ミラ型変光星 R Cen の 1918 - 2000 AAVSO 可視観測を解析した。支配モー ドの周期は 1951 年の P = 550 d から 2000 年の P = 505 - 510 d まで一貫 して下がり続けている。その間に振幅は V = 5.5 - 11.8 mag から V = 6.3 - 9.1 mag へと 3 mag. も小さくなった。周期低下は He フラッシュ星として 知られている R Hya, R Aql, T UMi と似ているので、R Cen もヘリウムフラッ シュ星ではないか? この周期変化は 2 - 3 Mo の星でヘリウムフラッシュ直後 に期待される光度低下に伴うと看做される。 | 変光曲線にはおなじみの深い極小と浅い極小が交互に現れる現象が見られ、 二重極大のように見える。過去50年間に、主モードの振幅は 3 mag 小さく なったが、周期約 274 d の第2モードの振幅は変わらない。このために最近では 二重極大の様子がはっきりしなくなってきた。 1930 - 1966 のパワースペクトル から、主振動数 1/548 cycle/day の 8 倍までの倍音が見られる。二重極大変光 曲線の説明としては二つのモードの共鳴がある。 |
R Cen の諸量 R Cen は (14h16m35.6s, -59°54'43")2000, P = 546 d, V = 5.3 - 11.8 mag, M4e - M8IIe である。距離は 229 pc (Celis 1995) から 640±300 pc (Hipparcos Catalog 1997) に及ぶ。 二重極大変光曲線 二重極大を持つミラは少なく、Jacchia 1933 は R Cen (546 d), R Nor (490 d), U CMi (410 d) に注意を呼びかけ、Campbell 1955 は RZ Cyg, RU Cyg を加えた。それらの中でも R Cen は最も安定している。他の星の第2極大は しばしば弱くなったり、通常のミラ型変光曲線に戻ったりする。二重極大ミラ はもっと頻繁に見られる、光度上昇または下降期にコブのあるミラの極端な例 と考えられる。 Keenan, Garrison, Deutsch (1974) は R Cen M 4.5 の P = 546 d はスペクトル型に対しては異常に長いことを指摘 して、P = 274 d モードをその真の周期とした。 |
二重極大の原因 Jacchia 1933 は R Cen 光度曲線が RV Tau 型星のそれと似ることを指摘した。 Takeuti, Petersen 1983 は RV Tau 型星の二重極大は二つのモードの共鳴に よると提案したが、ミラ型星のコブや二重極大も同様の機構 Buchler, Moskalik, Kovacs 1990 かも知れない。 周期減少 周期変化はヘリウムシェルフラッシュの結果かも知れない。過去数百年、 R Hua と R Aql は大体 1 d/yr の割合で周期を減少させてきた。 Wood, Zarro (1981) はこの減少率がヘリウムフラッシュから予想される値と合うことを示した。最近、 Mattei, Foster 1995, Gal, Szatmary 1995 は T UMi が 1979 から現在まで 2.5 d/yr という大きな減少率を示すことを発見した。また、Merchan Benitez, Jurado Vargas 2000 は S Sex がヘリウムフラッシュの最中であるとした。 Percy, Au 1999 と Wood, Zarro 1981 は熱サイクル期間の長さから、ヘリウム フラッシュにある星は AGB 星の数パーセントとした。 |
![]() 図1.R Cen の AAVSO 1918 - 2000 変光曲線。実線は 10 日平均をつないだ。 R Cen の変光曲線 図1は R Cen の AAVSO 1918 - 2000 変光曲線である。これは世界中の 308 観測者による 13,857 観測の結果である。図はその一部 1980 - 2000 年の拡大図 である。深いのと浅い極小の間になじみ深い二重極大が見える。過去10年間、 極小の深さが同じようになってきた。 |
![]() 図2.R Cen の AAVSO 1980 - 2000 変光曲線。実線は 10 日平均をつないだ。 変光振幅の縮小 変光曲線の異常な特徴は過去 50 年間、変光振幅が縮小してきたことである。 これは他のミラでも時々見られる。 Y Per は 1988 年に突然振幅 2.5 mag から 1 mag に変化した Kiss et al 2000。V Boo (Szatmary, Gal, Kiss 1996) と RU Cyg (Kiss et al 1999) は振幅の漸減という R Cen と似た現象を示す。 セファイドでも北極星のように振幅が急変することがある。また、 R Cen では 1925 - 1940 に極小深さが変化した。 |
![]() 図3.R Cen のパワースペクトル。主モード f1 = 1/548 cycle/day を示す。 フーリエ解析 R Cen の周期が変動しているので、周期が安定していた 1930 - 1966 年、 JD = 2,426,000 - 2,439,295 のデータを用いてパワースペクトル解析を行った。 解析には date-compansated discrete Fourier transform DCDFT (Ferraz-Mello 1981) と CLEANEST (Foster 1995) を用いた。通常のフーリエ解析はデータ点が 等間隔の場合には良い結果を与えるが、有限でランダムなサンプルでは大きな サイドローブを、データ点ギャップは偽のピークを生む。 CEANEST アルゴリズム CLEANEST はギャップのあるデータから真のピークを残すアルゴリズムである。 それは、ピークを一つづつ除いて調整する。説明が理解できなかった。 図3は CLEANEST を用いた R Cen のパワースペクトルである。多くのミラ型星 変光曲線は高周波成分を持つが、多くはピークの非対称性を表す役割を果たす。 しかし、R Cen では第2高周波成分が異常に大きく、これが二重極大変光を 生み出す。 パワースペクトルのピーク 表1に有意なピークを示す。これらは 548 d 主周期の高周波か、または 主モードの周りの衛星周波である。これらの衛星成分は徐々に変わる周期 の結果生み出された。 |
![]() 表1.R Cen のパワースペクトル |
WWZ 法 周期が時間変動する現象を扱う weighted wavelet Z-transform = WWZ (Foster 1996) は周期や振幅が進化する現象の解析に適している。実際この ソフトは AAVSO を意識して作られた。データウェイトに W(t) = exp[-cω2(t-τ)2] を用いる。c = 0.0125 とした。 小区間 CLEANEST 法 もう一つは、2000 d 区間毎に CLEANEST 法を適用して、小期間での周期、 振幅を決めて行く方法である。 ![]() 図4a.第1モードの周期変化。実線=ウェイブレット解析。四角=小期間フーリエ解析。 ![]() 図5a.第1モードの振幅変化。実線=ウェイブレット解析。四角=小期間フーリエ解析。 |
図4=周期変化 こうして決めた周期と振幅の変化を主モードを図(a)に、第2モードを図(b)に 示す。図4a, b は JD 2,434,000 (1951) 以降第1、第2モードの周期が大きく 下降することを示す。その間、周期の比は 2:1 から1パーセント以内に収まっ ていた。 図5=振幅変化 図5から、第1、第2モードは共に大きく変化してきたことが判る。最近になると 第1モードの振幅は第2モードを下回るようになった。 ![]() 図4b.第2モードの周期変化。実線=ウェイブレット解析。四角=小期間フーリエ解析。 ![]() 図5b.第2モードの振幅変化。実線=ウェイブレット解析。四角=小期間フーリエ解析。 |
周期変化と光度変化 図4は支配モードの周期が JD 2,434,000 (1951) での 550 d から 2000 での 505 - 510 d へと低下してきたことを示す。これは 1 d/yr = 3 10-3 day/day である。この結果を Wood, Zarro (1981) の質量固定での P-L 関係で解釈する。上記論文を再録すると、 (1)脈動の関係式 C = P(M/Mo)α(R/Ro)-β (2)有効温度の式 L = 4πσR2Teff4 (3)HR図の AGB を表式化 log L/Lo = α - βlogTeff ( 熱パルス時の経路と異なるのが問題?) 上3式から、R と Teff を消去すると、与えられた M の下での、L-P 関係 ![]() が導かれる。 Wood, Zarro (1981) と同じパラメタ―、α=62.5, β=16.67, b=2, C=5.75 10-3 (d) を採用する。光度低下は主に周期変化で決まり、HR図上の経路勾配 β の影響は小さい。 ( 個々星に対する周期光度関係が 独立に求まる。距離の推定が問題。) |
光度低下時期は? R Cen の周期と光度の変化は R Hya より急である。この急さは、もし R Cen がヘリウムシェルフラッシュ直後の時期にあるとするなら理解できる。 Wood, Zarro (1981) の図1で言えば、A点とB点の間である。ただし、中心核質量は 0.65 Mo 以下、 つまり星質量で 2-3 Mo 以下である。それ以上になると光度変化はさらに急と なってしまう。別の解釈としては、フラッシュの光度が表面に達しピークを形成 した後、図1のC点とD点の間も可能である。この場合は Mc > 0.6 Mo が 必要である。光度クラス II なので R Cen は低質量または高質量の超巨星で あり、独立な手法で質量が決まればヘリウムシェルフラッシュのモデルに制約を 与える。 フラッシュと短期変動を区別する R Cen が熱パルスサイクルのどの辺りにいるかを決めるには、更なる観測が 必要である。いくつかのミラ型星は周期が突然変化し、それが10年または それ以上続く。ただ向きが逆である。その良い例は S Her と T Cep Wood, Zarro (1981) に見られる。これらの単期変動はヘリウムシェルフラッシュと似ていて、フラ ッシュやその他の長期効果を覆い隠す。したがって、長期の観察が必要なので ある。 ヘリウムシェルフラッシュによる対流 が振幅低減の原因? R Cen の周期と振幅の変化は 1950 年頃に同時に起きているので、両者は 共にヘリウムシェルフラッシュに関連しているのであろう。振幅の縮小はフラ ッシュに伴って対流層が拡大したためかも知れない。強い対流は部分的または 完全に脈動を停止させると考えられる。それが RV Tau の対流二重極大モデル (Deupree, Hodson 1976) や S Per の脈動停止モデル (Kiss et al 2000) の 基となっている。 T UMi でも周期低下と共に振幅縮小が始まっている。 ミラ型からセミレギュラーへの転移か? もう一つの解釈は R Cen がミラ型星からセミレギュラーへと、つまり基本 振動から第1倍音へと、脈動モードが変わったと考えることである。図5の ウェイブレット解析は P = 510 - 550 d の主モードの振幅が過去 50 年間次第 に低減してきて、今では 274 d モードを下回ることを示している。 |
R Cen の周期低下と振幅縮小はシェルフラッシュが原因 1950 年以来 R Cen の周期は 550 d から 505 - 510 d へと低下した。1 day/yr という減少率の大きさから考えると、R Cen は多分ヘリウムシェル フラッシュの最中であろう。同時に起きた 3 mag に及ぶ振幅の縮小もヘリウム シェルフラッシュの結果と考えられる。 |
二重極大の消失 主モード振幅が 3 mag も下がったのに比べ、第2モード 274 d の振幅は その間ほぼ一定である。このため最近の変光曲線には二重極大の様子は目立 たなくなってきている。 |