A Study of AGB Stars in LMC Clusters


Lebzelter, Lederer, Cristallo, Straniero, Hinkle
2009 IAU Symp 256, 397 - 402




 アブストラクト 

 LMC 星団は 1.5 - 2 Mo 星の最終進化段階の研究に最適である。ここでは AGB に沿ったドレッジアップの結果を報告する。  星団 AGB 星の表面組成を高分散近赤外スペクトルから求めた。 AGB に沿って C/O と 12C/13C が進化する様子を初めて確認した。


 2.対象の選択 

 年齢 1.4 - 1.9 Gyr, Mto = 1.4 - 1.8 Mo の星団を狙う。1.4 Mo は第3 ドレッジアップ発生の下限に近い。1.8 Mo は AGB に十分な数の星が滞在して いるという条件で決まった。スタートとして NGC 1846 と NGC 1978 を選んだ。 どちらも Lloyd Evans 1983 と Frogel et al 1990 により AGB 星の同定が 済んでいる。さらに、どちらにも炭素星が存在している。  メタル量は共に [Fe/H] = -0.4, Grocholski et al 2006, Mucciarelli et al 2007, である。NGC 1846 の AGB 星質量は 1.8 Mo, Lebzelter, Wood 2007, であり、 色等級図から NGC 1978 AGB 星は 1.4 - 1.5 Mo であろう。


 3.観測 

 観測はジェミニサウスの Phoenix 分光器で H バンド CO 3-0 バンドヘッド と OH ラインスペクトルを撮った。幾つかの星は K バンドで 12CO, 13CO を含むラインを観測した。  フィットした合成スペクトルは COMARCS コードで計算した。炭素星のモデルは 困難で、組成決定の不定性が大きい。詳細は Lebzelter et al. (2008) を見よ。


 4.結果 

 4.1.NGC 1846 


図1.NGC 1846 AGB 星の C/O - 12CO/13CO 関係。追加 混合のない場合とある場合のモデル線を重ねた。黒丸=観測星。実線=基準 モデル。点線= Tlim 35 106 K モデル。 破線= Tlim 40 106 K モデル。

 酸素過多 AGB 星 

 酸素過多 AGB 星では C/O = 0.2 - 0.65、 12CO/13CO = 12 - 60 であった。この二つは共にドレッジアップ指標であり、相関も良い。 実際、最も明るい星が最高値、最も暗い星が最低値をとる。しかし、その間の光度 では関係は単純ではない。これは、熱パルスによる光度変化のため、CMD上の 星位置が動くためであろう。

 炭素星 

 炭素星では二つにたいしてのみ値が得られた。C/O = 1.8 は尤もらしいが、 12CO/13CO = 60 で、最も明るい酸素過多 AGB 星と同 じくらいである。FRANEC 進化コード (Chieffi et al 1998) と比較すると、 初期酸素量を +0.2 dex の超過にすると酸素超過 AGB 星の組成比変化を再現する ことが判った。これは初期に C/O = 0.2 とすることに対応し、我々の観測と合致 する。一方、炭素星の 12CO/13CO はこのモデルでは説明 できない。

 追加混合 

 この矛盾を解決する最も単純な仮説は、対流層底部と高温水素燃焼層の中間の 輻射層を越える混合過程の発生である。これは追加混合と呼ばれる。その結果 炭素星対流層の物質が 30 - 40 106 K にさらされる。その結果 12C の一部が 13C に変換される。ただし、 14N までは行かない。図1の点線はそのモデル例である。

 フッ素 

  AGB に沿ったフッ素の変化を HF ラインで追う試みも行った。

 4.2.NGC 1978 


図2.NGC 1978 AGB 星の C/O - 12CO/13CO 関係。 ドレッジアップがないことが明らかである。炭素星モデルの不完全さにより 炭素星のエラーバーは大きい。

 酸素過多 AGB 星 

 この星団のメタル量は NGC 1846 と近いが、こちらの方が高齢である。従って、 AGB 星質量は小さく、第3ドレッジアップ発生の下限に近い。酸素過多 AGB 星 を5個解析した結果を図2に示す。 NGC 1846 と異なり、 C/O = 0.2, 12C/13C = 12 付近に固まっている。ドレッジアップ が進行している兆候は見えない。

 炭素星  

 ここでも二つの炭素星を解析した。 C/O = 1.3 と 1.35 が得られた。NGC 1846 の場合と異なり、12C/13C は追加混合なしのモデルで よくフィットできる。

 説明困難 

 図2に NGC 1978 AGB 星の結果を示す。酸素超過星と炭素星との間の大きな ギャップの説明は困難である。


 5.結論 

 星団の AGB 星が進化モデルの検討に適していることが判った。追加混合の 必要性が明白に示された。