Understanding the Evolution and Dust Formation of Carbon Stars in the LMC via the JWST


Marini, Dell'Agli, Groenewegen, Garcia-Hernandez, Mattsson, Kamath, Ventura, D'Antona, Tailo
2021 AA 647, 69 - 93




 アブストラクト 

 LMC 炭素星の MIRI/JWST 測光結果と Spitzer IR 分光器によるスペクトル を合わせ、モデル SED と比較して、ダストの組成を調べた。  SiC の種に MgS がくっつくことがよくあると分かった。固体炭素が 80 % 以上を占め、その 10 - 20 % をグラファイト、残りを非晶質炭素が占める。


 1.イントロダクション 

 AGB ダスト形成の役割 

 以前は超新星が宇宙におけるダスト形成の担い手と考えられてきたが、現在 では AGB の役割を無視することは出来ないと考えられている。それは宇宙初期 でさえもそうなのである。Valiante et al 2009, 2017.
 炭素星 

 Marini et al 2020 では LMC M-型星の IRS/Spitzer (IR Spectrograph) データを解析してダスト成分を調べた。本論文では同じ手法を炭素星に拡大する。


 2.サンプル 

 3.入力情報 

 3.1.星の進化モデル 

 3.1.1.元素組成 

 Z = 0.008, Y = 0.26, α 加重 [α/Fe] = +0.2 とした。 ヘリウムフラッシュを起こさない星は前主系列から進化計算を行った。 M < 2 Mo はヘリウムフラッシュを起こすので水平枝から進化計算を 始めた。SED から低メタル星と判断された星は Z = 0.001, 0.002、 Y=0.25, [α/Fe] = +0.4 を使用した。

 3.1.2.対流 

 3.1.3.マスロス 

 O-リッチ期のマスロスは Blocker (1995) の処方で η = 0.02 を採用した。炭素星はべリリングループの 方式 Wachter et al 2002, 2008 を使った。

 3.1.4.オパシティ 

 3.2.ダスト形成 

 ダスト形成と成長にはハイデルブルググループの提唱した定式 Ferrarotti, Gail 2006 をさいようした。これはパドヴァグループ Nanni et al 2013 - 2020b も用いた。 Ventura et al 2012 を読むと 良い。簡単に述べると、ダストは凝結点で形成が開始される。そこでは ダスト成長速度が蒸発速度と等しい。(Ferrarotti, Gail 2006)

 3.3.SED 

 進化経路に沿い、ダスト形成率、マスロス率、質量変化、光度、有効温度 を計算している。さらにパルス間静謐期最大光度の点において DUSTY を用い て、SED, τ10 も計算する。


 4.炭素星 

 下限質量 

 Z = 0.008 (LMC) での炭素星下限質量は AGB 開始時で 1.25 Mo である。 RGB マスロスを考慮すると Mms = 1.4 Mo となる。 Marigo et al. (2020) は銀河系炭素星に対しもう少し高い下限質量を与えている。
 HBB 

 CO コアが 0.8 Mo を超す星では HBB のために炭素星にならない。 この限界質量は 3.3 Mo である。HBB 以前に、または AGB 終了前に 炭素星に転換する可能性もあるがここでは考慮しない。


図1.M = 2 Mo, Z = 0.008 星の TP 開始期からの AGB 進化。



 4.1.2 Mo 星 

 炭素星の期間 

 図1に 2 Mo 星の L, Teff, C/O, dM/dt の時間変化を示す。 この星は 14 回の TP を経験する。炭素星になるのは第9TP 後である。 炭素星期間は 6 105 年となる。これは AGB 期間 2.4 Myr の 25 % に相当する。
 パルス間期間 

 炭素星のパルス間期間には L は 20 % 巾で一定値 L = [6500, 7500} Lo を 取る。この期間は全体の 90 % を占める。図1から明らかなように、 TP 後 は L = [2000, 3000] Lo に低下する。

 炭素星の L - M 関係 

 炭素星期間内の光度があまり変化せず、質量が違うと異なる光度の炭素星に 進化することから、炭素星光度は質量指標として使える可能性がある。





図2.上段。左:Z = 0.008, 2 Mo 星の DPR = Dust Prodakution Rate の時 間変化。右:DPR と現在質量との関係。DPR へのダスト物質ごとの寄与が色分 けされている。 下段。上右枠の3矢印に対応する時期の SED. 左:非晶炭素とSiC のみの場合。 右:それにグラファイトと MgS も考慮祖いた場合。

 O-リッチ期のダスト形成 

 アルミナは星表面から 2Rs 付近で形成される。一方シリケイトは 5 - 10 Rs でできる。Dell'Agli 2012, 2014b. アルミナは少量でかつ透明なため、シェル の光学的厚みは主にシリケイトで決定される。O-リッチ期は Teff = 4000 K と 高温でマスロス率は低い。
 C-リッチ期のダスト形成 

 C-リッチ期には主に SiC と炭素粒子が形成される。しかし、炭素の方が SiC より吸収係数が強く、かつ生成量も多い。図2の左上枠を見ると明らかであるが、 炭素星になるとダスト形成率が O-リッチ期の 1 - 2 桁大きくなる。その結果、 炭素星期は短いが、炭素星になる星が生み出すダストの総量は大部分が炭素で 占められる。





表1.Z = 0.008 モデルの主な性質。

 最終列の λ は? 4.2.節の説明にもない。 






図3. L, C-O = C 超過, DPR, τ のM=現在質量に対する変化。

 4.2.炭素星の形成と進化 

 表1=進化計算の結果 

 表1にモデル計算の結果をまとめた。図3には M = 1.25 - 3 Mo で炭素星に なる星の進化を示す。3.5 Mo の星の HBB 前の進化も示した。また Z = 0.001, M = 5 Mo 星が HBB 終了後 AGB 最終期に炭素星となる進化も載せた。

 C-O = 炭素超過 

 図3の右上に示す C-O = 炭素超過は、
  C-O = 12 + log[(n(C)-n(O))/n(H)]
で定義される。 1.25 - 1.5 Mo では C-O は 8 よりほんの少し上である。一方 3 Mo では、 C-O=9 まで上がる。ところが 3.3 Mo になると、最終 TDU の効率が良すぎて 深くまで巻き込み、 O が増えてしまう。O が出来過ぎる現象は Garcia- Hernandez et al 2016 の C-リッチ PNe 化学組成の研究とも一致する。 3.5 Mo では HBB が C 増加を妨げるので C-O < 7.7 であり、最終的には O-リッチとなる。同じ上限値は Z = 0.001, 5 Mo 星にも当てはまる。
 ダスト形成 

 図3左下に示すダスト形成率の進化は初期質量と炭素組成の効果を反映して いる。M≥2.5Mo 星は AGB 最終期には dMd/dt > 10-6 Mo/yr に達する。一方 M < 2 Mo 星では dMd/dt < 10-7 である。 前節で議論した M = 2 Mo 星は その中間で dMd/dt = 4 10-7 Mo/yr となる。

 ダストシェルの厚い星は? 

 図3右下に τ10 の変化を示す。最も深いのは 3 Mo 星の τ10 = 5 である。1.5 Mo だと最終末期でも τ10 = 1 である。これらの結果から Dell'Agli15 は LMC で 最も深い星は 2.5 - 3 Mo 由来の AGB 星とした。これらの星は 0.3 - 0.6 Gyr 昔に形成された。

 4.3.AGB とダスト形成モデルの不定性 

 





図4.LMC 炭素星の 黒線= IRS/Spitzer 観測と赤線=モデル SED の比較。 シアン線=炭素形成層に入射する輻射のスペクトル=大気放射+SiC 減光。




表2.LMC サンプル星の特性。

 5.LMC 炭素星の特性 

 モデルフィット 

 3.3.節に書かれたモデル SED を観測 SED とフィットして、個々のサン プル星の L, τ10, Mi, t、ダスト種、dMd/dt を決める。 それらの幾つかを図4に示す。

 図5=SED フィットの結果 

 フィットの結果を図5に示す。4.2.節で述べた AGB 進化軌跡も示した。 図中 L < 7500 Lo の緑四角は Mi < 2 Mo で t > 1 Gyr である。 L > 10,000 Lo の星は Mi = 2.5 - 3.3 Mo で 03. - 0.6 Gyr 昔 (Harris, Zaritsky 2009) が述べる LMC の星形成ピーク時期に生まれた星たちである。

 ガス/ダスト比 

 我々は、Ψ = ガス/ダスト比, が光学的深さ τ により変化する ことを見出した。τ10 ≪ 1 の時は Ψ = 700 であるが、 厚いシェルでは Ψ = 100 まで下がる。Nanni et al 2019a も 正しく、 Ψ を一定と考える危険性を注意している。

 おかしな星 

 図5は全体としては天体の分布を適正に表現している。注意しておき たいのは
(a) 橙アステリスク= 5000 Lo 以下の星。進化経路の下になる。
(b) 青菱= τ10 > 3 星。普通のモデルでは再現不能。

図5.サンプル星の L と τ10. 緑四角:M<2Mo. 赤三角: M>2Mo. 橙アステリスク:L<5000Lo. 桃十字:L>20,000Lo. 青菱:Gruendl08 から採った厚いシェル星とSSID 9。白菱:SSID125 と SSID 190. 黒丸+黒実線=図3のモデル。桃星: Mi=1.1, 2.5, 3 Mo星が 炭素星になった後マスロスを人工的に3倍にしたモデル。 2.5 Mo 進化は見やすさのため 1 Myr ずらした。





図6.左:SSID 141 の IRS/Spitzer SED とモデルフィット。 右:M=1.5, 2, 2.5 Mo 星の AGB 星光度 L の時間変化。O-リッチ期は省いた。 斜線部:低光度星 SSID 3, 66, 103, 141 の光度範囲。




図7.左:SSID 4451 の SED. 中:SSID 4109 のSED.右: TP-AGB 開始以来の 黒=光度、と赤= C/O 比、3.5 Mo の変化。灰色斜線=炭素星区間。 シアン=ダストシェル内側への入射SED(任意スケール)。




図8.左:SSID 4540 の SED フィット。右:黒=光度、と赤= C/O 比、5 Mo, Z=0.001 の時間変化。灰色斜線=炭素星区間。

 5.1.post-TP 星 

 5000 Lo 以下の星 

 SSID 3, 66, 103, 141 は L < 5000 Lo である。図6右側 を見ると、これらの星が TP からの回復期にある可能性が強い。 その時期ダスト形成率は低いので光学的厚みは薄いだろう。

 5.2.HBB 星 

 SSID = 4109, 4451, 4540, 4776 は L > 20,000 Lo である。 図7右は 3.5 Mo 星の進化を示す。この星の場合、HBB は 12 TP 後に発生する。 その後 4 TP の間は極めて明るい炭素星として振る舞い、それから O-リッチ に戻る。炭素星期の L = 25,000 Lo は SSID = 4109, 4451 に合う。もし Mi > 4 Mo だと HBB が E-AGB から始まるので、星が炭素星になることは ない。





図9.Gruendl et al 2008 の極端赤色星の SED フィット。

 5.3.極端炭素星 

 SiC 吸収帯 

 Gruendl et al 2008 は 7 つの極端炭素星を IRAC, MIPS 測光から発見した。 それらのマスロスは 5 10-5 - 2 10-4 Mo/yr で 通常の炭素星より遥かに大きい。図5でそれらの星は青菱で表されている。 SSID 9 も極端炭素星に加えられるだろう。図9にはそれらの4つの SED を 示した。SSID 4299 を例外として、極端炭素星では SiC 帯は吸収帯となる。

 モデル化の困難さ 

 これらの星をモデル化する際の困難さを Sloan et al 2026, Groenewegen, Sloan 2018 は指摘した。特に星風中でダストを形成する困難さが問題とされた。 その解説が Nanni et al 2019a にある。我々も、他の星に対して、ここまで 用いてきた標準的なモデルでこれら極端炭素星を解釈することは極度に困難で あることを見出した。図5と9を見ると、観測 SED が要求する τ 10 は表1に示される理論モデルから期待される τ10 よりかなり大きい。
(6000 Lo 程度の星に大きな τ をくっつけるのが難しいということ? 10,000 Lo なら表1では τ = 3 -4 だけど。 )
実際、図9に示す4つの SEDs と、表2のそれらに対応するパラメターは 進化系列から決まる光学的深さを人工的に増加させたものである。 その時のマスロス率は 5 10-4 Mo/yr となる。

 L < 6000 Lo の極端炭素星の問題 

 図3の右上枠を見ると、 2 - 3 Mo 星の AGB 最末期には τ10 = 5 にまで達する。それらは SSID 4299 と SSID 4781 のような 10,000 Lo 程度で明るい星の説明にはなるかも知れない。しかし、それより暗い星、特に L < 6000 Lo の極端炭素星はどうしようもない。これらは 1.1 - 1.5 Mo 星由来であり、炭素超過も小さく、観測されているように大きな τ 10 に達することはない。

 もしかすると 

 ここで使用したモデルは定常星風で脈動により起こされる衝撃波の効果は加 味されていない。なた、ダスト-ガスドリフトも考えていない。 Sandin,Mattsson 2020 は低マスロスではドリフトが大きくなることを示した。

図10.SSID 190 の SED フィット。

 連星? 

 sloan16, Groenewege, Sloan16 は連星の可能性について言及している。 図11には Rs と C/O の時間変化を示す。それを見ると C/O が1を超した とたんに急速な膨張が起きると分かる。連星中で炭素星が誕生すると、半径の 急速な増加によりロシュローブが満たされ、溢れた物質に依る強いマスロスが 予想される。

 ダスト形成 

 このような少数の星による高効率のダスト形成は銀河全体でのダスト形成を 支配する可能性がある。





図11.左= 1.1 Mo, 中= 2.5 Mo, 右= 3 Mo, の黒線=半径と赤線= C/O 比の時間変化。青横線: C/O = 1. 緑矢印=炭素増加に伴う半径膨張。
(中、右は炭素星になる前?)


 6.炭素星の星風: IRS から何を学ぶか? 

 6.1.SiC 

 SiC は安定な物質で、内側シェルで最初に出来る。その外側のもっと遠方 で炭素と共存するだろう。しかし、外側では SiC に MgS が付着すると 考えられる。

 6.2.MgS 

 MgS は 図4に見える SED の 25 - 30 μm 放射帯を産み出すと考えられる。 MgS の形成は 900 K である。  

図12.SSID 18 の SED フィット。赤:ベストフィット。 SiC+MgS=9%, amantle=0.05μm. 緑:SiC+MgS=35%, amantle=0.02μm. 青:SiC+MgS=9%, amantle=0.02μm. 橙:SiC+MgS=6%, amantle=0.05μm.





図13.IRS/Spitzer SED フィット。左上:SSID 4197. 右上:SSID 4783. 左下:SSID 4002. 右下:SSID 4692.

 6.3.グラファイト 

 主成分? 

 Speck et al 2009 は炭素星では非晶炭素でなくグラファイトが主要ダスト成分 であると述べた。 Zinner09, Xu16 は隕石中に pre-solar グラファイト粒子 を発見した。しかし、Andersen03 は11.52 &m;m の狭いバンドが炭素星の大部 分に見えないこと、さらにグラファイトのスペクトルは λ-2 であることからグラファイトは AGB でできないと述べた。一般的には、 グラファイト形成は非常に狭い温度巾でのみ進行するので炭素星には 難しい。 (知らなかった! )

 フィットで比率決定 

 我々の定常星風モデルでは、炭素ダスト形成を考えるが、その際非晶炭素か グラファイトかの区別はしない。その比率は SED へのフィット具合で決めてい る。図14にその例を示す。SSID 4722 ではグラファイト比率を高めてもピーク 付近の SED に影響は少ない。しかし λ > 20 μm ではグラファイトにより フラックスが上がって行くことが判る。
(グラファイト &lambd;-2 は緩い?ホント? ) 図15では λ > 20 μm でのフィットにグラファイト成分が 必要とされている例が示されている。

図14.SSID 4722 の IRS/Spitzer SED フィット。橙=グラファイト 0 %. 赤=グラファイト 15 %. 青=グラファイト 30 %.





図15.IRS/Spitzer SED フィット。左上:SSID 4794. 右上:SSID 4238. 左下:SSID 4589. 右下:SSID 4150.

 7.JWST 観測平面 




図16.左:サンプル星の色等級図。 緑四角:M<2Mo. 赤三角: M>2Mo. 橙アステリスク:L<5000Lo. 桃十字:L>20,000Lo. 青菱:Gruendl08 から採った厚いシェル星とSSID 9。白菱:SSID125 と SSID 190.右:同様。




図17.左:二色図。シンボルの意味は上と同じ。 右:メタル量により系列が分化することを示す拡大図。

 8.結論 

 マスロス進化 

 ダスト形成を星風モデルに組み込んで、マスロス進化をモデル化した。 グラファイト/非晶炭素比、 MgS 付着量を調整して観測 SED にフィットした。 その結果、L-τ 面内で LMC 炭素星をプロットし、進化経路と合わせるこ とで、母星質量、AGB 年齢などの情報を得ることが出来た。

 フィットの結果 

 大部分のマスロス炭素星は 5000 - 17,000 Lo、τ10 < 3 で炭素星モデルと合う。調べた星の約半数は < 2 Mo 母星由来で 1 Gyr より 古い。残り半数は 1 Gyr より若く、 M > 2 Mo である。
 低光度星と極端炭素星 

 サンプル中に L < 5000 Lo の星がある。それらは TP からの回復途中星 と考える。非常にシェルが厚い炭素星が幾つかある。単独星進化の枠組み内で の説明は困難である。連星系のロシュローブ溢れ出しの可能性がある。

 MgS 

 MgS で 20 - 30 μm 放射の説明が可能である。