B-型と早期 A-型星の UBV, ストレームグレン uvby, ジュネーブ、ジョンソン RIJHK, 2MASS 測光の新しい較正を クルツの ATLAS8 を用いて行った。サンプル星は近傍の B-, 早期 A-型星で、高精度の低分散 IUE スペクトルとヒッパルコス視差の揃ったものを 45 個選んだ。 | 較正が独自なのは、これが UV SED, V フィルターの絶対フラックス較正、ヒッパルコス 視差だけから、観測星の大気モデルを決めている点である。これらのモデルから合成測光 の較正を行った。結果をこれまでに受け入れられている値と較べ、ランダムエラーと 系統誤差を議論した。特に、 v sin i が表面重力に及ぼす効果をモデル大気のフィット から示した。 |
観測スペクトルのフィット k(λ-V) = E(λ-V)/E(B-V) Rv = Av/E(B-V) A(λ)/E(B-V) = k(λ-V) + Rv Fλ = 表面フラックス、R = 星半径、d = 距離 として、 fλ = Fλ(R/d)2 10-0.4E(B-V)[k(λ-V) + Rv] (1) 観測フラックス fλ は IUE (1165 - 3000 A) と V 等級である。 Fλ には ATLAS9 モデルを使用した。このモデルのパラメタ― は、Teff, log g, [m/H], vturb の4つである。減光はあったとしても 弱いので、とりあえず標準型 Fitzpatick 1999 の Rv = 3.1 を採用した。ここでの 減光則の違いは大きな影響は及ぼさない。これらの仮定に基づいて、fλ へのフィットから6つのパラメタ―、Teff, log g, [m/H], vturb, (R/d)2, E(B-V) を決めた。 フィットからは log g がよく決まらない。 フィットの結果、 Teff, [m/H], vturb には強い制約が掛かった。 しかし、log g はよく決まらない。通常ならば、バルマー線のシュタルク効果 による線巾の拡大を調べると log g が決まる。しかし、そのようなデータが 得られていなかったので、その代りにヒッパルコスからの距離 d を用いる。 すると、式1へのフィットで R が決まる。主系列星の星構造モデルは、星の Teff と R が表面重力を一意に決めることを示している。これは図1に示されて いる通りである。こうして、d を用いることで、Teff, [m/H], vturb, R, E(B-V) の 5 パラメタ―で SED をフィットすることが可能である。それから、 log g = log g(Teff, R) の形で g を決める。 ただし、星の内部構造モデルで 決まる表面重力は "ニュートン" 重力 g(Newton) = GM/R2 である。 回転効果を近似的に組み込むため、"分光"重力 g(Spec) = g(Newton) - (v sin i) 2/R を考える。この補正重力を適切な ATALS9 モデルを選ぶために 使用する。 結局 こうして、 UV スペクトル、V 等級、 v sin i, d から5個のフィット パラメタ―と g(Spec) を決めた。 |
![]() 図1.Bressan et al 1993 モデル log R/Ro - log Teff 図。太い実線= ZAMS. 細い実線=進化軌跡。点線= GM/R2 一定線。黒丸=観測星。 |
3.1.観測観測星観測星は正常で、非超巨星、非輝線星、低減光 E(B-V) ≤ 0.03、 の A, B 型星で IUE 低分散スペクトルとヒッパルコス視差 10 % 以下の 星が選ばれた。それらを表1に示す。 測光データ 表2にはジョンソン UBVRIJHK とストレームグレン uvbyβ 測光を、 表3にはジュネーブカラー指数、表4に 2MASS 等級を載せた。 ![]() 表3.ジュネーブ測光 |
3.2.モデルモデルは Kurucz 1991 の ATLS9 モデル大気コードで計算した。![]() 表4.2MASS 測光 |
1.V mag : 1σ = ±0.015 mag 2.v sin i : 1σ = 10 % 3.IUE スペクトルのゼロ点: 例えば 2.7 - 3.7 % 4.d : 1σ = 表1にある 5.Rv : 1σ = ±0.4 mag |
各星に対し、それらの誤差を計算して MPFIT Markwardt http://astrog.physics.wisc.edu/~craigm/idl/idl.html によって、100 回のモンテカルロフィットを計算した。 他に、log g を与える星の内部構造モデル、ATLAS9 大気モデルが含む誤差 がある。内部構造モデルはジュネーブグリッド Schaller et al 1992 に基づく 解析をパドヴァモデルと並行して行い比べた。その差は無視できる程度であった。 ATLAS9 の誤差はこの論文の範囲を超えるので考えない。こうして得た結果を 表5に示す。ベガ HD172167 に対して、 Teff = 9549±41 K, log g = 3.96±0.01, [m/H] = -0.51±0.07, が得られた。 |
表6=フィルター感度曲線 モデル SED を得たので、次に合成等級を計算する。そのためのフィルター 感度曲線を表6に示す。非較正合成測光はモデル SED とフィルター感度曲線 の掛け合わせを積分して得られる。 β 指数 β 指数は Hβ 線 4861 A を中央にした中間帯域 FWHM = 90 - 150 A 測光と狭帯域 FWHM = 15 - 35 A 測光の等級差である。様々な組み合わせで 実験した結果、標準システムに変換するとどの組み合わせも同じ値を出すことが 分かった。我々は、ガウシャン型で FWHM = 90, 15 A の組み合わせを使用した。 これは Crawford 1958 が使用したもので、変換が線形で使いやすい。 図3にその感度曲線を示す。 SYNSPEC ATLAS9 SED は 20 A 巾で区切ったので β フィルターの合成測光は出来ない。 そこで、 Hubeny, Lanz 2000 の SYNSPEC プログラムを使って、 0.1 A 間隔の スペクトルを 400 A 区間で計算した。このスペクトルを用いて合成測光を行った。 ![]() 表6.フィルター透過曲線のソース |
![]() 図3.太い実線= 中帯域 β フィルター, FWHM = 90 A, の等価曲線。 一点鎖線= 狭帯域 β フィルター, FWHM = 15 A, の等価曲線。 細い実線= B-型線、 Teff = 15,000 K, log g = 4, [m/H] = 0.0, vturb = 2 km/s, のモデルスペクトル。β 指数=二つのフィルターでの等級間の差。 |
![]() 図4.ジョンソンシステムの色指数間のフィルター較正関係。縦軸=観測色指数。 横軸=非較正の合成色指数。全枠について、実線は勾配1で平均差だけずらした 近似直線である。(B-V) に対してはこの近似で十分であるが、他の色指数は破線 で示した線形近似式が必要である。数式は略。二重丸の星は高速回転星。 ![]() 図6.ジュネーブシステムの色指数。 |
![]() 図5.図4と同じプロットをストレームグレン色指数に対して行った。 m1 は勾配1だが、他の指数の勾配は1でない。 ![]() 図7.ジョンソン J, H, K システムの色指数。 |
合成測光と観測の比較 合成測光の最終段階は合成等級及び色指数と観測等級及び色指数との関係 を決定することである。図4−図7はそれをジョンソン、ストレームグレン、 ジュネーブシステムで行った結果である。図8には 2MASS 等級の比較を行った。 全体として 図4−8までの結果から、 ATLAS9 モデルによる合成測光の振る舞いは 正常で、標準測光系に容易に変換できることが判った。 |
![]() 図8.2MASS システムの観測と非較正合成測光との関係。 |
図4−8には合成等級の変換式が(略したが)記されている。しかし、それは 合成等級計算の仕方に依るのであまり読者の役に立たない。もっと有用なのは 実際の合成色指数自体である。表8−11には合成測光を図4−8の変換式で 構成した等級と色指数を示した。全体は電子版で入手可能である。 | モデルは Teff = 9000 - 50,000 K, log g = 5 - エディントン限界、 [m/H] = -1.5, -1.0, -0.5, 0.0, 0.5, vturb = 0, 1, 2, 4, 8 km/s について計算した。総数は 8847 個である。 |
研究目的 我々の目的は ATLAS9 モデルグリッドの合成測光値を較正し、 UV 連続光と 可視測光等級から、星の性質と視線方向の減光強度を導くことである。 較正を行う際に、ヒッパルコスデータと恒星の構造モデルからの制約を 課した。 3つの問題 構成の結果次の問題が生じた。 (1).フィットと導いた星の物理量は合理的か? (2).星のパラメタ―はよく決まっているか? (3).ヒッパルコスデータがない場合にベストフィットをどう決めるか? |
解答 最初の問題に答えるため、我々が導いた星の諸量を現在受け入れられている 値と比較する。第2の問題に関してはエラーの評価が大事である。第3の問題は UV と 可視測光のみから星の物理量を導く必要がある。 |
7.1.以前の結果との比較Teff とスペクトル型の比較図9には Teff とスペクトル型の関係を示す。ζ Cen(HD121263) = B2.5IV のみが他から外れている。しかし、UVスペクトルは B1V 星 HD31726 と似て おり、逆に他の B2V 星と異なるので、分類が悪いのかも知れない。図9には 他の研究結果も載せたが、我々の結果はそれらと一致する。 ストレームグレン測光との比較 A-型と B-型星の Teff と log g を導く通常の方法は、ストレームグレン uvby 測光である。しかし、測光から [m/H] と vturb を B-型星に 対して求めるのは難しい。我々は Napiwotzki の uvby 法に従って、 Teff と log g を求め、それを我々の方法で求めた値と図10で比較した。 極めて良い一致が得られた。図10の Teff と log g を決める二つの方法で 入力されたデータは完全に独立であることを強調したい。ただ、どちらも ATLAS9 を基礎においているが。 ![]() 図9.丸=観測星。折れ線=様々な研究による Teff とスペクトル型の関係。 見易さのため、小さなランダム横ずれを加えた。 |
[m/H] Fitzpatrick, Massa (1999) が指摘したように、UV 連続光から導くメタル量 は主に鉄グループの元素量である。Smith, Dworetsky 1993 の高分散 IUE スペクトルの解析結果と較べると、最大、最小メタル量も一致していて 有望である。 ( でも値は違っているんじゃないかな?) vturb Smith, Dworetsky 1993 は vturb の測定結果も示している。しかし 彼らの結果と我々の結果に相関はなかった。我々の得た結果が誤差を僅かに上回る レベルなのでこの結果は当然でもある。 視角 Hanbury Brown et al 1974 は我々の星の内、γ Gem, α Leo, α Lyr の3つの視直径を 1.39, 1.37, 3.24 mas と定めた。表5の値 から我々の得た視直径は 1.43, 1.39, 3.28 mas である。 7.2.エラー![]() 図11.log g 決定の系統的効果。上図:[log g(Newton) - log g(ubvy)] と v sin i との関係。下図:g(Newton を g(Spec) に変えると系統誤差が消える。 |
IUE UV 分光測光観測、V 等級、ヒッパルコス距離を用いて、 ATLAS9 モデル 大気の合成可視・赤外測光を較正した。その結果得られた合成等級の較正値は UV - NIR で整合性を示す。また、 β 測光のような分光的に決めた log g は v sin i >e; 200 km/s では系統的にニュ―トン重力 GM/R2 より低い。 有用な応用として、 1.無赤化星の大規模な研究 赤化がないか非常に低い、早期 A-型星と B-型星でヒッパルコス距離が与え られ、高精度 IUE データと可視測光があるものは 150 くらいである。この サンプルは、星の物理的性質の間の系統的な効果を調べるのに使える。この研究は もっと高温の星へも拡張可能である。特に vturb が均等に分布した 大きなサンプルは乱流が Teff, log g, 質量放出、 v sin i に及ぼす効果を 調べるのに向いている。 2.UV赤化 モデルは固有恒星連続光を与えるので、主観的に固有スペクトルを考える ことなく、UV 減光を決められる。 Fitzpatrick, Massa (1999) はこの手法による減光曲線の例を示した。 |
3.散開星団 Fitzpatrick, Massa (1990) は B-型星を含む散開星団を5個示した。星団 B-型星にフィッティングを行うことで、(a).UV-減光の一様性を小スケールで精密に 調べられる。(b). Rv を決められる。(c). 星団星の固有連続光が決まる。 (d).メタル量を決められる。(e).HR図に必要な Teff と log g が精密に決まる。 4.メタル量分布 IUE スペクトルのある主系列 B-型星と A-型星のメタル量が決まるので、 フィールド B-, A-型星のメタル量分布が分かる。 5.極紫外のフラックス FUSE 衛星による極紫外データを用い、豊富な金属線を解釈するには 赤化量が分かっている必要がある。 |