Fast Radio Burst の可視光高速観測

Fast Radio Burst (FRB) は電波望遠鏡によって観測される、電波の閃光のような天体現象です。FRBによる電波放射の継続時間はわずか数ミリ秒間程度で、FRBと同じく電波の短時間放射を見せることで知られるパルサーと違ってFRBの発生には周期性がありません。このため、観測でFRBの信号を捉えることは容易ではなく、FRBの存在は天文学の歴史の中で長らく認識されていませんでした。FRBが初めて発見されたのは2007年になってからのことです。FRB観測の歴史は短いですが、初発見からこれまでの十数年間で500以上のFRBが見つかっています。
FRBは銀河系外の遠方で発生している現象と考えられており、一部のFRB発生源は繰り返しFRBを引き起こすことが分かっていますが、どのような天体からどのような仕組みでFRBが発せられるのかはまだ分かっていません。正体不明の天体現象の起源を明らかにするには、その天体現象が他の観測波長でどのような放射をしているか突き止めることが重要な手がかりになります。このため、可視光やX線・ガンマ線などさまざまな観測波長でFRBに付随した放射(対応天体)がないか探査が行われています。FRBの対応天体探査はさまざまな時間スケールで行われていますが、FRBの電波放射と同時に発生するような対応天体の探査は特に可視光において困難です。可視光観測装置のほとんどが一回のデータ取得に数秒以上の時間を要しており、FRBのような短時間の現象に対しては感度が悪いためです。
私たちの研究グループは可視光高速カメラであるトモエゴゼンを用いて複数の電波望遠鏡と同時観測を行い、FRB 発生時の可視光放射を探査を行なっています(図1)。トモエゴゼンの高速観測性能により、短時間の可視光放射に対して105 cm木曽シュミット望遠鏡を何倍もの口径を持つ大型望遠鏡を上回る観測効率を達成できます。
重力波イベントの可視光追観測

2017年に中性子星連星合体からの重力波(GW170817)が初めて検出されると共に、その中性子星連星合体によって生じた電波、可視光、ガンマ線など様々な波長の電磁波放射が観測されたことで重力波検出器と電磁波望遠鏡の連携によるマルチメッセンジャー天文学研究が幕を開けました。GW170817の観測によって中性子星連星合体には従来理論予想されていた通りキロノヴァと呼ばれる可視光・近赤外線の対応天体が付随することが確認されたましたが、観測された現象はあくまで一例であり、中性子星連星合体現象の全貌を捉えるためにはさらなる観測の積み重ねが必要です。
これまでの重力波観測ではGW170817のような観測条件の良い場合をのぞいて、重力波イベントの決定精度は数100平方度程度以上のものが多くをしめており、広大な面積のなかから重力波イベントに伴って発生した電磁波放射を見つけ出すのは非常に困難でした。このため、GW170817以来重力波イベントからの電磁波放射観測は実現していません。木曽観測所のトモエゴゼンは20平方度の広視野と速い読み出しにより、空の広い領域を素早く走査する観測に高い適性を持っており、私達はトモエゴゼンの特性を活かしてGW170817に続く重力波イベントの電磁波観測を実現するべく、観測を続けています。
重力波検出器はアップグレードのための停止期間を挟みながら1年間程度の観測期間を繰り返しています。重力波検出器の観測期間中は昼夜を問わず多くの重力波イベントが発見され、その都度重力波検出を知らせる通知がインターネット越しに世界中に配信されます。このため、それらの通知に対応する観測を人の手でその都度実行するのは現実的ではありません。重力波イベントの発見に機動的に対応して追観測を実施していくため、木曽観測所では重力波天体の自動追観測システムを整備し、運用しています。このシステムは、マークアップランゲージで書かれた突発天体速報であるVOEventという方式で重力波イベント発見の通知を受け取り、各重力波天体の位置決定誤差領域のうち木曽から観測可能な範囲を掃くように望遠鏡のポインティングを決定し(図2)、望遠鏡とカメラを制御するシステムにコマンドを送って自動的に観測を開始します。
ApJから引用の図は CC BY 4.0
(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)
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