RCB Stars and Their Circumstellar Material


Feast
1986 IAU Coll. 87, 161 - 166




 アブストラクト 

 RCB 星は約 200 km/s で星から放出される星周ダストとガスに囲まれている。 星周シェルは小雲の集合で、個々の小雲はシェル全体の領域の 0.03 を占める。 平均して小雲は 40 日に1回放出される。それは既知の RCB 星の脈動周期と大 体同じである。  ダストの赤化則からそれらは a = 100 A の小炭素粒からなることが分かる。 シェルからの L バンドフラックスは 1000 - 2000 日の間に 1 - 3 等の変光 を示す。平均質量放出率は 10-6 Mo/yr である。


 1.イントロダクション 

 小雲モデルを支持する証拠は以下の通り、

 (1)彩層輝線スペクトル 

 典型的な減光期に、星の吸収スペクトルは彩層輝線スペクトルに置き換 えられる。その時間変化は例えば日食の時のように、光球の縁から離れていく のと似る。このような分光的変化は、まず星の本体、それから順に彩層が下から 隠されると考えないと説明しにくい。

 (2)減光期吸収線の青方変位 

 急速な減光期に、 D 線と H, K 線が -200 km/s ずれる。明らかに吸収 物質が星から高速で離れている。ススが星表面の上方で生まれ、輻射圧で吹き 飛ばされ、ガスを引っ張っていくと考えるのが妥当である。
 遮光の様子は毎回変わる。しかし、多くの場合、≤ 5 日の初期急降下、 ∼ 20 日の緩い低下、非常にゆっくりした回復が起こる。可視域での 総減光はしばしば 8 mag に達し、極小からの回復時間は 500 - 1000 日 である。RY Sgr の 1967 - 1969 に起きた深い極小はそのような変化を伴い、 多くの測光、分光観測が行われた。そこで、これを「典型的」とする。 初期減光は連続光レベルの低下と一致し、雲が恒星全面を覆うまでの時間と 考えてよいだろう。それと放出速度 200 km/s と合わせると、粗いモデル を作ることができる。この「典型的な」ケースでは小雲は星中心から半角 20° の円蓋を張る。これは全立体角の 1/30 に相当する。彩層が 覆われる期間は緩い光度低下期に相当する。

 (3)P Cyg 型吸収線 

 RCB 星が非常に暗いときには、スペクトルはD, H, K, HeI 3888 線の幅広い 輝線を示す。その半巾は膨張速度でほぼ一定で、ライン内に構造がある。
もっとも単純な解釈は、あらゆる方向に飛び散る小雲に引っ張られるガス からの輝線の重なりを見ているというものである。その構造と変化の詳細な 観測と研究は重要であろう。それから膨張物質の構造に関する情報が得られる からである。 今得られている情報だけからでも、(1)幅広のラインの中央は 星の視線速度に一致する。大雑把には、RCB 星の周りに小雲の群れが球対称に 分布している。遮光を起こした小雲はその内の一つが単に視線方向に飛び出し たに過ぎない、(2)輝線の構造とその時間変化はある時刻をとるとその時に 存在する小雲の数は比較的少数である。 将来は輝線を放つ小雲の数が分かるだ ろう。輝線成分の相対強度とその時間変化から個々の小雲の質量も出せる。

 これに関連して、10830 He I の研究が大事である。 1978 年 1 月の R CrB 回復期に Querci, Querci 1978 はこのラインが P Cyg プロファイルを持つ ことを発見した。おそらく、視線方向の小雲による吸収と視線からずれた小雲 からの輝線が重なった結果であろう。吸収線成分の視線速度は -240 km/s で あった。Alexander 1972 は類似した P Cyg プロファイルを RY Sgr 極小期の D, H, K 線で見出している。Querci, Querci 1978 の観測後 1978 年 7 月に Zirin 1982 は 10830 A He I 吸収線を見出さなかった。 He I 5876 吸収線 が強かったので、当然このラインも存在すべきであったのだが。その代わり、 彼は 10822 A に「巨大な吸収」を見出した。10830 A 吸収が -220 A ずれた と考えるのが妥当であろう。低分散ではシェルの青方変位 D 線は極大寸前で 消えた。しかし高分解分光を行えば見えるのでないか。これらの観測は膨張シ ェルの減光が探知できないほど薄くなっても、原子吸収線で検知できる点で 重要である。

 (4)赤化則 

 回復期には通常の星スペクトルが見えるが、減光と赤化を受けている。Alexander et al 1972 と Feast 1979 はシェルによる赤化則を導いた。


 (5)赤外超過 

 赤外超過は XX Cam を除く RCB 星の特徴である。Feast, Glass 1973, Glass 1978, Kilkenny, Whittet 1984, Walker 1985 による観測から、赤外超過は 700 - 900 K 黒体と分かった。それ以前 Forrest et al 1972 による超過は 遮光期に変化しないという発見はこれらの観測でも確認された。例として、 図1に R CrA の極小期変光曲線を示す。


図1.V CrA の極小。星放射による J は大きく落下するが、低温星周 物質からの L は変化しない。
極小時に放出された雲は赤外超過の 強さを変えないことから、小雲はそれほど大きくないことが分かる。明らかに 10個かそれ以上の小雲が常時存在している。

 RY Sgr の変光 

  図2には RY Sgr の J, L 変光曲線を示す。星本体の J とシェルからの L が同期して変化しているのは星の光がシェルを加熱していることを示す。


図2.R Sgr の J, L 変光曲線。どちらも 38 日周期を持つ。


 2.単一群としての RCB 星 

 二色図 

 図3は 12 RCB 星の (J-H)-(H-K) 図である。3つの高温星 MV Sgr, DY Cen, V348 Sgr を除くと、極小時を含む全ての観測点が狭い帯の中に入ることが わかる。個々の星はこの帯に沿って動き回っている。これは、 RCB 星の特性が 星本体、シェル双方ともに、極めて狭い範囲に限定されることを示す。

 HdC 星 

 白丸は HdC 星であるが、RCB 星がもしシェルを伴わなければ予想される位置 にあることは興味深い。Glass, Catchpole 1974 は正常星の2色図が黒体から外 れる原因を調べ、それが主に H- オパシティによることを明らかに した。HdC 星では H- オパシティの働きは弱く、それが HdC 星の 位置を黒体に近づけているのである。

 RCB 星表面温度 

 Schonberner 1975 は RY Sgr と R CrB の温度を Teff = 7000 K とした。 しかし、 RCB には様々な強度の C2 吸収帯が見られる。中でも S Aps (図3のバツ印)は非常に強いバンドを示す。これらからは、5000 K まで 下がる温度が推測される。それは炭素量が大きいせいかも知れないし、表面温 度の不均一によるのかも知れない。二色図上の S Aps の位置は温度が低いため かも知れないが、弱い星周減光があるのかも知れない。この問題に関し、興味 深いのは、 Espin 180, 1894, 1900 の観測で、一週間ほどの間、 R CrB が 強い C2 バンドを発達させたが、その時期 R CrB は極大期にあった。 RS Tel は Payne-Gaposchkin 1936, 1963 によると R8 の非常に冷たい RCB 星であるが、 Bidelman 1953 は C2 が弱いとく、 UBVRI データ(Kilkenny, Whittet 184) からはこの星が異常に低温という証拠は 得られなかった。Payne 1928 はこの星を R0 とした。初期の分光観測データ は再チェックの必要がある。Saio, Wheeler 1984 は 7000 K 以下では脈動振 幅を安定に保てなかった。このように、 RCB 星の温度巾は未定である。

 RCB 星は脈動変光星か? 

 全ての RCB 星は脈動変光星だろうか? Kilnenny 1982 は RY Sgr が平均周期 38.6 日で 1 秒/日 の割合で短くなっていくことを見出した。これ は Schonberner 1977 の計算とも合う。すべての RCB 星はわずかな変光を極大 時に示すので、脈動変光星なのかも知れない。しかし未確定である。 Fernie et al 1972 は R CrB に 44 日周期を見出した。Griffin 1985 は視線速度の変化が 49 日周期を持つとした。また、 Batesin 1972, Kilkenny, Flanagan 1983 は UW Cen に 43 日周期があるのではないかと述べている。

図3.12 RCB 星の (J-H)-(H-K) 図。モニター観測結果を全て載せた。 バツ印= S Aps. 白丸=HdCs.直線=黒体。曲線=正常星。

Kilkenny 1983 の観測 は S Aps が現在 40 日付近で変光していることを示すが、周期 120 日 が以前には言われていた。一層の観測が必要なことは明らかであるが、しかし、 RCBs が大体 40 日の周期を有するという仮説は捨てきれない。

 星とシェルの相対光度比 

 ここまで、星とシェルの温度が狭い範囲に集中することを強調してきた。この 近縁性は星とシェルの相対光度比に及ぶ。極大時の J 平均値と L 平均値から 計算した (J-L)=2.48±0.12 はシェルの相対光度がファクター3以内に 収まることを示す。


 3.星周粒子 

 減光則の観測 

 スス粒子のサイズは赤化則から決められる。この法則を安全に導くために、 Alexander et al. (1972) に従い、スペクトルが正常な時期の観測結果を用いるべきである。 分光と測光がそろったデータは少ないが、分光データがない場合も推定 で大丈夫そうな位相を選んで取った、8 RCBs の UBVRIJ データを用い、 Kilkenny et al 1975, Eggen 1985, Bohme 1984 などが減光則を出した。相互 の一致は満足できるレベルである。

 実験データとの比較 

 図4には、観測平均値を RY Sgr の IUE 紫外データ Holm, Wu, Doherty (1982) と非晶質炭素煙(Borghesi et al 1985) と比較した。実験データに 2200 A ピーク が現れないことにあまり拘る必要はない。紫外吸収は粒径分布や粒の形に鋭敏 だからである。こうして、完全な一致ではないが、観測は a = 100 A 程度の 炭素粒で説明できそうである。 R For のような炭素星ミラで観測された 0.1 - 0.2 μm (Feast et al 1984) になると合わせることは難しい。

 中性減光の原因 

 前に述べたモデルに則ると RCB 星の初期落下は最初に生まれる星よりも小 さく不透明な雲によるものである。放出と共にその雲が広がって、星の表面を より広く覆うようになる。中心対縁の効果は別として、最初の落下はほとんど 星カラー一定で起きると期待してよい。Alexander et al が示したように、 後期には輝線スペクトルが現れ、解釈を複雑にする。光度落下初期に減光が 中性であることは Fernie et al 1972 が示した。Catchpole, Coulson が RS Tel の減光開始直後に行った UBVRIJHKL 測光もまた、減光量が波長により ほとんど変わらないことを示す。これらの観測はモデルの正当性を支持する。 落下期には上昇期より大きな粒子が存在するというモデルは全く魅力的でない。

 L の長期変動 

 R CrB において、 Strecker 1975 はダストシェルからのフラックスが変化 することを見出した。その周期は 1100 日であった。

図4.RCBs の UBVRIJ 減光。実線= IUE データ。点線=非晶質煙 の実験データ。上 a 40 A, 下 a 150 A.

その後の観測は変化が不規則であるが、そのタイムスケールは 1000 日程度で あることを示した。RY Sgr の場合、38 日の変光周期が、データの散らばりに寄与している。 しかし、その場合でも Menzies 1985 は 1000 日程度の変動を発見した。10 個の RCB 星に対する広範な観測は L では 1 - 3 等の変化が起きることを示した。 光度低下、または上昇が 1000 - 2000 日続くのが典型的である。Menzies 1985 は RY Sgr においては最近の 2 回の遮光極小の後に L の極大が続くことを指摘 した。ただし、これは RCB 星一般に起きることではないようだ。


 4.モデルをもっと考えると 

 (1)すす放出量 

 1967 年の遮光極小の時、遮光モデルでは星の近くから, 半角 20°: のス スが 200 km/s で飛び出した。その 200 日後の回復開始は雲が光学的に薄く なってきたことの証である。それらの数字と、ススのサイズ 0.01 μ から 見積もると各放出ごとの炭素量は 10-8 Mo である。放出ガスの 組成が大気と同じと仮定すると、これは 10-7 Mo に相当する。

 平均遮光間隔 

 3つの RCB 星 R CrB, SU Tau, S Aps の遮光が統計的に研究された。 Sterne 1935, Howarth 1976. それらの平均遮光間隔は 1026, 1143, 1249 日 で極めて似通っている。平均は 1139 日となる。 初めの二つ R CrB, SU Tau の場合、極小間の平均 間隔は、完全な回復前に現れる新しい極小のために、上の値の約半分となる。
(よく分からない。 )
上の数字で重要なことは、我々の視線方向に特別な意味はないので、放出現象 は頻繁に起きているに違いないということである。もし RY Sgr 1967 遮光を 典型例とするなら、1回でススが星表面を覆うのは全体の 1/30 である。すると 放出の平均間隔は 1139日/30 = 38 日となる。この数字は明らかに脈動周期ごと に小雲が放出されることを意味する。これは RY Sgr の遮光が脈動位相の狭い幅 で起きる (Pugach 1977) という観測と一致する。すると、全体として、星からの 質量放出は 10-6 Mo/yr となる。一方 Whitelock のモデル計算に よると、30 - 40 日に一回の放出で観測される L 等級を維持できる。こうして 遮光と赤外超過の双方が説明される。
 回復期の増光速度 

 極小からの回復が遮光開始 200 日後とすると、我々のモデルでは遮光の第1 開始から 400 日後には極大から 1.5 等下になり、
(バンドが分からない。 )
800 - 1000 日後に復活すると予想される。これらの数字は RY Sgr で大体合う。

 (4)L 等級変化の意味 

 L 等級が 1000 - 2000 日続く増光または減光を示すことは、質量放出率に このくらいのタイムスケールでの質量放出率変化があることを意味する。 この L 変化が脈動振幅と相関するかどうかを観測的に確認することは大事で ある。

 (5).ダストのカラー温度 

 我々の粗いモデルでは、ダストからの積分フラックスのカラーに対し、 1000 K という値を与える。これは観測される 800 K より高い。しかし、その 原因はモデルの単純化であろう。

 残された疑問 

(1)ススが凝結するのは星表面からどのくらい上か?

(2)なぜ、ススができる範囲が限られるのか?

(3)形成ダスト量が 1000 日タイムスケールで変化する理由。

(4) RCB 星は全て脈動変光するのか?