Evidence for Coupling of Evolved Star Atmospheres and Spiral Arms of the Milky Way


Gorski,Barmby
2020 MN ???,




 アブストラクト 

 フィードバック効果が銀河の環境にどう影響するかを理解するには、銀河内 におけるフィードバックの強度分布を知る必要がある。水メーザーは星間物質 へのエネルギー注入の指標として働く。この論文の目的は、天の川内の水メー ザーを使い、フィードバックの分布と強度を測ることである。  HOPSサーベイで見つかった水メーザーの光学対応天体を確認した。天の川内 での水メーザーの光度と分布を Gaia DR2 の視差を用いて決めた。水メーザー で追跡される進化した星の分布と天の川渦状腕との間に相関が見つかった。これ は銀河系内環境と進化星とのつながりを示唆する。


 1.イントロダクション 

 水メーザーの条件 

 Elitzer et al 1989 は水メーザーには n = 106cm-3, T = 400 K が必要なことを明らかにした。Engels et al 1986 はマスロス率と 水メーザー光度との相関を示した。

 星間空間へのエネルギー注入 

 原始星と進化星の段階で星は星間ガスに運動エネルギーを注入している。
 距離エラー 

 Palagi et al 1993 は水メーザーの Arcetri アトラス(Comoretto et al 1990) を IRAS PSC と比べて水メーザーの分布を調べた。距離は Brandt 1986 の回転曲線を用いて推定された。
(これは嘘)
このアトラスの角分解能は低い。水メーザー から星本体の視線速度を決める際の不定性のため、距離のエラーは大きい。

 Gaia 

 そこで今回、 Gaia 歳差を用いて距離精度を上げた。


 2.方法 

 2.1.HOPS と Gaia DR2 

 HOPS 

 HOPS (Walsh et al 2011) は l = [290, 90], b = [-0.5, 0.5] の 100 deg,sup>2 を Mopra 電波望遠鏡により角分解能 2', 下限 1-2 Jy で走査した。検出天体を Australia Telescope Compact Array によりビームサイズ 1" の再観測を行った。 その結果、631 メーザーサイト内の 2790 メーザースポットを検出した。

 Gaia DR2 

 Gaia は G バンド (3500-1000 nm) 20 mag までの 13 億星の視差を与える。 また、G = 21 mag までの 16 億星, Gbp (380-680nm), Grp (640-1000nm) 13 億星の測光値も得る。

 2.2. Gaia 距離 

 Bailer-Jones et al 2018 カタログを Gaia ID とクロスマッチさせる。 単純に光学対応天体の視差をひっくり返すのはGaia 天体までの距離を得るには 不確実であり、確率的手法が良い。距離はベイズ法で求める。

 2.3. クロスレファレンス 

 メーザー集団のサイズ 

 Foster, Caswell 1989 は水メーザースポットと中心星との間隔が 20 mpc (0.65 ly) 程度であるとした。これは 8.5 kpc で 0.5", 1 kpc で 4.1" に 対応する。この値は Walsh et al 2014 が見出した、スポット集団のサイズが 直径 4" 程度という結果に符合する。

 近赤外から可視へ 

 最初にメーザー位置から 4" 内の 2MASS 天体を探した。次に Marrese et al 2019 の 2MASS/Gaia クロスマッチを探した。 2MASS の角分解能が2.5" なのに対し Gaia は 0.5" であり、一つの 2MASS 天 体に複数の Gaia 天体候補が存在する場合がある。Arenon et al 2018 は銀河面 では 4" 半径内に 0.9 - 1.7 個の Gaia 天体が存在すると述べている。全体と して、99.78 % は 4" 内に一つの天体しか存在しない。もし二つ以上の候補が あった場合は最適候補は FoM = Figure of Merit (Morrese et al 2019) から 選ばれる。水メーザー 631 サイトの 2790 スポットに対し、350 サイトの 1605 スポットに 2MASS 対応天体が見つかった。

 2.4. 減光補正 

 メーザーとクロスマッチした Gaia 星の色等級図を図1に示す。Chen et al 2017 の3次元減光マップはランダムフォレストリグレッション機械学習を用いて 作られた。このマップは b [-10,10] の全 l に対して用意されている。距離は 最大 6 kpc までである。


 2.5. 天体分類 

 2.5.1. ガウス混合モデル 

 ガウシャンミクスチャーモデル 

 Palagi et al 1993 は水メーザーを SFR と STAR の二種類に分けた。 多数の未分類天体を含むサーベイではいくつの分類群数が最適か不明である。 そこで、恒星系水メーザーを分類数を様々に変えてガウシャンミクスチャーモ デル(Gaussian Mixture Modeling)で分類し、分類群数は幾つが最適か調べた。

 BIC=ベイジアン情報基準 

 そのために分類群数毎にベイジアン情報基準(BIC = Baysian Information Cruterion)を計算した。通常 BIC の最低値がベストフィットモデルを示す。 しかし、大抵の場合成分数を増やすほど BIC は小さくなって行く。そのよう な時には、 BIC の変化 (ΔBIC) をデータを記述する最適な分類群数 を示す指標として用いる。我々は Pedregosa et al 2011 のガウシャン ミクスチャーモデルから分類群数=7までフィットを行った。7を超えると フィットは改善しなくなった。図2にフィットの結果を示す。BIC の最低は 分類群数=6で得られるので、形式的にはそこがベストフィットになる。 しかし、分類群数=1から2にかけて ΔBIC =451と大きい。 そこで、分類群数=2が色等級図上のメーザー源分布の最良記述を与えると 判断する。
("best fit" と "best describe" を使い分けているが、科学論文というより弁護士の論述! 図2右上のΔBIC(7)の符号もおかしい。 )

図1.水メーザー源の色等級図。赤丸=観測等級。青丸=減光補正等級。 Chen et al 2017 の減光マップ使用。青白丸は導かれた距離が Chen17 にある 距離より大きかったので、減光補正が不十分な星。矢印は AG = 2.3 の平均減光ベクトル。  





図2.BIC スコアとモデル。左上:色等級図フィットに対する成分数と BIC スコア の関係。左下:最低 BIC スコア(6成分)のモデル。右上:BIC の差。
( ΔBIC(7)の符号はおかしい? )
右下: ベストフィット(2成分)フィットの表示。



図3.メーザースポットとガイア対応天体との距離ヒストグラム。赤線=進化星 へのガウシャンフィット。FWHM=1.17".

 青い群=偶然位置が合った前景星 

 色等級図を2群に分けること自体は各群の物理を示すことではない。そこで、 それらが何を意味するかを調べる必要がある。それぞれは高光度で赤い星と 低光度で青い星の群である。DSS 画像を目視した結果、青い群の星の 1' 以内 には HIIR が見当たらないことが分かった。水メーザーを発する HIIRs の多く が Av > 20 の分子雲に埋もれている(Moore et al 1988) ことからそれは 当然である。その上図3に示すように、この群=青い星の Gaia マッチは期待 される距離分布を示さない。我々はメーザースポットが中心星の周りに群れる と予想するが、その分布は中心星に集中し、大部分は中心星の 0.5" 内に位置 する。しかし、青い群の星ではそのような分布の特徴は見られない。また、 星のカラーは YSO としては青すぎる。以上から、青い群は偶然メーザー位置の 近くにいた前景星と判断する。

 赤い群=進化星 

 赤く明るい群は進化星である。図4の HOPS 分解能の分布は図3と合う。 図5にガウシャンミクスチャーモデルによるフィットの結果を示す。 図をみると、減光補正が不十分なために二つの群の間の混合が起きる心配はない。

図4.HOPS サーベイの空間分解能=ビーム巾、の分布。


図5.二つの分類群の色等級図。X 印=遠すぎて減光補正が不十分な星。 赤横線と緑横線の楕円=減光不十分星も含むガウシャンミクスチャー分類群。 橙斜線と青斜線の楕円=減光不十分星を除いたガウシャンミクスチャー分類群。 赤と橙のバツ=進化星(EV)メーザー源。緑と青のバツ=前景星(FG)にマッチ、 必ずしも物理的に一致しない、メーザー源。


 2.5.2.AGB 星の分類  

 Wesenheit 関数  

 Gaia BP, RP と 2MASS J, Ks から星が O-リッチか C-リッチかを決められる。 その Wesenheit 関数は、

   WRP,BP-RP = GRP - 1.3(GBP - GRP)

   WKs,J-Ks = Ks - 0.686(J-Ks)

である。炭素星では WRP,BP-RP-WKs,J-Ks > 0.8 と なる。図6に Ks 対 WRP,BP-RP-WKs,J-Ks の関係を 示す。破線= O-リッチ星と C-リッチ星の境界である。メーザー天体とのマッチ 62 星中 35 星が O-リッチであった。
(62 という数から EV群の星 らしいが、残りは水メーザーを放つ炭素星?過去のマスロス?)

図6.Ks 対 WRP,BP-RP-WKs,J-Ks の関係。破線= O-リッチと C-リッチの境界。Lebzelter et al 2018 による。  


 3.メーザーの分布 


図7.橙丸=EV群の星。色曲線=渦状腕(Valee08)黒線=バルジ軸。 黒バツ=GC.星印=太陽。

 位置分布のバイアス 

 図7は EV 群の星の銀河面上の位置を示す。減光補正が不十分な星も含む。 HOPS がフラックス限界探査であるためのバイアスを調べるため、図8にメー ザー極大光度と太陽からの距離の関係を示す。期待される通り、遠方では低光 度星の数が減る。点線=検出限界 0.167 Jy である。第2のバイアスは赤外 対応天体の選択から来る。2MASS カタログに載らない天体は我々のサンプル から除かれる。これは減光が非常に強い GC 方向などで起こる。このため サンプルは近くて、低減光の天体に偏る。

 腕と腕間領域 

 図7から分かるように、 EV 群メーザー源は銀河腕と強い相関を持たない ように見える。この問題を定量的に解析するため Vallee et al. (2008) の点対称4本腕天の川モデルを用いた。腕部分を GC の周りに 45° 回転 させて腕間領域を定義する。こうして、銀河面の半分が腕、半分を腕間に分ける ことができる。

 モンテカルロ計算 

 Bailer-Jones et al 2018 による視差の事後分布関数を各星に適用して、 各星に対して 10,000 個の実現値を作り、最近接腕までの距離を計算する。 星の最近接腕までの距離が最近接腕間腕(?)までの距離より近かったら、 その星は腕に属すると決める。EV メーザーが銀河系構造と無相関だったら メーザーが腕領域にある割合は 50 % になる。図9を見ると、実験で実現 された 10,000 組のうち、93.3 % でメーザーが腕に属する割合が 50 % 以上 であった。腕の巾を 500 pc に狭めて同じ計算を行った結果は、 76 % でメーザーが腕に属する割合が 50 % 以上であった。
 これらの結果は進化星からの水メーザーが渦状腕に集中することを意味する。

図8.メーザー極大光度と太陽からの距離の関係。点線=検出限界 0.167 Jy


図9.Gaia 対応天体の EV メーザー距離実現値 10,000 組に対する腕に 属する星の割合のヒストグラム。垂直線=割り合い 50 % ライン。橙線= 腕の巾が 500 pc. 紫線=腕と腕間の巾が等しい。


 4.議論 

 4.1.メーザーの分布 

 AGBs には腕構造がないのに? 

 水メーザーの分布が腕構造と相関するという今回の結果は AGB 星の分布は腕 構造を示さない (Jackson et al 2002, Robitaille et al 2008) という過去の 研究を考えると意外である。水メーザーの強度には星間空間ガスが影響するの かも知れない。それは、球状星団に水メーザーがないこと、銀河系周辺部円盤 ではメーザー強度が低いことからもあり得る仮説である。

 高マスロス星へのバイアス 

 AGBs からのマスロス量は数少ない高マスロス星で決定される。つまり、 星間空間への質量注入は O-リッチ AGB 星で決定される Olofsson 2004, Hofner,Olofsson 2018 ということである。水メーザー星が高質量 AGB 星で あるので、メーザー源には星質量バイアスが掛かっているかも知れない。

 4.2.改善策 

 メーザーサーベイ 

 この研究は、水メーザーが銀河系環境にエネルギーを注入するのはどこで、 どのくらいの強さなのかを探ることを目的にしていた。しかし、HOPS サーベイ は 100 deg2 で広さが足りない。

 改善策 

 この状況を改善するには次の3つが可能である。

(a) 水メーザー視差のフラックス限界無バイアスサーベイ
 並行して赤外観測により星の情報も集める。変光に注意が必要。

(b) 赤外 Gaia で視差を決定

(c) 近傍銀河の深いサーベイ
 水メーザー天体を外側から調べる。M31 で既に試みられている。ngVLA?


 5.結論