The Maser Strength of OH/IR Stars, Evolution of Mass Loss and the Creation of a Superwind


Baud, Habing
1983 AA 127, 73 - 83




 アブストラクト 

 OH/IR 星の統計的解析を行い、 AGB 進化における強いマスロス =超星風の役割を探った。第1に、LOH と (dM/dt) との関係を 定量化した。第2に同じ主系列質量を持つ星でも dM/dt は大きく異なり得る。 その結果、同じ Ve なのに LOH が大きく異なることになる。 Ve は主系列質量の目安となる量なので、これは つまり、与えられた M でも (dM/dt) が時間と共に増加することを意味する。 異なる LOH の星の相対数はマスロスの加速を意味する。  こうして現れた描像では、星が AGB 上のある点(多分第1熱パルス?) を通過すると、次第に加速するマスロスが始まる。100 万年以内で外層 質量が失われる。この期間が短いので、L* は増えない。この描像は OH/IR 星の脈動の性質と良く合う。 L* と Ve の関係もダスト駆動のマスロスモデル と合う。


 1.イントロダクション 

 レイマース則では足りない 

 一般に赤色巨星からのマスロスはレイマース則で近似されるが、 幾つかの観測から、AGB 超点付近でそれよりずっと大きなマスロスの存在が 示唆されている。それらは、

(1)赤外線星の発見。
(2)Mwd が 0.58 Mo 付近に集中=MS後の進化時間に制限。
(3)マス、膨張速度、半径から PN 形成時 AGB マスロス率下限値
     数 10-5 Mo/yrはレイマース則の一桁上。



 2種の OH/IR 星 

 ここでは超星風期の星の統計的研究を行う。それらの星のサンプルとして タイプ II OH/IR 星がある。それは次の2つに分かれる。

(1)可視で既知の長周期変光星。
    P = 300 - 500 d. L = 3000 - 15,000 Lo, LOH = 1 - 10 Jykpc2.
    Ve = 5 - 25 km/s. dM/dt = 10-7 - 10-7Mo/yr.

(2)可視で見えない赤外線星。
    P = 500 - 2000 d. L は同じだが、LOH = 50 - 10000 Jykpc2.
    Ve = 10 - 25 km/s. dM/dt = 10-5 - 10-4Mo/yr.
 最近の伸展 

(i)Ve - 年齢関係
    Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) によると、 Ve = 10 - 15 km/s は M = 2 - 3 Mo, Ve > 15 km/s は M > 3 Mo に対応。

  (ii)OH 光度関数は Mms に依らない。
   これも、 Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) の発見。別に Baud 1978 は LOH が L* に依らないと述べた。

  (iii)赤外カラーと周期の相関
   Engels 1982 は OH/IR 星の赤外カラーが周期と相関するとした。彼は P > 1200 d で初めて厚いシェルができるとした。

 

 ミラと OH/IR 星の関係 

 どの Ve (Mms) に対しても同じ OH 光度関数が適用されることから、 ミラと OH/IR 星は同じ星の異なる進化段階と考える。その根拠をこの先で 述べる。新しいファクターは、マスロス率のエンベロープ質量への依存性 である。


 2.OH 光度とマスロス率 

 サヘルサイズとマスロス率 

 Elitzur et al 1976 モデルは L35 ∝ LOH を予想している。 L35 はマスロス率と相関するだろう。 Bowers, Johnston, Spencer (1981) はマスロス率とシェルサイズの関係を見出した。従って、シェルサイズと マスロス率の間に関係があるに違いない。

 表1 距離 

 表1にシェルサイズの分かっている OH/IR 星を載せた。第3列の距離は 次の3つのどれかで決めた。

(i)周期光度関係。ミラ型星。 Nguyen-Q-Rieu et al 1979.

(ii)接点距離。Vlsr > +100 km/s. Rgc=10 kpc 仮定。OH25.1-0.3, OH30.1-0.7, OH18.5+1.4 の距離は Rgc に比例する。

(iii)位相遅れ距離。

ただし、IRC-20197 と VX Sgr の距離は L = 10,000 Lo を仮定して決めた。 VY CMa の距離は星団に付随すると考えた。

 表1 シェルサイズ 

 表1第4列にはシェルサイズを載せた。アステリスクが付いているのは位相遅れ から決めたサイズで、距離と無関係。その他は OH マップで求めた角サイズに 距離を掛けて決めた。

 マスロス 

 表1第6列のマスロス率は赤外観測に基づいている。

表1.シェルサイズ測定のある OH/IR 星





図1.LOH(Jy kpc2 と シェル半径。 白丸=可視ミラ。黒丸= 不可視 OH/IR 星。

 図1= LOH と ROH の関係 

 図1で LOH と ROH の関係をプロットした。数値の エラーに拘わらず、両者の相関は明らかである。可視ミラと不可視 OH/IR 星 の間で LOH と ROH が重なっていることは、二つの 星グループが連続的に変遷していくことを示す。

   LOH = 4 ROH2 (ROH in 1016 cm)            (1)

この勾配は赤外観測からのマスロスとも良く合う。

 マスロス式  

   dM/dt = 4πρ(ROH)Ve ROH2             (2)

OH メーザーに必要な OH 最低コラム密度は 1017cm-2 である。これは水素分子に直すと

   N(H2) = 6 1020cm-2                     (3)  

OH メーザーの表面輝度はほぼ一定らしいので、式(3)が全てのメーザー源に 適用可能と仮定する。密度変化を逆二乗則として、ROH から 外側へ積分すると、コラム密度は、
   N(H2) = nH2(ROH)×ROH
である。

図2.LOH(Jy kpc2 と dM/dt (Mo/yr) の関係。 マスロス率は赤外観測から決めた。

 式(2)を
dM/dt = 4πμ(H2)Ve nH2(ROH)× ROH
   = 4πμ(H2)N(H2)VeROH
ROH = (dM/dt/Ve)/[4πμ(H2)N(H2)] を(1)に代入すると、

   LOH = 3 1013[(dM/dt)/Ve]2 Jy kpc2          (4)

ここで、 dM/dt は Mo/yr, Ve は km/s 単位である。

 式 (4) のチェック 

 式4は独立に求めた dM/dt でチェックされる。赤外観測からは、可視 OH/IR 星で 5 10-6 Mo/yr (Hyland 1980)、不可視 OH/IR 星で 3 10-5 Mo/yr (Werner et al 1980) という典型値が得られた。 Ve = 15 km/s で 式 (4) を使うと可視ミラで 4 Jykpc2, 不可視 OH/IR 星で 130 Jykpc2 となる。これは観測される LOH と合う。この結論は図2で、赤外から決めた dM/dt を 電波からの LOH を較べて、支持される。つまり、式4は低光度 の近傍 OH 放射ミラから非常に明るい不可視 OH/IR 星への遷移が質量放出率 の遷移に伴うことを示す。

 以前の研究 

 Nguyen-Q-Rieu et al 1979 は LOH と [3.5-10] カラーの 相関図を示した。 Jones et al 1982b は LOH/L* = Mbol - MOH と (L-M) との相関を示した。現在進行中のプログラム では、LOH/LIR と [4.8-12.5] の相関が明らかに された。しかし、これまでに LOH と dM/dt との間の関係を 明示した例はない。


 3.OH 光度関数とマスロスの進化 


図3.OH 光度とマスロス率の時間変化。式5と式6.OH メーザー寿命 tOH = は主系列質量 0.7 - 6 Mo に対して、0.6 - 6 105 yr となる.(表2参照) 時間の大部分は低マスロス率期間である。メーザー寿命 の最後の 1 % 期 = 600 - 6000 年間が OH/IR 星として銀河のどこからでも 見られるほど明るくなる。
(この "明るい" は OH メーザー光度の 意味と思うが、明確でない。L* だったら大変。 )
マスロス率の変化は改訂レイマース則で表す。


 dM/dt の時間進化 

 前章で LOH が主に (dM/dt) で決まることを見出した。観測から、 LOH ∝ (dM/dt)2 となることが分かっている。 LOH の分布巾が広く、第1近似では Mms に依存しないことから、 我々は、与えられた Mms に対し、様々な LOH = 様々な (dM/dt) の OH/IR 星があると結論する。つまり、一つの AGB 星の LOH と (dM/dt) は時間と共に増加していく。
(時間変化への結論は論理では出てこない ように思える。 )


 LOH 光度関数 

  Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) では、LOH の光度関数 ψ(LOH)dLOH = dLOH 巾内の OH/IR 星数として定義した。そこでは ψ ∝ LOH とした時、α = 1.65 とした。最近 Olnon (p.c.) は3つのサーベイを再解析して、α = 2 ±0.1 を 得た。 我々もこの値を採用する。

 進化の方程式 

 LOH の光度関数は、光度進化のスピードを反映すると考え、
(どの Mms 星でも同じ進化を辿ると考えて いるから。)
    ψ(LOH)dLOH = βLOH dLOH = (NOH/tOH)dt

(本文では NOH でなく LOH と書いてあり混乱する。)
ここに tOH = AGB 離脱の時間、 β = 規格化定数、α = 2、 Lmin = t=0 の時の OH 光度、Lmax = tOH の時の最高 OH 光度。表1を 見ると、妥当な値は Lmin = 1 Jy kpc2, Lmax = 1000 Jy kpc2 あたりである。上式を積分すると、

   β/(1-α)[Lmax1-α-Lmin1-α] = NOH

   β = NOH(1-α)/[Lmax1-α-Lmin1-α]

方程式の解は、

   β/(1-α)[LOH(t)1-α- Lmin1-α] = NOHt/tOH

   LOH(t) = [NOH(1-α)t/(tOHβ) + Lmin1-α]1/(1-α)
       = Lmin[1+[Lmax1-α-Lmin 1-α]t/tOH/Lmin1-α]1/(1-α)
       = Lmin[1+(Lmax1-α-Lmin1-α)t/tOH /Lmin1-α]1/(1-α)
       = Lmin[1+[(Lmax/Lmin)1-α-1]t/tOH]1/(1-α)
       = Lmin[1-A(t/tOH)]1/(1-α)               (5)

ここに、A = 1-(Lmax/Lmin)1-α である。式 (4), (5) を使 い、 Ve = 一定と仮定すると、

   dM/dt = (dM/dt)min [1 - B(t/tOH)]1/2(1-α)       (6)

ここに、 B = 1 - [(dM/dt)max/(dM/dt)min]2(1-α). 観測 される範囲では A = 1, B = 1 としてよい。厳密に言うと、これは、 t → tOH の時、 L OH → ∞, dM/dt → ∞ を意味する。しかし、それは脈動の最終時期のみの問題である。また、Lmin, Lmax, (dM/dt)min, (dM/dt)max, tOH は Mms の関数であろう。

表2.OH/IR 星のパラメタ―。第3列=メーザー開始時(t=0) のマスロス率。 第4列=開始時コアマス。第5列=熱パルス開始時のコアマス(Iben 1981). 第6列= WD マス。第7列=開始時星光度。第8列=開始時外層マス。 第9列=メーザー寿命。
(低質量ほど短いのはちょっと変。 )
第10列= Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) のメーザーサーベイ(感度 Ls = 100 Jy kpc2)による相対空間密度。 最終期での OH 消灯の効果は入っていない。 第11列= OH 最高光度 Lmax。第12列= Ls < LOH < Lmax にあって、 BHMW サーベイに掛かる状態の星の相対空間密度。
( )


 マスロス進化最終期=超星風 

 図3には、式 (5), (6) をグラフで示す。α = 2, Lmin = 1 Jy kpc2, Lmax = 1000 Jy kpc2 を仮定した。大部分の時間 LOH は低く、 Lmin 付近にあることが分かる。この 低光度期は太陽近傍に見られる可視ミラである。AGB 進化の最終時期にのみ OH/IR 星が現れ、銀河のどこからでも検出可能となる。OH 光度関数から導いた OH/IR 期への遷移は連続的となる。しかし、 Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) が用いたデータはダブルピーク型の光度関数を否定するには不十分であった。したがって、 非連続な遷移もあり得る。

 超星風期の長さ 

   Lc = Lmin/[1-(tc/tOH)] = Lmin[tOH/ (tOH-(tc)

   (tOH-(tc) = tOH(Lmin/Lc)

Lmin = 1 Jy kpc2, Lc = 100 Jy kpc2 とすると、 OH メーザー放射期の 1 % が星風期であることになる。
(これは勿論光度関数の数比からも容易に出る。 )


 超星風期の太陽近傍での評価 

 観測的には、太陽から 1 kpc 以内にある、弱いまたは明るいタイプ II OH 源 = 可視ミラ、M-超巨星、 IRC 天体、は大体 45 あるが、超巨星 NML Cyg を除いては 100 Jy kpc2 である。OH サーベイはフラックスリミッテッドである から、弱い電波源はサーベイから漏れる。無バイアス銀河面サーベイは太陽近傍の 明るい OH 源としてあと一つ OH 25.5+0.6 を見出した。これで、 4 % にあるが、 上で評価した 1 % とは矛盾しない値と言える。

 放出量=外層質量 

 tOH の間の放出量=外層質量 Me と考え、式6を積分し、

   dM/dt = (dM/dt)min[1-(t/tOH)]-1/2
   Me = 2tOH(dM/dt)min
   tOH = Me/[2(dM/dt)min]             (7)


 この節のまとめ 

(1)OH がサッチっているというのが理解できないが、OH 球面が一様に光っていると解釈する。 それで LOH = ROH2 となる。

(2)OH がサチることから、N(OH)=一定。N(OH) = (dM/dt)/(R(OH)Ve). つまり、R(OH)=(dM/dt)/Ve. なので、(dM/dt) = Ve L(OH)1/2

(3)観測から決まる LOH の光度関数 ψ(LOH) = LOH-2 を進化スピードと考えると、

   L-2 dL = dt  だから、積分して   L = 1/(to-t)
(4)(2)と(3)から

   (dM/dt) = Ve (to-t)-1/2

以上までが、 LOH をてこにした、dM/dt の進化である。

GAIA による距離の直接データを使い、OH を抜きに同様の進化モデルを作れるのか?


 4.星のパタメタ―を用いるマスロス進化 

 レイマースの式と式(6)の比較 

   dM/dt = -4 10-13η(L・R/M) Mo/yr         (8)

この式の欠点は、(1) 根拠が薄い、(2) 超星風に適さない、利点は (1) 観測 量、 L, M, R で表現できる、ことである。式(6)は超星風も表現する。この 式からやはり、星パラメタ―によるマスロスの式を導くことが以下のように可能である。

B = 1, α=2 とする。式 (6) から、

   M = 2(dM/dt)min tOH (1-t/tOH)1/2 + Mc

    = Me,o (1-t/tOH)1/2 + Mc

つまり、

   Me = Me,o (1-t/tOH)1/2

     = Me,o (dM/dt)min / (dM/dt)

   dM/dt = (dM/dt)min (Me,o/Me)                  (9)

 式 (9) をレイマース式につなげる 

 t = 0 では L*, R*, M* = Mms で、レイマース式が使えるとすると、

   dM/dt =4 10-13 η L*R*/M* = (dM/dt)min

   (dM/dt) = 4 10-13 η(Me,o/M*)(L*R*/Me) = μ(L*R*/Me)  (10)

この式を改訂レイマース則と呼ぶ。
 このマスロス則の背後の仮定について少し議論すると、

 (1) AGB マスロス時の星質量=主系列質量 

 t = 0 = OH メーザー開始時の星質量を主系列質量とした。セファイド質量などから、 AGB 期以前の質量損失は 20 % 以下と考えられるので、この仮定は容認できる。

 (2)光度、半径一定。 

 OH メーザー期の間、星光度と半径は一定値と仮定した。光度はコアマスの関数 (Paczynski 1970) として、

   L* = 5.9 104(Mc-0.5) Lo                   (11)

この光度に対するコアマスの成長率(Iben 1981) と AGB 期の長さ 1 Myr を考えると、 AGB 期の間に L* は 60 % 程度増加すると考えられる。この間有効温度はほぼ一定なので、 R* の増加率は小さい。その結果、 (L*R*) は最大でもファクター2以内の増加に留まる。

 (3) AGB 最終期に Me = 0 となる 

 Iben 1981 は AGB 進化の最末期、星が AGB を離れ HR 図を左へ向かう時に、 Me = 0.005 - 0.01 Mo で超星風が停止し、通常のレイマース星風になるとした。


 5.Mms と Ve の関係 

 Ve と星年齢(主系列質量)の関係 

  Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) は Ve と星年齢の間に相関を見出した。図4a には Nguyen-Q-Rieu et al 1979, Engels 1979, Olnon et al 1979, Wilson, Barrett (1972) から採った、 < 1 kpc の近傍ミラの Ve 分布を示す。図4b は遠方、非 可視の OH 光度が高い OH/IR 星の Ve 分布。それらは銀河全面に及ぶ電波サーベイと Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) = BHMW の l = 10 - 50 サーベイから採った。それらの大部分は太陽から 7 - 10 kpc 離れた分子リングに属している。二つの分布の違いは驚くほど大きい。OH 放射 の可視ミラ型星は Ve = 3 - 30 km/s と非常に Ve 分布巾が大きい。弱いピー クが低 Ve 側にある。一方、非可視 OH/IR 星は目立つピークが Ve = 15 km/s で、分布巾は狭い。また Ve < 15 km/s の例はない。そこは可視ミラ型星 の大部分がある区間である。可視ミラの方のサンプルは一様ではないが、可視 ミラと非可視 OH/IR 星との速度分布に関する差は選択効果でなく、事実であ ろう。これが意味するところは、Ve <: 10 km/s, つまり Mms < 2 Mo (BHMW), の星で非常に明るい LOH にまで届くものはほんの僅かし かいないということである。BHMW では第1近似で ψ(LOH) は Ve に依らないとしたが、この事実はそれに反する。

 LOH > Ls である OH/IR 星の 質量分布関数 

  Bowers et al. (1978) Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) は OH/IR 星の大部分が R = 5 kpc 分子リング上に位置し、太陽から大体等 距離であることを見出した。そこで、我々は図4b サンプルには BHMW 観測感 度に対応する LOH 光度 Ls 以上の OH/IR 星が全て含まれている と仮定する。
(実質的に体積・光度リミッテドに なっているという意味。 )

 Ve と M は相関するので、N(Ve)dVe = N(M,Ls)dM とする。N(M,Ls) は LOH > Ls である OH/IR 星の質量分布関数。φ(M) = 現在 の質量関数、t*(M) = 主系列寿命、NOH = OH/IR 星密度、ψ (LOH) = OH 光度関数、として、
N(M,Ls)dM = ψ(M) tOH [∫ φ(LOH) dLOH ] dM
t*(M) Ls NOH

( この式は、ψ(M)dM が dM 区間内の星数(実質的には主系列星数)、それに tOH/t*(M) を掛けて dM 内の HO 放射星の数、さらに [∫...dL]で、dM 内で、OH 強度が Ls 以上の OH/IR 星の数となっている。 この式を見ると、M に依存する項 ψ(M)/t*(M) は進化フローレイト。この 項以外は M 依存性はない。つまり、Ls 以上での M 分布は進化フローレート に比例している。OH 期の進化が共通と仮定しているので当然と言えば当然。)

BHMW に倣い、ψ(LOH) は Ve つまり Mms に依存しない。 ψ(LOH)/t*(M) は初期質量関数 ξ(M) ∝ M-2.5 (Miller, Scalo 1979) に等しい。ψ(LOH) ∝ LOH-2 で積分して、

   N(M,Ls) = C M-2.5 tOH(M) Λ(Ls)            (12)
ここに、Λ(Ls) = (Lmax-1-Ls-1)/ (Lmax-1-Lmin-1)

Ve > 15 km/s で、Ve 増加と共に OH/IR 星の数が急減するのは単に、初期 質量関数の勾配の反映に過ぎないことが判る。

図4.a: タイプ II OH (1612 MHz 最強)の近傍可視ミラと超巨星の Ve 分布。 b: BHMW による L = 10 - 50 にある非可視 OH/IR 星の Ve 分布。 破線= LOH に下限を設けない場合のモデル分布。実線= Lmax(Ve) を設けた場合のモデル分布。
(星質量の出典は? )


 Ve と M の関係 

 Ve = [3, 10] km/s は P = [300, 500] d ミラで、 Mms < 1 Mo である。 Ve = [10, 15] km/s 星の運動は M = 2 - 3 Mo に合うことを BHMW は見出した。 Ve > 15 km/s は M = [3, 10] Mo であろう。そこで、

   Ve = γ log(M/Mo) + δ  km/s             (13)

と仮定し、観測値にフィットして、γ, δ を決めることにした。 それには、式12を図4b に逐次的にフィットしていく。その際には Lmax = 1000 Jy kpc2, Lmin = 1 Jy kpc2, Ls = 100 Jy kpc2, Ls = 100 Jy kpc2 とした。その結果、 γ = 16, δ = 8 km/s を得た。


 Appendix: 表2の星パラメタ―を決める逐次近似の方法 

 (1)(dM/dt)min  

 t = 0 での Lmin = 1 Jy kpc2 に対応する (dM/dt)min を求める。 各 Ve に対し、式4: LOH = 3 1013[(dM/dt)min/Ve]2 Jy kpc2 = Lmin とおいて、

   (dM/dt)min = 1.8 10-7Ve Mo/yr        (A1)

 (2)γ, δ の第1近似値 

  Baud, Habing, Matthews, Winnberg (1981) = BHMW から γ, δ の第1近似値を求める

 (3)Mc(t=0) 

 以下の仮定と上の(1)から、Mc(t=0) を Ve で表す。
(i)OH/IR 期に Teff = 2500 K  観測
(ii)L* = 5.9 104(Mc-0.5) Lo.   恒星モデル(式11)
(iii)(dM/dt) = μ (L* R*)/Me     (式10)=観測
(iv)Ve = γ log(M/Mo) + δ   観測 
(A1)(dM/dt)min = 1.8 10-7Ve  観測 

(iii) はレイマース式にしておかないと、次の解に繋がらないので、そうする。
(iii)' (dM/dt)min = 4 10-13 η (L* R*)/M Mo/yr
として、(A1)=(iii)’に、 R*= L*1/2T*-2 
1.8 10-7Ve= 4 10-13 η L*3/2T*-2/M
L* に (ii) を代入して、
(0.45/η)106 M Ve T*2= 5.93/2106 (Mc,o-0.5)3/2
Mc,o=0.5 +[(0.45/η)2/3/5.9]T*4/3[Ve10 (Ve-δ)/γ]2/3
T* = 2500/5780 を代入すると、
Mc,o = 0.5 + 3.25 10-2 η-2/3[Ve10 (Ve-δ)/γ]2/3   (A2)


 (4) Me,o  

 t = 0 での Me,o = M - Mc,o

 (5)L*,o 

 L*,o は (A2) の Mc,o と (ii) のコアマス光度関係から決まり、 OH 期で一定と考える。

 (6)tOH 

 tOH は式7 tOH = Me,o/2(dM/dt)min から決まる。

 (7)N(M,Ls) 

 式(12): N(M,Ls) = C M-2.5 tOH(M) Λ(Ls)を評価し直す。 結果を Ve > 15 km/s の観測分布と較べ、改良された γ, δ を導く。
( ここが何をしてるか分からない。)
新しい値で (3) に戻り、計算を繰り返す。

 (8)Lmax 

 式(14)で Lmax を計算する。


  γ, δ の決定について 

 これまで、進化に星質量は絡んでこなかった。星質量が Ve に関係すると いうアイデアで、解析を進める点は参考になる。
(M が L* に関係するという視点は? )
   Ve = γ log(M/Mo) + δ
という式を立てる。M - Ve 関係は BHMW の速度分散に基づく非常に粗い区分しかデータ がないことに注意。
 こうして M = M(Ve) と表す。一方、パチンスキーの式で L=L(Mc) である。  dM/dt に関し二つの表式がある、
(1)  LOH = [(dM/dt)/Ve]2
(2)  dM/dt = L R/M = L3/2/M

t = 0 の時、LOH = 1 Jykpc2、L = L(Mc,o) である。 よって、(1) (dM/dt)min = Ve
、(2)(dM/dt)min = L(Mc,o) 3/2/M(Ve)

という訳で、Ve = L(Mc,o)3/2/M(Ve) を解いて、Mc,o(Ve) が決まる。
(どうもピンとこない。OH 開始時 L(OH)min = 1 Jy kpc,sup>2 としているが、要するにある共通の L(OH) に対する (dM/dt)min (∝ Ve) を、レイマース式に等値し、その値に対す る、L(Mc,o) を決めている。
こうして決めた M - L(Mc,o) 関係が L(OH)min に あまり依らないなら、十分に意味のある導出であるが? 20180328 記録ノートで検討)

仮結論: L(OH)min から決まる Lc の範囲が観測の AGB 光度と合うように
     すると 1 Jy kpc2 になるのだろう。


 次に、 Ve 分布と M 分布を較べる. N(Ve)dVe = N(M,Ls)dM とおく。
N(Ve) の方はもろに観測分布である。N(M,Ls) は初期質量関数に、tOH 補正を加えたもの。仮に、tOH = 一定で、N(M,Ls) = M-2.5 とする。その場合、M=10(Ve-δ)/γを代入して、
  10-2.5(Ve-δ)/γd10(Ve-δ)/γ
 = 10-1.5(Ve-δ)/γdVe となるから
この式が N(Ve) に合うよう、δ, γ を決めることになり、割とストレイト。

逐次近似で、δ, γ を決めると述べられている意味が分からないが、 兎に角、上の両式のずれを小さくするように δ, γ を決め直すと解す。


 N(M.Ls) は 低 Ve 側で大幅な過大評価 

 こうして決めた、 δ, γ を用いて表2第10列にある N(M,Ls) を決めた。それを図4b に図示した。この簡単なモデルが高質量星の観測を割 とよく再現していることが判る。しかし、低質量、低 Ve 側の Ve < 15 km/s では大幅な過大評価が起きている。Ve から M への変換は BHMW の 運動学に基づく評価と良く合っているので、我々の解析法は正しいのだろう。 もう一つ注意すべきは図4a に示す低 LOH の分布は、 Ve が 減ると数が増すという意味で、定性的にはモデルと合っている。しかし、 Ve < 15 km/s の星が LOH 大、すなわち (dM/dt) 大へと進化 することは図4b からも分かるように珍しい。

 何故、低 Ve に高 LOH/IR が ないのか? 

 低質量 OH/IR 星(低 Ve)に高 LOH/IR が欠けている理由は 何であろうか?以下にその説明となる仮説を二つ述べる。

 (1)L(OH)max が低い。 

 最後に外層質量がすっからかんになる=(dM/dt)max に対応、核が露出して 励起赤外光がなくなる。その時が LOHmax で、その時は tOH より、最後のマスが ROH に辿りつくま での時間、Rmax/Ve だけ、 手前である、という良く分からん理屈で、
  tOH(Lmin/Lmax)=Rmax/Ve
  Rmax=(Lmax/4.2)0.5  (式1から)
より、

   Lmax = 2.8 10-3 (tOH Lmin Ve)2/3         (14)

表2の第11列にこの Lmax を載せた。Ve が小さいと Lmax が低くなることが 見て取れる。これによると、 BHMW サーベイで 5 kpc で検出するための限界を 100 Jy kpc2 とすると、 Ve < 10 km/s の星は受からないことが判る。
 (2)(Me,o/Me,r) が小さい 

 エンベロープマス Me がゼロでなく一定値になったところで、超星風は停止 するのではないか。Renzini 1981 は Me,r = 0.001 - 0.01 Mo で停止と考えた。 そのときの Lmax は第4章の議論から、

    Lmax = (Me,o/Me,r)2 Lmin

で与えられる。 Me,r = 0.01 Mo に対するこの Lmax は表2第11行の値と大体 同じである。
(計算が合わない。例えば、Ve = 9 km/s, M = 1 Mo の場合, Me,o = 0.36 Mo, Me,o/Me,r = 36, Lmax = 1300 Jy kpc2 となる。表では 82 で全然違う。式14を使った Ve 9 km/s での値も 32 で 82 とは違う。どうなっているんだ?)


 Δ の効果 

 Δt = tOH - t として、LOH = [Ls, Lmax] が観測される。時間に直すと Δt = [1/Lmax, 1/Ls] の間、規格化定数は [1/Lmax, 1/Lmin] だから、Ls に引っ掛かる割合は、Δ = [(1/Ls)-(1/Lmax)] /[(1/Lmin)-(1/Lmax)] となる。この補正を入れた分布関数 N'(Mms,Ls) を表2 第12列に示す。

 Lmax の影響 

 Lmax が Ve, つまり M に依存するので、φ が Ve に依存しないという 初めの仮定は修正が必要になる。ただし、それにより、その後の結論が大きく 変わることはない。主な計算は OH 観測に基づいている。L* のみがパチンスキー の式を用いて求められた。また、 Lmin = 0.1 - 10 Jy kpc2 の 範囲では Lmin の値は結果に大きな影響を及ばさない。
(そういうが、計算すると大きな影響を 持つ。 )


 6.議論 

 WD質量との比較 

 Weidemann 1977, Koester, Weidemann 1980 は Mwd - Mms 関係を調べた。 表2の第6列には 彼らの Mwd を示す。我々の Mc,o との一致は良い。

 脈動との比較 

 Fox, Wood 1982 は LPV の脈動を調べた。彼らの表2と我々の表2を較べる と、Mco,o は基本振動モードが倍音振動を上回るあたりに対応する。また、 Iben 1981 による熱パルス開始時のコアマスは Mc,o を 10 - 30 % 下回る。 OH 期は短いので Mc はほぼ一定で、従って L = 一定と仮定した。しかし、 Me は激しく減少し、その結果脈動周期は長くなる。
(周期光度関係はどうなるの? )
1.5 Mo を例にとる。t = 0, OH 開始時、Mc,o = 0.7 Mo, L = 1.2 104 である。Fox, Wood 1982 表2を見ると、そこでは P = 600 d である。 t = 0.86 tOH = 170,000 年後、M = 1 Mo, P = 700 d となる。 t = 0.98 tOH で (dM/dt) は急上昇を開始し、M = 0.8 Mo, P = 930 d となる。
 炭素星 

 炭素星は M < 1.5 Mo 星ではないか、OH/IR 星の大部分はもっと高質量星 からではないかと思うがはっきりしない。

 この論文の主成果を二つ挙げると、 

1.電波天文学による AGB 進化

 OH/IR 星の観測から電波天文学による AGB 進化を明らかにした。

2.OH/IR 星パラメター

 OH/IR 星進化の解析を通じ OH/IR 星の恒星パラメタ―を明らかにした。


 今後 

 1.L ∝ Ve2 

 我々の表2は L ∝ Ve2 を予想している。これは Salpeter 1974 がマスロスモデルで予想したことでもある。

 2.L* と LOH の関係 

 L* と LOH に相関はないと考えた。ある L* に対して広い範囲 の LOH が期待される。ただ, Lmax に起因する弱い相関はあるだろう。

 3.弱い OH/IR 星 

 より高感度の OH サーベイは Ve < 10 km/s の OH/IR 星を多く 検出するだろう。

 4.OH とマスロス 

 OH が強い星はマスロスが強い。OH 強度とカラーの相関が期待される。
 5.最後 

 Me が小さくなると、外層密度が小さくなり、脈動周期が伸び、LOH  が大きくなり、カラーは赤くなる。

 6.メタル効果 

 GC付近と銀河面とで OH/IR 星の光度に差があるだろう。

 7.超新星 

 表2を見ると Mch = 1.4 Mo を超える Mc が現れている。 M > 6.5 Mo は Ve > 22 km/s だが OH/IR 星にならず、超新星になる?

 8.広く薄いシェル 

 Roh の外側に低マスロス期のガスが広がっている。