天の川銀河の星形成史を遠方の円盤銀河と比較した。進化の初期 4 - 5 Gyr の間に天の川は星形成率 ΣSFR = 0.6 Mo yr-1 kpc-2 という激しい星形成を行い、その結果星間空間に流れと強 い乱流を作り出した。この強い星形成期が厚い円盤の形成に対応し、 z = 1 までに全星質量の約半分を作り出した。これは組成マッチから選びだされた 「MW 前駆銀河」と似た状況である。 | この一致から、厚い円盤の形成は円盤銀河一般の進化段階と考えられる。1 次元速度散布度と星形成強度の間に単純な注入エネルギー - 運動エネルギー 関係を適用すると、天の川の垂直方向速度散布度の時間変化を導き出せる。 この関係から推測される進化は z = 0 -3 の銀河での観測に一致する。強い星 形成活動が生み出す乱流が、厚い円盤、化学的に一様な星間物質を産み出す。 |
天の川の星形成史と遠方円盤銀河の力学進化 この論文は、天の川の星形成史と力学進化を遠方円盤銀河の力学進化と物理 的進化に結び付ける。 Haywood et al. (2013) は厚い円盤の形成は、星質量の増加とその後の MW 進化への影響で重要な時期 であったと述べた。しかし、この時期を遠方銀河で知られている時期と実際に 結びつけることが可能だろうか? |
SFR-M* 系列 高 z の星形成銀河では星質量の増加は SFR-M* 系列 Daddi07, Elbaz07, Reddy12 として現れる。 Snaith et al. (2014a) は元素量マッチ (van Dukkum13)または SFR-M* 面上の軌跡 Patel et al. (2013) で選ばれた天の川型銀河の SFH が天の川の SFH と類似していることを見出し た。では天の川の SFR-M* 関係も同様なのだろうか? 個々星に残る痕跡 高 z 円盤銀河には幅広い線幅を特徴とする。それは強い乱流の現れであり、 星形成活動からのエネルギー注入の結果と考えられる。もし天の川銀河が z = 1 - 4 の時期に星質量のかなりを生み出したなら、その痕跡が個々星の 元素組成と運動に残されている筈である。 |
2.1.SFR - M* 面上の進化銀河の SFR - M* 関係星形成銀河は SFR - M* 面上に尾根線を描く。これらの尾根線は銀河が系統 だった方法で星を溜めて行くことを意味する。図1に見るように、天の川の 成長も他の天の川型銀河と似た道を辿り、z = 1 までに星質量の約半分を産み 出し、その間は星形成率が z < 1 時期の 3 - 4 倍高い。z < 1 では 天の川と他の銀河の経路は驚くほどよく似ているが、 z > 1 では天の川は 他よりもかなり早く成長を開始したようである。しかし、星年齢の不定性を 考えるとこの差が有意かどうか不明である。 確かなこと それらの不定性を考えても次の2点は確かである。 1.SFR-M*面上で MW の位置は z = 0 - 3 の尾根線の上にある。 2.星質量の成長は降着モデルの予想より急速である。 |
![]() 図1.SFR - M* 関係。黒線=MW の SFH( Snaith et al. (2014a) ) 赤菱形は左から z = 4, 3, 2, 1.3, 0.8, 0.3, 0.1 を示す。灰色 は SFH の不定性。 比較のため、SFR-R* 尾根線を入れた。 赤:z=2.(Daddi07)。青:z=2 (Reddy12). シアン:z = 1, マゼンタ: z = 0 (Elbaz07). 青線=天の川型銀河の進化(Dokkum13)。青菱は z = 2, 1.3, 0.8, 0.3, 0.1. 赤線=Naab,Ostriker 2006 モデル。 |
2.2.星形成強度(SFI=star formation intensity)図2=SFI の進化厚い円盤の形成期にはそのスケール長(Bovy12) は短く、 SFR は高いので、 SFI は高かったに違いない。すると若い天の川は放出流を作り出しただろう。 この放出流は質量-メタル量関係、メタル量-動径距離関係、などの諸関係に 大きな影響をもったであろう。大質量星からのエネルギー注入を調べるため、 図2には天の川の星形成強度(SFI)ΣSFR の進化を示した。 現在、スケール長と星年齢の関係を測れる精度のデータはない。そこで z に 対し線形の変化を仮定した。 厚い円盤からの放出流 図2を見ると、厚い円盤形成期の星形成強度が、局所宇宙での観測から決ま る強い放出流発生の境界線より上にある事が判る。この発見は天の川の早期進 化を理解する上で基本的な意義がある:厚い円盤の構造と運動学=大きなスケ ール高と星の大きな速度散布度、は、星間物質内に強い乱流を発生させる星形 成活動の産物である。天の川に見出されたメタル量動径勾配の欠如 Cheng et al. (2012) は強い乱流混合と関係するかも知れない。 外側円盤の [α/Fe] 興味深いことに R > 10 kpc の円盤は内側薄い円盤と異なる性質を有す。 特に著しい点はメタル量の段差である。これは他の銀河 Bresolin13 にも見ら れる。外側円盤はしかし若い厚い円盤と同じ [α/Fe] を示す Haywood et al. (2013). 厚い円盤からの放出流はすべてが銀河系から離れるわけではなく、一部は 外側円盤を薄めるのに用いられるのであろう。 |
![]() 図2.天の川の星形成強度(SFI)ΣSFR と z の関係。ΣSFR は SFH と スケール長 rd = 1.8 kpc(9 - 14 Ga), 3.6 kpc(0 - 9 Ga) から計算した。この二つの時期 は "thick disk", "thin disk" と名付けられている。 青線=この時期分けを採用。赤線= rd は 1.6 から 2.0 kpc へ 線形変化 (13.7 - 10 Ga), 2.0 から 3.6 kpc (10 - 7 Ga), 3.6 kpc(7 - 0 Ga). 灰色部=近くの銀河で爆発的星形成が支配的になる SFI 領域。(Heckman2003) |
![]() 図3.天の川星の一次元速度の時間進化。赤丸=W=垂直方向。青丸=U=動径 方向。 Haywood et al. (2013). 黒線=σ1D2= [ε√(ΣSFR]2/3 + σo,1D2 2.3.速度散布度の進化ガス速度散布度と SFILehnert09, 13 は z = 2 銀河で観測される空間的に分解された幅広(50- 200 km/s) の可視輝線ガスは若い星が作り出す激しい乱流と大規模流による と提案した。彼らはその現象を、ガス速度散布度と SFI の関係として特性付 けた。それは、星間物質へのエネルギー注入(効率 ε) と運動エネル ギーとの単純な関係式で以下のように表される。 σ1D2= [ε√(ΣSFR]2/3 + σo,1D2 ここに、σo,1D =星形成に直接関係しない固有速度散布度。 厚い円盤中の大きな相対速度を持つ分子雲種族から星は誕生し、分子雲の 持っていた速度散布度と厚い空間分布を受け継いだのである。 U, W 散布度の進化 Haywood et al. (2013). は太陽近傍の星速度の解析から W, U 速度成分に対して、図3のように ε = 110 km/s (Mo yr-1 kpc-2)-1/2, σo,1D = 5 - 10 km/s を得た。 U 成分は永年効果の、 W 成分は降着事象による加熱の影響を受けるであろう。 しかし、我々の解析は σ - 年齢関係が初期のものとあまり変わらないこ とを示唆する。 (図2の SFR を上の式で処理すると 図3の黒線になるというのか?星停止期は 10 Ga の窪みか? ) |
![]() 図4.σmean = Hα 線平均速度散布度 対 全 SFR の関係。大青菱=MW の SFR は SFH ( Snaith et al. (14a) ) と σHα,mean2 = [ε√(Σ SFR)]2 + σo,thermal2 は z = 0.1, 0.3, 0.8, 1.3, 2, 3 の値。灰色四角=現在の天の 川 SFR = 1.9±0.4 Mo/yr Chomiuk, Povich 2011 と MW 100 方向の H α 速度の散布度 = 20 - 25 km/s Haffner09 から導いた。 星形成銀河との比較 MW の U, W の変化を図3では解析したが、それでは星形成銀河の全体的傾向 と較べるとどうなのか?星速度分散を測ることは出来ないので、Hα 線幅 を代わりに使い、図4の解析を行った。図4を見ると、天の川銀河の も局所宇宙、遠方銀河の系列と同じ進化をしてきたことが判る。そこで用いた 式とパラメターは σHα,mean2 = [ε√(Σ SFR)]2 + σo,thermal2 ε = 110 km/s (Mo yr-1 kpc-2)-1/2, σo,1D = 18.5 km/s σo,1D は WIM = warm ionized mediun (T=7500 K)の水素原 子熱運動速度 (Haffner09) である。 現在の星形成率 我々のパラメターは現在の星形成率 (Chomiuk, Povich 2011)と Hα 速度散布度 Haffner09 と良く合う。 |
SFI と速度散布度 早期天の川銀河の円盤の厚みが SFI, 総 SFR, ISM の条件に関係する事 が判った。その関係はなぜ円盤が厚く、古い星がメタル量勾配を示さないかを 説明する。 厚い円盤の占める位置 我々の解析はまた、厚い円盤の形成が円盤銀河の進化において占める役割 を明らかにした。それは星形成強度と乱流の関係で、それが遠方銀河での 観測と天の川銀河の進化を結び付ける。 |
遺伝子発現 天の川銀河の化石記録と天の川型銀河の観測は厚い円盤の形成が円盤銀河 進化に遺伝子のように必然的に組み込まれた過程である事を示す。 |