若い星団 IC 348 と近傍制御領域の高精度 JHK 画像を得た。星団と制御領域
の比較から、星団は 380 星を含むことが分かった。星団領域で観測される星の
大部分は星団星である。星団内の星密度は通常の散開星団に比べ著しく高く、
NGC2024 や トラペジウム星団のような若い埋もれた星団に特有な値である。
全体として、 IC 348 の表面密度は中心集中型で、r = [0.1, 1] pc では
r-1 の変化を示す。星の半数は r < 0.5 pc 内に存在する。
その外側には 10 - 20 星から成る直径 0.1 - 0.2 pc の小集団が 8 つ見つか
った。K-バンド 光度関数 (KLF) は 8≤ mK ≤11 mag で
mK0.4 の形をとる。このべき乗指数はオリオンの若い
4 星団で得られた 0.37 - 0.38 に近い。mK > 11 mag では
KLF はべき乗型から外れ、限界等級に近い mK ∼ 14 mag で
低下に転じる。 t < 107 yr の PMS 星を含む若い星団の KLF 進化モデルを 作った。非常に若い星団の KLF は年齢と共に系統的に進化することが分かった。 | IMF 一定を仮定すると、KLF は 星形成期間 tSF 年齢 t に影響 される。一般には、KLF は年齢と共に幅広になっていく。tSF << t の時には、星の年齢は同一と見做せ、 KLF の傾きは t と共に変化 する。一方、 tSF ∼ t の場合の勾配はほぼ一定に留まる。 多数の埋もれた星団の KLF とモデル KLF の傾きは大体一致し、一様で連続的な 星形成が埋もれた星団の星形成史の特徴であることを示す。IC 348 の観測を 我々のモデルと比較して、IC 348 の星形成は 5 - 7 106 yr 継続 し、全質量範囲での星形成率も個々の質量に関する星形成率も星団年齢の期間 を通じ一定であることが分かった。さらに、質量関数もフィールド星の質量 関数と水素燃焼質量までは同じである。さらに、質量関数も、星団サイズも、 星密度も似ているに拘わらず、IC 348 に比べより若いトラペジウムは星形成 率が 20 倍高かった。 IC 348 星の 20 % には赤外超過がある。星団年齢と 合わせて考えると、暗い (proto-planetary) 円盤期の寿命は 2 - 3 106 yr で、以前の評価と一致する。 |
Salpeter (1955) は太陽近傍星の質量関数を進化効果で補正し、銀河系の星形成率が過去一定と の仮定で 1 - 10 Mo の星に対し、IMF &gzi;(logM) ∼ M-1.35 となることを示した。さらに、Scalo 1978, 1986 は質量関数を低質量側に拡 張し、 IMF のピークが 0.2 - 0.3 Mo にあることを示した。しかし、この初期 質量関数が宇宙年齢、環境に依らず一定かどうかは観測で確認する必要があり、 最適な天体は若い星団である。 | ここでは、近傍の星団 IC 348 の赤外撮像の結果を報告する。 IC 348 は 太陽から 320 pc の距離にあるペルセウス分子雲中の比較的若い星団である。 可視では約40星から成り、最も明るい星は B5V 星 BD+31°643 である。 反射星雲や分子ガスからの観測でこの星団はまだ母分子雲内に埋まっている ことが分かった。したがって、星団星のかなりの部分は可視観測では見えてい ない可能性がある。 |
SQID 観測は SQID/KPNO 1.3 m 鏡で行われた。SQID は PtSi 256x256 アレイで、 ダイクロイックミラーにより J, H, K, L の同時観測が可能である。今回は J, H, K のみの観測を行った。一回の視野は 5.5'x5.5' で分解能は 1.36" /pix である。 モザイク 24 SQID フレームから全体で 385 arcmin2 のフィールドを撮像 した。フィールド中心は LkHα 90 (RA=3h41m13.2s, 32°00'52") である。 |
制御領域 CO サーベイとパロマーアトラスを調べて、暗黒雲のなさそうな 制御領域を12箇所選んだ。それらは星団中心から 1° 北の 2x3 モザイク と 1° 東の 3x2 モザイクである。 限界等級 5σ 検出限界は J16.5, H15.5, K14.5 mag である。 |
![]() 図2.IC 348 の表面星密度等高マップ。(0,0) = (3h41m13.2s, 32°00'52") 最外側点線=フィールド星レベル。その先の等高線値はその整数倍。従って 最外側実線=フィールド星密度の3倍。 始めに IC 348 フィールドでの検出数は J < 17 で 669 星、H < 16 で 657 星、 K < 15 で 552 星である。ほぼ同面積の制御領域では、J < 17 で 466 星、 H < 16 で 373 星、K < 15 で 215 星である。IC 348 領域内に予想さ れるフィールド星の数を考える際、星団領域での減光による影響を考慮しなけ ればいけない。減光量はあとで述べるが、フィールドと星団との平均カラーか ら決める。その結果、フィールド星は J で 1.39 mag, H 0.80 mag, K 0.50 mag 人工的に暗くし、完全度限界より明るい星の数を数えた結果、IC 348 領域では J < 16 で 377 星、H < 15 で 366 星、K < 14 で 345 星 の超過 を見出した。黒丸=赤外超過星。 |
![]() 表1.星団外側部の小集団 4.1.天体の空間分布星計数観測領域を大きさ 1.5'x1.5' で 0.75' 間隔に並ぶ、重複する正方形枠で覆う。 これにより、ナイキスト空間サンプリングが実現する。こうして作った表面 星密度マップを図2に示す。 小集団 図には多くの小構造が見える。5 σ レベル で9つの小集団があるので、それらを表1にまとめた。個々の集団は 3 σ レベル等高線で囲まれた領域を持つ。各領域内の星団星数はフィールド星の寄与を 差し引いてある。星団中央にある小集団 IC348a (2.8, -1) には全体の約半数の 星 160 個が半径 0.5 pc 内に属している。その外側にある 8 個の 小集団は 5 - 20 星の塊りで半径 0.1 - 0.2 pc と小さい。 |
表面密度 IC 348 の全体的密度は r < 1 pc で 105 stars pc-2 である。 0.1 pc 以内に限定すると 955 stars pc-2 に上昇する。表面密度 分布は大体 r,sup>-1 に比例する。 半質量半径内の平均体積密度 プレアデスでは半質量半径内の平均密度は、星の平均質量を 0.6 Mo として、 3 Mo pc-3 である。これが IC 348 になると 220 Mo pc-3 となる。埋もれた星団と散開星団とのこの大きな差は、若い星団の力学進化に 対する予測の通りである。これに関し、以下の点を注意しておく。IC 348 の 恒星密度は水素分子で均すと 5 103 cm-3 となる。 この値は濃い分子雲コア密度に比べ、ファクター 2 - 4 倍低く、星形成効率 として 26 - 50 % に対応する。 |
半径 0.1 pc では? 半質量半径 0.47 pc から 0.1 pc まで縮めると, 密度は (2.5-8.2) 10 3 Mo pc-3 = (5-16) 4 cm-3 となる。 外側小集団の密度 外側小集団の表面密度も 70 - 270 pc,sup>-2 と、やはり大きい。 しかし、それらの密度は星団全体の密度とあまり変わらない。それらは 全体的に外側に薄まっていく密度分布の中に生じた統計的ふらつきとして解釈 可能である。 |
![]() 図3a.IC 348 制御領域の JHK 二色図。実線=赤化なしの主系列星。 太い破線=巨星。 短破線=通常星の赤化帯。バツ=赤化ベクトル上、等間隔Avを示す。 二つの二色図 IC 348 星団方向に K で検出した 552 星の内 500 星が J, H でも見えた。 図3a には 57 背景星(制御領域のこと?)、3b には 342 星団星の二色図を 示す。二つの見かけは違う。制御領域は赤化なし系列付近に集まっているが、 星団星は二色図全体に広がっている。星団星が集中している当たりの減光は Av = 4.5 mag である。しかし、個々の星により減光量は様々である。 |
![]() 図3b.IC 348 の JHK 二色図。実線=赤化なしの主系列星。 太い破線=巨星。 短破線=通常星の赤化帯。バツ=赤化ベクトル上、等間隔Avを示す。 超過星の分布 主系列減光帯の右側は赤外超過天体の領域である。この領域には 58 星= 17 % の星が属する。フィールド星の混入を考慮するとこの割合は 21 % と なる。 図2にはこれら赤外超過星を黒丸で示した。超過星は星団全領域に亘って 存在している。中心集団ではその割合が 12 % であるが、その外側では 21 % で却って比率としては高い。 |
図4=光度関数 図4に光度関数を示す。図4b が星団のみの K-光度関数である。 (もしかして、星団星に対する 減光効果を無視して作ってる? ) それは K = 15 でピークに達している。しかし完全度限界は K = 14 なので、 このピークは検出効果によるものである。 べき乗光度関数 光度関数は K < 11 ではべき乗則でフィットできる。K = [6, 11] での 最小二乗フィットの結果はべき乗指数 0.4 であった。べき乗則からのズレが 始まるのは完全性限界より数等上である。 J-光度関数 J-バンドに対しても同様の解析が行われた。結果は K-バンドと同様で、 J = 13 まで上昇し、その後平坦化する。 |
![]() 図4.(a) 斜線=IC 348 星団方向の K-バンド光度関数。混入星も含む。 黒=制御領域。 (b) 差し引いた光度関数。破線=最小二乗フィット。 |
勾配 Lada et al 1991 は K-光度関数の勾配が オリオン B の3星団 NGC 2024, NGC 2068, NGC 2071 で 0.37 - 0.38 であることを示した。トラペジウム星団 (Zinnecker et al 1993) も 0.38 である。IC 348 の 0.4 に近い。 平坦化 IC 348 では K = 11.5 で平坦化が始まる。NGC 2264 では K = 13.0 である。 前主系列星が急勾配の原因 この勾配 0.38 は ZAMS に期待される光度関数より急である。Lada 1991 は その原因が星団進化にあると予想した。つまり、大部分の星、特に低質量星、が 前主系列期にあるためと考えた。低質量星では PMS 期に ZAMS よりずっと 明るい。一方、高質量星の PMS 光度は ZAMS 光度に近い。その結果、 若い星団では、高光度星に比べて中間光度星の数が超過し、高ー中光度域で 光度関数の勾配が急になる。 |
PMS 星団モデルの傾き=0.38 ! 残念ながら、PMS 星の質量光度関係は一定でないので、Lada の仮説を直接 証明することは難しい。 Simon et al 1992 は Taurus 分子雲中の 1 Myr PMS 星に対して M-K 関係を求めた。 (Cohen,Kuhi 1979 の PMS 進化計算 に基づいているからあくまでモデルだよ。) Lada 1994 はこの結果に Scalo 1978 の べき乗型 IMF を組み合わせて、 PMS 星団の K-LF を求めた。その結果は傾き 0.38 で、観測との見事な一致が 得られた。 1 Myr より古い PMS 星団は? オリオン星団の年齢は 1 Myr 付近なので、1 Myr PMS 星の M-K 関係がオリ オン星団の K-LF を説明したのは自然である。しかし、 IC 348 と NGC 2264 の年齢は 5 - 20 Myr と 5 Myr である。その年齢の M-K 関係は 1 Myr とは 違うのに、なぜ同じ勾配になるのであろうか?ちなみに ZAMS ではこの傾き値 は 0.26 である。 Mbol - LF モデル Zinnecker et al 1993, Fletcher, Stahler 1994a,b は現実的な IMF と PMS 進化モデルを使い、PMS 星団の進化を追った。Fletcher, Stahler 1994a,b は星形成率が年齢期間一定の仮定の下で t = 0.01 - 10 Myr の星団の Mbol-LF を導いた。彼らは t = 1 Myr の ρ Oph 星団の Mbol-LF がモデルに合致する ことを見出した。一方、Zinnecker et al 1993 は t = 0.1 - 2 Myr 星団に対し K-LF を求めた。ただし、星形成は t = 0 で全て同時に起きると仮定した。 彼らのモデル K-LF は著しい時間変動を示し、観測に見られる安定した傾きを 説明できない。 |
5.2.1.質量関数計算モデルK-LF dN/dK は以下のように分解される。 dN/dK = (dN/dlogM)(dlogM/dK) (式に時間が含まれていない。) Miller, Scalo (1979) IMF を採用し、 dN/dlogM = C0 exp[-C1(logM-C2) 2] ここに、C0 = 106.0, C1 = 1.09, C2 = -1.02 である。 PMS 進化モデル M ≤ 2.5 Mo の PMS 進化モデルに D'Antona, Mazzitelli 1994 を採用し た。PMS 進化経路は (L, Teff) を与え、 Teff からスペクトル型を決め、 スペクトル型から K-バンド輻射補正を得る。赤外超過は考慮しない。つまり PMS 星は円盤を持たないとした。IC 348 では 80 % の星が JHK 二色図上で 超過放射アリの経路に乗っていないので、これは妥当な仮定と言える。 |
5.2.2.連星の影響IC 348 で観測した星の 40 % は未分解の連星であろう。その結果観測される 光度が上がる。しかし、大抵伴星の質量は小さくその効果は小さい。一方、 暗い伴星を無視すると、純粋に孤立星だけからの光度関数に対しては暗い星を 過小評価することになる。しかし、我々はフィールド星の IMF を採用しており、 これは孤立星の IMF ではなく、連星の伴星を無視した観測に対応している。 したがって、伴星を無視すること自体の影響は小さい。 |
![]() 図5a.K-LF の観測とモデルの比較。(a) t = 1, 5, 10 Myr 一斉誕生モデルと IC 348 の比較。 縦軸は dlogN/dK ではないか? 5.2.3.一斉誕生モデル全ての星が一斉に誕生線(?)上に現れ、PMS 進化を開始する。図5a には モデルと IC348 を比較した。m-M = 7.5 を仮定している。モデル K-LF は時間 と共に大きく変動する。最も大きな違いは、 1 Myr 星団でピーク位置光度が 高く、LF の巾が狭いことである。これは、低質量星が ZAMS に進化していくに 連れ、光度が低下するからである。 K-LF にフィットした傾きを表2に示す。5.2.4.連続誕生モデル図5b に連続誕生モデルを示す。 K-LF の形は時間が経ってもあまり変わら ない。傾きは表2に示すように 0.36 - 0.40 である。 |
![]() 図5b.K-LF の観測とモデルの比較。(b) t = 3, 5, 7, 10 Myr 連続星形成モデルと IC 348 の比較。m−M = 7.5 を仮定。 縦軸は dlogN/dK ではないか? ![]() 表2.K-LF の勾配 |
![]() 図6.(a) 連続誕生モデル t = 7 Myr と IC 348 の比較。 5.3.1.IC 348K-LF図6a に連続誕生モデルと IC 348 の K-LF を比べた。しかし、 モデルには減光が考慮されていない。AK = 0.5 の減光を 加えたモデルを比較したのが図6b である。微分減光の効果は入れていない。 J-LF K-LF との比較も同様に行ったが、K-LF ほど良い結果は得られなかった。 これはおそらく微分減光の影響が K-バンドより J-バンドで大きいためであろ う。 星形成期間 IC 348 で星形成が長期間継続していることには他の証拠もある。 赤外超過はクラス II 天体の円盤放射が原因と考えられるが、円盤の寿命は 3 Myr 程度である。IC 348 の 20 % から赤外超過が検出されることは、 残りの天体はこの時期を既に通過したことを意味する。さらに、 Herbig 1954 は Hα 星を発見し、McCaughrean et al 1994 は H 分子のジェットを 発見した。これらは最近の星形成活動を意味する。逆に古い星形成の証拠は 少ない。いくつかの A-型星が ZAMS 上にあり、星団の "contraction" age として 6 Myr を与えている。 |
![]() 図6.(b) 連続誕生モデル t = 5 Myr モデル に減光を加え, IC 348 と比較。 5.3.2.星形成率は一様か?赤外超過星の一様分布の意味星の半数は中央集団に属する。しかし、赤外超過星は星団全面に広がって いる。これは何を意味するのか?中心集団は星団年齢 5 - 7 Myr より短い期間 に激しく集中的な星形成活動で作られたのか? 2成分モデル 1Myr 続いた激しい星形成+一様星形成モデルを考える。この星形成 爆発がいつ起きたをいくつか採用してモデルを作った。 しかし、あまり合わなかった。 |
5.3.3.トラペジウムK-LF図7にはトラペジウムと一斉誕生 t = 1 Myr モデルの K-LF を比較した。 フィットは良好である。 トラペジウム LF のピークと反転は非常にはっきりしている。 褐色矮星 進化最初期に低質量 MPS 星のエネルギー源は収縮と重水素燃焼であり、 それは褐色矮星でも同様である。このため、水素燃焼開始前の低質量星と 褐色矮星の光度はファクター3程度しか変わらない。したがって、 10 Myr より若い星団では褐色矮星候補星を見つけることが容易である。 5.3.4.星団質量と星形成率質量関数を M = [0.1, 20 Mo] で積分し、 IC 348 の恒星質量 = 208 Mo を得る。それから得られる星形成率は 4 10-5 M/yr だが、 トラペジウムとの比較のため、中央 0.34 pc-2 に限ると、 1.5 10-5 M/yr となる。これに対し、トラペジウムでは 3 10-4 M/yr である。この大きな差は何に由来するか不明である。5.4.円盤の寿命Lada, Adams 1992 は Taurus 分子雲において、円盤を有するクラスII 天体 の半分しか赤外超過を持たないことを示した。すると IC 348 のクラス II 天体の割合は 0.42 となる。したがってその寿命は 0.42 t = 2 - 3 Myr である。 |
![]() 図7.トラペジウムの K-LF と一斉誕生 t = 1 Myr モデルの比較。DM = 8. |