Mixed Modes in Red Giants: a Window on Stellar Evolution


Mosser + 20
2014 AA 572, L5 - L9




 アブストラクト 

 準巨星と巨星における混合性の振動が検出され、中心核の物理条件が調べら れるようになった。ケプラーデータからデータを選び、星の進化段階と質量を マップした。振動進化経路を周波数と周期間隔の面上に引いた。  進化段階の変化を定める asteroseismic な特性を定量的に示した。  特に準巨星から早期赤色巨星枝星への転移を明らかにした。恒星振動の情報は はっきりしているので、恒星モデルに関係なくヘリウム燃焼核内のエネルギー 輸送や赤色巨星枝、前近巨星枝に入る星の内部構造の研究に使える。 またヘリウムサブフラッシュの星の研究から、第2レッドクランプ星、ブルー ループ星の星が同定される。


 1.イントロダクション 

 観測された振動数間隔はモデルと違う 

 赤色巨星で観測された振動数間隔はモデルの予想からかけ離れていた。なので、 この観測から特定の進化経路を正しいと選び出すことは出来ない。しかし、観測 される漸近周期間隔は中心核の大きさに直接結びつく量である。

 Δν =「大きな周波数間隔」

 赤色巨星中心核と外層との結合情報はミックスモード振動パターンから得ら れる。このモードは対流外層の音波と高密度輻射核の重力波との共鳴から生じ、 音響モードと重力モードの性質を併せ持つ。音響モードは等周波数間隔で並び、 その値 Δν は、「大きな周波数間隔」と呼ばれ、星の平均密度に 依存する。
 ΔΠ1  

 重力モードの周期は等間隔に並ぶ。双極モードでのこの間隔は  ΔΠ1 と表され、中心核密度に依存する。 ΔΠ1 の決定は中心核、その回転、中心核と外層との間の 角運動量輸送を調べるのに使える。

 進化段階の研究 

 ここでは、振動数、周期間隔を用いて主系列最終段階から漸近巨星枝に至る 進化段階を研究する。得られる結論がモデルに依存しないことは重要である。


 2.データと方法 

 データセット 

 ケプラーから、準巨星38個の一か月以上のデータ、 12,700 個の赤色巨星 の 44 か月データを選び、その内 2800 個を周波数マップ用に使った。

 間隔決定精度 

 Δν =「大きな周波数間隔」の決定精度は 0.04 μHz で相対誤差 1 % である。ΔΠ1 の精度は S/N 大のミックスモードが 幾つあるかに依存する。その数は進化段階により変化し、赤色巨星では誤差 2 %, 多くの場合、0.5 % 精度がある。準巨星では精度が落ちる。
 ΔΠ1 の決定 

 赤色巨星では 1142 星で、準巨星は 36 星で ΔΠ1 を 決定した。Δν < 5 μHz と低く、重力優勢のミックスモードが 大きな慣性を有している領域では測定の信頼度が下がる。そのような場合、明 るい星をポールオンで観測して、双極ミックスモードの m = 0 モードのみが 見えている時にのみ高精度の測定が可能となる。

 振動スケーリング関係 

 振動スケーリング関係を9つの巨星、11個の準巨星で較正して、星の質量と 半径を決定できる。光度はその半径と有効温度とから決まる。質量の精度は 15 - 25 %, 半径 5 - 10 %, 光度 15 - 25 % である。


 3.振動 HR 図 

 Δν - ΔΠ1 のプロットは図1のように星の 進化を示す。この図は古典的 HR 図よりも豊富な情報を含む。

 3.1.準巨星 

 中心部の水素が燃え尽きると星は準巨星になる。 M < 1.5 Mo の星では ミックスモードの観測から、プロキオンのような星では高密度の輻射核が 推定されている。中心核の熱的タイムスケールでの収縮は外層の膨張を引き 起こす。こうして準巨星が進化すると、平均密度が低下し、「大きな周波数間隔」 も減少する。
(密度が下がると間隔は大きくなるのかと 思っていた。)
一方中心核密度の上昇は周期間隔の減少となる。また、 ΔΠ1 - Δν 関係の星質量依存性も明らかである。

 3.2.準巨星から赤色巨星へ 

 赤色巨星への遷移 

 星が準巨星から赤色巨星枝へ進化すると、半径が増大して「大きな周波数間隔」 を減少させる。その結果、ΔΠ1 - Δν 図上で 進化経路は収束する。赤色巨星への遷移はΔΠ1 - Δν 図上でははっきりと見える。それは、星質量、メタル量に影響 されない。

 境界 

 観測的には、1.5 Mo の星でその境界は 図1の点線で示され、 (ΔΠ1/126 s)(Δν/36.5 μHz) < 1 で与えられる。



図1.Δν - ΔΠ1 関係。上:色は質量を表す。 S=準巨星。R=赤色巨星枝星。f = ヘリウムフラッシュ段階。C=レッドク ランプ。p2=前第2クランプ星。2=第2クランプ星。A=レッドクランプ を離れAGBへ移行中。右側の縦棒=エラー。点線=進化段階の境界。 下:レッドクランプ領域の拡大図。  


 3.3.レッドクランプの構造 

 ヘリウム核燃焼へ 

 低質量星のヘリウム核質量が 0.47 Mo に接近するとヘリウムの燃焼暴走が ヘリウムフラッシュを起こす。その結果、星は赤色巨星枝先端からレッドク ランプへと移行する。ヘリウムフラッシュを起こす星の最大質量は 10 % 不定性 で 1.9 Mo である。我々は Miglio et al 2012 がレッドクランプに対して、 提案したスケーリング改訂は考慮しない。図1で "C" として表されるレッド クランプ星は ΔΠ1 - Δν 図上で (300s, 4.1 μHz) 付近に固まっている。それらの核質量はほぼ等しく、その結果光度も 同じくらいなので、 Paczynski, Stanek (1998) はレッドクランプを標準光源として用いることを提案した。星震情報はレッド クランプ星の構造の改善に有用であり、その結果距離測定に役立つ。

 対流層境界の取り扱い問題 

 モデル側には未だ周期間隔を再現するには問題がある。その原因の一つは ヘリウム核燃焼の対流層境界における元素組成不連続の取り扱い方が不正確な ことである。その結果、中心核のミクシングが不十分になる。もっと大事な ことは ΔΠ1, Δν の測定が精度が十分に高いと ヘリウム燃焼段階の進化を追えることである。低質量星の Δν は質量 の大きな星より小さく、平均密度が小さい。これは、水素燃焼殻の圧力が一定 であることと整合する。

 ΔΠ1, Δν 進化 

 もっと大事な ことは ΔΠ1, Δν の測定が精度が十分に高いと ヘリウム燃焼段階の進化を追えることである。低質量星の Δν は質量 の大きな星より小さく、平均密度が小さい。これは、水素燃焼殻の圧力が一定 であることと整合する。 ヘリウム燃焼の初期、中心核質量が増加し、膨張すると外層は収縮し、 ΔΠ1, Δν は増加する。第2段階では、エネル ギー生成率が不十分なために両者ともに減少する。このような進化はモデルで 予測され、図2で観測的に立証された。

図2.振動観測から決めた、0.9 - 2.9 Mo 星の進化経路。1.9 Mo 星のデータ が不足で、クランプと第2クランプの境界を決めるに不十分なため抜かした。 赤色巨星枝上では第1光度バンプによる分散が大き過ぎて、1.9 Mo 以上の星 の進化経路を決められない。点線=進化段階の境界。  




 3.4.第2クランプの構造 

 非縮退核の発火 

 1.9 Mo 以上の星では核が完全な縮退にないのでヘリウムの点火はフラッシュ よりも穏やかになる。こうして第2クランプ星は図上で広い範囲に広がる。 ΔΠ1 は、星質量が 1.9 Mo から 2.7 Mo まで上昇するに つれ、低下して行く。その先、 2.8 Mo を越すと ΔΠ1 は 急速に増加していく。この振る舞いは星モデルから予測されるが、 ΔΠ1 最小値に対応する星質量を再現することができない。 これが星震図の必要性の理由である。

 p2 段階と 2 段階  

 我々は p2 状態を第2クランプ母星に対応する状態として定義する。p2 段階 と 2 段階の閾値は Δν が第2クランプでの値の中間値の 25 % より 低く、ΔΠ1 が第2クランプの平均値より低い所として 任意に定めた。第2クランプの母星は中間値状態よりも低い Δν ( =高い光度)を有する。これら母星に関し観測とモデルの比較が重要である。

 3.5.漸近巨星枝へ 

 クランプを出ようとしている小質量星 

 クランプの周辺に周期間隔が著しく小さな星が少数存在する。これらは多分 ヘリウムが枯渇して核が収縮し始め、レッドクランプから漸近巨星枝へ移り 始めた星である。同じ軌跡上にある星の質量は大質量にまで亘るので、これ らの星がレッドクランプに入り始めているというシナリオは排除できる。 観測から、星がレッドクランプに出入りする時は、 ΔΠ1 - Δν 図で "A" で示すが、「大きな 周波数間隔」 Δν が同じ質量のクランプ星平均値を 15 % 下回った時 であることが分かる。小質量星に関しては、この限界線は、

     (Δν/3.3 μHz) (ΔΠ1/245 s) < 1

で与えられる。古典的な HR 図ではこれらの低質量星は光度が同じなので 隠されてしまっていた。

 第2クランプを出ようとしている高質量星 

 第2クランプを出ようとしている高質量星も判別できる。ヘリウム核燃焼が 衰えると、 Δν が減少し、Δν は最初増加する。次の段階で ΔΠ1 と Δν は小質量星と同様の動きを見せる。 ただし、動きの巾は大きい。このため、M ≥ 1.9 Mo 星の A 段階は数が少なく とも識別可能である。


 3.6.ヘリウムフラッシュ 

 ごく最近にヘリウムフラッシュを起こした星 

 以上述べた進化経路から明らかに外れた位置に少数の星が存在する。これら、 図1で "f" と示した星はごく最近にヘリウムフラッシュを起こした星である らしい。低 Δν 領域に我々は異常に大きな周期間隔の星を見出す。 これは内部輻射領域が小さいことを意味する。低質量星に関してこの現象は ヘリウムフラッシュに合致する。
 高質量星の場合 

 高質量星ではヘリウム点火時やブルーループでの進化経路は決められない。 この段階にあるのかも知れない二つの星は "?" 印で示した。サブフラッシュの 間にある星は ΔΠ1 と Δν の双方共に小さいので 検出しにくい。主クランプ直前の星の ΔΠ1 も分かる。


 4.結論 

 ΔΠ1 - Δν 図 

 ΔΠ1 - Δν 図に小質量星の進化経路を導いた。 内部構造の変化、例えば水素殻燃焼、ヘリウム核燃焼、その終焉は ΔΠ1 と Δν の関係の変化として現れる。

 前クランプ段階 

 低質量星が赤色巨星枝に辿りつくと、中心核と外層の関係が密接なために、 星質量に関係なく、周期間隔 ΔΠ1 は周波数間隔 Δν と共に変化して行く。同様の変化はヘリウム核燃焼段階でも起き る。しかし、それらの関係は星質量に依存する。というのは、核燃焼がヘリウ ムの縮退を解くからである。ヘリウムが枯渇すると中心核の縮退が再び始まり、 ΔΠ1 と Δν の関係は再び星質量に依らなく なる。この関係から外れる少数の星はヘリウムフラッシュ後にヘリウム燃焼 段階を開始した星と看做される。
 高質量星 

 モデルとの比較から、現象学的な閾値を核のヘリウム量のような恒星進化 パラメタ―と結びつける助けになる。特に第2クランプ星では p2 段階に つなげられる。ただし、まだ進化経路の再現に成功していないので、この比較 は現段階では不可能である。ただ、今でも 1 % 以下の星が境界近くに存在する ことは確かである。特に中でも二つの高質量星はブルーループ星の可能性が ある。