W51 HIIR 複合の 1.39°x1.33° 12CO, 13CO J=1-0 輝線の 47" - 47" マップを作製した。W51 視線方向の構造を空間、運動 で分離し、(l, b, V) = (49.5, -0.2, 61) を中心に、M = 1.2 106 Mo, Δl x Δb = 83 x 114 pc の W51 GMC を確認した。W51 GMC の南側尾根に沿って M = 1.9 105 Mo, 22 x 136 pc, V = 68 km/s の細長い第2分子雲が存在する。当初 W51 を定義 していた5個の連続電波源の内、λ 6 cm で最も明るい G49.5-0.4 が 空間的にも視線速度でも W51 GMC と一致する。一方3つの電波源 G48.9-0.3. G49.1-0.4, G49.2-0.4 は第2分子雲と共にある。 | 文献にある吸収線データから、残りの電波源 G49.4-0.3 は W51 分子雲中に あると思える。W51 分子雲はサイズの点では円盤内分子雲中で上位 1% に入る。 質量からは上位 5 - 10 % に入る。W51 GMC は近傍分子雲のどれよりも巨大で あるが、その平均 H2 柱密度は特に高いわけではなく、また平均 空間密度も近傍分子雲と同程度である。通常の MC では外側の、希薄で星形成 活動の無い領域に質量の大部分が存在するが、 W51 GMC でも同様である。 星形成活動は、第2分子雲と W51 GMC との衝突で始まったのではないか? |
W51 = HIIR/MC 複合体 W51 は円盤に存在する最も明るい SFRs の一つ Harper, Low (1971) である。W51 は明るく、多数の O-型星(Bieging 1975) を含み、OB アソシエ イションを形成する過程の早期段階にあると考えられている。HIIRs は Mufson, Listz (1979) 分子雲複合内にあると考えられる。これらから W51 は OB アソシエイション 形成の初期段階にあるらしい。 W51 は単一の天体か W51 方向の視線はサジタリウス腕の接線方向であり、腕に沿って数 kpc 伸びている。このため、多数の連続電波源が単一の天体なのか、互いに 無関係な星形成域が重なって見えるのか、決めにくい。 |
2次元マップ、3次元マップ 銀河面中での W 51 の位置を理解するため、 図1には 10 km/s 区切りで CO ライン強度をマップ化した。また図2には、速度 V, 銀経 l, 銀緯 b で 作った3次元等表面密度面を示す。この3次元像には、速度分散 3 - 5 km/s の多数の小分子雲と共に、20 km/s 巾の大きな CO の集中も見られる。 12CO 放射の多くが、円周回転速度 54 - 57 km/s を超える速度 を持つ。これは 21 cm HI でも以前から気が付かれていて、渦状密度波内の ガス流と解釈されている。 速度分離 原理的には分子線の速度情報を個々の分子雲の分離に使えば、 W 51 領域内 の分子雲の性質と広がりは分かるはずである。しかし、過去の研究は分解能が 低く、観測点が飛び飛びで、この試みを実行に移せなかった。今回はビーム 巾限界のサンプリングを 12CO (J=1-0), 13CO (J=1-0) で行い、同一視線方向の雲を分離した。 |
3.1.速度構造ガウシャン分解各点での CO スペクトルをガウス分布の重ね合わせでフィットする。図5に その結果をまとめた。上はは速度ヒストグラムで、下はガウシャン成分の総 フラックスと速度の関係である。どちらも、大部分が V = [0, 25] と [35, 75] km/s の範囲に集まる。[0, 25] 成分は近傍分子、[35, 75] 成分はサジ タリウス腕の分子ガスである。 速度分布のピーク 幾つかの速度ピークが 12CO と 13CO のどちらにも 現れる。それは 7, 15-25, 44, 49, 53, 60, 63, 68 km/s である。60 km/s と 63 km/s が二つの主要ピークである。分子速度分布の中心速度は 58 km/s なので、マークしてあるが、そこに目立つピークはない。 7, 14-25 km/s 成分 細い 7 km/s 成分はほぼ全面に分布し、間違いなく近傍分子雲である。 15 - 25 km/s には幾つかのはっきりした速度構造がある。それらが互いに物理的な 関係を有しているかどうか不明である。 49 と 53 km/s 成分 49 と 53 km/s 成分はもっとバラバラで個々に独立な雲か、かって大きな雲 であったものの断片かはっきりしない。 53 km/s 雲は (l, b) = (49.4, -0.3) で明るく、 CHIIR G49.4-0.3 に付随する。 58, 60, 63 km/s 成分 63 km/s 成分はほぼ 1° の長さに広がり、図3の 66 km/s 枠にはこの 成分のウィングが良く見える。60, 63, 68 km/s 成分は Burton 1970 が 21 cm HI 観測で名付けた「高速流」に対応し、サジタリウス腕に沿って流れ下る ガス流とされる。60, 63 チャネルマップを良く調べると、完全には一致して いない事が分かる。 (この後 60, 63, 66 km/s の 詳細なチェックの話が分からなかった。 ) さらに、63 km/s の東側からの広がった放射は、 60 km/s マップでの糸状の 構造の直ぐ上にある。 (図に 63 km/s 成分なんてないし、 60, 62, 64 を見てもどれが広がった放射でどれが糸状構造か分からない。 ) 一方 58 km/s マップは明るく稠密な放射が支配的で、 60, 63 km/s 成分に 見られるような希薄で広がった放射は見られない。これらの特徴は一つの雲の 内部にある運動構造を反映していると考えられる。50 と 60 km/s マップに 見られる明るい CO 放射は W51 で最も明るい連続波電波源 G49.5-0.5 と 同じ場所なので、我々は 58-60-63 km/s 成分を W51 分子雲と見做す。 |
![]() 図5.上:CO データキューブをガウシャンフィットした時のガウシャン数の ヒストグラム。太線=12CO、細線=13CO。 下:ガウシャン成分の総強度のヒストグラム。この図で 58 km/s 成分は強いピークではないどころか窪みである。しかし、この速度 は明るい電波源に付随する分子の速度である。大雑把には H2 柱密度分布と考えられる。 68 km/s 成分 68 km/s 成分は東西に 1° の長さで画面を横切り、Burton 1970 が見つけた HI の「高速流」の一部を成しているようだ。 68 km/s 糸状構造は ≥ 63 km/s で W51 分子雲に付随する放射の南縁に 位置する。W51 分子雲がそのようにはっきりと断ち切れることは、二つの雲が 視線上で偶然重なった時に起こりそうにはない。したがって、これは 二つの雲が物理的に関係していることを強く示唆する。しかし、それにも 拘わらず、片方が線状に伸び、片方が円形に固まっているというのは、 お互いが独立な天体であることを示しているように見える。 |
3.2.W51 と 68 km/s 分子雲の性質![]() 表1.W51 と 68 km/s 分子雲の性質 距離 この二つの分子雲には 4/5 HIIRs が含まれる。この領域をひねり出だすのは 該当するガウシャン成分を用いた。W51 分子雲は 7.0 kpc Gemzel et al. (1981) で遠距離側である。 68 km/s は見かけ W51 雲に付随しているので同じ距離と見做す。その 他の雲の距離は不明である。 雲質量 W51 と 68 km/s 成分の性質を表1に示す。表の質量の一つは Mvir = 209 R ΔV2 で求めた。ここに R は雲の半径 (arcsec) で、 ΔV は線幅 FWHM (km/s) である。もう一つの雲質量は、 13CO/H2 = 1.5 10-6 を仮定して 13CO ライン強度から求めた。 |
![]() 図7.様々な HIIRs に付随する分子雲の 13CO と 12CO 積分強度ヒストグラム。強度は 3 K km/s で断ち切っている。単純にはこのヒ ストグラムを H2 の柱密度ヒストグラムと見做せる。 |
分子雲と星形成の関係 分子雲を同定したので、それらと大質量星形成の関係が次の問題となる。 図6には 12CO, IRAS 60 μm, 21 cm 電波連続波のマップを並 べた。12CO マップは W51 と 68 km/s ガスに対応する [56, 71] km/s 帯で作った。 IRAS 60 μm は銀河面中心線より少し下を横に伸びて いて、21 cm 連続波放射と一致する。電波マップに張り付けた名前のうち、 W51C は非熱的電波スペクトルを有し、SNR である。他の電波源は熱的スペク トルを持ち、 CHIIRs である。 連続電波源 連続電波源 G49.4-0.3, G49.5-0.4 は以前は W51A と呼ばれていた。G49.5-0.4 領域には赤外源 W51IRS1、水メーザー群 W51 North, W51 South, W51 Main が含まれる。 G48.9-0.3, G49.1-0.4, G49.2-0.4 は以前 W51B と呼ばれていた。各領域には O-型星が期待される。 個々の HIIR 図6を見ると、電波連続波源の多くは CO, FIR のピークに対応している。 位置が重なるだけでなく、連続波源からの再結合線の速度は 12CO 観測と一致する。G49.5-0.4 HIIR の再結合線速度は 59 km/s であり、 W51 分子雲からの 12CO と場所が重なる。また、 68 km/s 分子雲内に ある HIIRs は再結合線速度 66 km/s (G48.9-0.3), 72 km/s (G49.1-0.4), 66 km/s (G49.2-0.4) である。 |
最後に、G49.4-0.3 HIIR 領域の再結合線速度は
53 km/s で 53 km/s CO 分子雲と位置が重なる。ただし、この HIIR を伴う
分子雲は W51 GMC を規定する速度帯から外れている。G49.4-0.3 領域の HI,
H2CO スペクトルには 63 - 65 km/s での吸収線が観測されている。これは
G49.4-0.3 が W51 分子雲の背後にあることを示す。ただし、これだけでは
G49.4-0.3 が W51 分子雲のすぐ後ろにあり物理的につながっているのか、
ずっと後ろにある無関係の天体なのかは決められない。
その他の HIIRs は? W51 分子雲内にまだ他に大質量星形成箇所がないかを調べるため、IRAS PSC で 少なくとも二つの "high quality" マークが付き、 SED が長波長側に上が って行く天体を探した。この基準は埋もれた星形成域に特徴的な FIR カラー を持つ天体を探す Walker et al. (1989) のに有用である。マップ領域内にあり、上の基準に合致する 40 天体の中から 25 μm で最も明るい 7 天体は W51 と 68 km/s 雲の接触面に沿って 並んでいる。図6の IRAS 60 μm マップを目視すると、明るい点源が この尾根沿いにあることが分かる。他の点源はほぼ確実に前景天体であるが、 仮に W51 と同じ距離にあると仮定すると、その FIR 光度は 40,000 Lo 以下 であるので、中心星は B0.5 より晩期型となる。このように、 W51 領域の O-型星は分子雲の最も南側に限られる |
図7=積分強度ヒストグラム 図7には 様々な HIIRs に付随する分子雲の 13CO と 12CO 積分強度ヒストグラムを示す。強度の強い方のテイルは星形成に関与する 高柱密度領域に対応する。また分子雲の大部分では可視減光数等程度であり、 中心核部の占める質量は相対的には小さいことも分かる。 |
密度 W51 は一般的な分子雲より大きい。しかし、その H2 平均密度 波 40 cm-3 は特に大きいわけではない。W51 は分子雲収縮の進ん だ段階にあるとは言えない。強い星形成活動は外縁部に起きた局所的な変動 であろう。特に G49.5-0.4 HIIR は 3 pc の領域で H2 平均密度 5 104 cm-3 という異常な値を示し、105 Mo のガスを含む。これは近傍分子雲に比べ 2 - 3 桁高い値である。 |
HIIRs W51 には 58-60-63 km/s 雲 (W51 GMC)と 68 km/s 雲の二つがある。 W51 GMC には最も明るい HIIR G49.5-0.4 があり、68 km/s 雲には G48.9-0.3, G49.1-0.4, G49.2-0.4 が含まれる。5番目に明るい G49.4-0.3 は、吸収線速度から、W51 GMC の背後にあると思われる。 分子雲 W51 GMC は 1.2 106 Mo, 68 km/s は 1.9 105 Mo である。W51 GMC は直径 97 pc のほぼ円形で重力拘束系に見える。 銀河面内にある約 5000 の GMC の中で W51 の大きさは上位 1 % に入り、質量では上位 5 - 10 % に入る。 68 km/s 雲は 136 x 22 pc の細長い形でこのような形は珍しい。 |
分子雲の全体構造 W51 GMC の平均体積密度は近傍 GMC と比べ普通である。全体構造も外層の 低密度部に質量の大部分があるという点で普通である。68 km/s 雲は平均 体積密度では調べた中で最高であるが、シートを横から見た効果かも知れない。 W51 の星形成活動は雲全体の収縮の結果ではなく、外力による局所的な変異 が原因ではないか? 星形成活動の原因 W51 の星形成活動は W51 と 68 km/s 雲の衝突が原因かも知れない。 こう考えると、埋もれた O-型星が 70 pc に亘って並んで存在することや、 何故巨大星形成が W51 GMC の南端に限られるかが自然に説明される。 |