CISCOのファーストライトは1月14日に無事に行うことができ、 それ以降も順調に観測を行っています。 しかしながら、ファーストライトまでは苦難の連続でした。
実はすばる望遠鏡でのファーストライトはCISCOにとっては真のファーストライ トではありません。その1年あまり前の1997年12月から半年間に渡って、東京三鷹 市の国立天文台内にある口径1.5メートルの望遠鏡で試験観測を行ってきていました。ここで実際に観測を行うことにより、出来るだけ装置の不具合を出して、本番のすばるでの観測をスムーズに行おうという狙いがあったのです。
この観測ではソフトウェアのバグに始まりモーター制御用のボードの ショート、果ては冷凍機の故障に検出器のチップの破損など、出るわ出るわ、 これ以上の故障が出るところは残っていないと言うほどにトラブルが続出して その修理に追われました。 そして98年の8月に夏休みのバカンス客に囲まれてハワイに乗り込 んだときは、もうこれ以上故障するはずがないと思っていたのですが…
![]() |
[図5] 望遠鏡に取り付けるための枠に組込まれたCISCO。回りに 様々な制御回路や電源がついています。 |
これは観測装置一般にも言えることですが、CISCOを日本からハワイに運んで、 望遠鏡にぱっと取り付けて、ハイ観測!、と言う訳にはいきません。 CISCOはバラバラに分解されて輸送されるので、まずはそれを組み立てて調整する必要があります。
これらの作業を98年の後半で行い、12月も年の瀬、マウナケア山頂のすばるのドーム
内でファーストライトに向けて最後の冷却を開始しました。 そして冷却を始めて3日、内部の温度は順調に下がって
明日には最後の低温試験を始めようと考えていた矢先でした。
突然内部の温度が上昇し始めたのです。
冷凍機は一見正常の動作しているように見えます。以前故障したときは
動かなくなっていたピストンも「しゅっ こん、しゅっこん」という音をたてて動いてるのに、温度は容赦なく
上昇していきます。
大慌てで冷凍機の日本の代理店に(冷凍機自身はアメリカ製でした)電話したので すが、向こうもそういう経験はないらしく要領を得ません。 1月のファーストライトまではあと1週間あまり、 しかも日本は正月で休みになってしまいました。
原因は一体何なのか?元旦以外は毎日のように山頂まで上がり、 幸いにも捕まったアメリカのサービスセンターと電話を繋いで 試行錯誤した結果、 以前冷媒に使っているヘリウムの純度が悪くなったときに ピストンの一部が破損していたことがわかってきました。
最終的に、以前の故障の時と同じく冷凍機を取り替えるしかない、冷凍機は送るから自分でやってくれ、ということになりました。 それにしても以前サービスマンが来てやってくれたあの作業を僕がするのか? 僕がやって大丈夫なのか? でもその作業を知っているのは僕しかいません。 腫れ物に触るようにして取り替えたのですが 意外にも簡単に終わり、動かしたところ今度は 呆気なく冷えていきました。冷えなくなってから 実に2週間近くが経った、1月8日のことでした。
こうして遅れはしたものの、1月11日、すばる 望遠鏡でのファーストライトを迎えることができました。 当日はモーターの調子が良くなくて、フィルターが回せないなどのちょっとした トラブルがあったものの、無事に観測を始めることができました。
まずは焦点あわせです。
焦点は望遠鏡の副鏡を動かして合わせていくのですが、星の像の大きさがどんどん小さくなっていきます。
ついには画面上の数ピクセルの大きさになってしまいました。
「なんじゃこりゃ?」
僕は思わず呟きました。CISCOの1ピクセルは大体0.116秒角に相当します。
今見えている星は0.3秒角程度にしか広がっていません。
「すいません、これ、むっちゃいいんとちゃいます?」
周りの人たちが怪訝そうに集まってきました。
そもそも、原理的には星はほとんど点にしか見えません。 しかし、僕たちは地球の大気を通して見ているため、 大気の擾乱のせいで星の像が瞬いて、ぼやけてしまいます。 これをシーイングといいます。
マウナケア山頂はシーイングが良いことで知られていますが、 それでも星の像は良くて0.5秒角程度いうのが一般的な常識だったのです。 (ちなみに三鷹で試験観測をしていたときは良くて3秒角程度でした) それが0.3秒角?本当か?周りのみんなが半信半疑でした。 しかし、本当だったのです。それにしてもまだ調整段階の 望遠鏡でこんな性能が出るとは…すばるの実力を垣間見た瞬間でした。
それから1週間は天気にも恵まれ、記者会見で発表された天体の他にも様々な観測を行うことができました。 あとは新聞やニュースなどで伝えられた通りです。