The Distribution of HII Regions in the Local Spiral Arm in the Direction of Cygnus 


Dickel, Wendker, Bieritz
1970 IAU Symp 38, 213 - 218




 アブストラクト 

 シグナス X 複合中の可視星雲の形と方向は局所腕内に対称性が存在すること を示唆する。その対称性は渦状腕内の局所磁場の構造と関連するのであろう。 我々はシグナスX複合内の星雲 90 個の距離を、星間減光強度を用いて、定めた。  星間減光の値は可視光と電波との強度比から決定した。明るい星雲は 1.5 kpc の距離に集中する。星雲までの距離は全体で 1 kpc から 4 kpc に亘る。星雲の 3次元分布に局所腕モデルをフィットした。


 1.イントロダクション 

 シグナスX領域は l = [70, 90], b = [-8, 8] に区切られている。この領域 内の可視星雲はその西側に多い。 Dickel, Wendker, Bieritz (1969) は 169 個の星雲をカタログ化した。   研究の方向は、(1)見かけ形状と方向を調べる。(2)距離を決める。 距離の決定には星雲が受ける星間減光を輝線強度と電波連続光強度の比から決め、 星から決めた減光・距離関係を適用した。


 2.星雲の形と方向 

 可視光フィラメントはダスト吸収? 

 明るい IC 1318 にはそれに加えて多数の細いフィラメントが存在する。星雲の 興味深い特徴はカタログ化された内 75 % は軸比が 1/2 以下で細長いことで ある。図1を見ると銀緯が上がると軸比が下がって行くことが判る。注意するが、 この可視光で見られる細長さは電波では見られない。可視光と電波とでは主要部 は重なっているのだが、放射ピークはあまりよく重ならない。これは HIIR の 可視光での見かけ形状が吸収物質によって強く支配されていることを示す。 従って、可視光構造の見かけ方向を調べることは、おそらくダストレーンの方向 を調べるということなのだろう。

 フィラメント方向の可能な説明 

(i) 短軸方向の分布はランダム。
(ii) 短軸方向は銀河面と直交する向きの ±30° 以内に分布。
(iii) 短軸方向は渦状腕見かけ中心からの動径ベクトルと ±30° 以内に揃う。この論文では Cyg OB2 中心を腕中心と仮定する。
(iv) 短軸の方向は実際に Cug OB2 と関連する。
(iv) はありそうにない。星雲は一つのアソシエイションで励起するにはあまりに "strung out" しているからである。

図1.星雲の軸比と銀経の関係



図2.腕の中心(Cyg OB2 と仮定)からの動径ベクトルと星雲の長軸とのなす角度 の分布。

 図2= Cyg OB2 中心からの動径ベクトルとなす角度分布 

 図2は Cyg OB2 中心からの動径ベクトルとなす角度を 20° 帯区分で ヒストグラムとしたものである。χ2 テストから星雲の方向は ランダムではないという結論が得られた。

 図3= 

 図3には、腕の中心からの動径ベクトルの方位角を 20° 巾の区間に分け、 各区間内の星雲数を数えた。χ2 テストの結果は、

 方位角= 70° は自然な分割角に見える。方位角が 70° 以下では、 軸の向きがランダムである。一方 70° 以上では、ほぼ動径方向に向きが 揃う。大きく見えて近距離の、例えば IC 1318 a, b, c のような、星雲は、 位置角が 70° 以下である。整列が最も著しいのは位置角 100 - 130 で、 これは腕が銀河面の上方に傾いていると考えると納得できる。

図3.Cyg OB2 アソシエイションを回る位置角帯

 外側フィラメントのリング 

 Struve 1957 もまた Cyg X 複合を取り巻いて見えるフィラメントの輪について 述べた。 Dickel, Wendker, Bieritz (1969) の図4を見よ。再び χ2 テストを行った結果、星雲の方向が ランダムでなく腕の中心方向に対して向きが揃っていることが判った。ここでは、 吸収帯でなく星雲の形状自体の向きが揃っているようだ。

 渦状腕磁場 

 結論として、可視光星雲の向きは渦状腕の螺旋状磁場構造による減光ダスト の流れと関係しているのかも知れない。我々が見出した整列は Hiltner 1951 が 星の偏光に見出した振動と似ている。


 3.星雲距離と局所腕 

 局所腕の太陽付近の形を円筒で近似すると、腕の中心線は l = 0 線に対して 77° の角度を持つ直線で表される。この簡単なオリオン腕モデルは太陽から 0.5 - 4 kpc の範囲で良い近似である。我々は多くのモデルを試し、最良の パラメタ―を選んだ。図4にこのモデルを図示する。

 (1)ピッチ角=銀河中心方向線と円筒中心線とが成す角度
        = 75 - 80°。ベストは 77°

  (2)円盤に対する傾き角は 2° 以下でベスト値は 1°.
    腕を円盤に平行にして上方に置いても好転しない。

  (3)太陽は腕の内側縁、中心から端までの約 8/10、にある。

  (4)半径は 0.15 pc より大きく、0.4 kpc よりはずっと小さい。
    ベスト半径は 0.2 kpc.

  (5)円筒断面の副軸対主軸比は 0.5 より大きく 1 に近い。

 

図4.オリオン局所腕のベストフィットモデル


 4.結論 

 オリオン腕内の可視光星雲と星間減光物質とのフィラメンタリー構造は 腕内の局所磁場構造に関係する対称性を示唆する。シグナスX星雲までの 距離の予備的研究から、表面輝度分布、電波観測の分解能等、観測結果をさら に精密にすればシグナス星雲までの距離を十分の数 kpc 精度で決められる ことを示唆する。  これ等のデータに渦状腕モデルをフィットすることで、電離ガスにより 局所腕を定義する可能性がある。こうして、星雲の可視光、電波観測データ を星の色超過、そしておそらく偏光、視線速度データと結合して、局所腕 の空間構造を明らかにできるだろう。