A Search for Old Star Clusters in the LMC


Geisler, Bica, Dottori, Claria, Piatti
1997 AJ 104, 1920 - 1932




 アブストラクト 

  LMC には銀河系球状星団と同じくらいに古い星団は数個しかない。ここでは 25個のLMC高齢星団候補の CMD サーベイを報告する。それらは以前の UBV 積分測光と Ca II 分光から導かれたものである。測光はセロトロロの 0.9 m 望遠鏡+ C T1 フィルターで行われた、ほぼ全ての星団 でターンオフまで観測できた。また多くの星団では主系列を数等追うこと ができた。その良い例は、年齢 9 Gyr の ESO121-SC03 で、はっきりと主系列 が見えている。
 年齢の決定には δT1 = T1(TO) - T1(GBC), GBC=giant branch clump, を用いた。年齢の較正には 標準星団を用いた。 しかし、高齢星団は見つからなかった。ただし、NGC1928 と NGC1939 は バー領域にあってターンオフを決定できなかったので、高齢の可能性を 排除できない。それ以外の候補星団は 1 - 3 Gyr の中間年齢星団であった。
UBV カラーが高齢を示唆した原因はストカスティックに現れる高光度の星 の影響及び混み合った領域内の暗い星団に対する測光エラーである。CaII 三重線から導かれる [Fe/H] &sim: -1.0 という比較的低いメタル量も 中間年齢と一致する。これらの星団が円盤上遠距離に位置することは LMC 円盤の形成と進化に関して興味深い。
 文献から調べた δV, δR も調べたが、これらの併用により、 t > 1 Gyr での星団形成と破壊の歴史を詳しく知ることが出来る。 その結果、以前から言われていた, 星団形成が 3 - 8 Gyr 以前の時代 中断したこと、星団形成が 3 Gyr 前から活発となり、1.6 Gyr 昔に ピークを迎えたことを再確認した。我々の観測から、未発見の古い星団は まず残っていないと思える。


 1.イントロダクション 

 LMCの古い星団 

 Suntzeff et al 1992 のレビューによると、LMC には8個の古い星団がある。 ここで、古いとは天の川銀河の球状星団と同程度という意味である。それらは、 NGC 1466, 1786, 1835, 1841, 2210, 2257, Hodge 11, Reticulum である。 この他に、 NGC 1754, 1898, 1916, 2005, 2019 は古い星団ではないかと 疑われてきて、 HST による深い観測が実行中である。

 年齢ギャップ 

 LMC 星団の年齢は t = 1 - 3 Gyr の中間年齢と t > 12 Gyr の高齢 の二グループに分かれる。その間には ESO 121-SC03 t ∼ 9 Gyr が 一つあるだけである。
 積分測光 

 Bica et al 1996 には 624 個の星団、アソシエイションに対する UBV 速攻値が載っている。それらは二色図上で、対応する SWB タイプに変換 された。37 星団が SWB タイプ VII に分類された。内 22 個にはこれまで CMD が得られていなかった。

 低メタル星団 

 残り 4 つのターゲットは Olszewski et al 1991 から得た -1.2 < [Fe/H] < -0.8 星団である。それらは年齢、SWBタイプ が知られていない。Olszewski et al 1991 が導いた年齢・メタル量関係 によると、そのメタル量はタイプ VII にふさわしい。


 2.観測 

 C, R フィルター 

 観測は CTIO 0.9 m + Tek2k CCD で行われた。 ESO121-SC03 を参照 星団とした。ワシントンシステムを採用したが、 C フィルターは新しく 効率の高いもの、(T1 フィルターの代わりにクロン・カズンズ R フィルターを使った。この組み合わせはメタル量に感度が高い。 こうして、δT1 法に依る年齢と同時に RGB 法 (Geisler, Sarajedini 1996, 1997) により、メタル量も決める ことが可能となった。

 表1=リスト 

 観測星団を表1に示す。図1には観測例として、 SL 555 の T1 15 分露出画像を示す。

 図2 = ESO121-SC03 の CMD

 図2には ESO121-SC03 の CMD を示す。この星団が観測に含まれたのは、 これが年齢ギャップ中にある唯一の星団, t = 9 Gyr, であり、我々の解析 がうまく行くかどうかの判定に好都合だからである。


表1. 現在の LMC CMD サンプル。

図1.SL555 領域の T1(R) 画像。CTIO 0.9 m で 15 分。




図2.ESO121-SC03 のワシントン (T1, C-T1) CMD. CTIO 0.9 m 露出 55 分。中心から 200 ピクセル以内の星を全てプロット した。隣の等面積参照フィールドには 14 個しかない。δT1 = 3.0 mag. 一辺=13.6'





表2.文献から採った CMD

 3.年齢 


図3.フィルターによる δ = ターンオフとクランプの等級差の 違い。丸=δR, 三角=δT1、バツ=δR(LMC old cluster)

 δ 法 

  Phelps, Janes, Montgomery (1994), Phelps, Janes 1994 は銀河系中間年齢星団 の BV CMD を研究し、δ = V(giant branch clump) - V(TO) が相対年齢 の決定に向いていると結論した。δ の利点は赤化、距離の影響を受けな いことにある。さらに、等級較正に依存せず、等時線フィットのようなモデル 依存性がない点も評価される。

 δ の測定 

 LMC 星団の CMD は大部分が BV で、いくつかでは BR が得られている。 表2には LMC 中間年齢星団中で主系列まで達した CMD を有する物を示す。 表には SWB III の若い星団と SWB VII の古い星団の幾つかも加えた。 文献 CMD に対しては δV と δR を測定して mTO と共に表に加えた。測定エラーは大体 ±0.15-0.25 mag である。 今回の星団サンプルに関しては表1にある星団の δT1 を 測定して表1に載せた。R と T1 バンドの類似性から、この値は δR とは 0.02 mag 以内で一致するはずである。

 δV と δR 

 NGC 2213 は R と T1 の双方で観測された。δR = 1.3 は δT1 = 1.2 と同じである。図3には V, R 観測のある 星団を使い、δV と δR を比較した。そこには今回の観測で δT1 と δR が決まった SL 842 と ESO 121-SC03 も加えた。最後に古い星団と分かっているものをテストするため、 銀河系の古い星団 Pyxis を加えた。

図4.δV とターンオフ V 等級との関係。SWB タイプが分かる物は 示した。三角= Bica et al. 1996 で SWB VII 星団とされたが、今回 中間年齢星団と分かったもの。。


さらにいくつかの銀河系散開星団も 加えてある。サンプル点の最小二乗フィットは

     δR = δT1 = 0.15 + 0.99 δV (3)



 図4= δV と VTO の関係 

 図4には δV と VTO の関係を示す。ターンオフ等級は 年齢の良い指標なので、δV, δR, δT1 も 年齢指標となる。図には SWB タイプも示してある。δV = [0.3, 1.2] ではその関係は2値になるので、扱い注意である。


 3.1.年齢 

 δT1 と年齢 

 δT1 と年齢の知れている星団が6個ある。それらは、
 名前 銀河 年齢(Gyr) δT1(mag)
NGC 2213 LMC 1.5 1.2
ESO121-SC03 LMC 9 3.0
NGC 1245 MW 1 0.5
Tombaugh2 MW 2 1.5
M67 MW 4 2.4
NGC 6791 MW 10 3.2

 図5にはこれらをプロットした。フィット式は

   t = 0.23 + 2.31δT1 - 1.80δT12 + 0.645δT13    (4)

で、不定性は 0.4 Gyr である。Janes, Phelps (1994) はこの式より精度が 悪い。式(4)で決めた年齢を表1に載せた。

 古い星団の発見はなかった 

 我々の興味深い結果は古い星団が見つからなかったことである。年齢が 決まったサンプル星団は全て中間年齢であった。図6 H7 は年齢 1.4 Gyr で サンプル年齢帯のほぼ中間、図7 SL 388 は 2.6 Gyr でサンプル中古い 方の縁にある。しかし、 SL 388 でも δT1 = 1.9 は ESO 121-SC03 に較べると 1 mag 小さい。




















図6.星団 H7 の CMD. δT1 = 1.1 である。星団中心から 100 ピクセル以内の星を全て示す。隣接の等面積フィールドの星数は 1/3 で、かつ主に主系列星である。 

図5.LMC, 銀河系の主系列測光が良くできていて年齢が正確な星団を使った、 δT1 の年齢較正。実線は3次式フィット。


図7.星団 SL 388 の CMD. δT1 = 1.9 である。星団中心から 75 ピクセル以内の星を全て示す。隣接の等面積フィールドの星数は 1/10 で、かつ主に主系列星である。 


 3.2.結合サンプルの年齢 

 文献 CMD の年齢 

 δV を δT1 に変換して、表2にある文献星団の 年齢も同じシステムで決定することができる。 δR はそのまま δT1 と同一視した。得られた年齢は表2の第11列に 示す。比較のために第10列には文献年齢を載せた。全体として両者の一致 はよい。しかし、フィッティングに用いる等時線モデルやフィット基準が 文献によって差があることを考えると、本研究の年齢セットはより一様で あると言える。

 星形成の暴発が t = 1.6 Gyr ピーク  

 図8には表1と表2に載った星団年齢を中間年齢(上)と 高年齢(下)に分けてヒストグラムで表した。仮に星団崩壊を考えない 事にすると、図から星形成の暴発が 3 Gyr 昔に開始され、 1.6 Gyr 昔に ピークに達したと看做せる。この図は t = 1 Gyr 付近では怪しいこと を注意する。

 t = 3 - 8 Gyr 星団の欠落 

 我々の結果は LMC では t = 3 - 8 Gyr の間星団形成が起きなかった ことを再確認する。この結果はフィールド星の星形成史とも一致する。 より古い星団の年齢分布に関してはサンプル数が少なすぎるが、ESO121SC03 と 他の高齢星団との間に明確な年齢差があることは確かである。

図8.表1と表2の星団の年齢分布。上:中間年齢星団。黒=文献から。 白=今回の測定。下:高齢星団。




 4.積分カラーへのストカスティック効果 

 対応 SWB タイプ 

 V = [10, 12.5] の明るい LMC 星団をガンシステムで測光して、 Searle et al 1980 は星団の SWB 帯を定義した。 Bica et al 1992 はこの系列を UBV 二色図上に変換し、SWB タイプの境界を定めた。 Bica et al 1996 は V = 14 の星団にまで対応 SWB タイプを定めた。

 ストカスティック効果 

 明るい星の星団の積分等級、カラーに対するストカスティック効果 について多くの研究がある。我々は、明るい星の数にポアッソンノイズが加わ ると UBV カラーにどう影響するかを数値実験した。その実験から、フィール ドの明るい主系列星と星団赤色巨星の先端部の星が影響大であることが わかった。結果を図9に示す。暗い SWB VI 星団が VII 領域に移ることは 十分に起こり得ることが判った。逆に Reticulum のように年齢が M3 と同じくらいの星団が SWB V 領域に見つかることもあり得る。

図9.図2a 積分二色図の拡大。点=LMC 星団。黒四角=基準高齢星団。 アステリスク=この論文で調べなかった高齢候補。白四角=本論文からの候補。 矢印=数個の明るい星が偶々加わった又は差し引かれた時の影響。 R = 上部赤色巨星枝星。B = フィールド主系列星。Y = 黄色の明るい星。 エラーバー=測光エラー。明るい星の加減とエラーにより、中年星団が SWB VII 領域にあることを説明できる。  


 5.議論 


図10.三角=中年星団と、丸=老齢星団の化学進化。低メタル中年星団 は黒三角にした。Olszewski et al 1991 の候補には名前を付けた。  

 Olszewski et al 1991 

 Olszewski et al 1991 は CaII 三重線からメタル量を決め、年齢を文献 から引いて、星団の化学進化を論じた。メタル量はよいが、年齢は様々な 方法で決められており、一様性に問題がある。今回の研究では新しい真正 の高齢星団こそ発見されなかったが、中年星団の数は 50 % 増しになった。 さらに、相対年齢が一様に得られた意義は大きい。

図11.メタル量 (Olszewski et al 1991)と年齢(本論文)の測定 がある星団の空間分布。三角=中年星団。丸=老齢星団。 黒三角=低メタル中年星団。バーを斜線で示す。  

 低メタル中年星団の意義 

 図10には LMC 星団の化学進化をプロットした。また、図11には 星団の空間位置を示した。新しい3星団 OHSC 33, SL 126, OHSC 37 は CaII 分光から [Fe/H] = -1 くらいであり、年齢は 1 - 3 Gyr である。 このメタある量は明らかに他の中年星団より低く,母分子雲が一般の 分子雲と異なるメタル量増加史を経てきたことを示す。注意すべきは ESO121-SC03 の [F/H] = -1 なことである。これは t = 9 - 3 Gyr の間平均メタル量を増加させるほどの星形成が行われなかったことを 示唆する。

 異なるメタル量星団の混在 

 図10では [Fe/H] = [-1.2, 0] 星団を二つに分けた。図11に示す それらの空間分布は入り乱れていてメタル勾配は存在しない。その理由 として以下のような説が考えられる。

(1)中年星団は 2 Gyr 程度の短期間に形成された。星形成が暴発的で非一様 なため、ある領域ではメタル量増加が他より短期間で起こった。

(2)LMC が化学的に良く混ざり合っていない。

(3)ランダム運動が激しいため、あちこちの異なるメタル量の分子雲が 一緒になる。



 6.結論 

 δ(T1) から年齢 

 LMC の高齢候補星団 25 個に対して CT1 測光を行い、 CMD を 作った。その内 23 個の δ(T1) から年齢を定めた。 δ(T1) と年齢の較正は年齢がよく決まっている LMC, MW 星団を用いた。

 高齢星団は見つからなかった 

 候補星団の年齢は 1 - 3 Gyr に分布し、高齢星団は見つからなかった。 これは、 LMC における 3 - 8 Gyr の星団年齢ギャップをさらに確認する 結果である。ただし、小さく、かつ混み合った領域にある NGC 1929 と NGC 1939 に関してはまだ可能性が残されている。中年星団が積分カラー二色図 上では高齢星団領域に入った原因としては、暗い星団中での明るい星のスト カスティックな出現の振る舞いが考えられる。  本研究で中年星団の数は 50 % も増えた。中年星団の形成が 3 Gyr 昔に開始 されたことが確かになった。
 低メタル中年星団 

 CaII 三重線の分光観測から [Fe/H] = -1.0 の比較的低メタルの星団は中年星団 であった。それらは年齢・メタル量図で、中年星団主要部より低いところにある。 それら、 SL 126, OHSC 33, OHSC 37 は LMC 円盤の縁の方にあり、そのあたりでは 母分子雲が円盤主要部と異なるメタル量増加史を経ていた可能性がある。

 高齢星団候補 

 深い CCD, RR Lyr の存在などから高齢が確定している 8 星団に加え、 NGC 1039, NGC 1982 は他の NGC 1754, NGC 1898, NFC 1916, NGC 2005, NGC 2019 と共に依然として高齢候補である。HST のような高空間分解能撮像が必要である。 Wielen 1988 は初期質量 500 Mo, 半径 1 pc 程度の小星団では溶解時間は 2 Gyr と推定した。暗く未観測の星団の中にはそのようなものがあるかも知れない。