The UKIDSS Galactic Plane Survey


Lucas, + 30
2008 MN 391, 136 - 163




 アブストラクト

 UKIDSS Galactic Plane Survey (GPS) は UKIDSS コンソーシアムが行っている 5つの公開サーベイの一つである。これは b = [-5, 5] の 1868 deg2 を J, H, K フィルターで、牡牛座ー御者座ーペルセウス座分子雲複合体の 200 deg2 を J, H, K と 2.12 μm H2O (1-0) 線 で撮った。その総計は 2 109 天体となる。ここではデータセットの 性質とユーザーのためにその応用を述べる。 また、DR2 を用いた科学成果も 簡単に述べる。 (1)GPS-GLIMPSE クロス対象から星形成域 G28.983-0.603 の YSO 同定。
(2)M17 の広域像に減光マップを提供。星混同が光度関数に及ぼす効果。
(3)ρ Oph 暗黒雲の H2 放射。ジェットの根元に原始星。
(4)中心バルジ核の X-線源。近傍の主系列星軟X源とバルジ巨星硬X源。
(5)排除帯における銀河。l > 90 で星と明確に区別できる。
(6)(i-J, J-H) 二色図で A-F 矮星、G-矮星、K-矮星区別

 様々な方向の CMD 早見 

 代表12領域のヒストグラム 




図1.GPS 選択域の等級分布。太い実線=K, 中実線=H, 細実線=J バンド。 カウントは stars deg-2 で与えた。

 3.星種族とデータ特性の方向による変化 

サンプルの選択 

 二色図には測光精度のよい星が選ばれた。色等級図は全ての星を載せた。

 サーベイに矮星が現れるのが特徴 

 以前の浅い大規模サーベイと較べると、GPS の CMD は大きく違って見える。 そして、CMD の解釈は厄介である。J-K カラーは J-H, H-K よりも分別能力が 高いので、基本は (J-K, K) CMD の解析とする。

 二色図の2系列=矮星と巨星 

 内側銀河系、図2-8、の二色図は全て二本の平行系列を示す。上の系列は 巨星で、レッドクランプが主成分である。下の系列は矮星である。 同じスペクトル型で較べると、巨星の (J-H) は矮星より 0.15 - 0.30 mag 大きい。 これは、巨星大気の圧力が低いため、H- オパシティが多分小さくなり、 H 等級が明るくなるためであろう。その結果、巨星の J-H は赤く, H-K は青くなる ので、巨星系列が上側になるのである。
 二色図上の系列が直線でない 

 しかし、赤化系列は完全な直線ではない。これには二つの理由が考えらる。
(1)遠方ほど明るい星の検出割合が増す。矮星系列の根元近くでは G, K, 早期 M 型 矮星は主流であるが、遠方になると 早期G, F, A 型矮星に移る。後者の空間密度は 前者より低いが、遠方まで見うるからである。その結果矮星の系列は少し傾きが緩く なる。
(2)赤化が大きくなると、有効波長が変化する。

 色等級図の二つの系列 

 色等級図には多くの場合二つの系列が見える。内側銀河系では左を矮星、 右をレッドクランプ星と看做して大体正しい。しかし、外側銀河では事情が もう少し複雑である。


 内側銀河領域の色等級図と二色図 

 雲とジャンプ 

 図7、8 (l, b) = (55, 0) と (55, 1) では K = 13 - 14 で赤化が急増する。 類似のジャンプが図3 (15, 0) K = 12.75, J-K = 2.25 にも見られる。 (55, 1) の場合、Av = 7.5, D = 8 kpc という値が出る。このジャンプ巾が K = 13 - 14 に渡り、多数のレッドクランプ星が含まれていることから、この 構造が小さくて濃い雲ではなく、H I ガスの広い雲であると考えられる。 BUFCRAO サーベイによる 13CO データキューブはこの領域で弱くて 一様な放射を検出している。領域の外、両側にはもっと強い放射が見える。 この CO 放射から期待される IR 減光は観測値の一桁下である。

 円盤層から抜け出すと 

 (l, b) = (15, 1) では K = 12 で垂直に急落する。これはレッドクランプ が D = 12 kpc で星間物質の存在する円盤層を抜け出た結果である。
(l, b) = (98.4, 0) でも K = 13 で同様の落下が見られる。こちらは、ワープの結果 ダスト層が銀河面の上方にずれた結果である。落下後の様子はブザンソンモデル を使い図15で調べる。

 銀河中心方向 

 (l, b) = (-0.3, 0) の CMD は他と少し違う。図2には3本の系列が見える。 J-K = [3, 7] にあるのはバルジ巨星である。ブザンソンモデルによれば、 そこには広い幅のスペクトル型とメタル量の星が含まれる。しかし、それらは ほぼ全て同じ量の赤化を受けている。左側は近傍の円盤矮星、真ん中が円盤 レッドクランプ星である。 

図2.(l, b) = (-0.3, 0)  0.2°×0.2° での CMD と TCD. TCD のサン プルは A3 に述べたように、信頼度が高く、低完全度(?)の星を選んだ。 CMD ではノイズ以外の星を全て載せた。"unreliable" 測光の星は青で示した。 図で支配的な星は赤化を受けたバルジ星である。それより赤化が弱い円盤の 矮星とレッドクランプ星も CMD には見えるが、図3 - 13ほどではない。


図3.(l, b) = (15, 0). 内側銀河の混み合った円盤面の CMD にははっきりした 主系列とレッドクランプ星の系列が見える。TCD 上では矮星と巨星とが分離して 見える。どちらも赤化ベクトルに沿って伸びた系列を成している。しかし、 巨星の方が赤い方まで伸びている。


図4.(l, b) = (15, 1). CMD 上、レッドクランプは (J-K, K) = (0.8, 10.5) から (1.7, 12) へと対角状に伸び、そこから垂直に落ちている。対角部では 視線が円盤内を上方に向かって走っており、次第に減光が弱くなっていく。 このために、以上の現象が生じる。K < 12 mag では対角レッドクランプの 右側にバルジ赤色巨星枝星が見える。この二つの巨星種族はより暗い方では 解け合わさって見える。TCD の赤化系列は図3より短い。


図5.(l, b) = (31, 0). TCD 上の矮星と巨星系列が非常に明確に見える。赤化 ゼロ星のカラーが Hewett et al 2006 に従って実線で示されている。 Rieke, Lebofsky 1985 の赤化ベクトルも示した。CMD 上、バルジ巨星はもはや 見えない。一方、円盤レッドクランプ星系列はうねっている。これは不均一な 減光を意味している。


図6.(l, b) = (31, 1). TCD は (15, 1) 方向と似ている。しかし、 CMD の方の レッドクランプ系列は (15, 1) 方向と違い、垂直落下は示さない。これは視線が 銀河の上の方を通過する際にも星が存在する領域を通っていることを意味する。 恐らくはワープか。
( このワープは星間物質が存在するという 意味でのワープか?)



図7.(l, b) = (55, 0). 円盤レッドクランプ系列が K = 13 で突然傾きを変える。 これは減光量の大きな雲が存在することを意味する。


図8.(l, b) = (55, 1). レッドクランプ系列は K = 13 - 14 mag で大きな 跳びを見せる。J-K も 1.2 から 2.4 へと変化する。これは図7の雲と関係 するもっと深い雲の存在のためだろう。もっと暗いところではレッドクランプ 系列は垂直となる。これは視線が星間物質の存在する円盤部を突き抜けたため であろう。K = 13 - 14.5, J-K = 1.0 で K-, M-矮星が現れることに注意せよ。 これ等の星は、左側にあるより早期型の円盤矮星から突き出て巨星枝側に 伸びている。


図9.(l, b) = (98.4, 0). 視線は外側銀河を通り、TCD の赤化線は図3−8 に比べると短い。星数を確保するため、ここからはサンプル領域を 0.5°×0.5° に広げる。K > 13 mag ではレッドクランプ系列 が垂直に落ちる。これは減光物質の欠如を意味し、北銀河面のワープが原因と 考えられる。図の右下 J-K > 2 の青印は銀河である。


図10.(l, b) = (98.4, 1). ここでの図は赤化に関して (98.4, 0) 方向と 非常によく似ている。これは北銀河ワープの存在から期待される特徴に一致す る。その結果、外側銀河の円盤が銀河面を中心に対称である場合と較べ、銀河 面の上側で遠方の密度が超過し、減光も大きくなるからである。


図11.(l, b) = (98.4, -1). この領域は銀河面の下に当たる。図9,10 と較べ、赤化が弱い。これはワープが銀河面の上側にあるからである。図の 右下には銀河が、J-k = 0.7, K = 12.6 - 14.5 には K-, M-矮星が見える。

 外側銀河系の二色図と色等級図 

 矮星と巨星の区別の難しさ 

 (l, b) = (171.1, 4.75) 方向では赤化が弱い。CMD には二本の系列が見える。 この方向のブザンソンモデル図14によると、両方とも矮星が多い。 左側は F-, G-型矮星。クラス III 巨星は右側系列の上部 K ≤ 13.5 に 限られる。 M-, 晩期 K-型矮星は K = 12 から下に現れる。K = [12, 13.5] では 矮星と巨星を区別することは難しい。二色図上でも区別できない。早期 K-型の レッドクランプ星は (H-K, J-H) = (0.12, 0.57) の密度超過として現れる はずであるが。

 二本の矮星系列 

 (l, b) = (171.1, 4.75) 方向で矮星系列が二本現れる理由はすぐには分からない。 図12の下側にあるヘス図を調べると、 K = [17, 18] で二本がつながる。しかし、 図中に最多の M-矮星は結合部の下にも上にも伸びている。太陽近傍の晩期 K-型と 早期 M-型矮星は J-K の巾が狭く 0.9 付近に集中する。そしてそれらは右側系列 K = [12, 17] を定義している。同様にこの等級帯で観測される、遠方の F-型と 早期 G-型矮星はやはり狭い J-K 巾を有する。それらに反して、晩期 G-型から早期 K-型に掛けては J-K カラーの巾が広い。そのためこのカラー区間の星密度は 下がり、両側系列の間に間隙を生み出すのである。K > 17 では晩期 G-型から 早期 K-型の星の数が十分に多くなり間隙が埋まるのである。

 

 
二本の矮星系列が内側銀河系ではっきりしない 

 二本の矮星系列はプロットした CMD の全てに現れるが、l < 100 では あまりはっきり見えない。これには次のような理由が考えられる。
(i) l < 100 の円盤中央では観測可能な F-型、G-型矮星の数が M-型矮星 を大きく上回る。
(ii) 赤化が大きいため、遠方の赤化の大きなF-, G-型矮星が近距離の K-, M-型矮星の系列に近づく。
(iii) 遠方のレッドクランプ星は第2のはっきりした系列を矮星系列の右側に 形成する。
 l = 98.4, 55 でも図8−11を見ると K = 14 の上方に K-, M-型矮星系列 を検知することが可能である。

 二系列の距離差と赤化の差 

 図12 (l, b) = (171.1, 4.75) を見ると、J-H = 0.4 付近の星集団は F-, G-型矮星である。図13(l, b) = (173.65, 0.65) では それらの星は距離が 1 - 6 kpc と遠いため赤化が強まった結果、 J-H = 0.5 に移っている。とこ ろが、近傍の K-, M-型矮星は D < 3 kpc で赤化が弱いので、 J-H = 0.5 - 0.7 と同じ位置に留まる。

 ワープの効果 

 (l, b) = (98.4, 1) と (98.4, 0) の減光強度はほぼ同じである。一方、 (l, b) = (98.4, -1) の減光はそれらより明らかに小さい。

図12.(l, b) = (171.1, 4.75). 銀河中心のほぼ反対側で、かつ銀河面から 4.75° 上側の領域である。この方向の星種族は図2−10とは異なる。 CMD の右側の系列はレッドクランプ星ではなく、近傍の晩期 K- と M-矮星で ある。巨星がこれらの矮星より多いのは K < 13 mag であるが、そこでも 矮星とはっきり分離してはいない。CMD 左側の系列は F-, G-矮星である。 晩期 G-型と早期 K-型の区間での J-K カラーが大きく変化するため、そこに ギャップが生じてしまった。下図は CMD の密度マップ表示=ヘス図である。 二つの系列が暗い等級で融合すること、そこでは早期 K-型星が多いが、 晩期 K-, 早期 M-型星が多いことが判る。 2色図には減光が小さいことが 示されている。


図13.(l, b) = (173.65, 0.65). CMD は図12と似た所がある。しかし、 銀河中心面により近いので減光が大きい。図の左側系列は F-, G-型矮星である。 右側は晩期 K-型と M-型矮星であるが、 K < 14 mag ではレッドクランプ星 が混じっている。 右下は銀河である。TCD が図12と異なるのは遠方の F-, G-型を赤化して、近傍で赤化が弱い晩期 K-型、早期 M-型矮星の位置に近づ けるからである。この結果、スペクトル型の分別が難しくなっている。



 3.3.ブザンソンモデルとの比較 

 微分減光強度 

 ブザンソンモデルでは微分減光強度はフリーパラメタ―である。そこで、 図14、15では減光強度を変えてデータと最適な値を探した。その結果は (l, b) = (31, 0) 方向で 2.25 mag/kpc、 (171.1, 4.75) 方向で 0.7 mag/kpc であった。Mathis 1990 の減光層を用いると、AK に対しては 0.242 mag/kpc と 0.075 mag/kpc となる。

 銀河中心距離 

 ブザンソンモデルは Ro = 8.5 kpc を採用している。しかし、BH 周囲の星の 運動から求めた距離は、 Eisenhauer et al. 2005 によると、7.62±0.32 kpc である。研究者の中にはブザンソンモデル をこの値でスケールする者もいる。

 図14二色図の検討 

 図14 (l, b) = (31, 0), (171.1, 4.75) のモデル二色図はデータと良く 合っている。図12 (171.1, 4.75) データとの不一致点は、
(i) モデル図14の (H-K, J-H) = (0.45, 0.85) に見える星の集団は観測 にはない。
(ii) モデル図14の H-K = 0.2 - 0.25 で上にばらまかれている少数の星
(i) は赤い K-型白色矮星であるが観測には引っ掛からなかった。モデルでは 殆ど同じ質量とスペクトル型であったが、実際はもっと広がったパラメタ―を 持っているらしい。(ii) はモデル中の晩期 K-型巨星であるが、それらは明る すぎて観測では飽和している。
(31, 0) 方向モデルの二色図も少数の明るい晩期 M-型巨星が H-K = 2.5 - 3 に 見えるが図5には素子の飽和で観測不能であった。これらのあかるい種族は 2MASS や DENIS のような浅いサーベイに向いている。

図14 CMD の検討 

 (l, b) = (31, 0) の CMD は図5とよく一致する。唯一指摘したい違いは モデルではレッドクランプ系列の上の方の勾配が一定過ぎることである。 これは実際の減光がマダラであることを反映している。
(l, b) = (171.1, 4.75) の CMD も図12とよく一致する。違いは
(i) 観測図右下に現れる銀河。
(ii)モデル J-K = [0.45, 0.9] では 矮星系列が3本現れる。J-K = 0.65 に ある真ん中の弱い系列は早期 K-矮星である。これは実際にも存在するのかも 知れないが、エラーのために図12では消えてしまった。
(iii) J-K = 1.25 に短い垂直帯が見える。K-型白色矮星であるが、前と 同じ理由で観測には現れない。

 図15の検討 

 図15には図14と異なりエラーなしのモデル CMD を示す。(l, b) = (31, 0) は図14も図15も良く似ている。距離と減光の違いで等級とカラー が縮退を生じているからである。ところが、(15, 1) ではレッドクランプ 系列が多数の副系列に分裂して見える。これはモデルでは、巨星のサブタイプ は各々が固有の等級とカラーを持ち、銀河面上方のダストがない領域ではもはや カラーが変わらなくなるためである。



図14.ブザンソンモデルによる合成エラーを含む TCD と CMD. 上:(l, b) = (31, 0).下:(l, b) = (171.1, 4.75).明るい等級での評価エラー が小さいので、系列の巾が観測より狭いが、データをよく再現している。 赤い赤色巨星の小さな集団が下図の K = 14 付近にはっきり見えるが、観測データ の図12の方には見当たらない。左下二色図原点付近の A 型星は検出器飽和 のため GPS 観測では測られていない。




図15.エラー効果を入れないブザンソンモデルの CMD. 青=主系列星。黒= クラス III 巨星。緑=クラス IV 準巨星。赤=白色矮星。ピンク=クラス I, II の明るい巨星。
左:(l, b) = (31, 0). 単純な層分けが特徴。左:(l, b) = (15, 1). 白色矮星系列は観測には見えなかった。



図16.銀河面中央の星形成域 G28.983-0.603 の UKIDS-GPS/Spitzer-GLIMPSE 結合データによる YSO の効率的な検出。
上:GPS K-バンド画像。白三角= GLIMPSE 3.6/4.5 検出ありの天体。マッチング 半径は 0.5 である。赤四角=右下図で YSO Class I, II と判断された天体。YSOs は中央部への集中が見られる。
左下: (H-K, J-H) 二色図。右下:Av = (H-K-0.2)/0.063 と仮定し、(Av, K-4.5) 二色図。黒丸=JHKデータあり。白丸=J非検出。斜線= Flaherty et al 2007 赤化線。
(右下は(H-K, K-4.5)二色図の表示を 変えたものである。)


 4.可能な天文学 

 4.1.UKIDSS/Spitzer 結合による YSO の同定 

MIR の利用 

 YSO は中心原始星の周りの熱いダストからの MIR 放射により検出可能である。 GPS の JHK 二色図でも検出はできるが MIR を加えた方が確実である。2MASS では少し浅すぎる。

 図16=G 28.983-0.603 の YSO 

 G 28.983-0.603 は Lockman 1989 が観測した HIIR である。Bica et al 2003 は 2MASS を用いて赤外星団を発見した。左下の JHK 二色図で多数の YSO が K バンド超過天体として検出される。それらは二色図上で、赤化を受けた通常星 やクラスIII YSO 天体の右側に出現する。しかし、その (H-K) 超過は中間値で 僅かに 0.2 mag なので、超過が少ない YSO を JHK 二色図で分離するのは困難 である。つまり NIR では
(i) 大きな赤化を受けた YSO が J で見えなくなり二色図が使えない。
(ii) (H-K) 超過が小さいと通常星との分離が困難

0.5 基準の必要性 

 図16の右下図は YSO の (K-4.5) 超過を使うと分離が大きくなることを示し ている。その多くは (K-4.5) 超過が 0.5 mag 以上である。図の横軸は (H-K)o = 0.2 を仮定した減光量 Av であることに注意。右下図には 6 ×6 内の 1345 天体がプロットされている。このように 混み合った領域では通常の GPS/GLIMPSE マッチングで採用される 1.2 は大量の偽マッチを生み出す。もっと厳しい 0.5 基準が必要である。しかしこのマッチングの結果、YSO の数は一桁増えた。
星団の前景減光と星団距離 

 図16の右下図は(K-4.5)超過に従って、クラス I YSO, クラス II YSO, クラス III/通常星の3領域に分かれる。クラス III/通常星の系列は赤化ベク トルの方向に並んでいるのだが、 Av ≥ 12 で天体数が急増する。 (K-4.5) 超過天体も主に Av ≥ 12 領域に分布する。したがって、YSO 星団 の前景減光は Av = 12 mag なのであろう。Lockman 1989 は HIIR 視線速度と して 52.6 ±1.3 km/s を得た。LSR 回転速度 220 km/s と Eisenhauer et al 2005 の Ro = 7.62 kpc を使うと、運動距離 3.1 または 10.2 kpc を 得る。(J-K, K) CMD を見ると、Av = 12 の星は K = 12 - 14 である。この 等級は D = 2.9 - 7.3 kpc に対応するからである。
運動近距離だと、 MK = (12-14)-12x0.112-5log[310] = (11-13) - 12.5 = [-1.5, 0.5]。遠距離だと、 MK = [-4, -3]。明るすぎ?


 前期主系列星の検出下限質量 

 GPS は K = 16 までは検出率 100 %, K = 17.25 で 50 % である。 D = 3.1 kpc, K = 17.25, AK = 1.3 とすると、 MK = 17.25 - 1.3 - 12.5 = 3.5 となる。Baraffe et al 1998 の 1 Myr 等時線を使うとこれは 0.095 Mo の 前主系列星に対応する。もしかしたら減光ゼロで計算しているかも。 雲内部で Av = 21 とすると、K = 17,5 は 0.5 Mo の星に対応する。

 クラス分け線 

 クラス I, II, III の分割線は Gutermuth 2005 による. 彼の方法は非常に洗練されている。しかし、浅い GLIMPSE サーベイで込み合った 領域を扱うには 3.6, 4.5 測光の精度が足りない。そこで上に述べたような 簡単な方法に切り替えた。これは上手く行った。注意しておくが、 Gutermuth 2005 較正は低質量前主系列星に対するもので、遠方の星形成域で多数を占めると予想 されるもっと重い Herbig Ae/Be 星に対しては独自の較正が必要である。


 4.2.輝線星雲の星形成域 M17 


図17.輝線星雲の星形成域 M17 の "1C", "1N", "1S" と 2C 領域の光度関数。 左上:微分光度関数。右上:累積光度関数。下:Jiang et al 2002 の等級分布との 差。

 SIRIUS/IRSF との比較 

 Jiang et al 2002 は SIRIUS/IRSF による観測結果を報告している。それと 較べると、WFCAM/UKIRT は空間分解能が高く、結果として K ≥ 14 で図17 の光度関数が大きくなっている。
 減光マップ 

 各星の減光量を Av = (H-K - 0.2)/0.063 で与えた。高減光の雲が 1C 領域にある星で形成された HIIR を取り囲んでいる様子が分かる。 詳細な解析は今後の論文。



図18.左:M 17 の減光マップ。オメガ型の星雲が明らかである。白=ゼロ減光。 黒= Av 26 mag. 各星の減光は H-K カラーから導き、15× 15 での平均値をマップに用いた。中央の白地は前景星しか検出 されなかった。
右:M 17 中心部の K 画像。図17で用いた領域を図示している。


 4.3.ρ Oph 暗黒雲の H2 放射 


図19.ρ Oph の L1688 暗黒雲 H2 の JKH2画像。 赤い染みは分子流が周囲の濃いガスに衝突して発する H2 放射で ある。青= J, 緑= K バンド放射。画像サイズは 3140×1844 . 差し込みは H2 ショック の拡大図。

 

 図19は ρ Oph 暗黒雲の H2 画像である。最も若いクラス 0 YSO を検出する試みは、近赤外では強い減光のため困難である。しかし、 分子流は NIR でも見える。図19にはそのような分子流の二つを示した。 データを見ると、枠いっぱいに広がった構造は単一の活発な集団が原因となって いるようだ。


 図19の赤い染みは衝突で出来た圧縮層である。その長さに関わらず、分子 流の年齢は 104 程度である。前主系列星の大部分は分子流を出して いないことを考えると、活発な時期は極めて短い。


 4.4.中心バルジの X-線源 


図20.中心バルジのランダム近赤外サンプル(黒点)に重ねたチャンドラ X-線源候補(色点)の CMDs. H < 12.75 と K < 12 で X-線源の数が急 減するのは明るい星に使用した 2MASS サンプルが薄いためである。 領域は Sgr A* を中心とする 2° × 0.8° である。

 4.5.銀河 

 4.6.可視 IPHAS と赤外 GPS データによる分光測光スペクトル分類 


図21.(l, b) = (31, 0) 方向の (i-J, J-H) 図。 この図では遠方の早期型矮星=赤化系列の下の方を、近傍の晩期型矮星= (i-J)= 2.5 付近の塊り、遠方のレッドクランプ星 =赤化系列の上の方から区別できる。黒線=Hewett et al 2006 による赤化 無しの星。

 巨星と矮星の分離 

 図21には GPS データに IPHAS の可視データを加えて作った (31, 0) 方向 の二色図を示す。その目的は、赤化ベクトルと主系列の縮退を解くことである。 二本の系列が見えるが、一本は巨星(上)、もう一本は矮星(下)である。 この分離は図5よりもはっきりしている。と言うのは (i-J) の差は 1.25 mag で、(H-K) より大きいからである。その理由は J-H カラーが 巨星と早期型矮星とで重力効果が大きいからである。
 分類 

 図21の最大の魅力は、分光測光分類である。赤化を受けた矮星系列の星を 赤化ベクトルに沿って戻すと、主系列の A - F 型星か M-型星にぶつかる。 M-型星は暗いので大きな赤化を受けるほどの距離では受からない。  この解釈はブザンソンモデルでも、この系列が A-, G-型矮星から成ることで支持 される。ただし、モデルは i でなくカズンズの I バンドを 用いているがほぼ同じ結果となる。

 主系列 G-, K-型星の等距離集団 

  i-J = 2.5 付近に大きな集団がある。これらは G-, K-型 矮星の集団で、それらの傾きが赤化無しの主系列系列と同じであることは、 これ等の星がほぼ同じ減光を受けていることを示す。この系列の傾きは有意に 赤化ベクトルから傾いており、G-型星と K-型星を区別することが可能である。 減光の大きさは Av = 4 - 5 であり、距離 1 - 2 kpc が示唆される。最も遠い レッドクランプ星は Av = 9 mag, D = 3.8 kpc となる。 で


 付録A:WFCAM サイエンスアーカイブのガイド