OGLE The Distance Scale: Galactic Bulge-LMC-SMC


Udalski, A.
1998a Acta Astron 48, 113 - 145




 アブストラクト

RR Lyr の距離スケールの較正 

 OGLE で観測した RR Lyr の平均光度を解析した。天体数は バルジで 73, LMC 110, SMC 128 である。フィールドは Udalski et al 1998 と同じである。 相対距離を dGB : dLMC : dSMC = (0.194±0.010): 1.00 : (1.30±0.08) と定めた。そして、  Gould, Popowski 1998 の統計視差に基づいて RR Lyr の距離スケールの較正を 行った。その結果、(m-M)GB = 14.35±0.15, (m-M)LMC = 18.09±0.16, (m-M)SMC = 18.66± 0.16 となった。
レッドクランプ I等級 

 バルジメタル量での RR Lyr 平均光度を参照等級として, レッドクランプ星の I 等級を様々な年齢とメタル量の下で調べた。メタル量への 弱い依存性が見つかった。MIRC = (0.09±0.03) × [Fe/H]RC - 0.23±0.03 である。レッドクランプから 距離を決めると、(m-M)GB = 14.53±0.06, (m-M)LMC = 18.13±0.07, (m-M)SMC = 18.63± 0.07 となった。 カリーナでは m - M = 19.84±0.07 であった。 RR Lyr と レッドクランプからの距離が良く一致するので LMC は ショートスケールで良い。


 1.イントロ 

LMC の距離スケール 

 セファイド PLR に基づく LMC の"長"距離スケール m-M=18.50 は広く受け入れられている。 Panagia et al 1997 は SN 1987A エコーからこの値を支持した。 しかし、 RR Lyr (Layden et al 1996) からは"短"距離スケール m-M=18.3 が示唆され、SN 1987A エコー最解析の結果(Gould, Uza 1998) もこちらを支持した。

SMC の距離スケール 

 SMC の距離に関してはあまり研究が無い。セファイドからの値は m-M = 18.94 である。

レッドクランプによる距離決定 

  Udalski et al 1998 は最近  Paczynski, Stanek 1998 が提唱した方法、すなわち レッドクランプの平均 I 等級を標準光源に使う、を距離決定に応用した。彼らは LMC に対して m-M = 18.08±0.03(統計誤差)±0.12(系統誤差)、 SMC に対して m-M = 18.56±0.03(統計誤差)±0.06(系統誤差)を得た。 Stanek, Zaritsky, Harris 1998 は、減光マップによる補正を行い、独立な測光観測から m - M = 18.07±0.03(統計誤差)±0.09(系統誤差)を得、 その結果が正しいことを確認した。
レッドクランプ I 等級の安定性 

 レッドクランプ法に関し、最も議論を呼んでいるのは等級の一定性が正しいかどうか の問題である。 Paczynski, Stanek 1998 , Udalski et al 1998 , Stanek, Zaritsky, Harris 1998 はこの問題を詳細に論じ、少なくとも一次近似ではこの仮定が正しいとした。しかし、 Cole 1998 は種族効果が 0.6 等に達すると論じた。彼はマゼラン雲の星形成史モデルと恒星 進化モデルに基づいて平均 I 等級を較正しようと試みた。Girardi Girardi et al 1998 は レッドクランプ星 モデルの解析から、LMC レッドクランプ星とヒッパルコスレッドクランプ星との 間には ΔMI = -0.235 の差があることを発見した。このような 理論アプローチには確証されていない仮定やパラメター値が含まれている。

観測的なアプローチ 

 これと続く論文では別の完全に観測的なアプローチを採用する。ここでは LMC, SMC の RR Lyr 星を解析する。サンプルは OGLE からレッドクランプ法 で使われたのと同じ領域から取った。RR Lyr を参照光源として、レッドクランプ の I 等級が一定かどうかを調べた。

カリーナにおける検証 

 カリーナの解析から我々はレッドクランプ の I 等級を再較正した。



 2.観測とデータ 

SMC の RR Lyr 

 SMC の RR Lyr はカタログとして近いうちに公表するが、今回は Udalski et al 1998 がレッドクランプをサンプルした同じ領域から選んだ。その領域は SMC_SC1, SMC_SC2, SMC_SC10, SMC_SC11 で、各領域の大きさは 14'×56' である。各 RR Lyr 毎に 100 - 115 回の I 測光が行われた。V 測光は 20- 25 回行われた。SMC フィールドからは 128 RR Lyr が選ばれた。
 RR Lyr の一つ SMC_SC11 101421 は NGC 419 の中心から 87" しか離れていない。 NGC 419 は 3 Gyr とかなり若い (Bica, Dottori, Pastoriza 1987) ので、これは 偶然の一致だろう。SMC では NGC 121 のみが RR Lyr を含んでいる(Olszewski, Suntzeff, Mateo 1996)。それにもかかわらず、星団の構成が単純でない可能性 を含め、この星には注意しておく必要がある。

LMC の RR Lyr 

 LMC の RR Lyr は予備的データベースを使い、LMC_SC14, LMC_SC15, LMC_SC19, LMC_SC20 から取った。赤化の微分変動を避けるため、 1/3 領域しか調べていないが、これはレッドクランプも同様であった。その結果、 110 星が選ばれた。

データ較正 

 OGLE 測光のゼロ点精度は SMC で 0.01 等、 LMC では 0.01 - 0.02 等である。 図1,2は RR Lyr のサンプル光度曲線である。表1,2には変光パラメターを載せた。

バルジ 

 バルジ RR Lyr は OGLE-1 データベースから選ばれた。場所は
http://www.astrouw.edu.pl/~ftp/ogle
である。Stanek 1996 が減光マップを作った BW 1-8, BWC から RRab 73 星が取られた。 混んだ領域なので I 等級ゼロ点の精度は 0.03 等である。表3には変光パラメターを 載せた。

図1.SMC_SC1 RR Lyr のサンプル変光曲線。縦軸は 0.1 等目盛り。


カリーナ銀河 

 OGLE-II の副プログラムとして、カリーナ銀河の観測も始まった。これまで 20 の V, I 画像が RA2000 = 6h41m34s, Dec2000 = -5-° 58'00" を中心に 14' × 14' で撮られた。

表1.SMC RR Lyr のリスト


 3.RR Lyr 距離スケール:バルジ - LMC - SMC

 3.1.RR Lyr データ

RR Lyr の平均等級  

 各天体の平均等級を求めた。まず、各星のフラックス重み付きの平均等級を計算した。 変光カーブを高次多項式でんフィットし、平均を求めた。結果のチェックにフーリエ 級数での近似でも同じ計算をした。二つの結果は 0.01 等内で一致していた。


減光を評価 

 次に、減光を評価した。バルジには Stanek 1998 の減光マップを Gould, Popowski, Terndrup 1998 および、 Alcock et al 1998 の減光ゼロ点で補正したものを用いた。マゼラン雲に対しては、LMC_SC14, LMC_SC15 に 関して AI = 0.33, LMC_SC19 と LMC_SC20 に対して AI = 0.33 , SMC フィールドには全て AI = 0.16 を適用した(Udalski et al 1998)

RR Lyr 星の平均等級 

 次に、各星の平均等級を 0.07 等のビンでヒストグラムにした。 マゼラン雲の場合、西と東の領域内のフィ ールドを融合して統計精度を上げた。ガウシアンフィットから、I0 RR = 平均等級, σIoST = 統計エラー, σIoSYS = 系統エラー, σRR = 分散 が得られ、表4 に提示された。図3、図4 にはヒストクラムとフィットを 示した。表4にある σRR はレッドクランプの分散とほぼ等しい。 マゼラン雲の分散は他の領域の分散(Smith et al 1992, Hazen, Nemec 1992)と 等しい。球状星団の分散 σRR ≈ 0.1 mag より大きい理由 は部分的には厚み効果であろう。表4の統計エラーがレッドクランプの場合より 大きいのはサンプル数のためであろう。しかし、減光マップが広がればサンプル の数は一桁は増加する。

平均等級の比較 

 表5には赤化補正後のカラー (V-I)o, V等級 Vo を載せた。表にはカリーナ銀河 のデータも載せた。観測数が少ないのでサンプルを Saha, Monet, Seitzer 1986 に限った。15 RR Lyr が検出され、E(V-I) = 0.08±0.02 (Mighell 1997) で赤化補正を行った。

表4.RR Lyr 星の平均等級。  I0 RR = 平均等級, σIoST = 統計エラー,
   σIoSYS = 系統エラー, σRR = 分散



図3.バルジでの RR Lyr 星平均等級の分布。

図4.マゼラン雲での RR Lyr 星平均等級の分布。


表5.減光補正後の RR Lyr 星の平均等級とカラー。

完全性  

 重要な問題は、観測の完全性である。BWの場合、明るいので検出率はほぼ 100 % である。(Udalski et al 1995) しかし、マゼラン雲では暗い 19 等天体を見逃す 可能性はある。しかし、 RRab Lyr のように > 0.4 mag の変光を示す場合には  I = 20 mag まで確実に発見できる。完全性のテストは行っていないが RRab 星 の検出率も 100 % に近いだろう。

Smith et al 1992 写真探査の完全性はとても低い 

 Smith et al 1992 は SMC 北東部 1°×1°.3 での写真乾板による 変光星探査の結果を報告した。彼らは 17 個の RR Lyr 星を発見し、完全性を 68 %


と評価した。つまり期待値は 25 星。我々の探査領域は Smith et al と 0.44平方度 重なり、我々はそこで 59 RRab Lyr を見つけた。1.3 平方度では 174 星になる。 したがって、 Smith et al 1992 の完全性評価値は低過ぎたと言える。

カリーナ探査の完全性 

 カリーナの完全性はもう少し悪い。色等級図の RR Lyr が占めている場所にはあと 50 % 程度の星が残されていた。しかし、平均等級の結果にはあまり影響しないだろう。



 3.2.距離の比 

RR Lyr の種族効果  

 RR Lyr の種族効果は重大な問題である。V 等級がメタル量 [Fe/H] と線形関係 にあり、勾配が -.15 - 0.20 mag/dex であることは良く知られている。(Carney, Storm, Jones 1992, Skillen et al 1993) 議論の的はゼロ点なのだ。我々は次の 式を採用する。

     MVRR = (0.18±0.03)[Fe/H]RR + const

この関係が銀河系内の RR Lyr 星の観測から導かれたことを注意する。

バルジ RR Lyr のメタル量 

 我々のサンプルの平均メタル量はどのくらいだろうか? バルジでは、 Walker, Terndrup 1991 が分光サーベイを行い、バーデの窓 59 RR Lyr 星の平均として、 [Fe/H]RR = -1.0、σ = 0.16 を得た。OGLE-I RR Lyr 星変光 曲線のフーリエ解析から Morgan, Simet, Bargenquast 1998 は[Fe/H]RR = -1.14±0.24 を得た。

LMC/SMC RR Lyr のメタル量  

 マゼラン雲 RR Lyr 星のメタル量に関しては殆ど知られていない。良質分光データ の取得は今や容易である。一般には、銀河系と同様フィールド RR Lyr 星は球状星団  RR Lyr 星より高メタルと思われる。以前の結果では LMC フィールドで [Fe/H] = -1.3 to -1.8 (Alcock et al 1996, Hazen, Nemec 1992), SMC フィールドで、 [Fe/H] = -1.6 to -1.8 (Smith et al 1992, Butler et al 1982) である。した がって、LMC で -1.6±0.2, SMC で -1.7±0.2 とする。平均周期はバル ジで 0.549 d, LMC で 0.571 d, SMC で 0.581 d である。平均メタル量と平均周期 の間には一定の関係が知られており、この周期も採用したメタル量と合致する。 カリーナ銀河の RR Lyr メタル量は -2.2 dex (Smecker-Hane et al 1994)とした。 いずれにせよ高分散分光観測は非常に重要である。

表6.バルジに準拠したメタル量補正後の RR Lyr 平均 V 等級


絶対等級・メタル量関係 

 定めたメタル量の差を、絶対等級・メタル量関係に入れて、バルジ RR Lyr 平均 V 等級に対して、 LMC は 0.11 ±0.04 mag, SMC は 0.13 ±0.04 mag, カリーナは 0.22 ±0.05 mag 明るいとした。表6第5列の Vo RR@GB がそれで、バルジと同じメタル量の RR Lyr がその銀河にあったら 何等に見えるかを表わしている。

系統エラー 

 系統エラーの多くは減光不定性からくる。バルジの場合、減光ゼロ点の不定性が 0.06 等 それに 測光エラーをくわえて.0.07 mag とした。

相対距離 

 こうして、LMC 距離を 1 とした相対距離を以下のように得た。

     dGB : dLMC : dSMC = (0.194±0.010): 1.00 : (1.30±0.08)



 3.3.相対距離の絶対較正 

絶対等級のゼロ点  

 RR Lyr はヒッパルコスでの信頼できる視差がない。現在最もよいデータは統計視差 である。Gould, Papowski 1998 は [Fe/H]RR = -0.16dex に対して、 MVRR = 0.77±0.13 とした。同様の結果が Fernly et al 1998 からも得られた。

BWの絶対等級 

 BW のメタル量を -1.0dex とし、前に出した勾配を使うと、BWの RR Lyr では、MVRR = 0.77 + 0.6 × 0.18 = 0.88 ± 0.13 を得る。表6から赤化補正後の平均等級は Vo = 15.41 であるので、距離指標 は m - M = 15.41 - 0.88 = 14.53 となる。総エラーの大部分はGould, Papowski 1998 の較正値の不確かさによるものである。他の天体までの距離も同様の方法で決め、表7に 示した。

表7.RR Lyr で決めた天体距離。



 4.レッドクランプ距離スケール 

RR Lyr サンプルとレッドクランプサンプル  

  今回 RR Lyr サンプルをレッドクランプサンプルと同じ領域から選んだ。従って、 減光補正は同じ系統エラーを被っている。レッドクランプ星の数は多いのでランダム エラーはこっちの方が小さい。しかし、 RR Lyr の場合でさえも 0.03 等程度なので 系統誤差よりずっと小さい。

レッドクランプ星平均等級 

 表8には バルジ、LMC. SMC, M31 のレッドクランプ星平均等級 I0 RC を載せた。

表8.レッドクランプ星平均等級


カリーナ銀河 

 表8にはカリーナ銀河も載せた。この銀河は LMC と同様、 古い種族と中間年齢種族の双方を持つ銀河である。カリーナ銀河は低メタルなので、 異なる環境下でレッドクランプ星光度がどのくらい安定かをテストするのはよい 天体である。

 中間年齢種族のメタル量はどう決めたのか?

 カリーナ銀河の減光は Mighell 1997 から 0.12±0.03 とし、レッド クランプ星は 0.7 < (V-I)o < 0.9, 20.5 < Io < 18.5 から 696 星 を選んだ。このカラーは他の天体で設定したレッドクランプよりかなり青い。これは 低メタルのためである。

 するとやはり低メタルは低メタルなのか? 

図6は 0.04 等区間での Io ヒストグラムとそれへの二次関数+ガウシアン でのフィットである。





図6.カリーナ銀河レッドクランプ星の Io 等級分布図


図5.カリーナ銀河の色等級図。星印は RR Lyr の平均位置。



 4.1.レッドクランプ星の Io 平均等級 

レッドクランプ星等級は一定か?  

 レッドクランプ星の Io 平均等級を使った距離決定法において最大の問題は、 それが年齢、メタル量に拘らず一定であるか否かという点である。一定説に肯定的 な観測上の証拠としては、カラーの広がりに対して平均等級が一定である ( Paczynski, Stanek 1998 ), 異なる種族領域が同一の距離を与える(Stanek, Garnavich 1998)が ある。Castellani, Chieffi, Straniero 1992 によるモデル計算の結果も年齢効果 が弱いことを示している。 一方、 Bertelli et al 1994 モデルはレッドク ランプ等級が年齢、メタル量にもっと強く依存することを主張している。Cole 1998 は種族効果が 0.6 等に及ぶことを示唆した。Girardi et al 1998 は LMC のレッド クランプ平均等級は太陽近傍より 0.24 等明るいという結果を得た。このような 有様なので、観測に基づいて一定かどうかを決めることは極めて重要である。

RR Lyr を基準にする。 

 RR Lyr が良い標準光源であることは広く認められている。そこで、それに対して レッドクランプの光度を決めて、天体間の差を調べてみよう。

RR Lyr とレッドクランプは種族が違う 

ここで強調したいのは RR Lyr とレッドクランプとは異なる種族に属していることである。レッドクランプ のメタル量は広い範囲に及んでいる。例えば、バルジでは -0.3 から 0.3 まで (Minitti et al 1995)、LMC では -0.8 から -0.5 まで (Olszewski, Suntzeff, Mateo 1996)、SMC では -1.0 から -0.7 まで(Olszewski, Suntzeff, Mateo 1996)、 カリーナでは -1.9 (Mighell 1997) である。バルジ内でレッドクランプと RR Lyr の 空間分布が異なる点も両者が全く異なる種族に属していることを物語る。レッド クランプ星はバーに集中(Stanek et al 1997)し、一方 RR Lyr は球状のハロー に属する (Alcock et al 1998a)



表9.レッドクランプと RR Lyr の等級差
 (レッドクランプのI等級ー バルジメタル量 RR Lyr の V 等級) 

 表9には(レッドクランプのI等級ー バルジメタル量 RR Lyr の V 等級)を示す。 図7はその値をメタル量に対してプロットした。低メタルのレッドクランプ星が 明るくなるという明らかな傾向がある。観測点を直線フィットして、

(年齢効果は無視されている)

     MIRC = (0.09 ±0.03) × [Fe/H] RC + const.

 この式の勾配は RR Lyr V 等級のメタル量依存性よりずっと小さい。我々は const. には興味が無い。次節で詳しく論じるからだ。

 ははん、きっとこの値は都合が悪いんだ! 

 理論予想との比較 

 レッドクランプ I 等級のメタル依存性は以前から予想(Bertelli et al 1994) されていた。 Cole 1998 は 0.21 ±0.07 mag/dex という勾配を、 Girardi et al 1998 は LMC とヒッパルコス レッドクランプの絶対 I 等級の間に 0.24 等の開きを 予想した。我々が得た値は勾配にして 0.09, LMC と太陽近傍との差は 0.05 等である。 このように、理論的予想は観測値に対して少なくともファクター2大きい。 ただし、この観測結果は RR Lyr の光度・メタル量関係の勾配に大きく影響される。 それが Feast 1997 の言うように 0.37 mag/dex まで大きければ、上の式の勾配は 0.20 mag/dex に 上昇し、LMC 距離も大きくなる。






図7.(レッドクランプのI等級ー バルジメタル量 RR Lyr の V 等級)のメタル量による変化。     点線は直線フィット。



 4.2.レッドクランプ光度の絶対較正 

 太陽近傍のレッドクランプを用いた等級ゼロ点の決定  

 太陽近傍 70 pc 以内のレッドクランプを用い、それらが [Fe/H]RC = 0.0 として、 Stanek, Garnavich 1998 はその平均絶対 光度を決めた。前節で求めた傾きを用いると、

     MIRC = (0.09±0.03)[Fe/H]RC - 0.23±0.03

という関係が得られる。  年齢依存性がメタル依存の中にいっしょくたにされている!

 RR Lyr の銀河系バルジの基準光度への変換 

 表 10 には I 等級一定の仮定で求めた距離指標と、今求めたメタル依存性を考慮した 距離指標を並べている。古い方法と新しい方法との差は 0.05 - 0.07 等と小さい。この 差は低メタルな天体ではもっと大きくなり得る。注意しなければいけない点は、この 新しい距離は幾分かは RR Lyr に依存していることである。 RR Lyr のメタルー光度関係 は RR Lyr の光度を銀河系バルジの基準光度に戻すのに使用された。この基準光度が レッドクランプの光度ーメタル量関係を導く際に使われたのである。

 LMC の距離 

 LMC の距離の新しい値は古い値に比べ 0.04 等大きくなった。系統誤差は 0.05 等である。 この結果、 m - M = 18.13 ±0.07 となった。同様に、 SMC では m - M = 18.63 ±0.07、バルジは m - M = 14.53 ±0.06 となる。

図10.レッドクランプの距離



 5.議論 

 相対距離と LMC "短"距離指標  

 RR Lyr からは相対距離として、

     dGB : dLMC : dSMC = (0.194± 0.010) : 1 : (1.30±0.08)

が得られていた。この比は絶対等級とは無関係に決まった。もし LMC で m - M = 18.50 つまり距離で 50.1 kpc とすると、バルジ距離は 9.92±0.50 kpc となる。 この値は最近得られた殆ど全ての銀河中心距離と矛盾する。一方、銀河中心距離を 標準の 8.0±0.50 kpc として、上の相対比を適用すると LMC 距離は 41.2 kpc, m - M = 18.08 となる。

 標準光源としての RR Lyr  

 RR Lyr は、球状星団で確認されているように光度分散が小さい、星団とフィールド とで類似の性質があり、メタル量ー光度関係が良く決まる等の性質から、標準光源として 理想的である。レッドクランプの光度はこの RR Lyr に準拠して決定された。

 レッドクランプ光度のメタル量依存性 

 我々は、レッドクランプ光度のメタル量依存性を 0.09 mag/dex と定めた。等級のゼロ点は 太陽近傍星で決めた。このように、較正は信頼できる方法で行われた。その結果得られた メタル依存性は理論モデルからの予想に比べてずっと小さかった。その原因はモデルに 含まれる多数の仮定のためであろう。次の論文ではこの年齢依存性を詳しく調べる。
 年齢依存性  

 我々の得たメタルー光度関係の残差が小さいことから、年齢依存性は殆どないの ではないかと推測される。モデルでは 2 Gyr より若いレッドクランプ光度がずっ と明るい (Girardi, Bertelli 1998) ことを予想している。この若くて明るいレ ッドクランプ星は LMC のフィールド中で垂直拡張枝(vertical extension of the red clump) として現れている。Zaritsky, Lin 1997, Beaulier, Sackett 1998, Udalski et al 1998) もっと古い星では光度は年齢に依らなくなる。これは、 我々が調べたレッドクランプ星の殆どは 2 Gyr より古いことを意味する。

  RR Lyr 距離 

 表10には改訂された天体距離を載せた。古い値との差は 0.07 等以下で小さい。 この結果は LMC の短距離指標を支持する。RR Lyr を用いて決めた絶対距離はやや 精度が低い。なぜなら光度のゼロ点を直接決められないからである。現在最も信頼 出来る Gould, Popowski 1998 の結果を使った RR Lyr 距離は表7に与えた。

 レッドクランプ星と RR Lyr 星のメタル光度関係  

 レッドクランプ星のメタルー光度関係は RR Lyr 星のメタル光度関係を参照して 決められている。したがって、天体間の相対距離関係は両者同じになる。我々が 強調したいのは両者の光度ゼロ点が全く独立に決められていることである。レッド クランプの方は近傍星の三角視差から、 RR Lyr 星は統計視差から求められた。

  "長"距離指標 

 セファイドは "長"距離指標を与えている。しかし、例えば Sekiguchi, Fukugita 1998 はセファイドの P-L 関係にメタル効果があるのではないかと 示唆している。