An Atlas of Low-Resolution Near-Infrared Spectra of Normal Stars


Torres-Dodgen, Weaver
1993 PASP 105, 693 - 720




 アブストラクト

 スペクトル型 O - M, 光度クラス V, III, Ib の星の 5800 - 8900 A スペ クトルを示す。分解能は 15 A である。スペクトルの主な特徴を述べ、 温度と光度に従って綺麗に並ぶことを示す。  この波長域と分解能は、高感度のシリコン検出器の性能と相まって、 スペクトル分類には非常に有用である。


 1.イントロダクション 

 5800 - 9000 A の特徴 

 図1に感度曲線を比べた。 5800 - 9000 A が魅力的な波長域であることが 分かる。感度以外にこの波長域には次のような特徴がある。
(i) 晩期型星データが素早くとれる。
(ii) 赤化の大きな O-, M-型超巨星、OB-星は、 3900 - 4900 A スペクトルを 用いた旧来のMKシステムでは分類が困難である。
(iii) 光度クラスは長波長スペクトルの方が決めやすい。
(iv) 青に感度の高い CCD は小型望遠鏡には高価過ぎる。
(v) パッシェン、Ca II 三重線、分子バンドなどの強い特徴が豊富で 対物プリズムレベルで分類が可能である。


 初期の分類法 

 写真赤外域での早期の分類法は Keenan 1957、Keenan, Hynek 1950 が B- G 型星における OI 7774, 8446 の光度依存性を、Sharples 1956 が M-型星の分類システムを 200 A/mm スペクトルで、Nassau 1956 が 対物プリズムスペクトルを使い M-型星の分類を行った。Parsons 1964 は パッシェンラインと Ca II 3重線 (λλ 8498, 8542, 8662) を A - F 型星の副基準に使用することを示唆した。これ等の星では 写真赤外では光度クラスは青領域より容易に決まることを注意する。 温度の決定に関しては逆である。Bouw 1981 は Parsons の方法を試し、 光度クラス Ia - II が MK 法と同じ精度で決まることを示した。

 10970, 80 年代の仕事 

 過去20年間 0.6 - 1.0 μm でのスペクトル分類の仕事は片手ほど しかなかった。その大部分は晩期型で、初期の多くは Wing 1970 のように測光システムを用いている。Andrillat et al 1979 は Of や Be の ような初期型星を扱った珍しい例である。Gunn, Stryker 1983 は分解能 20 - 40 A のマルチチャンネルスキャナーで 3130 - 10800 A のスペクトルカタ ログを作成した。

 レチコンの利用 

 イメージチューブは写真赤外の分光を実用的なものとした。Barbieri et al 1981 は 6 A 分解能の 7000 - 9200 A レチコンスペクトルを用いて低温度星 の分類を行った。Turnshek et al 1985 は増強レチコンを用い 8000 A まで スペクトルを伸ばして G, K, M, S, C 型星の分類を行った。K, M 型星系列は Schulte-Ladbeck 1988, Kirkpatrick et al 1991 が調べた。MacConnell et al 1992 は 6400 - 8800 A の測光とスペクトル南天の遠方超巨星を研究した。

図1.量子効率の比較。103a-O は青感光材。S-20 は赤に強い光電管。 レチコンは強度増強無し。



 南天の MK 標準星 

 現在までに Danks, Dennefeld 1993 のみが O - M 型の南天 MK 標準星 126 個を 0.58 - 1.0 μm スペクトルアトラスを撮っている。彼らの観測は分解能 4 A レチコンで我々の観測より 4 倍優れている。我々とは数個の星が共通で 我々の低分散スペクトルでも温度と光度クラスは分類可能であることが確認さ れた。


 2.写真赤外分類法 

 MK 分類の精神 

 Garrison 1984 が述べているように MK 分類は自律的である。その意味は スペクトル格子の中で完全にスペクトルの形態のみで決定されるということ である。標準星のスペクトルはその外観のみに基づいて順番に並べられる。 この仮定にはラインの強度比は用いられない。それらはゆっくり変わるパタ ーンを区別するためのテクニックとしてのみ用いられる。

 標準星が自律的に決める分類システム 

 採用された標準星が分類システムを決定する。システム設計者は分類に有用な 特徴を示すのみである。システムは標準星の順序だった格子に基づいているので 観測装置の性能はあまり効かない。この論文は主に妥当性の提示が目的である。 我々は分類に有用と思われたスペクトルの特徴も述べる。
 赤外分類の基本方針 

 MK 法を形式的に適用すると、赤外スペクトルをその特徴に応じて配列して スペクトル標準星の格子を作り、それらにスペクトル型名を付けるべきである。 しかしそのシステムは MK システムと無関係で天文コミュニティには無用の ものになりそうである。そこで、MK システムがそれ以前の伝統的なスペクトル 分類で使われてきた命名を踏襲したように、我々も伝統的な2次元 MK 分類 を採用する。表1に使用した Morgan, Keenan 1974 のダガー標準星を示す。

 潜在的な危険 

(i) 青波長では正常でも写真赤外では異常なスペクトルを示す星もある。 各ビンで少なくとも二つの星を撮り、異常と判定した場合はそれを述べた。
(ii) サブクラスレベルでは、赤外での系列が青波長系列と異なる可能性がある。 ただし、いまのところその兆候はない。
(iii) 連星の赤い伴星があった場合にその影響が大きい。



表1.観測星リスト

 3.装置とデータ解析 

 装置 

 観測は MIRA 36" 望遠鏡 f/10 カセグレン焦点で行われた。図2に分光計 平面図を示す。検出器はレチコンアレイ RL512C/17 である。

 分光測光標準星 

 表2には使用した分光測光標準星をリストした。それらは Breger 1976 から採った。最終的なフラックス較正エラーは 10 % である。表3には 観測条件により連続スペクトルの形がどう変わるかの例を示した。較正が 上手く行かない最後の 300 A での大きな変化に注意せよ。




図2.MIRA 分光計

表2.分光測光標準星。Breger リストより。


図3.異なる日に撮った HR 8414 (G2 Ib) スペクトル。下(太線)は非測光 夜のデータである。





表3.赤/写真赤外領域でのスペクトルの特徴

 4.スペクトルの検討 

図の内訳 

図4−7 主系列星スペクトル
図8−11 巨星スペクトル
図12−15 超巨星スペクトル
図16−22 光度クラスによる変化
括弧内の数字は色超過である。

 パッシェン領域の重要性 

 図からパッシェン領域はそれだけで O - F 型のスペクトル型決定に有用で ある。これは可視域でバルマー領域が演ずるのと同様の役割を担っている。 早期型星ではパッシェン領域は超巨星を 光度クラス V と III から区別する のに役立っている。超巨星のパッシェンラインは巨星や矮星に比べてずっと 細い。それに加え、 OI λ8446 は光度の良い 指標である。パッシェンジャンプは A 型星の光度クラスを決めるよい指標で ある。晩期型星 (G - M) ではパッシェン領域 = Ca II 三重線のみが光度の 指標となる。

 具合の悪い点 

 ここに示したプログラム星スペクトルの全てがそれぞれ隣の星から温度と 光度の双方で区別できるなら、写真赤外分類は働くことになる。以下には それほど明瞭でない区別について述べる。

 O-型星 

 O4V は He 線が、特に λ7065 線が、弱いことで O6V から区別される。 しかしパッシェン領域は underexposed (暗い?) なので、O6V, O9V, O6.5III, O9III は区別できない。O-型星の分類は非常に難しい。OI λ7774 は B1 に存在し、O9 にはないので両者の区別に役立つ。
F2V - F5V

 F2V と F5V は、F2III と F5III と同様良く似ている。しかし、それらは OI λ7774 強度で区別有れる。また、Ca II 三重線の相対比と パッシェンラインを使えばもっとはっきり分けられる。

 G型星 

 G2V, G5V, G8V は、G2 III, G5 III, G8 III も独立に、最も分類困難な星 である。λ6497 ブレンドと Hα が区別を助ける。 G8Ib と K0 Ib は Ca I 線が G8 Ib 星で強いことで区別される。

 光度クラス 

 O-型星を除くと他のスペクトル型では光度クラスの分別は可能である。

 K-, M-型星 

 K-, M-型星の分類にとって写真赤外域は極めて有用である。それはサブタイプ を 0.1 精度で分けることは難しいかも知れない。M2 III の 5900 A 付近の TiO バンドは M2 V より強いし、 M2 Ia-Iab より強い。このバンドは M3 III では M3 V や M3.1 Ib より強いことが判る。ただサンプルが subluminous という論文もある。

  

 ここではメタル量の効果は考えていないが Xu 1991 は G8 - M0 星でメタル量 の増加とともに Ca II 3重線の強度が強まるという結果を得ている。

 5.結論 

 大体分類できる 

 NIR 5800 - 8900 A、分解能 15 A 分解能スペクトルは温度と光度 に従って、順次変化していくことが判った。この波長域は B-型より 晩期の星の分類に有効である。実際、 B から K 型までではパッシェン領域 だけで大体のスペクトル型を決められる。 現時点では O-型星の分類に 関しては難しい。
超巨星の分別 

 特に超巨星は巨星、矮星から容易に分別可能である。以前から OI λλ 7774, 8446 ラインが A, F 型星に対して光度クラスの 分離指標として良いことは知られていた。また A から M 型星で Ca II 3重線も光度指標になることが判っている。





図4.光度クラス V の O-, B-型スペクトル。下線を引いたラインは温度依存 性が強いもの。


図5.光度クラス V の A-, F-型スペクトル。


図6.光度クラス V の G-, K-型スペクトル。


図7.光度クラス V の M-型スペクトル。


図8.光度クラス III の O-, B-型スペクトル。下線を引いたラインは温度依存 性が強いもの。


図9.光度クラス III の A-, F-型スペクトル。


図10.光度クラス III の G-, K-型スペクトル。


図11.光度クラス III の M-型スペクトル。


図12.光度クラス Ib の O-, B-型スペクトル。下線を引いたラインは温度依存 性が強いもの。


図13.光度クラス Ib の A-, F-型スペクトル。


図14.光度クラス Ib の G-, K-型スペクトル。


図15.光度クラス Ib の M-型スペクトル。


図16.O6 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図17.B5 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図18.A4 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図19.F5 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図20.G5 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図21.K3 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。


図22.M2 型スペクトルの光度クラスによる変化。下線は光度による変化が 大きいライン。

  

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 



図.


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