Gaia DR2 と EDR3 を用い、中間および若年銀河系散開星団中の AGB 星を調 べた。TRGB より明るく、星団メンバーシップが確実な 49 AGB 星が見つかった。 内 19 星は TP-AGB 星でそのスペクトル型は 4 Ms, 3 MS/Ss, 12 Cs である。 観測、進化モデル、星周ダスト層の輻射輸達計算を合わせて、各星の初期質量、 光度、マスロス率、コアマス、周期、脈動モードを決めた。 | その結果、第3ドレッジアップ、炭素星の初期質量、星風、初期ー最終質量 関係(IFMR) への制限が与えられ、太陽メタルの TP-AGB 進化に光があてられた。 特に、NGC 7789 の MSB75, NGC2660 中の BM IV90 の二つの炭素星は年齢 1.2 - 1.6 Gyr, Mi = 1.2 - 1.6 Mo で似ているが、異常に大きなコアマス Mc = 0.67 - 0.7 Mo を有する。これは Maarigo et al 2020 が最近発見した IFMR のkink を支持する結果である。Mc データの説明には二つのシナ リオ=単独星での星風と連星でのブルーストラグラーを介しての相互作用がある。 |
Gaia による星団 AGB 星研究の再開 1970 - 1990 にかけての研究の後、散開星団内 AGB 星の研究は途絶えた。 その原因は二つある。一つは数が少なく統計が取れないこと、もう一つは星団 への帰属が怪しいことである。Gaia により星団帰属の問題が解消した。Pal, Worthey 2021は散開星団中に9つの炭素星を確認した。星団年齢は 0.03 - 3.20 Gyr ある。彼らは Nc/Lv を研究し、それと Mto との関係を求めた。その結果、 Mto < 1.24 Mo で Nc/Lv = 0 であり、 Mto = 1.7 Mo でピークに達すること が分かった。 |
今回の取り組み Gaia の可能性に刺激され、我々は散開星団 AGB 星の系統的な研究を行った。 観測データをモデル計算と組み合わせて、研究を行った。 |
星団星カタログ中の 2MASS 星 Cantat-Gaudin, Anders 2020 は 1481 散開星団の主要パラメターとメンバー 星のカタログを発表した。我々はその中から次の基準で明るいNIR 星を選んだ。 1). Gaia 等級と 2MASS の JHKs 等級がある。 2). MKs < -5. (MKsTRGB = -7) 3). 星団帰属確率 p ≥ 0.5 4). 星団年齢が最新研究、できれば Gaia DR2 に基づいて、決められている。 |
DR2 と 2MASS のクロスマッチ DR2 と 2MASS のクロスマッチは、探索半径 3" で行った。絶対等級は MKs = Ks - DM - AKs で決めた。AKs は星団毎に決められた Av と減光曲線から与えられ る AKs/Av とから求められる。こうして、543 星を得た。141 星 のスペクトル型を Simbad から得た。それらは 14 O, 26 B, 11 A, 16 F, 18 G, 54 K, 4 W-R, 35 M, 1 MS, 2S, 9 C, 1 pec (LBV)であった。その他に、カタログに なかった二つの炭素星を追加した。 |
Gaia-2MASS 図 図1は散開星団星の Gaia-2MASS 図。恒星分類は Lebzelter et al 2018, 2019 により導入され、AGB を強調するのに有用である。図で、 WBR = GBR - 1.3(GBP-GRP WJKs = Ks - 0.686 (J-Ks) は赤化フリー Wesenheit 関数 (Madire 1982, Soszynski et al 2005) である。 Lebzelter et al 2018 は LMC 中の LPVs を分けるためにこの図を考えた。し かし我々のサンプルは選択基準が彼らと異なる。このため、区画内の星の種類に 差が生じている。 AGBs の化学タイプと初期質量を分けるために使用した。 領域 (a) Lebzelter et al 2018 分類では、領域 (a) は低質量 O-リッチ AGBs, RGBs, 暗い AGBs が占める。しかし、図1では領域 (a) に光度クラス I の O-B-A 星 (薄青菱形) が存在し、図中 WBR-WJKs = 0.5 の主幹の 左側にほぼ垂直の系列をなしている。O-B-A 星は log t = 7.0 - 7.5 の若い星団 に属し、Mi > 10 Mo の大質量星のコア H-燃焼期に対応する。 O-B-A 星の 僅かに右側を log t > 8 の He 燃焼の F-G 星(紫菱形)が占める。主幹は 中間年齢 log t = 8 - 9 の K-型 E-AGBs と古い log t > 9 の K-RGBs である。 最後に、広い年齢範囲、典型的には log t > 8, の O-リッチ M-型星がある。 その中には 3 S-, MS-星が含まれる。S-星は 3DU の証拠で特に興味深い。 領域 (a) の特異星 暗い炭素星 NIKC 3-81 主幹上 WBR-WJKs = 0.65, MKs = -5.63 に ある。R-hot 炭素星であろう。post-He-flash を仮定すると 2.7 Gyr, Mi = 1.53 Mo である。 |
W-R 星 主幹底付近に 5 W-R 星(橙五角形)がある。それらは log t = 6.3 - 7.2 の 若い星団に属する。特に興味深いのは Hogg 15 に属する HD 311884 で スペクトル型 WN6+O5V とされている。年齢は 2.2 Myr で Mi > 100 Mo の 進化した姿と考えられる。この星は ペア不安定性の超新星になると考えられる。 LBV WBR-WJKs = -1.64, MKs = -6.22 に スペクトル型 LBV の MR 35 (アステリスク) が存在する。LBVs は Humphreys-Davidson 限界 (Humphreys-Davidson 1979) 近くの非常に明るい 大質量星である。これは 星団 Teutsch 143a の Mto = 2 Mo, t = 1.1 Gyr と合わない。この星は一方では Suarez et al 2006 の IRAS カタログからの post-AGB, PNe リストに載っている。そこでは純粋の PN でも post-AGB でも なく、 Hα その他数本の輝線を持つ特異星とされている。非常に若い PPN であると考えると星団年齢と合う。 領域 (b) 炭素星の領域である。この領域には 11 の炭素星がある。年齢は 0.2 - 4.3 Gyr である。二つの炭素星が WBR-WJKs > 1.7 で ある。この値を超えると、炭素星質ダストによる強いマスロスを起こすと考え られる。残りの 9 星はこのラインの左側にあり、ダスト形成は十分には起きて いない。 領域 (c), (d) 領域 (c) は中間質量 O-リッチ AGBs を含む。log t = 8.0 - 8.4, Mi = 3.5 - 5.0 である。領域内に 3 星が存在し, E-AGBs と考えられる。二つは K-型 (青三角) である。 M-型赤色超巨星は log t = 7.0 - 7.8 の大質量星から進化した星で、領域 (c) の明るい側の縁と大部分は領域 (d) に属する。そこで RSGs は垂直な帯を形成 する。 同じ領域にあるもっと若い t = 0.34 Gyr の WBR-WJKs = 0.66, MKs = -9.19 の星 2MASS J07570972 は Mi = 3.3 Mo TP-AGB 候補星である。 |
AGB 星選択基準 1).MKs < -7 (RGB チップより明るい) 2).100 Myr より古い。(Mi < 6 Mo) 3).K, M, MS, S, C 型のいずれか 2)の制限は縮退核を作る Mi の最大値から決まった。 |
スペクトル型 この基準に合う星は 49 星あった。 17 星は E-AGB で残りは TP-AGB と思われる。表1に、AGB 星を含む星団の性質と、個々の AGB 星を載せた。約半数 24 星は SIMBAD から スペクトル型が得られる。それらは 5 K, 7 M, 1 MS, 2S, 8 C である。 C星群には二つの星、MSB 75 と Wray 18-47 がCantat-Gaudin, Anders 2020 カタログには載っていないが加えられる。 EDR3 データを調べると、それらは NGC 7789 と NGC 2533 に属するようである。 表2にはスペクトル型が分かっている AGB 星のデータを示す。星団年齢は 二つの文献 Canta-Gaudin et al 2020 と Dias et atal 2021 の双方からの 値を示す。 |
領域(a) 低質量星に限らない Lebzelter et al 2018 は領域(a) Mi>2Mo の低質量 O-リッチ星で占められているとした。 (Mi≤2Mo の間違いだろう。 ) 我々のサンプルではいくつかの星は t > 1 Gyr で上と整合する。しかし、 Mi &げ;3Mo の高質量星も含まれる。この点は LMC 星種族との大きな違い である。実際には我々のサンプルで、領域 (a) と(c)において低質量星と高質量星 の間に明確な分離は見られない。 Pastorelli et al (in preparation) が述べているようにこれはメタル量効果 であろう。 |
領域(a)の S, MS 星 領域(a)の S, MS 星は興味深い。散開星団でこのタイプの星が発見されたのは 初めてでないか?1 MS と 2 S 星が領域 (c) との境界付近に位置する。S-星の Mi は、 S1 338 (BH 55) は Mi = 1.65 Mi, CSS291(Tombaugh 1) では Mi=2.13 Mo である。また、 MS 星 [D75b] Star 30 (NGC1798) は Mi=1.93 Mo である。 領域(c), (d) 領域(c), (d) には Mi > 3 Mo の星が殆どない。それらは非常に明るい Ks > -9.5 ではなく、E-AGB に対応する。 (ここも不明。Ks は見かけ等級を表す記号だが MKs の意味で使っているらしい。また、 図1を見るとMKs < -9.5 に 5 星もある。 ) |
すべて領域 (b) 炭素星は全て領域 (b) にある。内 8 星は Cantat-Gaudin, Anders 2020 から、残り二つ MSB75(NGC 7789) と Wray 18-47(NGC2533) EDR3 の新しい解析から出した。 |
al, Worthey 2021 との比較 Pal, Worthey 2021 は DR2 の解析から散開星団の炭素星を 9 つ選んだ。内 6 個は我々の 10 炭素星サンプルと重なる。しかし、残り 3 個は Cantat-Gaudin, Anders 2020 の帰属確率 p = 0.4 で落とされてい る。 |
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変光サーベイ サンプル中の TP-AGB 星で GCVS に変光タイプが載っていたのは 5 星、周期 は MSB 75 のみにしか与えられていなかった。そこで、現在進行中のサーベイ Gaia, ASAS-SN = All-Sky Automated Survey for SuperNovae, ZTF = Zwicky Transient Facility からの情報を求めた。 天体同定 我々の 19 星をカタログとクロスマッチさせる。Gaia DR2 catalog of LPC candidates (Mowlavi et a; 2018) には 150,000 星が載っている。そこから 我々の星と一致する星が 7 つ(内6個は周期も)見つかった。ASAS-SN の変光 カタログ (Jayasinghe et al 2019) は 660,000 星が載っている。 16 星を同定 し、内10星で周期を決めた。ZTF は周期変光星を 780,000 個含む。 Chen et al 2020. 我々の4星がマッチした。皆周期を与えられている。 表3=周期と変光タイプ 表3に周期と変光タイプの情報をまとめた。17 星で少なくとも1つのマッチが あった。しかし、4つには周期が与えられていなかった。二つの星、 HD 292921 と [W71b] 030-01 の 2 星はどのカタログにも載っていなかった。 |
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AGB 星の視差決定が困難な理由 (1)表面対流により測光中心位置が変動する。 (2)視差計算ではカラー一定を仮定するので、カラー変化が誤差を産む。 RUWE サンプル内の 29 AGB 星の視差エラー 10 % 以下の星が全体の 69 %、15 % 以下の星が全体の 86 %、20 % 以下の星が全体の 93 % であった。視差の性質 の良さは RUWE = renormalized unit weight error でも測られ、良い EDR3 天体では RUWE = 1 である。我々のサンプルの 86 % は RUWE < 1.1 である。 ゼロ点オフセット EDR3 視差には系統誤差がある。その大きさは天球上の位置、等級、カラーに より変わる。Groenewegen 2021 の標準手続きではこのゼロ点オフセット ZP は πt = π0 - ZP で表される。ここに、π0 = カタログに載った観測視差、 πt = 真の視差、ZP = オフセット値である。通常 ZP は負である。 Lindegren et al 2021 は ZP を与える式を提案した。しかし、いくつかの研究、 セファイド(Riess et al 2021), RGB (Zinn 2021), RR Lyrae (Bhardwaj et al 2021) が、その ZP 負の方向に大きく振れ過ぎとの結果を出している。つまり、補正 された視差が大き過ぎると言うのである。 Zinn 2021 は補正式の修正を Groenewegen 2021 は新しい定式化を提案している。 ただし、議論されている星のパラメター Teff, カラーは AGB 星から外れているので、 AGBs に対する ZP は未だ不明である。そこで、ここでは (i) ZP ナシ、(ii) L21ZP = Lindegren et al 2021 ZP, (iii) G21ZP = Groenewegen 2021 ZP を較べる。 |
![]() 図3.炭素星 V493 Mon の ZP 補正の影響。曲線=星団星の視差分布。 青縦実線=星団星視差中間値。青破線= 68th 確率線。青点線=95-th 確率線。 ピンク実線=V493 Mon の視差中心線。ピンク破線=V493 Mon の視差 1σ 線。 |
サンプル AGB 星 我々の関心は M-S-C の進化過程にある。そこで TP-AGB 期の星の星団帰属を 丁寧に調べた。その結果、18 TP-AGB 星と Super-AGB 星候補 2 星を選んだ。 さらに R-hot 星を一つ加えた。こうして総計 21 星の帰属を調べた。 |
最終結果 結果として、 20 星の帰属を確認し、Case 49 の NGC 663 への帰属を否定した。 |
使用等級 Gaia EDR3, 2MASS, WISE, MSX, AKARI, IRAS を使用した。Gaia は 1000 日以上の測光平均値なので十分に良い平均等級を与える。 VOSA フィット SED フィットには VOSA = Virtual Observatory SED Analysis Bayo et al 2020 を使用した。結果は表5に示す。VOSA では M-, C-星のモデルスペクトル GRAMS グリッド Sargent et al 2011 を使った合成等級が与えられる。 グリッドは g, M, Teff, C/O で区切られている。これら のモデルはダストシェルの輻射輸達も考慮する。出発となる静水平衡大気は M- 型星の PHOENIX モデル Kucinskas et al 2005 とC-型星の COMA モデル Aringer et al 2009 である。 |
マスロス ベストフィットを求めるには距離 D, Av が必要である。D は EDR3 視差の 逆数に possibly corrected for the ZP. Av は星団値を採用した。モデル フィットには g, M, Teff, C/O 以外に dMd/dt, rin, C- 星には τ11.3, M-星にはτ10 も 決められる。 |
![]() 図6. TP-AGB 星のコアマス-光度関係。バツ印= TP-AGB の TP サイクル静謐期でTP直前 の光度。モデル初期質量は Mi = 1.0 - 6.5 Mo. Z = 0.01 - 0.02. 黒実線: Z = 0.014 モデルの漸近 コアマス-光度関係への解析フィット。 CMLR SED フィットから決まった L は Mc を推定するのに用いられる。これは TP-AGB 進化モデルから導かれる。それにはコアマス光度関係 (CMLR) を使う。 CMLR は Eggleton 1967, Paczynski 1970, Tuchman et al 1983, Boothroyd, Sackmann 1988 のより確立された。 HBB 図6に見られるように、CMLR は Mc = 0.5 - 0.8 Mo で良く成立する。 0.8 Mo > Mc では HBB のために CMLR は成立しない。HBB が対流に大きく 影響されるので、モデルの予想する L はモデル毎に大きくばらつく。 ただし、TP-AGB 進化末期、外層質量が減って HBB が鎮火すると CMLR が復活 する。これが図6で光度曲線が釣り鐘型になる理由である。 |
![]() 表4.様々な TP-AGB モデルの予想 Mc と 合成 CMLR の Mc との比較。 静謐期光度 我々のサンプルで Mi = 3 - 4 Mo の光度は L = 8000 - 15000 Lo に収まり HBB が働く L = 20000 Lo より低い。 静謐期光度は次の式で与えられる。 ![]() |
PARSEC と自己整合性 今回は星団の等時線を同一の PARSEC パケッジで扱った。このため、星団年 齢、MiAGB、第1熱パルスコアマス MC,1TP, 第1熱 パルス光度 L1TP、WD 質量が内的には整合して決められた。 |
Dias 年齢と No ZP 読者には表2、5、6 と図8,9を見ることを薦める。そこには、二つの 星団年齢と視差補正の効果が載っている。 この論文ではこの先、 Dias 年齢と noZP 補正で話を進め、必要な時に他の 値の効果を述べる。 |
炭素星の初期質量最小初期質量炭素星の最小初期質量は C* 908 または [W71b] 030-01 の MiAGB = 1.5 Mo で与えられる。この値は Cristallo et al 2011, Ventura et al 2018 が Z = 0.014 TP-AGB モデルの計算から予想した炭素星最小質量とも一致する。 我々のサンプルでは V* V493 Mon の MiAGB = 1.3-1.4 Mo でさらに 低い。しかし、帰属星団 Trumpler 5 のメタル量は比較的低い [Fe/H] = -0.37 (Carrera et al 2019). したがって、この星は太陽メタルの炭素星初期質量下限 を与えない。 最大初期質量 Case 121 (Berkeley 72) MiAGB = 7 Mo. ヘリウム燃焼後に C-O 縮退核を形成する最大 質量 Mup = 6-7 Mo に近い。この星は準大質量星がコアの炭素燃焼を終えた後 の Super-AGB 期にあるという描像に合う。 IRAS 19582+2907 (FSR 0172) MiAGB = 4.4 Mo で標準的なダブルシェル TP-AGB 星である。 大質量炭素星形成シナリオ 可能なシナリオ: AGB 最末期に外層質量が減少し、底温度低下のため CNO サイクルが停止した状態 で最後(?)の 3DU が起きて C/O 比を 1 以上に上げる。この描像は、非常に 明るく、厚いダスト層に包まれた炭素星の検出 van Loon et al 1998, Groenewegen et al 2016 により支持される。 |
本当? (1).Case 121 と IRAS 19582+2907 の光度は図8を見ると、Cantat-Gaudin et al 2020 の年齢を使う限り、1TP 光度の下になる。 (2).二星はダストシェルが薄い。 したがって、AGB 最末期に炭素星へ転換というシナリオはこの二星に当てはま りにくい。それよりは星団年齢を再確認すべきである。Dias et al 2021 によ る Berkeley 72 の年齢を採用すると、Case 121 は 2.9 Mo となり、光度と コアマスは標準的な TP-AGB 進化の枠内に収まる。 HBB は起きていない。図9 を見よ。FSR 0172 は Dias et al カタログに含まれない。Kharchenko et al 2013 の年齢 1.33 Gyr を採用すると IRAS 19582+2907 は 1.9 Mo となる。 BM IV 34 こうして、Case 121 と IRAS 19582+2907 の年齢を引き上げると、残った 中で最も明るく質量の大きな炭素星は BM IV 34 (Haffner 14) となる。 MiAGB = 3.3 - 4 Mo である。この星で HBB が起きているかどうか 不明である。詳細な分光観測が必要であろう。 Mc 領域の限界 19 炭素星の SED フィットから、ZP 補正によるが、3500-4000 < L/Lo < 11000-16000、 0.54 < Mc/Mo < 0.77 である。TP の光度窪みを 考慮すると Mc 下限は 0.54 から 0.58 に上がるかも知れない。 Mc 上限値は BM IV 34 で与えられる。ZP補正を加えると光度は 11000-12000 Lo となり MiAGB = 3.25 Mo 星の TP 開始光度に接近する。一方、 もし Cantat-Gaudin et al 2020 の年齢を使うと MiAGB = 3.54 Mo となり、その光度は第1熱パルス開始期のちょっと下になる。 どちらの場合も標準 3DU 過程で炭素星の存在を説明するのは困難である。 ただし、連星の兆候はない。 |
M, S 型星: 3DU の開始光度の比較M, MS, S 型星の内 7 星は noZP 補正で 3000 < L/Lo < 9500、0.54 < Mc/Mo < 0.64 である。TP-AGB モデルからの予想では M, S 星の光度 は同じ Mi の C 星より低い。しかし、低質量 M 星 HD 292921 と IRAS 23455+6819 の場合、同じ星団中の炭素星 V* V493 Mon, [W71b] 030-31, と C* 908 より光度が高い。ただし、エラーバーを考えると逆転もあり得る。 3DU の開始 MS, S 型星の光度から 3DU に制限を加えられる可能性がある。 |
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脈動脈動モードLattanzio, Wood 2004, Wood 2015 によると、 LPV の初期には2次、3次の高次振動が支配的で、多重周期が一般的である。 星の外層部が膨張するにつれ高次振動は安定化して行き、基本振動のみと なる。 その枠組みで変光を調べるため、図10に周期光度図を作った。 9天体が基本振動、8天体は第1倍音、1天体 (S1* 338) はおそらく第2倍音 であろう。 |
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低いマスロス 今回の星団 TP-AGB 星は大抵は低いマスロス、 dMd/dt = 10-12 - 10-10 Mo/yr を示す。シェルの光学厚みも τ10/τ11.3 = 10-4 - 10-2 である。 大きなマスロスの星 3つの星が大きなマスロスを示す。 IRAS 23455+6819 MiAGB = 1.2 - 1.4 Mo. dMd/dt = 9 10-10 Mo/yr. ガス/ダスト= 0.001 を仮定すると dM/dt = 10-6 Mo/yr となる. 興味深いことに P = 85 d で短い。恐らく第1倍音の SR 変光星ではないか。 ただ、この星は系列 D 上に長第2周期 631 d を持つ。 |
V* V493 Mon と [W71b] 030-31 共に炭素星で、 dMd/dt = 数 10-9 Mo/yr. 銀河系炭素星の場合 ダスト/ガス= 0.0025 - 0.01 である。平均の 0.005 を 採用すると、大部分の炭素星で dM/dt < 10-8 Mo/yr だが、 V* V493 Mon と [W71b] 030-31 の場合、 dM/dt = 数 10-7 Mo/yr に達する。 ダスト駆動はムリ? Mattsson et al 2010, Eriksson et al 2014, Bladhi et al 2019a によると、 炭素質ダストの光輻射圧による星風の最低マスロス率は 3 10-7 Mo/yr である。したがって、サンプル炭素星の殆どはダスト駆動星風領域には まだ入っていない。ただし、V* V493 Mon と [W71b] 030-31 のみは、ダスト 駆動が開始し始めている可能性がある。これは図1でこの2星が"extreme stara" 領域に位置することとも整合する。 |
kink Marigo et al. (2020) は IFMR = 初期質量-最終質量関係に kink = コブの存在を発見した。 これは MiAGB と Mf との間の単調増加の関係を壊す。 Mwd =0.70 - 0.75 Mo にあるコブピークは MiAGB = 1.80 - 1.95 Mo の星により生み出される。このコブ質量は通常は MiAGB = 3.0 - 3.5 Mo 星に期待される量である。 |
単独星シナリオ 単独星進化の枠組みでこの現象を解釈すると、この質量帯炭素星では 炭素超過量が低いため、ダスト形成率が低く、このためマスロスが < 10-7 Mo/yr と穏やかであることが原因と考えられる。別の言い方 では、IFMR のコブは強いマスロスを産むには不十分な浅い 3DU を持つ炭素星 により作られた。そのような状況では C/O コアが通常以上に成長できる時間を 与えられるのである。このシナリオは今回の結果から強い支持を受ける。 |
二つの明るい星団炭素星 MSB 75 (NGC 7789) と BM IV 90 (NGC 2660) は明るい炭素星で 光度から推定すると、 Mc = 0.68 - 0.7 Mo となる。これは星団年齢 からの MiAGB = 1.9 - 2.0 Mo に対する進化経路から予想される 明るさを大きく上回る。一方で、この大きな Mc は Marigo et al. (2020) が同じ初期質量帯星に見出した白色矮星質量 Mf = 0.7 - 0.74 Mo と整合する。 |
二つの説明 この現象を説明する二つのシナリオが考えられる。 (1)単独星経路 (2)相互作用連星経路 である。以下にそれらを検討する。 |
二つのシナリオでの期待値 表8と表9には、TP-AGB 星と炭素星の期待値が、単独星進化とブルー ストラグラー (BSS) 進化の両方について載っている。どちらのシナリオに ついても、 Marigo et al. (2020) による、τAGB = TP-AGB 期間, τC = 炭素星寿命、 Mf = 最終質量、 (C/O)f = 最終 C/O 比を載せた。 予想数と観測数の比較 どちらの星団でも TP-AGB 星は一つしか検出されておらず、それが炭素星であった。 二つの星団の大きさは非常に異なっている。 NGC 7789 は 2953 星を含むが、 NGC 2660 には 376 星しかない。NGC 7789 での予想値は NTP-AGB |
低質量と中間質量の境界 注意したいが、9.23 ≤ log(age/Gyr) ≤ 9.24 という狭い年齢帯では TP-AGB 星の期待数が大きく上昇する。これは AGB-boosting と呼ばれ、 コアヘリウム燃焼期間が突然伸びる結果起きる現象である。これは Mto = 1.74 - 1.76 Mo, MiAGB = 1.83 - 1.92 Mo に対応する。 恒星進化の観点からは、これは主系列進化の結果縮退核を産み出す低質量星 と縮退核を作らない中間質量星の境目である。また観測面からは、年齢 1.6 Gyr の星団は二重レッドクランプという独特の形態を産み出す。 二つの星団は境界星団? 二つの星団は、推定年齢と長く伸びたレッドクランプから、この特別な クラスに非常に近い可能性がある。これはつまり、 TP-AGB 星の数がこれらの 星団では前の推定値より大きいことを意味する。 つまり NGC 7789 と NGC 2660 中の明るい炭素星は MiAGB = 1.75 - 2.0 Mo の星で、炭素量依存度の高いマスロスが Mc を 0.7 Mo まで成長させた。 |
Mbol SED フィッティングから求めた光度 L を使い、Mc を推定した。 フラッシュに伴う光度変化に注意した。その効果は Mc < 0.65 Mo の低尾質 量星では特に重要である。ほぼ全ての星で光度 L は進化モデルで予想される 第1TP と AGB 終了との中間値を取った。 星団年齢の問題 幾つかのケースでは、採用したカタログの星団年齢や視差補正によって、 モデルとの差が生じた。Case 121 に Cantat-Gaudin, Anders 2020 カタログ のからの Berkeley 72 星団年齢を使うと Mi = 7 Mo となる。しかし Dias et al 2020 では 3 Mo となる。前者では Super-AGB 星が L = 14000 - 15000 Lo と低い値なのはなぜかという問題が発生する。後者では TP-AGB 星で 自然に説明できる。 炭素星最低質量 太陽メタルでの炭素星形成最低 Mi は 1.5 Mo よりは低い。最高 Mi は 3 - 4 Mo より上である。ただし Case 121 の Mi =7Mo を排除したと してである。 MS, S 星 MS, S 型の3星は 3DU 開始に制限を与える。 炭素星 12 炭素星は全て可視炭素星であった。ダストで隠されている炭素星は なかった。大部分の炭素星で dM/dt = 10-8 Mo/yr で低い。例外は 低 Mi 炭素星 V* V493 Mon と [W71b] で図1の極端星の領域に落ち、 dM/dt = 10-7 - 10-6 Mo/yr である。 HBB なし 最も大質量な星 BM IV 34 は炭素星で、 MiAGB = 3.3 - 4 Mo で ある。Case 121 を除くと、 HBB の候補星はない。CMLR より明るい M-星で MiAGB >: 4 Mo の星は無かった。 |
Super-AGB 星 Super-AGB 星を 7.38 ≤ log(age/yr) ≤ 7.82 の年齢範囲、つまり 6 ≤ M/Mo ≤ 10 に探した。年齢範囲内に 10 星があるが SED フィット した L < 40,000 Lo で低すぎる。 脈動モード 炭素星の大部分は基本振動を行い、 M, MS, S 型星は主に第1倍音振動を 行っている。 S 星の S1* 338 だけは例外で主周期 338 d は第2倍音振動 である。マスロスの大きな二つの炭素星 V* V493 Mon と [W71b] 030-01 は C 系列より下に位置し、星周ダストによる減光効果と考えられる。 大きな Mc ダストなしの明るい炭素星 Mi = 1.9 - 2.0 Mo の Mc = 0.65 - 0.7 Mo であった。これは Marigo et al. (2020) が見出した IFMR の kink (コブ)に対応する。これは kink の存在を 支持するのみでなく、それを生み出す機構、 1)kink を産み出すのは炭素星 2)C/O が1に近く、ダスト形成率が低い。 3)炭素星期間中マスロスが低いため、コアが大きく成長できる。 をも支持する。2星の C/O 比の決定が重要である。 ヘリウムフラッシュ限界 上2星の帰属星団 NGC 7789 と NGC 2660 は年齢= 1.3 - 1.6 Mo で二重 レッドクランプを示す。つまり、これらの星団は MHeF 限界 付近にある。 Mc 0.7 Mo 炭素星の成因 単独星進化が最も妥当である。ブルーストラグラー経路は少し怪しい。 |