Chemodynamical Evolution of the MW Disk I. The Solar Vicinity


Minchev、Chiappini, Martig
2013 AA 558, 9 - 33




 アブストラクト 

 円盤の化学進化モデルと銀河円盤のシミュレイションを合わせるという新し い方法で円盤の化学動力学進化を研究する。この方法はシミュレイションで起 きる星形成と化学組成増加の問題を避けることができる。ここでは、宇宙論的 な枠組みの中で、銀河系を扱う。その場での元素生成と動径移行が太陽近傍に もたらす影響を調べた。高 z 時代のマージャーからの動径移行と後期のバー の影響の結果、低メタル高アルファの星が多数太陽近傍に来たことが判った。 これは最近の観測を自然に説明する。  強い動径混合が生じるが年齢-メタル関係の勾配は分散以外ではあまり影響を 受けない。Ro = 8 kpc として、太陽は R = [4.4, 7.7] kpc で生まれた可能性 が強い。厚い円盤の新しい統一モデルを提案する。そこではマージャーと動径 移行が大きな役割を担う。初期に強いマージャーがなかったら、最古星の垂直 速度散布度は観測の半分となってしまう。従って、厚い円盤が静かな円盤進化 から生まれることはなさそうである。


 1.イントロダクション 

 2003 年までの分光サーベは近傍 Fuhrmann98 25 pc, Bensby03 100pc の限 られていた。 2004 年にヒッパルコス追尾研究の一つとして CGB = Geneva VCopenhagen Survey Nordstrom04 が 100 pc 以内 16,000 星の大規模分光測 光サーベイを行った。最近では可視低分散分光サーベイ SEGUE Yanny09, RAVE Steinmetz06 が距離 0.5 - 3 kpc と数 > 2 105 (SEGUE), > 5 105 (RAVE) を広げた。高分解の可視分光 サーベイ HERMES Freeman10, 近赤外 APOGEE Allende Prieto08 が後に続く。 計画中の 4MOST de jong12 が現在最も野心的な観測で数百万の星の化学力学 情報を得て、Gaia の位置情報と合体しようとしている。

 1.1.銀河考古学と動径移行 

 動径移行(migration) の必然性 

 Grenon72, 89 は太陽近傍の SMRs の軌道を調べてそれらが内側円盤からの 天体であることを示した。Haywood08 は GCS データを再解析し、薄い円盤星 の高メタル部分が内側円盤、低メタル部が外側円盤に起源を有することを見出 した。特に SMRs のメタル量は現在の太陽近傍星間物質を越えている。 Chiappini03 は太陽近傍のメタル量は太陽誕生以来、過去 4 Gyr, あまり増加 していないことを見出した。その原因はこの期間の太陽軌道半径における低い 星形成率と連続的ガス降着にある。Chiappini09 が述べているように、MW 薄 い円盤の純粋化学進化モデルではメタル -0.2 dex 以上星を説明できず、動径 移行は必然である。

 シミュレイション 

 動径移行は N-体シミュレイションにも現れている。Raboud98 は Grenon89 の SMRs 移行説を検証するため数値シミュレイションを行った。Sellwood02 は 動径移行が円盤構造に大きく影響することを、腕構造との力学作用から説明した。 Minchev10, 11 はバーと渦状腕との非線形効果から動径移行が起きることを見出 した。Brunetti11, Shevchenko11 はバー円盤における拡散係数を調べた。 それらからバーの力学効果が重要と分かった。
 目標 

 こうして、いまや化学力学モデルが膨大な観測データとの比較に必要である 事が明らかである。この論文は動径混合の重要度を定量化するための化学力学 進化モデルを作ることが目的である。

 1.2.完全に自己無撞着なシミュレイションの困難さ 

 課題 

 1990年代初期のシミュレイションはマージャーの際に角運動量を失う結 果、極端に中心集中度の高い大きなバルジを持つ銀河を誕生させた。2010 年頃のモデルは分解能とモデルの向上によりバルジの大きさは小さくなったが、 化学進化は組み込まれていなかった。その後多数のグループがこの問題に取り 組んだ結果、ある程度の傾向は得られるようになった。しかし、現在もまだ、 低質量星が多すぎる、[O/Fe]-[Fe/H] 面での薄い円盤と厚い円盤の分布、SFH などを同時に再現できるモデルは未だない。

 1.3.厚い円盤形成のシナリオ 

(1)乱流ガス円盤から誕生した。乱流状態の成因としては、重力不安定性 Bournaud09, Forbes12, ガスリッチ天体のマージャー Brook04, 05 などが 考えられる。衛星銀河のマージャーで厚い円盤が形成 Meza05, Abadi03 という 説もあり、この場合厚い円盤は外部起源を持つ事になる。

(2)薄い円盤が加熱により厚くなる。原因はマージャー Quinn93, Villalobos08, Di Matteo11 である。衛星銀河円盤との遭遇の証拠を MW 円盤 星の位相空間中の構造に見出す Minchev09, Gomez12, 13 ことが出来る。 (3)ここで述べる機構。すなわち動径移行である。


 1.4.動径移行と厚い円盤 

 動径移行で厚い円盤を作る 

 Sconrich09a,09b は通過する渦状腕により、内側円盤とバルジの高速度星が 外側に引き出されて厚い円盤を形成したと主張した。この機構にはマージャー は必要ない。彼らの解析解は薄い円盤と厚い円盤の特徴を説明することに成功 した。 Roskar08 のシミュレイションによって見出された円盤厚みが時間と共 に増大する現象は、Sales09, Loebman11 により動径移行が原因とされた。
 化学的に厚い円盤 

 Minchev12 は 永年進化による移行は二次的な効果しか持たず、円盤のフレア に効く程度であることを示した。しかし、彼らは外向き移行した星は円盤から 高い位置取りをする傾向にあり、内向き移行はその逆であることに注意した。 彼らは、星が事前加熱されている、マージャーかまたは最初から熱かったか、 場合は移行が円盤を厚くすると主張した。





図1.上段左:最終解の青破線=回転曲線。円回転曲線。中:星密度のフー リエ振幅比 A2/A1 の動径変化.カラーは選んだ時間を示す。右:A2/A1 最大値 の時間変化=バーの進化を示す。
中段。星表面密度マップ。下段。横向き密度分布。第4行。スナップショ ットを中心にした Δt = 0.52 Gyr 間に起きた角運動量変化 ΔL と L の関係。L は円周回転半径に直したので単位は kpc になる。衛星銀河の摂動 とバーの成長に伴う大きな変化が判る。


 2.宇宙論に合う形での晩期型円盤銀河のシミュレイション 

  

 

  

 

  

 






 3.化学 

  

 

  

 

  

 

図2.我々のモデルでの薄い円盤の性質。 左上:太陽近傍での SFH. 右上:太陽近傍での密度時間変化。 中左:半径 R 毎の SFH. 右上:太陽近傍でのガス密度=星形成の残り+ 再生ガス、の時間変化。 下左:[Fe/H] 勾配。下右:[O/Fe] 勾配。  


 4.化学動力学 

  

 

  

 

  

 
  

 

  

 

  

 





図3.左:現在緑帯(7-9kpc)にいる星の年齢別誕生半径分布。 中:現在緑帯(7-9kpc)にいる星の誕生半径別メタル量分布。 下:現在緑帯(7-9kpc)にいる星の誕生半径メタル量分布。

 5.化学動力学の結果 

 5.1.メタル量分布 

  

 

  

 

  

 

 5.2.太陽の誕生地 

  

 

  

 

  

 





図4.左上:R 毎のメタル勾配。中上:R=[7,9] kpc におけるメタル-年齢 分布。下段[O/Fe]-[Fe/H] 関係。

 5.3.年齢-[fe/H], [Fe/H]-[O/Fe] 関係 

  

 

  

 

  

 

 5.4.元素量勾配への動径移行の影響 

  

 

  

 

図5.上=[Fe/H], 下=[O/Fe] の初期勾配の最終勾配に及ぼす効果。  





図6.年齢と速度散布度の関係。

 5.5.年齢-速度関係」 

  

 

  

 

  

 

図7.年齢と「O/Fe] の関係

 5.6.年齢-[O/Fe] 関係 

  

 

  

 

  

 





図8.上段:右端に示すグループ分け、左=年齢、中=[O/Fe]、右=[Fe/H] に対する密度の高度 Z 変化。下段:同じだが散布度。

 5.7.太陽近傍での垂直構造 

  

 

  

 

  

 

図9.

  

 

  

 

  

 





図11.モデルとかんそくとの MDF 比較。赤線= 観測。黒線=エラーなしと したモデル。青線=0.2 dex エラーとコンボルブしたモデル。左= Adibekyan et al. (2012) 。 中=Bovy12, 右=Brauer13.

 6.最近の観測結果との関連 

 6.1.円盤高度に伴う MDF の変化 

  

 

  

 

  

 

 6.2.[Fe/H]-[O/Fe] 二分化は選択効果か? 


図10.|Z| と R の組み合わせに対して、左=現在緑帯にいる星の 誕生半径分布。右=MDF.
(キャプションでは緑帯を 7-9 kpc と間違ったことを書いている。線の説明もはっきりしない。横着? )


  

 

  

 

  

 





図12.選択効果が[O/Fe]-[Fe/H] 図上の二分性となることの例示。


図13. [O/Fe]-[Fe/H] 図上の垂直スケール高の分布。

 6.3.単一存在量のスケール高 

  

 

  

 

  

 
  

 

  

 

  

 



図14.R = [6, 10] kpc でのメタル量の |Z| 変化。赤丸=SEGUE データ (Schlesinger12)。青破線=Bovy モデル。黒線=我々のモデル。

 6.4.円盤高度による平均メタル量の変化 

  

 

  

 

  

 

図15.上段:R = [6,10] kpc, |z| = [0.5, 3] kpc 筒壁内の低メタル 高[O/Fe] 星の [Fe/H]-[O/Fe] 分布。軌道離心率=0.2 で、星を熱いサンプル と冷たいサンプルに分ける。
中段:上段の星に対する誕生半径の分布。黒=最終期。赤=円盤形成開始後 3 Gyr. 緑帯=最終期での星軌道の範囲を示す。
(シミュレイションでここのサンプル は緑域から選ばれた? )
赤点線=最終期のCR 半径。青線=最終期のOLR半径。大部分の星は初期 マージャー期の太陽軌道円付近またはその外側で生まれた。
下段:中断と同じだが、高 z 時代のマージャーがないとした場合。 軌道はより円軌道に近く、バーはより強いが、赤線=則期の動径移行はあまり 効かない。冷たいサンプルの比は 0.33 から 0.96 となる。

 6.5.低メタル高[O/Fe] 星の起源 



  

 

  

 

  

 


 7.銀河系厚い円盤の統一モデル 

  

 

  

 

  

 
  

 

  

 

  

 


 8.Schonrich,Binney 2009 モデルとの比較 

  

 

  

 

  

 
  

 

  

 

  

 


 9.結論 

 古い星の誕生半径 

 11.2 Gyr の進化後に太陽近傍にいる星の誕生半径は Ro = 6 kpc 付近に多い。 最古星ほど、高 z 期のマージャー活動とその後のバーによるガイド半径の強い 変化が見出される。

 高メタル端星の起源 

 太陽近傍 MDF の低メタル側の星はあらゆる R から来ているが、高メタル端 の星は R = 3 - 5 kpc からである。そこは CR の直ぐ内側で、強い外向き 動径移行が生じた。

 太陽の誕生半径 

 太陽は R = 4.4 - 7.7 kpc から来た。最も確率が高いのは 5.6 kpc.
 年齢-メタル関係 

 年齢-メタル関係は年齢 > 9 Ga で幾分か平坦になる。

 [Fe/H]-[O/Fe] 関係 

 [Fe/H]-[O/Fe] 関係の二分化は見出されなかった。

 垂直構造 

 太陽近傍での垂直構造は、二種のスケール高 330 pc と 1200 pc の 重ね合わせで上手くフィットする。

 厚い円盤? 

 年齢 3 - 8 Ga の星では年齢-動径速度関係が平坦になる。垂直速度は緩い 増大を示す。8 Ga を超すと強い増加が認められる。これは強いマージャーと 関係し、早期には速度分散自体が大きかった効果である。これら「熱い」星 は厚い円盤と関係する可能性がある。マージャーを仮定しないモデルでの垂直 速度散布度は半分以下に落ちる。これは厚い円盤の起源が活発な活動に 関係することを意味する。

 R-[Fe/H] 関係 

 最古星種族では R-[Fe/H] 関係が平坦である。

 R-[O/Fe] 関係 

 R-[O/Fe] 関係は色々な年齢で降着則を反映し、したがって SFH を表す。
(論理が分からない。)


 厚い円盤(2) 

 薄い円盤の化学進化モデルを作ったのに、太陽近傍の最古星は厚い円盤と共 通する特徴を示す。我々の結果では、初期の強いマージャーの結果、内側円盤 の星が外向きに動径移行して、自然に厚い円盤が出現する。この過程はその後 バーと渦状腕が原因の動径移行で更に補強される。重要なのは厚い円盤の特徴 を持つ古い星は太陽半径又はその外側で生まれたことである。





図.


( )


et al. () 先頭へ