太陽近傍にあり、元素組成が良く決まっている星を調べた。[α/Fe]- 年齢面上に二つのはっきり分かれる分布を示す。それらは厚い円盤と薄い円盤 の種族である。[Fe/H] および [α/Fe] と年齢とのきつい相関が厚い円 盤星に認められる。これはよく混ぜられた星間ガスこの種族が 4 - 5 Gyr か けて形成、初期には爆発的星形成その後はより静かに、されたことを意味する。 厚い円盤星の最も若いグループは円盤種族と同じくらいの小さなスケール高を 示す。この二つから導かれる自然な結論は、厚い円盤星には垂直方向のメタル量 勾配があることである。我々の考えでは、厚い円盤の最も若い星たちは、8 Gyr 昔に、内側薄い円盤の形成が始まる初期条件を用意したのである。その時の [Fe/H] は (-0.1, +0.1) の範囲であり、[α/Fe] = 0.1 dex であった。 この考えはまた、薄い円盤のメタル量が R = 7 - 10 kpc で階段状に変化する 事実と、厚い円盤が R < 10 kpc に限られる事との一致を説明する。 | 我々の考えでは、外側薄い円盤は厚い円盤の影響が及ぶ半径の外側で発達し、 独立な構造を持つのであるが、同時に、厚い円盤が形成される際に放出された ガスによって始原ガスが汚染された結果高い [α/Fe] を持つようになった。 太陽近傍の低メタル薄い円盤星 ([Fe/H] < -0.4) はそれらが外側円盤で生 まれたと考えると最もうまく説明されるのだが、それらの年齢は最も若い厚い円 盤星の 9 - 10 Gyr と同じである。これは、外側薄い円盤が形成し始めた時に、 厚い円盤はまだ内側円盤で星形成を継続していたことを意味する。 このように、内側厚い+薄い円盤は異なるスケール高を持つ二つの成分からなり、 その結合は内側から外側への形成過程を示すかのように見えるのだが、薄い円盤 自身は多分その最初の星を外側部で作った。その上、指摘したいのは、厚い円 盤のきつい [Fe/H], {α/Fe] − 年齢関係を考えると、内側から外側形成 モデルは厚い円盤において α 元素とメタル量の銀河系中心距離による 勾配を生む。しかしこれは観測されていない。最後に、我々の結果からは動径 方向の星の移住による太陽近傍星の汚染は考えられない。 |
厚い円盤と薄い円盤の境界をどこに引くか、又はそもそも境界が存在するのか という問題に関して、未だに結論が出ていない。 この論文では太陽近傍の FGK 星の性質を調べた。その結果、厚い円盤内での 星形成は 4 - 5 Gyr に渡る、単調で一定の速さで進んだ化学的性質の変化と 見なせることが分かった。 |
我々の考えでは、厚い円盤形成の過程が内側薄い円盤形成の初期条件を用意
したのである。一方で、外側円盤はそれとは独立に、しかしより長い期間を
掛けて出来上がった。
( 外側円盤の「より長期」が内側 薄い円盤を指すのか、厚い円盤を指すのか、後でチェック) |
[α/Fe]-[Fe/H] 分類 Adibekyan et al. (2012) は惑星探査のために視線速度観測を行った。それは 1111 の FGK 星で、分解能 110,000 である。55 % の星で S/N > 200 であった。 星の 95 % は 75 pc 以内にあり、赤化補正は行われていない。サンプル星 には (Teff, [Fe/H], [α/Fe] が与えられている。視差は van Leeuwen07 から得た。UVW 速度は Schonrich10 から得た。 図1にサンプルの [α/Fe]-[Fe/H] 図を示す。上系列は厚い円盤に、下 系列を薄い円盤と定める。ただ、この方法だと、厚い円盤系列の最も高メタル の星をどう分類するかという問題が残る。注意しておくが、左下の白二重丸は 逆回転している。黒二重丸の二つは非常に大きな U 成分を持ち、かつ年齢も 若い。これら4星はいわゆる降着ハロー星かも知れない。 年齢 星の年齢は Jorgensen05 のベイズ法でYunsei-Yale 等時線を使って決めた。 大気パラメターは Adibekyan12 から採った。 |
![]() 図1. Adibekyan et al. (2012) サンプルの [α/Fe] - [Fe/H] 分布。ここに α は Mg, Si, Ti 組成の平均とする。厚い円盤星と薄い円盤星の区別は図上実線 の上か下かで決めた。二重白丸=HIP74234 と HIP100568. 二重黒丸=HIP54641, HIP57360. |
2.1.大気パラメターによる年齢不定性個々星のランダムエラーAdibekyan et al. (2012) のスぺくトル解析から導いたパラメタはの形式誤差は Teff で 70K, [Fe/H] で 0.05, [α/Fe] で 0.1 dex である。これは小さすぎるので Teff で 50K, [Fe/H] で 0.1, [α/Fe] で 0.1 dex, 絶対等級で 0.1 mag とすると、 年齢に及ぼす影響は、年齢 5 Gyr 星では 0.8 Gyr, 9 Gyr より老齢の星では 1.5 Gyr となる。 年齢決定法の差の影響 個々星のランダム誤差と別に、パラメター決定の0 系統的誤差が年齢に及ぼす効果は重要である。 図2では Teff 決定法に依る年齢の違いを比べた。 70 % の星で年齢差は 1 Gyr 以下で、50 % の星で 0.5 Gyr 以下である。 2.2.方法と恒星物理による年齢不定性図3には使用する等高線セットと最適値決定の基準の違いが及ぼす影響を 示す。χ2 年齢の方が大きな年齢を与える傾向がある。 年齢 13 Gyr でその差は 1.5 Gyr に達する。また Dartmouth 等時線を 使うと古い年齢を与える。 一般的に言って、この研究での年齢は絶対値で 1 Gyr 相対的には 0.5 Gyr の不定性を含むと考えられる。 |
![]() 図2.上:Adibekian12 の Teff とV-K から決めた Teff(Casagrande10) との差。 赤線=平均線。青線=散らばり。直線=近似。 下:二つの Teff からの年齢の差。横軸はAdibekyan12 年齢。 |
[α/Fe] の変化を大雑把に見る 詳細な検討の前に [α/Fe] の年齢による変化を、簡単に図4のHR図を 見ることで調べてみよう。 図4上段 [α/Fe] < 0.0 では大部分の天体が 3 Gyr より若い。一方、 [α/Fe] = 0.01 - 0.03 の区間では 3 - 6 Gyr に. そして [α/Fe] > 0.06 dex は 5 - 7 Gyr となる。 (ただし、等時線のパラメターは上の 記述と一致していないが。後の記述から[Fe/H} >-1 でないか? ) 図4中段 中段には [Fe/H] = [-0.4, -0.1] の星を並べた。このメタル量 範囲では [α/Fe] < 0.0 の星はほとんどない。 [α/Fe] = [0.0, 0.05] の星は年齢 4 - 5 Gyr に多い。 [α/Fe] = [0.05, 0.1] の星は年齢 5 - 10 Gyr になる。 中段の最後であるが、 [α/Fe] > 0.1 の星で 10 Gyr 等時線 付近にある星はほとんどない。 図4下段 [Fe/H] = [-0.6, -0.4] の星は [α/Fe] = [0.05, 0.12] では 5 - 8 Gyr に、[α/Fe] > 0.18 では > 10 Gyr に集まる。明らかに α 元素組成と様々なメタル量区間内での年齢の間には定性的な相関 がある。 |
![]() 図.左の記述を図示した。 図5 同じ作業を厚い円盤星(図1の分離線の上の星)に対して繰り返す。 図5の上段はメタル量範囲を変えた HR 図である。 図5の下段は[α/Fe] 範囲を変えた HR 図である。 興味深いのは、メタル量と α 量の変化は最も高メタルの星は 年齢 7 - 8 Gyr に集中し、 [α/Fe] = 0.15, [Fe/H] = -0.15 付近になると 10 Gyr に、さらに [α/Fe] > 0.25 になると 11 - 13 Gyr になっていく。これらの結果は、厚い円盤系列星には 年齢、[α/Fe], [Fe/H] 間に相関があることを示す。 厚い円盤系列星は厚い円盤星か? では、厚い円盤系列星は実際に厚い円盤星か?という疑問がわく。 この問題は後に調べる。 |
![]() 図6.上:Mv < 4.75 のサンプル星全ての [α/Fe] - 年齢関係。 (K 型でも太陽より明るい? ) 白丸=α組成が高く(α enhancement")厚い円盤系列に属するが 年齢は薄い円盤のような星。斜め実線=境界線。 ("α enhancement" は図1の 分類と異なる意味で使っているらしいが意味不明。 ) 下:同じ星だが年齢で色分け。 年齢-[α/Fe] 関係 星種族を定義するスタートは年齢と[α/Fe] のような他の特性の関係を 調べることである。図6の上は時間と共に[α/Fe] が下がる関係を示す。 面白いのはその減少率が年齢 8 Gyr 付近で変わることである。 幾つかの星が、[α/Fe]-[Fe/H] 図では厚い円盤系列に乗るのに関らず、 厚い円盤系列星の年齢-[α/Fe] 関係の上にずれている。理由は分からない。 年齢-[α/Fe] 関係のきつさ 注意したいのは、薄い円盤(年齢<8 Gyr)の一部と我々が見なす星の 年齢-[α/Fe] 関係がいかにきついかということである。薄い円盤の星で は, [α/Fe] の散布度は 0.04 dex 以下である。さらに驚くべきことに、 古い星の年齢を定める困難さに関わらず、厚い円盤(年齢>8Gyr)の星で さえもきつい年齢-[α/Fe] 関係を維持したことである。図6の下段では 絶対等級をカラーで表している。図の分布は非常に暗い星によるバイアスが生 じていないことを示している。 厚い円盤と薄い円盤の定義 年齢-[α/Fe] 関係は、厚い円盤と薄い円盤種族が性質の異なる二つの 星形成期に対応することを示す。そして、これら二つの期間は年齢 8 Gyr の 時点で奇麗に分かれる。こうして、以降我々はこれら二つの期間に形成された 星をそれぞれ厚い、薄い円盤種族と呼ぶ。 |
![]() 図7.上:白丸=図1の境界線より上、赤丸=境界線より下という基準の 厚い円盤「系列」、薄い円盤「系列」。 下:メタル量で色付け。 図7=再配置の様子 図7には図1の境界線で仕分けされた赤丸=厚い円盤系列星と白丸=薄い 円盤系列星が色々な関係図でどう再配置されるかを示す。赤白の仕切りは 前項で決めた 8 Gyr の前後とは異なることを注意する。 (年齢で定義なら赤白もそっちを使 えばいいのに。どうして図1かな?) 図7上段=[α/Fe]-年齢図と「系列」 図7上段が示すのは、[α/Fe]-年齢図で「系列」がどう分布するかである。 (1)薄い円盤「系列」(=白丸)の大部分は薄い円盤種族(=8 Gyr より若い) と重なる。しかし、いくつかは年齢=[8,10] Gyr となり、厚い円盤種族に属する。 d[α/H]/dt 勾配は全 0 - 10 Gyr 期間の間変わらない。(折れ曲がりなし) (2)厚い円盤「系列」は大部分が厚い円盤種族である。しかし幾つかは年齢が 8Gyr より若く、薄い円盤種族である。それら薄い円盤種族星の半数は薄い円盤 種族の特性を持ち、厚い円盤「系列」となったのは [α/Fe]>0.05 dex における境界の勝手さに起因する。他の半分は平均以上の[α/Fe] 比を持ち、 運動学からも厚い円盤に近い。 図7下段=[α/Fe]-年齢図とメタル量 図7下段では、[α/Fe]-年齢図で「系列」がどう分布するかを示す。 図の特徴として、 i) 厚い円盤星では年齢 13 Gyr から 8 Gyr にかけてメタル量が進化する。 ii) 薄い円盤星領域での下側輪郭は高メタル星で占められ、上側輪郭は主に 薄い円盤種族(年齢 8 Gyr 以下)の低メタル星で占められる。 |
図8=[α/Fe]-年齢図 逆に[α/Fe]-年齢図上の二つのグループが [α/Fe]-[Fe/H] 図 ではどう分布するかを見ると面白い。図8の上枠=[α/Fe]-年齢図では、 幾分勝手に、厚い円盤種族と薄い円盤種族を分離した。黄色丸は高齢で低 メタルの薄い円盤星で、下枠=[α/Fe]-[Fe/H]図では厚い円盤星と混ざ り合っている。 結論1: 年齢の不定性、[α/Fe]-年齢図上の分離線のいい加減、そして低メタル で高齢の薄い円盤星の存在を別に考えることにすると、[α/Fe]-年齢図上 の分類は[α/Fe]-[Fe/H]図での明瞭な分離に対応すると言える。 結論2 低メタルで高齢の薄い円盤星は、[α/Fe]-年齢図で厚い円盤星の分布が 薄い円盤星により汚染を被る原因となっている。Haywood08 は [Fe/H]<-0.3 の薄い円盤星は年齢の如何を問わず、 2 Gyr から 8 Gyr 超えまで、外側円盤 起源の星であるという提案をした。それらの星は、[α/Fe]-年齢図で類似 な分布を示すのだが厚い円盤星とは関係がなく、また、薄い円盤の若い (< 8Gyr) 星の前駆星でもない。 外側円盤から? Haywood09 が太陽近傍星で示し、 Bovy12b がより広い範囲の星で示したよう に、低メタルで高齢の薄い円盤星の幾つかは銀河面軌道の遠銀点が 9 kpc より 遠方となる。このような低メタル星は太陽近傍銀河半径では全体の数 % しか ないが、 R > 9 - 10 kpc では円盤星の土居部分を占める。速度の U 成分 の散布度を 50 km/s とすると、平均半径の周りを 1 - 2 kpc うろつくことが 判る。この値は外側円盤から幾つかの天体が太陽近傍に侵入してくるのを十分 に容認するものである。 |
![]() 図8.上:[α/Fe]-年齢図。黒実線=厚い円盤種族と薄い円盤種族の境界 線。黄色点=[α/Fe]-[Fe/H]図で薄い円盤系列に属し年齢が決定できた 星の中で最も高齢のグループ。これらの星は [α/Fe]-年齢図では厚い円盤 の分布の延長に位置する。 下:同じ[α/Fe]-[Fe/H] 図を上図の分類で示す。二つの「系列」がどう分 かれるかが判る。 |
図9=年齢-メタル量関係 年齢-メタル量関係(図9)は厚い円盤の方が薄い円盤よりずっときつい。その 上、厚い円盤のメタル量増加率= 0.15 dex Gyr-1 は薄い円盤のそ れ= 0.025 dex Gyr-1 よりずっと大きい。これは最近 8 Gyr で Fe の生産率がファクター 5 - 6 低下したことを意味する。さらに、 [α/Fe]-年齢関係(図8) と違い、年齢-メタル量関係 (図9) では低メタ ル薄い円盤星は厚い円盤星と縮退しない。年齢-メタル量関係 (図9)で低メタ ル薄い円盤星が判別されると、厚い円盤星の年齢-メタル量関係は一層はっきり する。 離れた位置の4星 厚い円盤星の分布では、離れた4星が気になる。二星の特徴は通常の厚い円 盤星とおなじである。なぜそれらの星が低メタルなのにこのように若い(8-10 Gyr) のか我々には分からない。二重青丸の他の二星は HIP 54641 と HIP 57360 で図1を見ると [α/Fe] はやや低目である。その U = +84, +100 km/s は非常に大きい。これらの性質からこの二星は降着してきたのではないか? 内側・外側円盤の境界 年齢 8 Gyr 以内の薄い円盤領域ではメタル量の散布度が急増する。これは 過去の多くの研究結果と一致する。これは主に動径方向の移動によると考えられ る。しかしながら、どのタイプの混合が効いているのかは不明である。 |
![]() 図9.年齢-メタル量関係。黄色丸=低メタル薄い円盤星を除くと 青丸=厚い円盤星の年齢-メタル量関係は明らかである。 [Fe/H] = -1, 年齢= 9 Gyr 付近にある2星は HIP 54641 と HIP 57360. 不明の 原因の一つは太陽が内側円盤(R<7kpc で平均 [Fe/H]=+0.2. Hill12)と 外側円盤(R>10kpc で平均 [Fe/H]=-0.3. Bensby11), 散開星団に関しては Jacobson11, の分割線近くに位置するからである。このために太陽近傍の星は 太陽からそう遠くない軌道半径で生まれたに拘わらず、かなり広い範囲のメタ ル量を持つ星による汚染を受ける。 |
[α/Fe]-[Fe/H]-年齢関係 ここまで、年齢-メタル量関係、年齢- [α/Fe] 関係をそれぞれ調べて きた。しかし、[α/Fe]-[Fe/H]図上に年齢構造は存在するのであろうか? 図10には年齢の確定したサンプル星に対して[α/Fe]-[Fe/H] 関係 に年齢を加えて表示した。そこからの結論は、 (1) [α/H] と年齢 [α/H] はメタル量に関係なく年齢が若くなると低下する。 (2) 厚い円盤 厚い円盤ではメタル量と年齢の相関がきつい。その結果[α/Fe]-[Fe/H] 分布にはっきりした年齢構造が現れる。厚い円盤は年齢 13 Gyr の低メタル [Fe/H] = -0.8 で高 α 元素状態から始まり、 8 Gyr のほぼ太陽メタル量 で α 元素はやや高め [α/Fe] = 0.1 に至る。Abidekyan11 は厚い 円盤系列の最も高メタルの端は厚い円盤星と薄い円盤星の混合集団であると主張 した。我々が 3.2. 節で規定した定義からは大部分は薄い円盤星である。 [Fe/H] > -0.1, [α/Fe] > 0.05 で年齢が確定する 28 星中 9 星が 厚い円盤領域に入る。 (3) 薄い円盤 薄い円盤の年齢系列はそれほどはっきりとは見えない。それでも年齢が若く なるに連れて低メタル、高 α 元素から高メタル、低 α 元素へ移 る傾向はある。しかしながらメタル量の散布度は大きい。これは力学効果によ り円盤星が時間と共に動径方向で混ざり合うためである。 |
![]() 図10.Adibekyan12 サンプル中年齢がはっきりした星の [α/Fe] - [Fe/H] 関係。丸の色と大きさはどちらも年齢を表す。 そのことは、我々のサンプルでも確認できる。メタル量の散布度は年齢が古く なる、[α/Fe]<0.0 での 0.14 から [α/Fe]=0.1 での 0.25 へと 大きくなって行く。 |
3.5.1.年齢-W 散布度関係図11= W と [α/Fe], 年齢の関係図11は W と [α/Fe], 年齢の関係を示す。各枠内の黒線は 50 星の 移動散布度である。薄い円盤系列の W 散布度は 9 km/s から 35 km/s へ、 厚い円盤系列の W 散布度は22 km/s から 50 km/s へと変化する。薄い円盤の W 散布度が最後に 35 km/s まで上がるのは高齢で低メタルの薄い円盤星に 依るもので、これらの星を除くと、 W 散布度は 22 km/s まで下がる。 図12= Zmax と [α/Fe], 年齢の関係 W から決まる Zmax と [α/Fe], 年齢の関係を表12に示す。 図 は厚い円盤種族でスケール高が減少することをはっきり示す。 年齢-σW 関係 年齢-σW 関係は、厚い円盤から薄い円盤への転移を示す 段差を検出しようと、集中的な研究が行われた。しかし、素性が異なり、同じ 年齢でも様々な高度分布の星が混ざっていた。このため、段差を見つけたと思 っても見かけだけのことである。 低メタル薄い円盤星 低メタル薄い円盤星が大きな垂直方向速度散布度を持つ事は、それらがおそ らく外側円盤起源であることと考え合わせると、円盤外縁部で何らかの力学的 な機構が働いて垂直方向運動エネルギーに追加分を付与したのであろう。ワープ が原因かもしれない。フレアリングも考えられる |
![]() 図12.銀河面からの到達最高光度 Zmax と, 上=[α/Fe], 下=年齢との関係。赤白丸、青白丸=薄い円盤星。赤丸、青丸=厚い円盤星。 |
U 成分図13= U と年齢、[α/Fe] との関係図13は U成分と年齢、[α/Fe] との関係である。左枠は U 散布度が 低メタル, 高 α, 薄い円盤星では 50 km/s に達することを示す。これは 一般の薄い円盤星での 30 - 40 km/s に比べかなり高い。全体として、外側薄 い円盤は太陽近傍の高齢で薄い円盤よりかなり熱く、その値は厚い円盤の中間 年齢星と同じくらいであるが、かなりの回転速度を維持している。 | 非対称ドリ フト速度のために、これは低メタル薄い円盤のスケール長は内側薄い円盤のス ケール長よりも大分長いことを意味する。 SEGUE データを用いた Bovy12 に よる円盤成分の分解において、低メタル低 α 組成成分は薄い円盤成分 の中では最長のスケール長 4.3 kpc を有する。これと比較すると、最も 高メタルの薄い円盤は 2.3 - 2.8 kpc である。 |
![]() 図14.上: V - [Fe/H] 関係。シンボルは図6に同じ。中:熱い円盤「系列」 星。色と大きさは年齢を表す。灰色丸=年齢が未定の星。下:薄い円盤「系列」 の星。図の実線=回帰直線。 混乱 回転速度と化学的性質との関係は銀河円盤進化の観点から多くの研究がなさ れてきた。しかし、動径移動の概念が導入されて以来、研究間の不一致が目立 つようになってきた。サンプルの定義と解釈にも多大な混乱がある。 種族の場合 図14上段には薄い円盤と厚い円盤種族の V - [Fe/H] 関係を示す。我々の 分類は図6の [α/H]-年齢関係に基づくことを確認しておく。薄い円盤星 は殆ど平坦な関係、[Fe/H]<-0.4 で僅かに低下あり、を示す。厚い円盤種族 の星はもっと複雑な挙動を示す。 [Fe/H] > -0.5 の星には V-[Fe/H] 勾配が なくて、より低メタル [Fe/H] < -0.5 の星では正の V-[Fe/H] 相関がある。 全体として二つの種族は V-[Fe/H] 関係では連続している。 「系列」の場合 種族でなく系列で分けても同様の関係が見られる。厚い円盤(「系列」?)星 はメタル量と共に V の増加を示す。増加率 ΔV-Fe/H = 53.9 km/s/dex (図14中段)。 図15と16は同じような傾向を示す。 i. 高 α で古い星は 低 α の若い星より回転速度が遅い。 ii. $alpha; 量、年齢と V の進化には連続性がある。 iii. 厚い円盤「系列」は V と α量(又は年齢)の間に正の相関がある。 (正? ) 一方薄い円盤「系列」は平坦な勾配を示す。 iv. V の年齢による進化は厚い円盤の方が薄い円盤の 10 倍以上速い。 厚い円盤「系列」で ΔV-age = -5.5 km/s/Gyr, 薄い円盤「系列」で ΔV-age = -0.4 km/s/Gyr, である。 |
![]() 図15.V - [α/H] 関係。上:厚い円盤種族。中:厚い円盤「系列」。 下:薄い円盤「系列」。灰色丸=年齢未定。 ![]() 図16.V-年齢関係。上:薄い円盤、厚い円盤種族。中:厚い円盤「系列」。 下:薄い円盤「系列」丸のサイズと色はどちらも [Fe/H] を表す。 |
結果のまとめ これまでの結果をまとめると以下の通りである。 (1) [α/Fe] と [Fe/H] の年齢による変化には二つの体制が存在する。 早期体制では [α/Fe] 低下率は後期の5倍速い。二つの体制は年齢 8 Gyr 付近でかなり明瞭に分離する。 (2) 厚い円盤時代の年齢-メタル量、年齢-[α/Fe] 関係はきつい。 (3) 厚い円盤「系列」では、円盤垂直方向速度の散布度は [α/Fe] (年齢) の低下と共に減少する。 (4) 薄い円盤の最も古い星のメタル量は [Fe/H] = -0.6 dex で年齢= 10 Gyr である。この年齢と [α/Fe] は最も若い厚い円盤星と似ているのだが、 メタル量は全く異なり、薄い円盤星の方が回転速度が大きい。これらの特徴は 古い薄い円盤星の起源が外側円盤にある事を示す。 (1) について (1) は銀河系星形成史に二つの異なる時期、厚い円盤の形成期と薄い円盤の 形成期、が存在したことの証拠である。この二つの時期は時間的にはっきり分 離しており、寿命 8 Gyr の前と後とでは星が形成される環境が大きく異なる ことを示している。しかし、これを二つの円盤の形成には不連続があったと捉 えるべきではない。年齢-メタル量関係の勾配の明らかな変化は、[α/Fe] の低下が遅くなったのは、 8 Gyr 前に Fe の生産が低下したことが原因である ことを物語る。 (2)について 相関のきつさは厚い円盤の中では星間物質が良く混ざって一様であったこと を意味する。厚い円盤は、銀河系の内側部分に閉じ込められ、数 Gyr の間、乱 流の強い星間物質内で星形成を行っていたのであろう。これは短いスケール長 が短いことに合う。このよく混ざり合ったガスは次第に高メタル化して、きつ い 年齢-メタル量-[α/Fe] 関係をもたらす。この混合は約 10 kpc の距 離で α 量の勾配がない Cheng12 ことからも支持される。もし初めにあ った高 α 種族の勾配がその後消去されたならばメタル量散布度が年齢と 共に急増する、特に 8 Gyr より古い方で、はずであるが観測には引っかかって いない。つまり、星の動径移動があったとしても、メタル増加は厚い円盤のどこ でも同じなので、年齢・メタル量関係には影響しない。また、年齢・元素量関係 の散布度が小さいことから、衛星降着とその場星形成による成分には大きな余 地がない。年齢-元素量関係の低メタル端に関して、また厚い円盤とハローの境 界がどうかを探るには、データ量が不足している。しかし高メタル端=年齢 8 Gyr, では厚い円盤星が太陽メタル量に達し、 [α/Fe] = 0.1 になったと 言える。 |
それは薄い円盤の星形成において、化学的初期条件となったであろう。
厚い円盤期に星間物質が良く混ざっていたので、この初期条件は内側薄い円盤
全体で共通であったであろう。Cheng12a によると、高 [α/Fe] 種族の
広がりは Rgc = 10 kpc が限界である。我々はこの半径は同時に厚い円盤が薄
い円盤形成の初期条件を整えるのに必要な物質を供給した限界であると考える。
このことはまた、内側薄い円盤と外側薄い円盤との間のメタル量段差位置 Rgc
= 10 kpc と、高 [α/Fe] 種族の広がり半径が一致することの説明にもな
る。Rgc 10 kpc 内側の薄い円盤は厚い円盤の嫡子であり、一方薄い円盤の外側
部分は独立した形成史を持つと結論する。
(3) について W の散布度が [α/Fe] = 0.3 から 0.12 に掛けて減少することから分 かるように、厚い円盤は実は厚い円盤から薄い円盤へと色々な成分の連続体で ある。ただし、[α/Fe]-[Fe/H] 面上で内側円盤(=厚い+薄い)に見ら れる連続性(Bovy12) は必ずしも円盤全体での単一の星形成体制を意味するもの ではない。 Bovy et al. (2012b) は、星の化学的性質が連続していることを理由に、厚い円 盤を独立な成分でないとした。我々の解析は化学的性質が連続しているとして も、[α/Fe]-年齢、[Fe/H]-年齢関係の勾配の差が示すように、それに関 連する星形成史は連続していないことを示す。また、厚い円盤の年齢-メタル 量相関を年齢-&sigma:W と合わせて考えると、垂直方向の勾配が 予想される。古くて低メタルな星は銀河面から高いところまで分布する。この 様に、厚い円盤は垂直方向にはメタル量勾配を持つが、動径に沿っては平坦な のである。 (4) について 低メタル薄い円盤星と厚い円盤星は円盤の異なる場所で形成された。二つは 似た年齢と [α/Fe] を持つが、メタル量と回転速度が違っている。8 - 10 Gyr 昔に薄い円盤が形成された際に、最初に星形成が起きたのは Rgc > 10 kpc の外側円盤で、その頃厚い円盤はまだ内側円盤の星形成を続けていた。 8 Gyr 昔に厚い円盤の星形成が完全に止み、そのしばらく後に内側薄い円盤 で、新たに別のメタル量増加と α 元素比減少、さらに勿論垂直方向に は別の固有散布度で、星形成が開始した。 追加の推論 8 - 10 Gyr 昔の [α/Fe] 比が外側薄い円盤と厚い円盤とでほぼ等し いことから、低メタル薄い円盤星が形成された源となった物質は厚い円盤の 核合成で汚染され、外側円盤で希釈されたものかも知れない。 最後に、α 組成と寿命の点で厚い円盤と似た特性を有する低メタル で薄い円盤星の存在は、これらの天体もまた内側円盤で形成し、次に外側 円盤に動径移動したという説に反する。同じ頃に出来たので、それらは別の 低メタル環境で作られたに違いないからである。 |
Reddy03, Bensby12 の降着説 高メタル([Fe/H]=0.0)厚い円盤星と低メタル([Fe/H]=-0.6)薄い円盤星の 間にあるメタル量の亀裂の原因は厚い円盤期の終わりにあった低メタルガスの 降着が星間空間ガスを希釈したことであると考えた。我々がそれをなさそうと 考える理由は二つある。 1.若い厚い円盤星の年齢は古い低メタル円盤星の年齢と同じくらいである。 どちらも同じ時期に出来、厚い円盤は銀河系の内側部分に閉じ込められている のであるから、古い低メタル円盤星は外側円盤で出来たというのが最もありそ うなことである。 2.古い低メタル円盤星の運動学はそれらの外側円盤起源を押している。 幾つかは遠銀点 Rapo > 10 kpc で V > 0 km/s つまり LSR を追い抜く 回転速度を示す。SEGUE サンプルでは低メタル薄い円盤星が同じ性質を共有し ていて、平均 Rgc > 9 kpc (Bivy12b) で、明らかに V > 0 km/s で ある。 Rgc=9-10kpc の星 これらの性質は次の事実と結び付けられなければならない: Rgc = 9 - 10 kpc から始まり、円盤の平均メタル量は [Fe/H] & lt; -0.3 以下に 落下し、その先は平坦な分布となる。特にこれは散開星団で観測され、 古い (年齢 > 4 Gyr) 星団ではより急な低下 Bragaglia12 が見られる。 一方フィールド巨星は平均メタル量 -0.48 dex、[α/Fe] = +0.12 で Adibekyan et al. (2012) の結果と一致する。 このように太陽近傍の低メタル薄い円盤星 は平均軌道半径 9 - 10 kpc であるが、 Rgc = 9 - 10 kpc にいる星のメタル 量と α 元素量とは丁度太陽近傍の対応星と一致するのである。Rgc 9 koc を超えると、そのようなメタル量と α 量を持つ星が支配的になるら しいことから、低メタルの太陽近傍対応星は円盤外辺部に起源を持つと推測さ れる。円盤外辺部の星の垂直運動はまだ測定されていないが、外辺部散開星団 の幾つかが円盤からの光度数百パーセクの高さにある。これは太陽近傍の低メ タル薄い円盤星のかなり熱い運動学と同調する。 |
![]() 図17.上=年齢-メタル量、下=年齢-[α/Fe] 分布。白丸=薄い円盤 「系列」の低メタル([Fe/H]<-0.3) 星。低メタル薄い円盤星は太陽近傍の 薄い円盤星と平行な系列を成し、厚い円盤星に, 年齢 9 - 10 Gyr, [α /H] = [0.10, 0.15] でつながる。 |
太陽近傍の低メタル薄い円盤星と外側円盤の星 このように、太陽近傍の低メタル薄い円盤星と外側円盤の星とは類似した性 質を共有している。さらに太陽近傍の低メタル薄い円盤星の年齢が 10 Gyr に まで達する事も考慮すると、外側薄い円盤は内側円盤に先立って星形成を開始 したようである。図17は低メタル薄い円盤星が薄い円盤星系列の中で [Fe/H] < -0.3 を占めていることを示す。これらの天体は [α/Fe] 図上で 近傍の薄い円盤星と並行だが、より高い α 組成の系列をなして、厚い 円盤と年齢 9 - 10 Gyr で繋がる。 系外銀河外辺部の星 系外銀河外辺部に古い星があるという研究は多い。Ferguson01, Yoachim12. また、メタル量輪郭が外辺部で変化する Bresolin12 という報告もある。M 33 の場合、転換半径を越すと平均年齢が上がるが、同時に著しいメタル量の低下 も観察される。Barker11. これは銀河系に見られる現象とそっくりである。 |
Bovy12b は? [α/Fe] は年齢との相関が非常に良いので Bovy et al. (2012b) は [α/Fe] がある程度まで年齢の指標になると主張した。しかし、彼らは低メタル薄い円 盤星を調べなかった。これらの星はその関係の中に上手くフィットしない。 これらの星の形成時の状態が異なるからである。 [α/Fe]が同じ 0.1 dex で比べると、低メタル薄い円盤星は、薄い円 盤星と較べ、垂直速度が大きく、したがってスケール高も大きい。 Bovy12b の成分分解ではこれらの星はスケール高-スケール長の反相関関係か らのはぐれ天体とされた。 厚い円盤と薄い円盤の中間? Bovy12b は太陽近傍に見つかる低メタル薄い円盤星を、[α/Fe] が中間 値で、垂直方向速度分散が厚い円盤星と薄い円盤星の中間であることから、 近傍薄い円盤と厚い円盤の間をつなぐ種族と考えた。しかし、それらを中間 種族と見做すべきではない。恐らく中断は本物であろう。その検証には SEGUE データを別々の種族に分解する作業が求められる。 |
5.2.1.薄い円盤動径移行が必要Sellwood02 は動径移行 (migration) は円盤の再分布に大きな役割を果たす のではと述べた。以降幾つかの研究 Haywood08, Schonrich09, Loebman11 が太陽近傍の特性を説明するのに動径移行が必要であると主張した。以下の 二つのケースを述べる。 制限された移行 太陽近傍のメタル量分布の尾の部分、 [Fe/H] < -0.2 と [Fe/H] > +0.2 のみが他の半径からやってきたと考える。これらの汚染星と同じメタル 量を持つ星の軌道半径は太陽から 2 - 3 kpc 離れている。Hill12 によると、 銀河中心方向 2 - 3 kpc での平均メタル量は +0.2 dex である。銀河中心距 離 10 kpc での平均メタル量 Bebsby11 は -0.3 dex となる。エピサイクリッ ク振動は太陽近傍で 1 - 2 kpc である。従って軌道の blurring のみで 要求される量の汚染は引き起こされるので移行は必要ない。 |
強い移行 Loebman11 は太陽近傍の平均メタル量は内側円盤から移行してきた星によっ て支配されていると主張した。その動機は、8 - 10 Gyr 昔に太陽半径でメタ ル量が既に -0.1 dex に達した理由を説明する事であった。 しかし、我々の議 論では、厚い円盤が薄い円盤の形成開始時の化学的初期条件を整えていた。 その為、移行は必要ない。その上、外側円盤は最も若い厚い円盤星よりかなり 低メタル量の星が多いことは、内側円盤の星が外側円盤に移行したことはこの 10 Gyr はなかったことを意味する。 動径移行はなかった こうし我々は、動径移行は churning の意味ではなかったと結論する。メタ ル分布の両端にかなり強い尾があるのは、太陽の位置が内側円盤と外側円盤 の境界付近であるからである。 動径に沿った平均年齢変化 内側円盤 R < 10 kpc においては、スケール長 2 kpc の古い厚い円盤と スケール長 3.6 kpc で 薄く若い円盤の重なり合いから外側に向けて年齢の低 下が期待される。外側円盤 r > 10 kpc では太陽近傍薄い円盤より古い星が 見出され、平均年齢は高くなる。こうして U-字型の年齢輪郭が、強いミクシン グの仮定なしに導かれる。 |
5.2.2.厚い円盤動径移行で厚い円盤を作る?厚い円盤の形成は最初期の激しい物理過程によるものではなく、バーや渦状 腕のような非対称構造に関連した永年効果の結果である。Sellwood02, Di Matteo13.Minchev13. 現在の渦状銀河の z > 1.5 の前駆銀河には類似構造 がなく、 z = 1 まではあったとしても稀である。 Sheth08. この時期はおそ らく初期の激しい時期とより静謐な時期との移行期であろう。Martig12, Kraljic12. バー成分の z-進化も、バーの割合が z = 0 から z = 0.8 にかけ て、1/3 に落ち、この粗筋に合っている。もし構造非軸対称性が z = 1 より 先では稀であるなら、z > 1 時期にはそれは円盤における永年変化の機構 とはなり得ない。結論として、もし動径移行 (radial migration) が厚い円盤 を形成したなら、それは過去 8 Gyr の間でのみ可能である。この点、太陽近 傍の厚い円盤星が全て 8 Gyr より古い、例えば Zmax-年齢、W−年齢関係、 のは驚くべきことである。もし、動径移行が最近 8 Gyr でのみ円盤に影響を 及ぼして、現在太陽近傍で見られる円盤の厚み増加を駆動したなら、8 Gyr より若い太陽近傍星が多数大きな Zmac や W を示すはずである。しかし、太 陽近傍では 8 Gyr より若い星は薄い円盤 (Zmax < 0.5 kpc) に閉じ込めら れている。つまり、銀河系円盤の厚みを増す作用に動径移行は大きな寄与を していない。その上、 Bovy12b によると、厚い円盤の進化の過程で、スケー ル高は減少して行き、それはスケール長の増加を伴わない。これは円盤の動径 方向の加熱なしに垂直方向の冷却が進んだというシナリオに合う。そして、 これはまた動径移行と矛盾する。動径移行の際には星が外側に流出して行く に伴い円盤スケール高も増加するからである。 |
数値シミュレイション 以前に存在した薄い円盤の厚み増加とは別に、宇宙論数値シミュレイション の結果はしばしば、動径移行が厚い円盤の進化の基本機構であると主張する。 なぜなら、これらのモデルでは太陽半径内部の厚い円盤星は様々な形成半径を もち、しばしば Rgc 4 kpc 以内で作られているからである。 Brook12, Minchev13. しかし、もし厚い円盤星が厚い円盤の形状の構造中で大きな速度 散布度と薄い円盤より小さな角運動量を伴って生まれたなら、それらは形成時 に大きな離心率軌道を持っていたに違いない。例えば、離心率 e = 0.3 で R = 4 kpc で生まれたら、動径移行がなくても自然に太陽軌道半径にまで到達す る。例えば、Brook13 の計算では、厚い円盤の星の大半は内側円盤で生まれるが、 少しの離心率でもそれらの多数を太陽軌道半径にまで運ぶ。 Bird13 もこの シナリオを支持する。彼らの厚い円盤星は小さな形成半径を有し、それらの ガイディングセンターは時間の経過とともにはあまり動かない。厚い円盤星は その形成時に既に大きな離心率軌道を描くらしい。Brook12 では厚い円盤は 形成時のスケール長 = 1.7 kpc であり、Bovy12b が観測した 1.8 kpc に 非常に近い。こうして、動径移行が本当に必要なのかは疑問である。 |
内側から外側への円盤形成 内側から外側円盤形成機構は Larson 76 により提案され、その後多くの研 究が続いた。問題はそのうちどれくらいがスケール長の異なる二つの成分の 重ね合わせからの(誤?)解釈か、どれくらいが実際の内側―外側機構による かである。 スケール長変化およびメタル量勾配 我々の太陽近傍観測結果を Bovy12b の観測と合わせると、 4 - 5 Gyr 続い た厚い円盤の形成過程で、スケール長の変化はなかった。スケール長は 薄い円盤期開始の [α/Fe] = 0.25 まで 2 kpc 以下に留まった。この期 間内に厚い円盤のスケール高は 1/3 - 1/2 に減少した。その上、厚い円盤で のきつい年齢-メタル量関係と内側から外側シナリオを結び付けると、メタル量 または [α/Fe] の勾配が生まれるはずである。しかしそれは観測されて いない。Cheng12b. 薄い円盤に証拠なし 内側薄い円盤の形成は 8 Gyr 続いたが、そこには内側から外側円盤形成の 証拠は見つからない。Bogy12b 図5上枠の青、シアン点、下枠の橙、赤点 を見ると、低 [α/Fe], 高[Fe/H] の若くて Bovy12b の枠組みでは長い スケール長を持つべきが実際には 2.1 や 2.8 kpc の短い値しか示さない。 一方で [α/Fe] で厚い円盤と薄い円盤の境界あたりの亜集団は 4 kpc 以上のスケール長を持つ。 二重構造の見誤り Bogy12b が内側から外側説に合うと考えた観測は実は二つの構造が重なって 見えたからである。しかし、一度集団の年齢構造を注意深く見れば誤りに 気づいたであろう。 より複雑な過程が必要 Bovy12b は外側円盤のより長いスケール長と低いメタル量を Schonrich09b のモデルに基づいて、若い種族の特徴と解釈し、外側円盤は内側円盤より後 で生まれたと考えた。同様に Roskar13 は Boby12b に基づいて外側円盤は 2 Gyr より若いと主張した。観測は明らかに逆を示している。 4 - 5 Gyr より 古い散開星団 Berkley 17, 32, 36, 39 は 11 kpc より外にある。Nerkley 20, 29 は 15 kpc を越えている。一方、太陽近傍で見つかる低メタル薄い円 盤星は通常の近傍薄い円盤星より古い。これら全ては過去に提案されてきた シナリオより複雑な円盤形成を示している。 |
![]() Bovy12b図5.短元素量亜集団のスケール長とスケール高の関係。 上:[α/Fe] 下:[Fe/H] |
5.4.1.定性的な粗筋スタート期z > 3 の時点で、乱流性ガス円盤から厚い円盤の最初の星が生まれた。 このガス円盤は大きな速度散布度を持ち、スケール長は短く(Bovy12b), 大きなスケール高(図11のZmax-年齢、σW-年齢関係)と 小さな回転速度を特徴とする。激しい星形成に伴う強いフィードバックにより 星間物質は効果的に混ぜ合わされた。それは3.3.節で述べた太陽近傍での厚い 円盤星に見られるきつい年齢-メタル量関係、および動径勾配が数 kpc に渡っ て存在しない事(Cheng12b)から分かる。年齢 8 Gyr を超える星の速度散布度が 大きいのは、その頃天の川銀河では星形成がスターバースト銀河並みに激しく、 星形成率が ΣSFR > 0.01 Mo kpc-2yr-1 であったためであろう。 厚い円盤の形成 天の川銀河初期に星形成が激しかったことは次のことから推測される。 Bovy12b は厚い円盤のスケール長を 1.8 kpc と見積もった。厚い円盤の密度 分布を指数関数型と仮定し、太陽近傍での厚い円盤の密度を薄い円盤の 0.05 と仮定する。これは Cheng11 による値の下限値である。すると厚い円盤の 総質量は薄い円盤の 2/10 よりは大きいことになる。その際、スケール高の 比は 1/4 でスケール長は両者同じとした。薄い円盤のスケール長次第である が、厚い円盤の質量はずっと大きいであろう。厚い円盤の総質量を薄い円盤の 2/10 とし、形成期間を 4 Gyr とすると、平均星形成率は 〈SFR〉 = 5 Mo yr-1 である。Dib06 によると銀河表面積は Area = π (3rd)2, rd = スケール長=1.8 kpc である。単位表面積当たりの平均星形成率は ΣSFR = 0.05 Mo yr-1kpc-2 となる。これらの値は天の川銀河が z = 2 - 3 の時期にスターバーストを経験したことを意味する。ただしそれより 星形成率が大きくなると星間物質の速度散布度は急上昇する。従って、 厚い円盤形成の 4 Gyr の間、星間物質は高い速度散布度状態を強い星形成に より保っていたが、激しすぎる大きさではなかった。 星形成の維持 この高い星形成率を数 Gyr の間維持する機構はいくつかの提案がある。 (i) ガスに富んだ伴銀河の数回に渡る降着。Brook04, House11. (ii) フィラメント状のガス降着。Keres09. |
(iii) 重力不安定。Forbes12. (iv) ハローガスの冷却。 (v) 流出ガスの再利用。 円盤の厚みを増す作用 マージャーによる加熱 (Quinn93, Qu11, House11) や、大質量天体による 星の散乱(Bournaud09)は既に形成された厚い円盤の星成分を更に厚くする のに役立った。 厚い円盤の一様性 星形成は 4 - 5 Gyr 続き、新しく世代の星ほど薄い層を形成していき、 回転運動でその位置を保つ割合が増して行った。この時期を通じ、乱流 混合により星間物質の化学的一様性が保たれ、恒星種族が進化する際 単調な組成上昇が許された。 星形成速度と亀裂 Fe の時間増加率が急激であるのは内側円盤では星形成がある強さを保って 進行したことを意味する。外側円盤では星形成は緩やかで、もっと低強度の メタル量と α 元素増加を示す。 星形成史に間隙? 8 Gyr 昔、厚い円盤期の最後には 内側円盤はメタル量 -0.1±0.1 dex となっていた。星形成には年齢の 間隙が存在するかも知れない。それがおそらく α 元素増加に間隙を もたらす。 Adibekyan et al. (2012) 12. その間隙の後、星形成は薄い円盤で進行する。 形成される薄い円盤は厚い円盤の最終状態からメタル量と α 元素量を 受け継ぐ。薄い円盤の成長は厚い円盤の成長とは少し異なる特性を持ち、 化学組成の増加率が低くなる。この期間も外側円盤では星形成が持続して いた。それは年齢 2 - 10 Gyr の低メタル星 [Fe/H] = [-0.7, -0.3] が 太陽近傍に存在することで分かる。内側円盤の端に位置するため、太陽近傍 は内側円盤の進化に沿って形成された星が主要であるが、外側円盤で生まれ た [Fe/H] < -0.3 の星により弱い汚染を受けている。 |
5.4.2.遠方銀河との関連でのシナリオz = 2 - 3 のスターバースト厚い円盤の形成に伴い、天の川銀河は z = 2 - 3 の時期にスターバースト モードにあった。高赤方偏移の活発な星形成銀河はガスが豊富でガス表面密度 が高く、さらに速度散布度が高いことが知られている。そのような銀河では 大局的円盤不安定性が早期宇宙内での星形成活動を制御する重要な役割を担っ ていた。 トゥ―ムレ安定性基準 トゥ―ムレ基準は銀河円盤の早期進化を理解する単純なやり方である。 有効トゥ―ムレ基準は次の式で表される。 (1/Qtotal = 1/Qstars + 1/Qgas ここに、Qgas = κσgas/πGΣgas で Qstars も同様である。κ = エピサイクリック振動 数、Σgas=ガス表面密度、σgas=ガスの 速度散布度。星形成に対する安定性基準は Qtotal = 1 である。Q > 1 は星形成に対して円盤が安定であることを意味する。銀河進化の初期に は表面密度はガスが支配的であった。これは、銀河を Q = 1 付近に保つために は現在の局所群銀河よりも高い速度散布度を必要としたことを意味する。円盤 の厚みは σ2/Σtotal に比例する。円盤を 安定性ライン付近に保つのに必要な大きな速度分散は、円盤が局所宇宙の銀河 円盤よりも厚い円盤を意味する。 安定基準を保つ機構 厚い円盤の形成時間 4 - 5 Gyr の間、銀河を保つには、星形成を制御する 何らかの機構が働いて、宇宙論的ガス降着、マージャーなどのガス供給に対し 平衡を保たなければならない。Elmegreen10. 星間物質の大規模不安定、大規模 運動のせん断、大質量星からのエネルギー注入など何でもが銀河を不安定性の ライン付近において状況を和らげる(?)。 |
もし散布度が小さ過ぎて Q <<
1 だと星形成が急上昇して、全てのガスを消費し尽くす。若い星が十分なエネ
ルギーを注入して速度散布度を上げるだろう。
もし Q >> 1 だと星形成は銀河全体で強く抑制され、ガス量が増加し、
対には円盤が再び不安定になる。星の一様性、メタル量の滑らかな上昇と
[α/Fe] は厚い円盤が進化の間中安定性ライン付近に滞在していたこと
を示唆する。それは乱流を高い水準に保ち、次第に弱くなって行く円盤の
厚みを支えていたのである。 混合時間を短くする 高い速度散布度はまた混合時間を短くする利点もある。大規模乱流 の回転時間は H/σgas である。厚い円盤として H = 1kpc, σgas = 100 km/s とすると、タイムスケールは 10 Myr =円盤回転周期の 1/10 程度となる。したがって、大質量星から のメタルは非常に速く混合される。 薄くなる円盤 ガスが星にかわり、その表面密度が低下していくにつれ、ガス円盤の厚み は低下していく。ガス表面密度が低いと、ガスをトウ―ムレ安定線付近に 保つに必要な速度散布度が小さくなり、必然的にスケール高が小さくなる。 何だか? このシナリオでは、なぜ外側円盤が厚い円盤の若い種族と似た特徴を持つ かも説明される。外側円盤では軌道周期はひじょうにながい。単位面積当たり の星形成率も低い。元素の増加時間も混合時間も内側よりずっと長い。 その結果、大質量星からのエネルギー注入は小さい。単位面積当たりの 降着率も低いだろう。内側円盤早期の強い星形成は高メタルで α 元素のガスをハローに吹き上げ、それが次に冷却して降ってきた。これが 外側円盤で星形成が低かったに拘わらず α 組成が高かった理由である。 |
(1) 厚い円盤は化学的に良く混合された乱流ガス円盤から形成され、
4 - 5 Gyr の間、元素量の急速で単調な増加をもたらす。
(2) 新しく形成される厚い円盤成分の円盤垂直方向速度散布度は時間と共に 50 km/s から 25 km/s へと次第に減少していく。厚い円盤の星形成は段々 薄くなる円盤ガス層で進行していった。 (3) R < 10 kpc の内側薄い円盤は 8 Gyr 昔に厚い円盤の最終期から その化学的条件を受け継いだ。二つの円盤の間に起きた変換は [α/Fe] の変化率の急変という形で示される星形成体制の変化として化石化されている。 図6を見よ。これは二つの種族の間で我々が検知できる唯一の不連続である。 (4) Bovy et al. (2012b) によるスケール高とスケール長の観測も併せ考えると、これらの結果は連続 する内側から外側への円盤形成モデルとは合わない。我々は、スケール長の 異なる二つの構造が重なっている状態が内側から外側へという印象を与えた と考える。しかし、各種族は数 Gyr 続いたのにそのような過程を示すものは 何も残されていない。 |
(5) 9 - 10 Gyr 昔、まだ厚い円盤形成期が内側円盤で続いている時に、外側
円盤では外側薄い円盤の形成が始まった。その時期の外側円盤ガスはおそらく、
厚い円盤から放出された高メタルガスとメタル欠乏の降着ガスの混合物であっ
たであろう。しかしその後の外側円盤の進化は内側円盤とは基本的に切り離さ
れる。
(6) 動径移行 (radiak migration) に関し、 (1) - (4) を考慮すると、太陽 近傍で観測されるような恒星の再配置に大きな役割を果たしたとは考えられ ない。これは churning が弱いという意味である。 (7) 厚い円盤における鉄の増加率は薄い円盤に比べ5倍速い。 (対数スケールで弱い所を見たせい ということはないか? ) (8) 古い円盤の垂直速度成分の散布度は期限が異なる成分の混合である。 近傍薄い円盤星 8 Gyr と若い厚い円盤星 9 - 10 Gyr は年齢は異なるが同じ 垂直成分散布度 22 - 27 km/s を有する。恐らく同じガス加熱過程の為であ ろう。古い薄い円盤星 9 - 10 Gyr は若い厚い円盤星と同じ年齢であるが、 垂直方向散布度は 35 km/s で大きい。 |
我々の新しい定義では、「厚い」円盤は単に厚いだけではなく薄い成分 も含む。それは内側薄い円盤よりは古いが、外側薄い円盤とは時間が重なる。 古い「薄い」円盤は太陽近傍でのサンプルの解析から、運動学的には昔から の「厚い」円盤と類似している。 | 内側「厚い」円盤と内側「薄い」円盤の親近度は内側「薄い」円盤と外側 「薄い」円盤との親近度より高い。内側薄い円盤と厚い円盤は同じ構造で 古い内側円盤と若い内側円盤と呼ぶのが正しい。一方、外側薄い円盤は別の 成分と見做すべきであろう。 |