IRAS Observations of the ρ Ophiuchi Infrared Cluster


Wilking, Lada, Young
1989 ApJ 340, 823 - 852




 アブストラクト

 計 78 個の若い天体 
 IRAS co-added データと PSC をヘビツカイ座分子雲複合体 4.3 pc2 で 調べた。 NIR Hα 観測を併用して、44/64 IRAS 12 μm 点源を若い天体に 同定した。これまでの結果と合わせ、計 78 個の若い天体がダストに隠された星団の メンバーとなった。

 SED の解析 
 可視、近赤外データと IRAS を合わせ、SED を作り、光度を推定した。2.2 - 25 μm SED 勾配を用いて SED を分類した。SED の形はクラス I からクラス II へと連続的に 並んだ。これは降着原始星から星周円盤を伴う前駆主系列星への進化を表していると 解釈される。
ステージ毎の数の分布 
 各ステージ毎の数の分布から、降着期の寿命、降着率、ヘビツカイ 座星形成活動の継続時間 を見積もった。過去数百万年の爆発的星形成活動の結果分子雲コアでの星形成効率は SFE ≥ 22 % という高い数値を出していることが判った。

 SED の形により光度が分離 
 埋もれた星団の光度関数を作った結果、SED の形により光度が分離することが判った。 クラス I 天体が中間光度を占有していることから、クラス I から II へ進化する際に 光度が変化するか、雲内の星質量が順に増えていくかと考えられる。





図1a.パロマ―レッド画像上の IRAS 天体位置。大バツ:F(12)>0.25 Jy.  小バツ:F(12)<0.25 Jy. 実線= TR(13CO(1-0))= 6 K の境界。




図1b.I(12μm) マップ。等高線は 1.78 × 105 Jy/Sr 単位で -15, -10, -5, 3, 6, 10, 20, 40, 80, 180, 320, 640, 1280, 2560。斜線部は分子雲を 示す。

 1.イントロダクション 

ρ Ophiuchi 暗黒雲 

 中心部に多数の YSO がある。それらは低質量、低光度である。星形成効率が高く、 静謐な条件から、重力的に束縛されたプレアデス星団のようなものが生まれるのでは ないか。 Lada, Wilking 1984 は 1- 20 μm の SED を 30 天体について作り、SED の形が はっきりと 3 つのグループに分かれることを示した。 また 光度関数に中間光度星が欠けていることも分かった。 しかし、 FIR データが欠けているので決定的な結論に至らなかった。
IRAS データ 

 FIR の欠落は IRAS で埋められる。この論文では IRAS co-added データ と NIR 観測を組み合わせた。図1に示した領域は ρ Ophiuchus 複合体の 中心雲をカバーしている。境界は Av = 4.5 mag に相当する。





表1. ρ Ophiuchus IRAS 天体








表2.IRTF 観測結果

 3.結果 

 3.a. 可視・近赤外天体と IRAS 天体の同定 

 位置の不一致 

 IRAS 20, 21, 35 の位置一致は良くないので以降の議論から外した。25 % では 複数の候補近赤外, Hα 天体が IRAS 近傍に存在する。しかし、大抵の場合 10 μm で明るい候補が存在して、または近赤外の SED が IRAS に滑らかに つながることから同定天体が決まった。 IRAS 3, 11, 17 の場合だけは二つの 候補の優劣が付け難かった。

 同定成功は 44/64  

 同定成功は 44/64 であった。そのうち 28/44 は過去の 2 μm または Hα 観測 で確認された。16/44 は本研究の観測で同定された。同定に失敗した 20/44 のうち、 17/20 は 2 μm 観測がない。

 非同定天体 

 非同定 20 天体は何なのだろう?(1)
(1)IRAS 22 の場合、 隣の B2V 星 HD 147889 が外側からダストを加熱している。
(2)この銀緯だと 10 個程度の背景星が期待できる。
(3)YSO が赤すぎて K で検出限界以下。
これ等の星は 12 μm で 1 Jy よりあかるいのは 6 個しかない。暗い星が多く、元々 IRAS 探査の完全度が低い光度帯なので統計的な議論に及ぼす影響は小さい。

 YSO かどうかのチェック 

 Appendix A で述べるように、同定された 2 μm 天体が YSO かどうかを調べた。 表 4 - 6 にはその選り分け作業の結果が載っている。表2の第14 列も見よ。
 その結果、IRAS 27 は背景のフィールド星と分かった。他の星は主に 2.2 - 2.5 μm での赤外超過に基づいて YSO と判定された。

 3.b. 広がった IRAS 12 μm 放射 

熱的非平衡輻射?

 図1bにあるような 数十分角に及ぶ低レベル 12 μm 放射はおそらく B2V 星 HD147889 に照らされた雲の表面に存在する微小ダストが非平衡加熱 を受けた結果だろう。

  12 μm 放射の FWHM が広い 

 12 星でのスキャン結果は 12 μm 放射の FWHM がIRAS ビームより広 がっていることを示した。表1の第8列を見ると、 60 から 210 にまで広がっている。これは、複数の赤外源 が分解されなかったためとも考えられるが、6 天体で近赤外高分解能観測を行った 結果は単一天体であった。IRAS 36, 28 の場合、星本体 B3 - B5 V と B9 - A0 V が作るダストなし空洞の壁にある微小ダストに UV 光が当たって非平衡加熱して いるのかも知れない。

 12 μm 巾が 6 - 45

 論文Iで述べたが YSO の 12 μm 巾が 6 - 45 に広がっている間接的な証拠がある。


 3.c. SED α = dlog(λF(λ)/dlogλ

 クラス I 天体 α > 0

 クラス I 天体は光球からの光は殆ど含まれていない。放射ダストの 温度は広い範囲に渡っている。 3.4 - 12 μm 放射は 300 - 1000 K の 星本体に近い熱いダストからのものでユニークである。 クラス I 天体 24 個中、IRAS 48 と DoAr 25 の二つのみが red POSS に写っている。


図3a.クラス I 天体 α = 1 - 3.

図3b.クラス I 天体 α = 0 - 1.  


 クラス II 天体 α = [-2, 0]

 SED は強い赤化を受けた光球放射光である。3.4 - 12 μm では 熱いダストからの超過放射が含まれる。しかし、クラス I と異なり、 50 - 100 K の冷たいダストからの放射の証拠はない。クラス II 天体 27 個には 6 個の T Tau 星中 の 5 個が含まれる。残りの 1 個 SR 4 は 冷たいダスト成分を持ち、クラス IID に分類された。


図3c..クラス II 天体 α = [-1.5, 0]

 クラス III 天体 α = [-2, 0]

 α < -2 の天体は一つしかない。  VSSG16(IRAS56) は以前 Elias ではフィールド星と分類されていた。この星の SED は図7のものと似ている。クラス III 天体が少ないことは驚きであるが、FIR 放射 (IRAS)を 基準にサンプル選択を行った影響であろう。


図3d.クラス II 天体 α = [-1.5, 0]


 クラス III D、II D = ダブルピーク天体 

 1.6 μm 付近の第1ピークは赤化を受けた光球であろう。第2ピークは遠赤外にある。 4つの星全て可視で見える。UBVRI 測光が揃えば、クラス I 天体の幾つかがダブルピークと 判明する可能性がある。
 Source 1 と SR 3 はサンプル中で最も明るいグループに属する。この二つは B3 - B5 V と B9 - A0 V に分類されている。この二つは周辺部内側のダストを散逸してしまい、星から ずっと離れたダストの遠赤外放射の源となっている。クラス III D 天体とする。
 SR 4 は T Tau 星である。もう一つは SR 21 でどちらも 1.6 から 4.8 μm への 落下が緩い。おそらく熱いダストの量が Source 1 や SR 3 より多いのであろう。これらは クラス II D とした。


図3e.ダブルピーク天体





表3.スペクトル指数と光度

 4.Implications  

 4.a. SED  

 4.a. 1. M ≤ 7 Mo 原始星の進化系列?  

 クラスの解釈 

 クラス I: 降着ショックによるガス光球+ダスト円盤+落下ダスト外層
   降着エネルギーを球形のダスト外層から放射。 EL29, WL16, WL22

 クラス IID: 星風がダスト外層落下を止め、内部の星と円盤を露出
   PMS 収縮開始。ダブルピークSED。SR 21

 クラス II: ダスト外層は吹き払われ、星+円盤。
   円盤は L(star)の 25 %を吸収。

 クラス III: ZAMS に接近し、円盤散逸。WTTS。
   



 スペクトル指数の分布 

 図4にはスペクトル指数の分布を示す。α>1 の雲に深く埋もれた 天体から T Tau への変化が連続した指数の変化として現れている。



図4.スペクトル指数の分布  


 4.a. 2. 埋もれ期の長さ  

 クラス I と II の数比 

  L > 1 Lo では 18 クラス I と 15 クラス II 天体が存在する。ただし、 IRAS の不完全度を補正するとクラス II の数は 30 % 上げる必要がある。 したがって、ほぼ 1 対 1 ということになり、両者の寿命は同程度と考えられる。

 T Tau 星の寿命 

 ρ Oph 雲の T Tau 星は 0.4 - 1 Mo と考えられる。降着期終了からの K-H 収縮時間を導くために、Cohen, Kuhi 1979 のデータを用い、Stahler 1983 が 計算した、 T Tau 星が "birthline" に現れてからの年齢は 0 - 1.5 × 10 6 yr, 平均 3.9 × 105 yr であった。もし、クラス I が降着期にあるなら、これは降着期が大体 4 × 105 yr 続き、1 Mo の星に対しては降着率 = 2.5 × 10-6 Mo/yr を意味する。
( 降着期の長さを T Tau の平均年齢と するのは間違いで、T Tau の最高年齢に近くとるべきであろう。降着期の 長さを1.5 × 106 yr と伸ばすと、降着率は  6 × 10-7 Mo/yr に下がる。)

 4.a. 3. 星形成活動の長さ  

 4.b.光度関数  


図5.74星の光度関数。比較のために IMF の光度関数も示す。



図6.アソシエイション構成員と背景星を区別するためのスキーム

図7.フィールド星の SED. 赤外超過を示さず、下段の BB と形が似ることに注意。





表4.メンバー星のクロスレファレンス