M 31 内側円盤での観測 WFC3/HST 中帯域近赤外測光を AGB 星近赤外モデルスペクトルと組み合わせ、 AGB 星を M-型と C-型に効率よく分けた。この方法を M 31 内側円盤でテストし、 M 31 他領域での観測に反して驚くほどに C-星が欠乏していることを見出した。 我々はそこにただ一個の炭素星とやや不確かな6個の候補星しか見出さなかった。 C/M 比 C-型星と M-型星の比、 C/M = (3.3+20-0.1) × 10-4 は M 31 の他領域での値に比べ、一桁から二桁小さい。この 小ささは内側円盤のメタル量が大きいために C/M > 1 になることが妨げられ るからであろう。 |
この観測は高メタル AGB 星の進化モデルに強い制限をつけ、あるメタル量以上では 炭素星への変換が起きないことを示唆する。これは AGB 星の質量放出に劇的な変化を もたらし、ダスト形成に影響し、最終的には高メタル銀河の全体的な性質に 影響するだろう。 |
これまでの観測 Stephens et al 2003 NICMOS で(J - K) が非常に赤い星を発見。LPV であろう。 それらが、M-型か C-型かには触れず。 Davidge et al 2005 地上望遠鏡 + AO。赤い星を C-型星候補。 多数の C-型星が存在するのではないか?それはバルジに C-星が発見 されていないことに反する。 WFC3/HST 波長 1.6 μm まで感じる。5 Mpc までの銀河内の AGB 星を観測可能。 広帯域フィルターでは C/M 分離は無理だが、中間帯域フィルターなら分離 可能である。 Davidge et al 2005 のフィールドを観測した。彼の予想では 700 C-星が あるはずだが一つもなかった。 |
![]() 図1.Groenewegen 2006, Battinelli, Demers 2005 による C/M 対メタル量関係。 Brewer et al 1995 の M 31 円盤 5 領域の観測はアステリスクで示した。可視測光 に基づくので C-星の数は 20 - 60 % 過小に見積もられている。灰色四角= Davidge et al 2005. 星=本研究。 |
フィルター α = 00h43m21.5s, δ = +41°21′46 ″.2 中心に 2.1′46 × 2.1 ′46 は銀河中心から約 2 kpc 離れている。 フィルターは F098M, F139M, F153M である。 |
測光完全度 人工星のよる測光テストの結果、50 % 完全度等級は 21.6 < m50% < 22.8 であった。測光結果は Panchromatic Hubble Andromeda Treasury (PHAT) Dalcanton et al 2012 の WFC3/IR F110W, F160W 測光カタログと参照された。 減光は小さいので赤化補正は加えない。 |
2.1.炭素星候補の同定TP-AGB 星光度関数の勾配の変化から決めた 赤色巨星枝先端 TRGB 等級は mTRGBF153M = 18.45 あるいは DM = 24.45 として、 MF153M = -6.0 mag である。TP-AGB 星の大部分はそれより上に ある。3032 星が TP-RGB より明るかった。 C-星の同定 (F127M-F139M) - (F139M-F153M) 2色図は赤化の影響を受けにくく、分子 吸収帯の効果を示す。例えば、 F154M バンドは C2+CN 吸収帯 の内側に含まれる。この吸収帯はバンドヘッド = 1.4 μm で C-星で普通 である。早期 M-型星は 1 - 1.6 μm に著しい吸収帯を持たない。 ![]() 図4.灰色線= Rayner.Cushing, Vacca 2009 から採ったスペクトル例。青、緑、赤、橙線=太陽組成モデルスペクトル。 上: M-型星。下:C-型星。灰帯=大気吸収の強い波長帯。 黒線= LMC の M-星、C-星の例。 |
晩期 M-星
は 1.3 - 1.55 μm に H2O 吸収帯があり、 F139M で検出される。
図5(下)には Aringer et al 2009 より M-型、C-型星のモデル大気から採った
二色図を示す。
一個しかない! 驚くべきことに図5(下)の炭素星領域には僅かに一個の星しかなかった。 その他に境界線付近に 6 星が存在した。 ![]() 図5.(上):観測2色図。緑丸=(H-K)>0.4 で Davidge wt al 2005 が 炭素星候補とした星。赤アステリスク=今回の炭素星候補。TRGB より上の 星のみをプロットした。青矢印=M-型星の星周減光ベクトル。赤矢印=C-型 星の星周減光ベクトル。星周減光は Groenewegen 2006 の星周シェルモデル による。 (下)-0.5 ≥ log g ≤ 2 の AGB 星モデル二色図。青四角=M-型星。 濃い青は低表面重力。赤四角=1.05 ≥ C/O ≥ 2 の C-星。 炭素星は 2400 ≥ Te ≥ 4000 K, -1 ≥ log g ≥ 0. 濃い赤は C/O 大。下方が低温。C 以外は太陽組成。影部= C 星が期待される箇所。 |
3.1.M 31 では炭素星が検出限界以下に暗いのか?3.2.炭素星モデルは信用できるか?3.3.赤い星:炭素星か晩期 M-型星か?Davidge et al 2005 の赤い星我々の観測からは Davidge et al 2005 の赤い星は低温度の M-型巨星に見える。 図5の位置からはそれらは深い水吸収を持つように見える。そのため、F139M フラックスが押し下げられ、その結果 (F139M-F153M) を赤く、(F127-F139M) を 青くするのである。Aringer et al のモデルはこの傾向を上手く表現する。 赤いと炭素星? Davidge et al 2005 はこれらの星を J - K > 1.3 と赤いことから炭素星 とした。これはマゼラン雲では通常炭素星のカラーであるからである。しかし、 我々の観測は M 31 ではこれが当てはまらないことを示す。低メタルの LMC では O-リッチ AGB 星は比較的高温で、M3 より晩期になる例は少ない。一方、高メタル の M 31 では、O-リッチ AGB 星低温度のHAYASHI LINE に沿って進化するので晩期 M-型に進化しやすい。図6を見ると [M/H] = -0.3 (LMC) の炭素星 (C/O=4) の 有効温度が [M/H] = 0.3 (M31) のM-型星と同じくらいであることが分かる。 |
赤い M-型星 既知の M-型星の中には非常に赤い J-K を示すものがある。例えば、 Marshall, van Loon, Matsuura 2004 は LMC の非常に赤い 5/8 星で OH メーザーを検出した。Javadi, van loon, Khosroshahi, Mohammad 2013 は M 33 で赤い星のモニターを行った。しかし、LMC, M 33 のような銀河では O-リッチ AGB 星は K-型から早期 M-型であり、赤い星は殆ど C-型星により 占められている。Olsen et al 2011 による マゼラン雲 AGB 星の可視 スペクトルを眼視すると、H-K > 0.4 になるのは M-型星の 3 % しか ないことがわかる。一方、 HST データによると、今回領域ではその割合が 30 % に上がる。 ![]() 図6.M = 1.4 Mo ハヤシライン。[M/H] と C/O の組み合わせは図の通り。 |
![]() 図7.本観測領域の可視色等級図。PHAT プログラムより。パドヴァ等時線 を Av = .3, log(t) = 8, 8.5, 9 を示す。MSTO が t = 0.3 Gyr に認められる。 |
年齢効果 M31 バルジでは年齢が古いので炭素星は存在しない。観測した領域はもっと 若い種族が存在する。図7の色等級図を見ると、 1 Gyr より若い MSTO が 認められる。これは M = 3 - 5 Mo の AGB 星が存在することを示す。この ような種族にはもっと多数の炭素星が期待される。 メタル量 Brewer et al 1996 は M 31 内側に向かうに連れ、 C/M 比が急速に低下する ことに注意した。彼らはそれをメタル量勾配のためと考えた。 M 31 の 内側 2 kpc で Saglia et al 2010 は 0 ≤ [M/H] ≤ 0.5 で、我々の 観測領域付近では、[M/H] ∼ 0.1±0.1 とした。 ![]() 図8.t - [M/H] 面上の C/M 比。モデルは Marigo et al 2013. C/M = 0 は最も黒い部分。メタル量が上がると C-星欠落領域が若い 方に伸びて行く。Saglia et al 2010 によると [M/H] = 0.1±0.1 以上では全年齢で C/M = 0 となる。 |
1.WFC3/IR 中間フィルターは分類に有効。 WFC3/IR 中間フィルターは AGB 星を C-リッチと O-リッチに分類するのに 非常に有効である。これは、地上望遠鏡の近赤外観測では分解能と感度の点 で難しい、局所群の外の銀河での炭素星探査にとって重要である。 2.M-型星での水系列 このフィルターはまた O-リッチ星を水蒸気吸収の強度で系列に並べて行く。 F123M と F153M の波長が近いので、赤化の影響を受けにくい。 |
3.C/M 比 以前の観測と異なり、今回の観測は C 星が M 31 内側円盤にはほとんど 存在しないことを示した。TP-AGB 星 3032 個のサンプルからの結果は (C/M) = (3.3+20-0.1 × 10-4 であった。 4.炭素星形成とメタル量 本研究は [M/H] ≥ 0 種族での 炭素星探査の最初と位置づけられる。 極端に低い (C/M) は炭素星形成にメタル量の制限がかかることを示している。 5.今後 今後はガンガンやるべきだ。 |