を 持つ星同士の相対距離精度は 5 % 以下である。
2.15 - 20 kpc まで到達 

 限界等級 r = 22 mag のお陰で、約4千8百万の主系列星を使って 15 - 20 kpc までの空間が探索可能となった。カラーによって、対象星の距離範囲が大 きく変化することを利用して、近い方では太陽の銀河面高度 25 pc から遠い方 では 10 kpc 遠方の密度超過までが研究対象となった。

 3.3次元構造 

 天空の広い領域を観測した結果、銀河系の3次元空間の構造を直接 調べられるようになった。

 4.u バンド測光 

 u バンド測光は低メタル星の検出に有効である。その結果、高メタル星との 空間配置の違いを直接調べられる。


 6.2.ベストフィットモデル 

 以前の研究との比較に入る前に 

 表10には指数関数型円盤モデルを採用した場合のパラメタ―を載せた。 以前の研究との比較に入る前に、様々な効果、特に連星率がモデル作成の際に 考慮されているかどうかが不明な場合、それらの影響が大きいので比較自体が 無意味になる可能性があることを注意しておく。以降では各研究ではそれらの 効果は考慮されていると仮定して比較を進める。

 円盤のスケール高 

 我々が得た薄い円盤のスケール高 300 pc は連星率 35 % を仮定して得た。 この値は標準的な値 325 pc より約1割小さいが、最近の研究、Robin et al 1996, Larsen,Humphreys 1996, Buser et al 1999, Chen et al 2001, Siegel et al 2002 が採用した値 240 - 350 pc の中ほどに位置する。
 厚い円盤のスケール高 900 pc も Siegel et al 2002, Buser et al 1999, Larsen, Humphreys 1996 などの値とほぼ一致するが、 Robin et al 1996, Ojha et al 1999, Chen et al 2001 の 580 - 790 pc より 20 % 大きい。

 厚い円盤の規格化 

 厚い円盤の規格化は 12 % で以前の研究の結果より大きいが、最近の Chen et al 2001, Siegel et al 2002 の 10 % 以上という結論とは整合する。 規格化が 10 % 以下になると χ2 の値が大きくなる。 特に、初期モデルに特徴的な "低い規格化+高いスケール高" の組み合わせ、 Gilmore, Reid 1983, Robin, Creze 1986 Yoshii et al 1987, Yamagata, Yoshii 1992, Reid,Majewski 1993 は SDSS データからは全く 推奨されない。これ等の研究の基本的な共通点はシングルビームサーベイ、 通常は北銀極、に準拠していることである。しかし、1本または数本の 視線方向では4.3.9.節で述べた多パラメタ―モデルに固有な縮退を 解くには不足である。それらのパラメタ―は局所極小に陥っていて、 銀河系全体の記述には不足なのである。

スケール長 

 薄い円盤のスケール長 2.6 kpc は最近の Ojha et al 1999, Chen et aal 2001, Siegel et al 2002 と合致し、伝統的な 3 - 4 kpc より短い。厚い円盤の スケール長 3.6 kpc は薄い円盤のそれより大きい。全体としては厚い円盤に 含まれる K-, M-矮星の質量、光度は全体(厚い、薄い円盤、ハロー)の 23 % であり、横向き銀河での値 Yoachim, Dalcanton 2006 と大体一致する。

図41.右上枠:実線=薄い円盤の等密度線。点線=厚い円盤の等密度線。
(銀河中心周りが低密度になって いる! )
モデルパラメタ―は表10より。R = 8 kpc 付近の2つの四角枠=銀河系 モデルの円盤パラメタ―を決める観測データが得られた領域。 下図:与えられた R の外側の円盤累積質量比。 左図:|Z| > Zgiven の円盤質量の相対比。 Z 方向のデータは十分に深いが、 R 方向には円盤質量の 20 % 程度しか 含まれていない領域のデータからの外挿であることに注意。


 6.3.円盤内副構造の検出 

 構造論から形成論へ 

 円盤質量比、スケール長などは現在の銀河系の構造の理解には重要である が、それだけでは銀河系円盤形成の問題に挑むには不十分である。むしろ 全体構造からの逸脱にこそ形成に関する情報が多く含まれている。

 厚い円盤の形成シナリオ 

 厚い円盤の形成シナリオは以下の3つに分類される。
(1)薄い円盤からのゆっくりした星運動の加熱。Spitzer, Schwarzschild 1953, Sellwood,Carlberg 1984
(2)ELS62 的な一斉陥没直後の圧力準平衡を維持したゆっくりな陥没。 Larson 1976
(3)銀河融合で薄い円盤がかき乱される、または前駆銀河が直接沈着。 Quinn et al 1993, Abadi et al 2003, Brook et al 2004
シナリオ(1)、(2)は渦状構造を作れない、厚い円盤にメタル量勾配がない 等の理由であまり支持されない。最近は ΛCDM 階層的融合モデル に基づくシミュレーションとの一致から(3)シナリオが注目されている。

 数値シミュレーションの特徴 

 Abadi et al 2003 は楕円体成分が支配的な銀河への沈着の計算を 行った。銀河系とは違うが、参考になる結果は、
(1)厚い円盤は低角度で降着してきた衛星銀河から直接作られる。
(2)破砕した銀河からの星は動径方向に一様には散らばらず、破砕した時の 半径の円環状に分布する
(3)同様の経過で形成されたなら、銀河系円盤には早期の降着事件の痕跡が 残っているはずである。
厚い円盤内の密度超過 

 薄い円盤、厚い円盤は局所的な密度超過の存在で複雑になり、またリング 状構造などは Abadi et al 2003 の述べたような機構を支持する。一角獣座 星流に加え、我々はさらに2つの密度超過を厚い円盤内に発見(図27)した。 それらは、リング構造とも星流とも取れる。それらが厚い円盤形成時、おそらく  8 - 10 Gyr 以前、の残存構造とは思えないが、もっと最近の降着事件の 名残りである可能性は強い。

 一角獣座星流 

 一角獣座星流に関しては、3次元マップはこれが動径方向にはっきり区切 られていて、円盤のフレアリングという仮説を否定する。マップはまた、 これが銀河系を取り巻く一様な濃さのリングという説も否定する。 Rocha-Pinto et al 2003 はこの構造は融合過程にある矮小銀河であるという仮説を立てた。 論文IIでは一角獣座密度超過の星のメタル量が厚い円盤とハローの中間に あることを示す。

 星流に満ちている円盤? 

 このような発見は、ハローと同様、厚い円盤も星流と銀河融合残存物で 満たされているという描像へ導く。今回のサーベイの結果を銀河系全体に外挿 すると、 15 - 30 くらいの密度超過が存在しそうである。それらは円盤形成 の情報を秘めているだろう。


 6.4.ハロー 

 べき乗則 

 ハローは軸比 c/a = qH = 0.5 - 0.8 で、密度則は r-nH、nH = 2.5 - 3、 のべき 乗則である。r < 20 kpc でのベストフィット値は qH = 0.64, nH = 2.8 である。これらの結果はブザンソン 銀河系モデル、qH = 0.6 - 0.85, nH = 2.44 - 2.75 とよく一致する。

フィットの良さ 

 ハローのフィットは円盤に比べると悪く、reduced χ2 = 2 - 3 である。似たようなフィットの悪さは別の方法を使った他の 研究でも報告されている。
複合モデル? 

 フィットの悪さは観測装置の精度やフィットの方法のためでなく、単一成分 モデルそのものにあるのではないか?例えば、球状成分+平坦成分の複合ハロー モデルのフィットは単一モデルを上回る。このモデルでは、平坦成分は初期の 一斉陥落で形成され、その後の降着は球状成分を作ったと考える。

 直接の証拠が欲しい 

 もし球形成分が降着からなるなら、不規則で星流的かつ塊り状の残存構造が 見つかるだろう。しかし、実際には 1-2kpcスケールでは何の塊りも 見つからなかった。reduced χ2 が改善したのは二重べき乗則 の調整によってであった。


 6.5.おとめ座密度超過 

 特徴 

 おとめ座密度超過の特徴は、(1)大きな角サイズ、(2)銀河系中心に 近接、(3)低輝度、(4)外郭がはっきりしている、(5)低メタル量、 である。これらから最もありそうなモデルは銀河系と低メタル矮小銀河の 融合過程である。現在のデータからはこれが潮汐流なのか、破砕残存核 なのか決められない。

 サジタリウス星流 

 Martinez-Delgado et al 2007 のシミュレーションによると、サジタリウス 星流の先行腕が銀河面と交差する付近におとめ座密度超過が位置する。この 関連性を確認するには、おとめ座密度超過星が大きな負の視線速度を持つことを 確認する必要がある。
 三角座-アンドロメダ座構造 

 Rocha-Pinto et al 2004 は三角座-アンドロメダ座構造(TriAnd)同定し、 Majewski et al 2004 は 2MASS M-巨星の l = [100, 150], b = [-40, -20] と いう大きな構造を発見した。これ等の発見はおとめ座密度超過のような構造が ハローには極めて普通なのかもしれないという考えに導く。


 6.6.将来のマップ 

 SDSS の改善 

 サーベイは星の数による制限が必然であるが、将来は大きな 改善が見込める。それは、 SDSS がより多くの時間を銀河系に割くからであり、 低銀緯の画像、恒星スペクトル、SDSS+POS I からの固有運動決定などが 期待できる。

 GAIA 

 GAIA は V = 20 より明るい星の距離とスペクトルを撮る。これは 測光視差の改善に大きな力を発揮するはずである。現在この不定性が パラメタ―決定誤差の最大の原因となっている。
Pan-STARRS と LSST

 どちらも SDSS より深い測光が可能である。例えば LSST は 5等 深いので 150 kpc まで達する。これらのデータは数十億星を含み、 全局所群を対象とするであろう。