アブストラクトLMC/SMC 星団のレッドクランプ平均 I 等級レッドクランプ平均 I 等級が 2 - 10 Gyr では年齢に依らないことを示す。 LMC/SMC の t = 1.5 - 12 Gyr 15星団を観測し、色等級図を作った。レッドク ランプの平均 I 等級は一定で、平均メタル量を -0.8(LMC), -1.2(SMC) として、 減光補正後は I 距離指標 その値から決まる距離指標は m - M = 18.18 ± 0.06 (LMC), 18.65 ± 0.08 (SMC) であった。 レッドクランプ平均 I 等級がメタル依存が弱く、2 - 10 Gyr では年齢に依らない ことは、その絶対等級較正が他の天体のどれよりも正確であることと結び付いて、 この天体の標準光源としての価値を高める。 |
1.イントロLMC の短距離これまで LMC 距離を決める仕事 (Udalski et al 1998a, Udalski 1998)を出して きた。それらは Paczynski, Stanek 1998 が提案したレッドクランプ星の等級を 使う方法に基づいている。得られた距離指標は m - M = 18.1 で標準距離より 15 % も短いが RR Lyr (Udalski 1998) から得た距離と一致する。Udalski et al 1998a の結果は Stanek, Zaritsky, Harris 1998 が独立な方法で出した値とも近い。 モデルでは平均等級が変動する 第1近似では太陽近傍ヒッパルコスサンプルから出した平均 I 等級をそのまま 使用した。Paczynski, Stanek 1998, Stanek, Garnavich 1998, Udalski et al 1998a, Stanek, Zaritsky, Harris 1998 のこの方法は Cole 1998 と Girardi et al 1998 に疑問視された。彼らはモデル計算から、レッドクランプの等級が年齢と メタルの影響で 0.6 等の変動を示すと主張した。 しかし、モデルには多くの仮定が入ってくる。したがって、観測的に種族効果を 調べることにした。Udalski 1998 は RR Lyr 観測に使った天体中のレッドクランプ を調べた。しかしここでは星団を使う。Bica et al 1998、Da Costa, Hatzidimitriou 1998 によると 中間年齢星団のメタル量はほぼ一定である。したがって、メタル量 効果を最小に抑えて年齢効果を抜き出しことが可能である。 |
2.観測観測はOGLEのサブ観測として行われた。標準星は Landolt 1982 を使用した。 表1は星団リストである。3.整約データは DoPhot を使った OGLE パイプラインを通した。 |
![]() 表1.星団リスト |
LMC 星団 この研究のゴールはレッドクランプ平均 I 等級の年齢依存性である。したがって、 文献に公表された年齢が 2 - 10 Gyr の星団をサンプルに選んだ。LMC には良く知ら れた年齢ギャップが存在し、ESO121SC03 のみが 9 Gyr でこの中に入る。最近 Sarajedini 1998 はさらに3つ、NGC2121, NGC2155, SL663 がこのギャップに入る かも知れないと指摘した。そこで、我々はこの3つもサンプルに加えた。若い側には Bica et al 1998 が年齢とメタルを定めた中から2星団を選んだ。 SMC 星団 SMC では星団数が多く、中間年齢を十分にカバーしている。ここには 12 Gyr の 古い星団 NGC 121 を加えた。この星団は RR Lyr を含んでいる。二つの中間年齢 星団 NGC 416 と NGC 419 は OGLE で観測され Pietrzynski et al 1998 の星団 カタログに載っている。われわれはこれもサンプルに加えた。 表2の説明 星団の基本性質を表2にまとめた。年齢は文献に載っていた値の平均値である。 我々は年齢スケールとして、ESO121SC03 と L1 が 9 Gyr となるようにした。各星団 への E(B-V) も 。 Schlegel et al. 1998 から与えてある。 ただし、 NGC 411, NGC 416, NGC 419 は SMC 本体に近くマップの値の信頼度が低い ので Mighell, Sarajedini, French 1998 が NGC 416 に与えた E(B-V) = 0.08 を 使うことにした。星団の大部分は銀河のハローに位置し、従って減光は小さく、その エラーの影響も小さい。NGC 2121 だけは Sclegel 減光マップの信頼度が低い領域に かなり近い。しかし、マップの与える値はもっともらしく見えるのでその値を採用した。 この先では Schelegel et al 1998 からの AI = 1.96 E(B-V), E(V-I) = 1.28 E(B-V) を採用した。 |
![]() 表2.星団の主な性質 |
色等級図 図1、2は色等級図を示す。星団毎に決めた RCL 以内の星のみを 提示した。その結果、フィールド星の混入は無視できる程度に下がった。さらに、I 等級の標準分散が予め決めた σmax より大きい星は測光不良また は変光として刎ねた。 σmax は全星の測光から決めた。 (しかし、いくつか書いていない。) ![]() 表3.LMC星団レッドクランプの平均 I 等級。σSYS = 減光補正のエラー |
レッドクランプ星の平均 I 等級 レッドクランプ星の平均 I 等級は 0.07 等巾の区間で作ったヒストグラムに 以下の式をフィットして決めた。図3,4を見ると、数の少ない星団でもレッドク ランプの盛り上がりがはっきりしていることが判る。 ![]() ![]() 表4.SMC星団レッドクランプの平均 I 等級 |
SMC の傾き 表5.は赤化補正した星団レッドクランプの平均 I 等級と平均カラーを示す。 SMC は傾きが大きい Cadwell, Laney 1991 ので幾何学効果の補正を行った。 しかしながら、これまでの OGLE 観測の結果は SMC の傾きが考えていたより 小さいことを示している。Udalski et al 1998, Udalski 1998 によると、SMC バーの東西 2 領域で レッドクランプ星と RR Lyr は光度に差が認められなかった。 現在さらに多くの方向でのデータを集めており、SMC の幾何学を明らかにしたい。 (幾何学が変わると補正値も変わるがいいのか? ) SMC バーの東西 2 領域の距離差:第一領域 上に述べた 2 領域に関し少し詳しく述べよう。第一領域は NGC 121 の方向に ある。この星団は 4 つの RR Lyr 星を含んでいる。それらは Walker, Mack 1988 により CCD 測光された。平均等級は V = 19.59 であった。周辺領域は Graham 1975 により 写真測光が行われ、70 RR Lyr の平均等級は V = 19.57 であった。確認のため、 NGC 121 の周辺 14.2'×14.2' の再解析を行い、星団に属する RR Lyr 4 つと フィールドの 6 星を確認した。観測は 4 回で少ないが、平均値は十分良い精度で 決まる。その結果、星団 RR Lyr の平均は V = 19.59, フィールドは 19.60 であった。 これらは、Walker, Mack 1988, Graham 1975 の結果とよく一致している。減光補正を 行うと、Vo = 19.49 ±0.04 となる。これは SMC バーでの平均値 VoBAR = 19.41 と比べるとバーより 0.08 等後ろにいることを示す。 SMC バーの東西 2 領域の距離差:第二領域 第二領域は 47 Tuc の方向にある。ここの RR Lyr 星は Kaluzny サンプルで V = 19.69, OGLE サンプルで V = 19.68 である。E(B-V) = 0.04 の減光補正をして Vo = 19.55 ±0.03 でバーより 0.14 等背後にあることを意味する。 本論文の幾何学効果 上のデータに基づいて SMC の幾何学効果を新しく定めよう。まず、バーに近い 星団、 NGC 416, NGC 419, NGC 411, NGC 339 では補正は無視して良い。NGC 121 に 対する補正は前に求めたように、-0.08 ±0.04 である。Kron 3 と L 11 は 47 Tuc の近くに位置するが少しバーに近いので補正値を -0.13 ±0.04 とする。 L 1 はさらに相当西側にあるので、外挿して -0.20 ±0.06 の補正値を採用 する。一方 L 113 はバーの逆側、距離にして L 1 と同じくらいの所にいるので、 Gardiner, Hatzidimitriou 1992 の評価 0.20 ±0.06 を採る。表4には こうして決めた幾何学効果 Geo Cor と最終的な レッドクランプへいきん I 等級を 載せた。 | ![]() 表5.赤化補正した星団レッドクランプの平均 I 等級。SMC 星団には RR Lyr から決めた 銀河の幾何学効果を加えた。 |
レッドクランプ星の平均 I 等級が一定である 図7は星団レッドクランプ星の平均 I 等級と年齢の関係をプロットしてある。 黒丸は 1.5 - 10 Gyr の中間年齢星団である。図7を見ると、I 等級が一定である ことが明らかである。 LMC では Io = 17.88 ±0.05, SMC で Io = 18.31 ±0.07 である。SMC のエラーは主にレッドクランプの 決定精度は低い NGC 416 と、幾何学的補正が大きな L1 のためである。 。 古い星団 NGC 121 古い星団 NGC 121 には特別の注意が必要である。そのレッドクランプは図7に 見られるように平均より 0.4 等暗い。それには二つの理由が考えられる。まず、 星団が遠くにある。第2に固有光度が暗い。図8は NGC 121 周辺の色等級図で あるが、二つのレッドクランプ、フィールドと NGC 121, が見える。 ![]() 図7.星団レッドクランプ星の平均 I 等級と年齢の関係。黒丸= 2 - 10 Gyr |
フィールドの方は観測 I = 18.46, 赤化補正して Io = 18.40 で Udalski et al 1998a
によるバーの値 Io = 18.33 と比べると、フィールドはバーの 0.07 等背後にある
ことが判る。これは、第4章で決めた幾何学効果の値とよく合っている。
![]() 図8.NGC 121 14.2' × 14.2' の色等級図。星印は RR Lur |
NGC 121 と カリーナ銀河 NGC 121 の CMD は カリーナ銀河( Udalski 1998) とよく似ている。 カリーナは 15 Gyr の古い種族と中間年齢種族(3 Gyr と 7 Gyr)が混ざっている。 古い種族は水平分枝を、中間年齢種族はレッドクランプを形成している。レッド クランプは水平枝より 0.3 - 0.4 等明るい。この状況は NGC 121 にも通じる。 星団は周辺フィールドよりかなり古く、銀河系球状星団の最も古いやつよりより やや若い程度である。そのレッドクランプはもっと古い星団では水平枝に発達 しているはずの水平枝の赤い側部分と看做せる。実際、第8図を見ると、それが RR Lyr 方向に少し伸びているのが見える。 RR Lyr の数が少ないのは NGC 121 が 古い種族の中では若い方であることを物語る。NGC 121 レッドクランプ/水平枝の 平均等級は周辺フィールドの中間年齢種族に比べ 0.4 等暗く、これもカリーナ 銀河との類似点の一つである。 LMC 中の古い星団 類似の現象を求めて、文献で古い星団の測光観測例を探したが NGC 2210 (Reid, Freedman 1994)しか見つからなかった。その レッドクランプは I = 18.25 ±0.1, Io = 18.1 ± 0.1 である。図7で LMC 星団図中のアステリスクがそれである。 HB は LMC 中間年齢種族にくらべ 0.25 等暗い。LMC では 古い星団と中間年齢 星団とのメタル量の差が SMC の倍大きく、LMC の赤い水平枝を明るくしている ことを考慮すると、その差は 0.1 等さらに大きくなるかも知れない。 フォルナックス もう一つの例としてフォルナックス(Stetson et al 1998)を上げよう。この銀河 も色々な種族の混成からなる。そのCMDは基本的にはカリーナや NGC 121 周辺 と同じである。 NGC 121 の暗いレッドクランプは年齢効果 結論として、 NGC 121 の暗いレッドクランプは出現し始めた約 0.4 暗い水平枝 の赤い部分と解釈される。この星団のメタル量は表2にあるように、 SMC の中間 年齢星団と同じくらいなので、これは年齢効果である。Udalski 1998 によると、 カリーナの古い種族と中間年齢種族は良く似たメタル量を示す。 | vertical red clump 年齢が 1.5 - 2 Gyr 以下の若い星団 11 個の観測が Corsi et al 1994 に より行われた。それによると、それら星団中のレッドクランプ星は初めは明るく、 その後安定光度に接近して行く。残念ながら彼らの観測は BV バンドのため、 それらを図7に加えられなかった。フィールドでも同様の現象 Zaritsky, Lin 1997, Beaulie, Sackett 1998, Udalski et al 1998 が見られる。明るいレッドクランプ のはっきりした尾、時々 "vertical red clump" と呼ばれる、がそれらに見られる。 年齢確認の必要性 この論文に示す 2 - 10 Gyr の中間年齢星団は平均 I 等級が 0.05 等以内に 納まっている。ところが、 12 Gyr より古い NGC 121 ではそれが 0.3 - 0.4 等 暗くなる。この効果は M 31, Stanel, Garnavich 1998 にも見られる。フィールド 星レッドクランプの青い部分が滑らかに約 0.2 等暗い水平枝の赤い部分に移って いく。したがって、レッドクランプ I 等級を距離指標に使うなら、それらが 2 - 10 gyr の中間年齢であることを確認する必要がある。 レッドクランプカラーによる年齢推定 天体年齢は深い CCD 観測から決めることができる。しかし、(V-I)o から粗い 推定が可能である。マゼラン雲の観測からは中間年齢レッドクランプの平均カラー は 〈(V-I)〉 > 0.8 である。それより青いカラーは古い種族を示唆する。 この制限を念頭に、レッドクランプを含む幾つかの銀河星団にレッドクランプ 距離決定法を適用する, Sarajedini, Lee, Lee 1995, ことができる。レッドク ランプを含む 47 Tuc は Kaluzny et al 1998 がこの方法で m - M = 13.32 ±0.05 と得た。Udalski et al 1998 のメタル量補正を加えると (m-M)o = 13.38 となる。 星団とバーでの平均 I 等級の比較 LMC では星団平均 Io = 17.88 に対し、バーフィールドでは Io = 17.85, SMC では星団平均 Io = 18.31 に対し、バーフィールドでは Io = 18.35 だった。 これは以前の Stanek, Zaritsky, Harris 1998 の結果とも合う。 |
LMC/SMC の距離 メタル量を LMC で -0.8dex, SMC で -1.2 dex と仮定し、レッドクランプ 平均等級を LMC で 17.88&plumn;0.05, SMC で 18.31&plumn;0.07 とすると、 距離指標は LMC で 18.18&plumn;0.06, SMC で 18.65&plumn;0.08 となる。 これは、バーフィールドから決めた Udalski 1998 の値とよく一致する。 | 下にこれまでの距離指標をまとめた。 |