VLT Spectroscopy of Blue Supergiants in IC 1613


Bresolin, Urbaneja, Gieren, Pietrzynski, Kudriyzki
2007 ApJ 671, 2028 - 2039




 アブストラクト

 IC 1613 中の若い大質量星の多体分光の結果を示す。54 の O-,B-,A- 星を分光分類した結果をカタログにした。測光で選んだサンプルの大部分は B-, A-型超巨星であった。残りには早期 O-型矮星とこの銀河で唯一のウォルフ ライエ星が含まれる。
 早期 B-型星の中には偶然 6 個の Be 型星があった。マゼランより 遠いこのタイプの銀河の中では最大のサンプルである。早期 B-型超巨星 9 個の化学組成を測り、12 + log(O/H) = 7.0±0.08 という結果を得た。この値は我々が二つの HIIR の温度に鋭敏な [OIII] λ4363 から得た結論と一致する。

 1.イントロ 

IC 1613 での星形成
 IC 1613 は M31 副集団に属する不規則矮小銀河である。距離は 721 kpc。 中間年齢種族星の測光から [Fe/H] = -1.3 が、HIIR 分光からは 12 + log(O/H) = 7.7 が得られている。
 現在の星形成は IC 1613 幾何学中心から 1 kpc NE に外れている。そこは HI のピークにあたる。HIIR 複合体と OB アソシエイションが存在する。

 分光観測 
 この論文では V < 20.0 の O-,B-,A-型星 54 個の VLT 3 - 5 A 分解能分光結果を報告する。



図1.CFHT/MegaPrime のIC1613像。丸=フィールドA, 四角=B, 三角=C の星。

 2.観測 

 観測星の選択 
 ラスカンパナスのワルシャワ 1.3 m 望遠鏡(OCLE-II)で V, I 画像 を撮り、青色超巨星を選んだ。対象星は V < 20, (V-I) < 0.4 の星をできる限りという方針である。図1には観測星の位置を、 図2の色等級図上に分光観測を 行った星をプロットした。

 分光観測装置 
 分光観測は VLT Unit4 の Focal Reducer + 低分散分光器(FORS2) で行った。データ取得は 6′.8 × 6′.8 視野に 19 本のスリットを切って行った。波長域は 3600 - 5000 A, 分解能 3 A. 観測は3つの FORS2 フィールド A, B, C で行われた。

 フィールド A  
 IC 1613 の NE にあり、若い星と HIIR の大部分がこの領域に 存在する。

 フィールド B 
 中央部のバー状構造をカバーする。このバーは IC 1613 の SE から NW に向かって走る。

 フィールド C 
 上記二つの主構造の西をカバーする。

図2.色等級図上での対象星の位置。フィールドごとのシンボルは図1と同じ。


 3.スペクトルカタログ 

 早期型星分類の参考文献 
 銀河の早期型星の分類を行う方法については、WLM(Bresolin et al 2006), NGC 3109(Evans et al 2007) で詳説した。ここでは、B-型星は Lennon 1997 に、 A-型超巨星は Evans,Howarth 2003 に従った。O-型星の分類は Wakborn et al 1971, Walborn, Fitzpatrick 1990, Walborn 2000 に基づいている。B-, A-型星の光度 クラスは Hγ 線の等値巾で決めた (Azzopardi 1987)

 この論文の 57 星の分類 
 この論文での 57 星の分類結果は表1の第6列に載せた。第7列には A-型星 分類に使う Ca II K/(Ca II H + Hε) 第8列には Hγ等値巾を 載せた。図3−図8は、青領域規格化スペクトル、3750 - 5000 A、を O-型から G-型へと示した。輝線星のスペクトルは図9、10に示す。

 天体別コメント 
 天体の等級、固有カラ―を導くには、DM = 24.291, E(B-V) = 0.090 を 仮定した。個別コメントは省略する。

図3.O-, B0-型星の規格化スペクトル。  



図4.B1 - B1.5 星。  

図5. B1.5 - B5 星。  



図6.B5 - B9 星。  

図7.A0 - A3 星。  



図8.A3 - G2 星。  

図9.Hα 線強度の順に並べた Be-星の規格化スペクトル。点線は Fe II ライン。





図10.ウォルフライエ星 WO3 星 B17 のスペクトル




表3.B-型超巨星の物理パラメタ―。

 4.B-型超巨星の化学組成 

 大気モデルフィットの結果 
 S/N が最高の B-型超巨星 9 個のスペクトルを FASTWIND でフィットし、 メタル量を調べた。結果は表3に示す。 C, N, O, Mg, Si 組成を、

     εX = 12 + log(X/H)

の形で示した。


図11.黒線=観測。赤線= "FASTWIND" モデル。3850 - 4450 A での比較。
 モデルフィットの例 
 図11と図12には我々の観測スペクトルとモデルフィットとを重ねて 表示した。図13は B2 Iab 星 A7 と FASTWIND モデルを 4300 A - 4700 A で比べた。中央がベストフィット、εX = 7.85 の モデル。上は +0.2 dex, 下は -0.2 dex のモデルである。




図12.黒線=観測。赤線= "FASTWIND" モデル。4450 - 5065 A での比較。



図13.実線= A7(B2 Iab 星)観測。点線= FASTWIND モデル。


図14.HIIR S3(上)と S17 (下)のスペクトル。

 6.まとめ 

 多スリット分光 
 IC 1613 の OBA 型星 54 個の多スリット分光を行った。その大部分は B-, A-超巨星であった。残りは O-型矮星とただ一つ知られている WR 星 である。早期 B-型星の中から 6 個の Be 星を見出した。これは MCs の 先としては最大の Be 星サンプルである。

 前景星 
 3星の視線速度は銀河と一致せず、MW G-型星 2 個 と ハロー A 型星と 分かった。
 化学組成 
 9つの B-型超巨星から求めた組成は、平均値 εX = 7.90 ±0.08 であった。二つの HIIR [O III] λ4363 からの εX = 7.73±0.04 と合致する結果である。



表1.観測星リスト。