通常は赤化のない、または赤化の小さい標準星を基準に減光を測るが、この 論文では、恒星大気モデルを星の固有 SED を与えるものとして扱う。この標準 星抜きの減光測定法は減光の測定精度を大きく上げ、かつエラーの評価を確実 にする。その上、この方法は赤化を受けている星自体の固有の性質を明らかに する。ただし、モデルの物理的制約の結果、この方法が適用可能なのは主系列上 か少しだけ進化した B-型星である。しかし、この方法は、原理的には、モデル SEDがあるどんなクラスの星にも適用可能である。 |
この標準星抜きの減光で次のことを明らかにする。 (1)局所空間で減光曲線の一様性を調べる。 (2)曲線の特徴の間の関係を調べる。 (3)低減光の視線から高精度の減光曲線を求める。 (4)星団内の減光を求める。 この方法を UV - IR データベースに適用して、星間グレインの性質に有益な制限 を掛ける。 (この方法だと、どんな固有スペクトル でも差を減光で説明できるのでは? ) |
2.1.ペア法ペア法
二つの星を同じ装置で観測する場合の利点は装置等級をそのまま使用できる ことにある。しかし、欠点が二つある。一つは赤化ゼロの標準星は少なく スペクトル型がとびとびになることである。このため不適合な組み合わせが 避けられない。二つ目は赤化ゼロと言える早期型星が少ないことである。 このため減光の修正を行うがエラーを生む。 スペクトル型不適合の影響 図1は不適合が減光曲線にどんな影響を持つかを示す。スペクトル型不適合 は O-型星ではより深刻である。赤化の小さな O-型星は殆どないので、 スペクトル型不適合な組み合わせで減光を決めるしかない。さらに進化の進んだ 明るい星は問題がより大きい。 |
![]() 図1.ペア法でスペクトルに ±(1/2) のスペクトル型の間違いが生み 出す減光曲線の変化。実線=正しい組み合わせ。間違いが ±(1/2) の 時、破線は E(B-V) = 0.30, 一点鎖線は E(B-V) = 0.15 で得た減光曲線。 UV 領域では分光測光観測から詳細な減光曲線が得られる。ミスマッチ線の 可視・赤外への延長は点線で示す。(1/λ) = 2.7 はバルマージャンプ、 (1/λ) = 8.2 は Lyα 線による。 |
Whiteoak 1966 は可視域分光測光の解析に固有 SED をモデル化して 用いた。利点はスペクトル型不適合がなくなることである。この方法 は精度がはっきり分かったモデルのセットが必要である。また、観測星 の赤化の影響がない情報が観測星の固有スペクトルを求める上で必要である。 | Fitzpatrick, Massa (1999) は ATLAS9 モデルが、主系列に近い B-型星に対して UV, opt の信頼できる SED を与えることを確認した。 Fitzpatrick, Massa (2005a) はヒッパルコスデータを用いて、可視、NIR 測光の再較正を行った。 |
フィット fλ = Fλθ R210-0.4E(B-V)[k(λ-V)+Rv] (10) をフィットする。サンプル星は軽い減光を受けているので k(λ-V) と Rv の双方に平均銀河減光曲線を使用する。Fλ に ATLAS9 大気モデルを使う。このフィットのパラメタ―は6個ある:Teff, log g, [M/H], vturb, E(B-V), θR である。 フィットのソフトは IDL 内の Markwardt の MPFIT である。 |
フィットの悪化 E(B-V) ≥ 0.05 になるとフィットが悪くなる。これは視線方向毎に 減光曲線が異なっていて、減光が大きくなると他のパラメタ―で カバーし切れなくなるからである。したがって、減光曲線を変更可能に しなくてはならない。 |
可変型減光曲線 図2に可変型減光曲線を示す。それは(1).紫外減光(λ≤2700A) Fitzpatrick, Massa 1990 の表式を採用、と (2).可視から赤外(λ>2700A) の錨点を3次スプライン内挿式 で表したものから成る。それらは IR(I1, I2, I3, I4), 可視 (O1, O2,O3), 紫外 (U1,U2)である。 内挿式を使用した理由はこの区間では信頼できる減光の表式が得られなかった からである。データが集積し、減光曲線の特徴間の相関が見つかれば 特性化が可能になるかも知れない。 紫外部の表式 図2の点直線は Fitzpatrick, Massa 1990 の表式中の直線部を現し、 二つのパラメタ―を含む。 2175 コブはドルーデ型 D(x, xo, γ) プロファイルで表される。これは、コブ中心位置 xo, コブ幅 γ, コブ強度 c3 で指定される。最後に、遠紫外の立ち上がりは立ち上がり強度 c4 のみで指定される。その結果は、x = 1/&lambda: として、 k(λ-V) = c1 + c2x + c3 D(x,x0,γ) + c4F(x) 可視ー近赤外 スプライン内挿の10点は IUE スペクトル中 λ > 2700 A 部分 の分光測光値と可視、近赤外測光値に最少二乗フィットを行って決める。 U1,U2 は Fitzpatrick, Massa 1990 の UV 減光曲線 の λ = 2700, 2600 A での値なので固定されている。 O1, O2, O3, O4 は λ = 3300, 4000, 5530, 7000 A での測光値である。この区間には V バンドで k(λ-V)=0, B バンドで k(λ-V)=1 という制約が掛かる。近赤外 での I1, I2, I3, I4 は 1/λ = 0.25, 0.5, 0.75, 1.0 で、これら4点は次の式でフィットする。 In = k(λ-V) = kIRλn-1.84 - Rv |
![]() 図2.可変型減光曲線。実線=紫外減光(λ≤2700A) は3パラメタ― (Fitzpatrick, Massa 1990)で表現される。 破線=可視から赤外 (λ>2700A) は錨点を3次スプライン内挿式で表す。それらは IR(I1, I2, I3, I4), 可視 (O1, O2, O3, O4), 紫外 (U1,U2)である。 このべき乗則指数 1.84 は Martin, Whittet 1990 から得たものである。この指数 自体はフリーパラメタ―として扱うべきであろう。将来の課題である。 結局この区間ではフリーパラメタ―は可視域で2個、赤外で2個の計4個である。 |
3.3.恒星表面でのフラックス恒星表面でのフラックスは ATLAS9 から得る。そのパラメタ―は Teff, log g, [M/H], vturb である。Fitzpatrick, Massa 1999, Fitzpatrick, Massa (2005a) はこのモデルが減光ゼロまたは弱い減光を受けた B-型星の固有フラックス を良く表現していることを確認した。 |
3.4.まとめこうして、赤化を受けた、主系列に近い B-型星の SED を (10) 式でフィット して、赤化星の物理パラメタ―と減光曲線の双方を得ることが出来る。 フィットのパラメタ―は 16 個ある。それらは、θR, E(B-V), Fλ を決める4パラメタ―、減光曲線を決める10個の パラメタ―(紫外6、可視赤外4)である。 |
![]() 図3.散開星団 IC 4665 内の軽度に赤化を受けた B-型星9個の SED フィット。 黒丸=ジョンソンUBVRI、黒三角=ストレームグレン uvb、黒菱形=ジュネーブ UB1B2VV1G 測光。赤外の白丸=ジョンソン JHK、黒丸=2MASS JHK. |
![]() 図4.散開星団 IC 4665 のフィットから得られた減光曲線。星団星の赤化は E(B-V) = 0.14 - 0.25 に亘る。シンボルは図3に同じ。実線=ベストフィット。 灰色帯=モンテカルロ計算で決めた 1&igma; 不確定巾。一点鎖線=平均減光 曲線 (Rv = 3.1)。2MASS と ジョンソン間の明らかなズレのため、近赤外減光は 標準曲線をそのまま使用した。一番上に9個の星団星の平均減光曲線を示す。 UVでのエラーバーはサンプル標準偏差だが、これは個々の減光曲線に付いた 1σ エラーと同程度で、すなわち星団内の減光曲線は観測精度内で一様と 言える。 |
SED フィットの結果 図3に IC 4665 内の B-型星に対する SED フィットの結果を示す。 図4には我々の標準星無し法で求めた減光曲線を Hackwell et al 1991 がペア法で決めた減光曲線と較べた。フィットで決まったパラメタ―を表1,2 に示す。 星団星減光曲線の比較 図5には今回得た減光曲線を Hackwell, Hecht, Tapia 1991 と較べた。 HHT 1991 の曲線のばらつきは当然きたされる程度である。驚くべきは標準星なし 法の結果の一致の良さである。この方法による減光曲線の散らばりは個々の減光 曲線の不確定性と同程度である。したがって、星同士の間の曲線の差はもしあった としても非常に小さいらしい。 減光パラメタ―の散らばり 表3に IC 4665 の平均減光曲線パラメターとその散らばりを示す。第2列に パラメタ―の重み付き平均、第3列はそれらのサンプル偏差を載せた。第4列は モンテカルロ計算に基づいた個々の減光曲線パラメターに対する誤差を示した。 第3列の散らばりは個々のサンプルの誤差の二乗和から期待される値である。 これは、星団内の減光曲線に違いがあったとしても、我々の決定精度以下である ことを示す。 |
![]() 図5.散開星団 IC 4665 の減光曲線の比較。上:標準星なし法。下: ペア法(Hackwell, Hecht, Tapia 1991)。一点鎖線=標準減光曲線。 |
遠紫外の立ち上がり 遠紫外の立ち上がりはもっと興味のある問題である。図4,5と表3第5列から c4 が大きなサンプル間散らばりを示し、その原因が低温度 B-型星 HD 161165, 161184 にあることが明らかである。 [M/H] ? 表1を見ると、星団星の [M/H] は平均 -0.5, 標準偏差 0.04 と一様な分布を 示す。ここで [M/H] は太陽組成を一様にスケールしたことを意味する。 Fitzpatrick, Massa 1999 は我々のフィッティングで最も効くのは Fe 量で、 したがって、フィットから決まる [M/H] は実際には [Fe/H] に近いことを 示した。これは Fe が中間紫外で強い吸光を示すからである。ATLAS9 モデル の Fe 組成は現在採用されている太陽値 7.45 (H が 12.00)より 0.2 dex 大きい。我々の結果は IC 4665 の Fe 量が太陽の約半分 [Fe/H] = -0.3 で あることを述べている。 |
軽元素の見積もり2016/05/21 16:13:56 我々は [M/H] をより太陽に近い値にして数値実験を行い次の結果を得た: (i) 中間紫外の Fe 吸収が合わなくなるので χ2 増加。 (ii) 大抵の減光曲線はあまり変わらないが、HD 161165, 161184 の変異は 大きく減少した。 (i) は予想通りだが、(ii) は驚きであるが理解できる。もし星団星の軽元素 と Fe の比が太陽と同じでなく、例えば、[C/Fe] > 0 であったら、我々の ベストフィットモデルは Fe 量にバイアスがかかる結果、軽元素の吸収を 少なく見積もる。低温度星では軽元素の遠紫外での吸光が強くなるため、 それを強い遠紫外減光として解釈してしまうのだろう。 |
![]() 図6.穏やかな赤化を受けた9つの B-型星のフィット。 |
![]() 図7.実線=図6でフィットした穏やかな赤化星の減光曲線。点線=ペア法で 決めた減光曲線。E(B-V) は 0.36 - 1.08 である。 |
Upper Scorpius Complex サンプル星は全て アッパーさそり座複合 (Garrison 1967) に属する、 中間-晩期 B-型星である。これ等の星は手法のテスト中に偶々巡り合った のであるが、この特別な領域の減光曲線は互いに似ているが、銀河系平均 曲線からは外れている。 注意点1 注目したいのは、サンプル星のスペクトル型が B2.5 - B9 と広い範囲に亘って おり、減光曲線の特異星がサンプル星のスペクトル型によるものでないことを 示唆している。 ![]() 図8.低赤化を受ける9個の B-型星のフィット。l = [347, 355], b = [18, 26] |
注意点2 注意点の2はこの領域が ρ Oph 暗黒雲に近いことである。 ρ Oph = HD 147933 は図7に載っているが、この領域のすぐ南にある 星である。この星の減光曲線と領域星の平均減光曲線を図9の一番上で 比較した。面白いことに、紫外では似ているが赤外でずれる。領域星の 2MASS JHK データは Rv = 3.4 を示唆するが、HD 147933 は Rv = 4.3 となる。 ![]() 図9.低赤化星の減光曲線。E(B-V) = [0.09, 0.22]. 一番上の平均減光曲線図 に点線= HD 147933 (l, b) = (353.7, 17.7) E(B-V) = 0.50 を比較のため示す。 |