銀河系は棒円盤銀河であることが知られてきた。さらに最近、星計数に基づ いて、銀河系には新たに平たいロングバーが棒状バルジとは異なる角度で横た わっているという説が唱えられている。我々はボクシーバルジとバーを持つ シミュレイションにより、それらの観測が単一の構造で説明できることを示す。 シミュレイションによると星のバーが円盤から進化して形成され、さらにそれ からボクシーバルジが永年進化とバックリング不安定性の結果生まれる。 |
このモデルで星計数を計算した結果、良い一致が得られた。このモデルでは
ロングバーの特徴は、一部は体積効果の結果、他の一部はある時期には
ボクシーバルジとバーが隣接する腕の頭との相互作用の結果回転方向に伸ばす
端末部の結果生じる。ロングバー部分での視線速度のモデル予想は将来の観測
で確認されるべきである。
(バルジ部では体積効果で軸角43、 平面バー部では折れ曲がり効果で軸角43になる。だから、バルジ部の軸角 測定を銀河面 b= 0 で行えば軸角43になるはず。または距離分布に直して から体積効果補正を施して極値を探すべし? ) |
![]() 図1.上段: T = 1.9 Gyr でのシミュレーション画像。バーは時計回り で、その端が回転方向に折れ曲がり、渦状腕につながる。表示はバー軸 (太直線)を 25° に傾け、太陽位置を (0, -8) においた。細直線 は傾き 43° で、ロングバーの傾きとしてよく提案されている。 二つの円は半径 3 kpc と 4.5 kpc. 点線=銀経 0, 10, 20, 30. 下段:太陽から見た側面図。 ボクシー構造が明らか。 シミュレーション 計算コードは Heller, Shlosman 1994 の FTM4.4 を用いた。粒子数は100 万で、最初はダークマターハロー内部に指数関数型の円盤状に分布させた。 1.5 Gyr 後にバーが非常に強くなり、バックルして弱くなっていく。その後 バーは進化して再び強くなり、ボクシーバルジとバー構造を示すようになる。 |
![]() 図2.同じシミュレイションからの別の時刻のスナップショット。ここでは バーの終端がバーの内側部と向きが揃っている。これは体積効果をはっきり 示すための例で、銀河系の表示としては図1ほど良くはない。 1.9 Gyr のスナップショット この時期 T = 1.9 Gyr のバルジが形成され、バーが再び成長した時期が 現在の銀河系に相当すると考える。図1はその正面図と側面図である。このモデルは Martinez-Valpuesta et al 2006 から採ったもので銀河系の再現を目的とはしていない。 このため、バーに較べバルジは実際より l で 20 % 大きく、バルジと円盤も厚い。 折れ曲がりの振動 図1上段を見るとバーの先端部が回転方向に曲がっていることが判る。1.2 Gyr の間、モデルは先端部が回転方向に折れ、真直ぐになり、逆側に折れという 振動を繰り返す。その間 40 % の時間はバーが回転方向に曲がった状態である。 そのような折れ曲がりは NGC3124 や NGC3450 (Buta et al 2007) で見える。 真直ぐなバーの例 図2には比較のために真直ぐなバーの例を示す。 |
![]() 図3.シミュレイション粒子の距離指数分布。左側:銀河面上での分布。 右側:ボクシーバルジ方向。 図3にはシミュレイション粒子の距離 指数 μ の分布 図3にはシミュレイション粒子の距離指数 μ の分布をいくつかの視線 方向に対して示す。図3(a) はバー先端 l = 27 付近で、三つのピークが見 える。それらは、バー、背後の腕、円盤の端である。図3(b) は (l, b) = (9, 8) でボクシーバルジに当たる。極大値は図1の α = 25 ラインの 上に来る。この方向では円盤粒子の寄与は見えない。図3(c)は (9, 0) 方向 で (27, 2) に較べ粒子数の増加が見られる。また (9, 0) のピーク距離は (9, 8) より遠方になる。図3(d) (3, 6) はボクシーバルジの中心付近に当たる。 図4=距離変化 同様の操作を順次行い、 Cabrera-Labers et al. (2007) と同じようなプロットを作成する。図4にはその結果を図示する。図4(a) は 図1に、図4(b) は図2に対応している。いずれの場合もピンクバツ=銀河面 から離れた所の星計数ピークは α = 25 の直線に乗っている。しかし、 黒バツ=低銀緯になると点は遠方へと後退する。このため、 どちらのモデルでも銀河面上 l = [9, 0] の黒バツ点は α=43 の細線に 沿って並ぶ。これは N(μ) ∝ n(D)D2dD/dμ の 体積効果と密度分布の相乗から生じる。l = [20, 9] は中間領域で、 ボクシーバルジが薄くなり銀河メンバーへ移る途中である。l = [30, 20] では 銀河面上の粒子のみが見える。図4上段のバー先端が回転方向に曲がるケース では、銀河面上の黒バツ点が最後まで α = 43 ラインに追随する。 単一構造による軸角の説明 従ってもしも我々がバーの構造について無知なまま図4のような観測結果を 見れば、二つの構造を見出すだろう。その一つは厚くて短く α 25 で、もう 一方は薄くて長く α = 43 となる。 |
![]() 図4.銀河面上での粒子計数極大点の位置。黒バツ=銀河面上の領域。 ピンクバツ=ボクシーバルジ方向。 |b| = [4, 8]。上段:バー先端が 回転方向に曲がっている場合。黒点=当初の軸対称円盤の極大点。 下段:バー先端が真直ぐな場合。太い直線=モデルの軸線で α25. 細い直線= α43. 破円=半径 3 kpc. |
図5=視線速度プロファイル 幾つかの視線速度サーベイプログラムが走り出したので、モデルからの予想 を述べておく。我々は Clemens 1985 の CO サーベイデータに我々のモデルを R = 3 - 4.5 kpc で合わせ、銀経毎に平均視線速度を計算した。Vo = 250 km/s を仮定した。図5に、銀河面上2か所における、平均速度、速度散らばり、 星密度を示す。 バーモデルの視線速度の特徴 バーモデルの非軸対称運動は μ = 13.0 - 13.6 ではっきり した特徴を示す。この領域ではバーの速度プロファイルが平坦になる。 バーの先行先端部に速度の μ = 13.7 に切断が起き、 次に軸対称型の速度プロファイルへ接近していく。真直ぐなバーモデルでは 切断が起きるのはもっと早く μ = 13.5 である。軸対称な場合とバーがあ る場合との差は 30 - 40 km/s である。 |
![]() 図5.上段=平均視線速度、中段=速度散らばり、下段=星密度の距離依存性。 左: (l, b) = (27, 0). 右: (l, b) = (24, 0). |
単一構造モデル N-体モデルと比較して星計数観測データを解析した。視線に沿っての距離 分布のピークは密度分布のピークより少し遠方になる。それは星計数に体積 効果が働くからである。適当な軸角として α = 25 を仮定して、これま でロングバーを第2のバー構造とする根拠となってきた観測的特徴を説明する ことに成功した。用いたモデルが銀河系構造を説明するためにパラメタ―調整 はされていないことを考慮すると、ボクシーバルジとそれに付随する先端が 曲がったバーという単一構造で観測は説明できると言ってよい。 |
視線速度 このモデルを確認するには視線速度分布を調べるのが最適である。その 比較のためにモデルが予想する速度分布を示した。 |