Onset of Mass Loss in Red Giants: Association with an Evolutionary Event


Mullan, MacDonald
2003 ApJ 591, 1203 - 1209




 アブストラクト 

 Stencel, Mullan 1980 はMg II k 輝線輪郭から、HR 図上に "velocity dividing line" = VDL の位置を決定した。VDL の右上にある星は線輪郭が非対 称で、冷たいガス流出を示唆している。VDL 位置は水素燃焼殻が外側に進化して 平均分子量の不連続を通過する時期に一致する。  低質量星ではその結果進化経路に折れ曲がり("kink")が生じる。星団では光度関数の コブ(bump") として現れる。「折れ曲がり」または「コブ」の通過は冷たい星風発現と 関連があるらしい。


 1.イントロダクション 

 transition region line 

 低温度星の IUE スペクトル遷移領域輝線の観測から Linsky, Haisch (1979) は恒星の外層構造が HR 図上の 「分割線」で二分されることを見出した。 その分割が遷移領域輝線以外にも存在するか、その後多くの研究がなされた。

 速度分割線 (velocity dividing line) 

 Stencel, Mullan 1980 は IUE データから MgII の h, k 線を調べた。それ ぞれのラインは二つに割れている。S=短波長側ピーク強度、L=長波長側ピーク強度とした時、 太陽では S/L が1より大きい。しかし、多くの低温度星では S/L < 1 である。 右図には S/L が 1 を超すラインを速度分割線として示した。興味深いことにこのラインは Linsky, Haisch (1979) が発見した遷移領域輝線の「温度分割線」とほぼ重なる。(表示に Mbol と Mv の違いはあるが。)

 星風が吹き始める 

 これらの事実は、赤色巨星が VDL を越す際に、熱いコロナが消失し、冷たく 高密度の星風が吹き始めることを意味する。

図 Stencel, Mullan 1980 より。


 2.図の改訂 

 1980 年には h, k 線の巾と光度との関係を用いた。これは Wilson-Bappu 効果 (VaII H, K 線)の MgII 版である。しかしその後ヒッパルコス視差 が使えるようになった。図1はそれらを使った改訂版である。

 3.S/L の意味 

 星風があると、青い光子ほど散乱される。従って S/L が1以下になるのである。 Robinson, Carpenter,Brown 1998 は SEL = Sobolev with Exact Integration を用いて、Mg, O, Fe の線プロファイルを再現した。K5III 星の α Tau (S/L=0.5), γ Dra (S/L=0.4) に対しては dM/dt = 10-11 Mo/yr 程度の値を得た。

図1.改訂版。


 4.RGB のコブ (観測) 

 コブ位置は年齢やメタル量に依存するので、フィールド星でバンプ等級を 決めることは困難である。それでも近傍星にコブが Mv = 1.1 - 1.6 付近に あるらしい。この等級範囲は上に述べた「分割線」と重なる。これから、

「強い星風の発生は星がコブを通過することに関連する」

という推測が浮かび上がる。

 5.RGB のコブ (理論) 

 「コブ」起源の物理的説明は Salarisi, Cassisi, Weiss (2002) にある。

図2.M=1Mo, Z=0.02 星の進化。