A Moderate-Resolution Spectral Atlas of Carbon Stars: R, J, N, CH and Barium Stars


Barnbaum, Stone, Keenan
1996 ApJS 105, 419 - 473




 アブストラクト 

 Keenan 1993 が提唱した炭素星の改訂 KM 分類に基づく中分解能スペクトル アトラスを示す。このアトラスの目的は太陽近傍炭素星の性質をバルジ、LMC, その他の近傍銀河中の炭素星と素早く比較できるようにすることである。  分類基準は星の進化ステージに関しては全く仮定を設けず、純粋に観測データ のみによる。39 星のスペクトルを詳細に示す。さらに炭素星の改訂 KM 分類に 基づく、119 炭素星の結果を示す。


 1.イントロダクション 

 Keenan, Morgan 1941 の分類では R-星と N-星を同一の系列に載せた。しかし、 スケール高の違いなどから、両者は異なる星種族と看做されている。 またその温度指数は温度系列を示すことが期待されていたが、実際にはそうで ないことが明らかになった。 Keenan (1993) の改訂分類はその欠点を修正することを主な目的として提案された。それは写真 スペクトルをマイクロフォトメタ―で読み取ったデータの 3 A 分解能スペクトル に基づいている。
 今回のスペクトルアトラスは天文社会に 4000 - 7000 A の炭素星スペクトル アトラスをデジタル形式で提供することを目的にしている。ただし、ミラのよ うに大きな振幅を持つ星は含めない。それらのスペクトルは大気の上方で 形成され、その場所が脈動位相により異なるからである。

表1.J指数と 12C/13C 比の関係





表2.炭素星のスペクトル型


表3.スペクトル標準星のリスト











表4.改訂 MK 分類の炭素星標準星のカタログ





 2.観測 

  

 観測の大部分はリック天文台3m望遠鏡で行われた。分解能は 0.85 - 1.5 A である。

  

 

  

 
  

 

  

 

  

 



図.

 3.分類基準 

 3.1.分類の一般論 

 分類の困難さ 

 早期 R 星を除き、炭素星スペクトルでは分子線が原子線を圧倒するために、 通常の手続きで温度、組成を導くことが出来ない。R 星以外で光度クラスの指標 を探すことも難しい。

 C2 指数 

 C2 指数は C/O 比の最良の指数である。C2 指数=1は 4737, 5135 A の強いバンドが殆ど見えないことを表す。分類では必要に応じて 他の指数も用いられる。例えば、CH 指数=3.5 以上は CH 星を表す。

 j 指数 

 j = 1 - 5 は C12/C13 を表す指数で山下 1972 が 導入した。j > 3.5 が J 星と言われる。

 炭素星の起源 

 記述方式だけが問題なのではない。炭素過剰は異なる初期質量、元素組成の 星に出現する。全ての炭素星が同一の核反応過程を辿って出現するわけではない。 また全ての炭素星が孤立星進化の結果生まれるわけでもない。McClure 1983, 1984 はバリウム星と CH 星が連星系の質量移動で生じることを発見した。

 新しい炭素星分類の目的 

 そのために、炭素星の統計学的研究に際し、しばしば起源の異なる星の集団を 一緒にして扱うためとんでもない結論に達することがある。新しい分類は、 このようなエラーを最小にすることを目指している。
 中間分解能の役割 

  Barnbaum et al (1994) の 0.15 A スペクトルは高分解能を利用して、おもな N 星の原子線の同定、 組成、温度の決定を確実にした。今回の中間分解能スペクトルは分類対象 を炭素星全体に広げた。この研究はまだ進行中であるが、主要な恒星集団 は表2に示すように抑えた。

 C-L = PPNs 

 今回は R, J, N, CH 群のスペクトルを並べた。 AGB から PN への中間段階にあると思われる C-L 星については別の論文で扱う。それらは G, K 型超巨星スペクトルを 持ち、膨張ダストシェルからの大きな赤外超過を示す。Hrivnak 1995 は それらを PPNs と呼んだ。

 dwarf carbon stars 

 最近注目されている dwarf carbon stars も別論文で扱う。これらの星は 表2中で独立の群れとして載せていない。それらが同じ種族を構成するかどうか はっきりしなかったからである。その大きな固有運動から光度クラス V では ないかと思われる。


 3.2.スペクトルアトラス 

 図1=標準スペクトル 

 このアトラスは改訂 MK 分類の標準スペクトルの代表例を示す。 図1には R, J, N, CH, Ba 星と他の異常組成星の代表例が載って いる。表3には図1に載せた星を順に示す。

 各ページの説明 

 アトラスの各カテゴリー第1ページは 4000 - 7000 A を、 4000 - 5000 A 1.6 A 分解能, 5000 - 7000 A 3.4 A 分解能で示す。 続く4ページには 4000 - 4500, 4500 - 5000, 5000 - 6000, 6000 - 7000 A を示す。
 表4=119 炭素星のカタログ 

 表4には各星の改訂 MK スペクトル分類、変光タイプ等を示す。

 図2=表4星の分解能 6.5 A スペクトル 

 図2は表4星からの 37 星の分解能 6.5 A スペクトルを示す。これらはサンプル 範囲を広げると共に、遠方の天体のスペクトルとの比較に使用するための ものである。


 3.3.分類型の記述 

 C-R: R 星 

 炭素星中高温グループをなす。s元素の量は太陽と同程度である。 そこで、 Sr II 4077/Fe 4063, 4071 と Fe, YII 4376/Fe 4383 から光度クラス を決められる。表1から分かるように、R 星の大部分は 12C/ 13C = 5 - 15 である。同位体比からは N と J の中間と言える。 C2 同位体バンド 4744, 4752 は簡単に測れるが、正常バンド 4737 の方がサチってしまうので j 指数の決定は難しい。しかし低分散でも 正常バンド 6206 と同位体バンド 6102、6168 を比較して 13C を 評価するのは容易である。

 C-J; J 星 

 12C13C 4752 は低分散でも見えるので、J星の見分 けは容易である。赤い波長帯では C2 6168 が 6122 の半分であること が J-星であると Gordon 1967 は定義した。CN 6260 と 6206 の比も用いられる。 J 星は IRAS による O 過多シェルの発見とも深く関連している。

 C-N: N 星 

 4400 より短波長側ではスペクトルは得られない。s元素、特に Ba 線が R 星よりも強い。12C/13C = 30 - 70 である。 N 星のスペクトルは類似していて、スペクトル型の決定が難しい。 Barnbaum アトラスでようやく 10 組の原子線の組が見出され、温度基準が 導かれた。光度が R 星より大きいことは確かだが、光度クラスを与える 分光的特徴はまだない。
 C-Hd; 水素欠乏星 

 R CrB 星は変光位相により異なる光度からスペクトルが生じているので ミラと同様の理由で、外した。C-Hd 星は G-型超巨星と似たスペクトルを持ち、 光度クラスは Ib である。普通の G-型星と異なるのは CN, C2 の 存在と CH Gバンドの欠如である。13C は殆ど含まれない。 C-Hd 星と C-L 星と名付けた post-AGB 星とはよく似たスペクトルを持つ。

 C-H: CH 星 

 CH 星は長い間 R 星の種族II 版と考えられてきた。温度範囲も似ている。 その運動からハロー種族である。分光的には青波長で CH バンドが卓越する 特徴を持つ。しかし、G バンドだけで CH の診断をするのはサチュレイション の問題があるので危険である。もっと良いのは 4342 付近の P ブランチ と Ca 4226 の弱化である。CH 星が R 星と異なるのは s 元素が多いことで ある。この点で CH 星は Ba 星と似ている。山下 1975 が低速の CH 星を発見 したことで CH 星が何かは混乱してきた。

 Ba: バリウム星 

 温度は G8 - K2 で、Ba, Sr, Y が非常に強い。光度ははっきりしない。


 図1a : R 星スペクトル 

 温度系列 

 HD 156074 (C-R2 C23 CH3.5 IIIa:) 

 Cr 4254/Fe は K0 に相当するので C-R2 とした。Green et al 1973 は 4750 K, Dominy 1984 は 4770 K, 12C/13C = 8, C/O = 2 とした。

 HD 223392 (C-R3- C24 CH3.5 III:) 

 この星は HD 156074 より幾分冷たく、少し低光度である。どちらも他の R 星より炭素 吸収が強い。R 星では Ba II 4554 と CN 4553 のブレンドは隣接する CN バンドより小さい。 これは Ba が弱いことを示唆する。

 RV Sct (C-R4+ C25.5) 

 スペクトルの青側が弱いこと、バルマー線が消えかかっていることからさら に低温であることが判る。連続光が弱いので通常温度鋭敏で使われる Cr 線が使えない。 光度基準の SrII4077/Fe4063, 4071 も同様。

 DY Per (C-R4+ C25.5) 

 ΔV = 3 - 4 の光度低下を 1994 に起こし、 Alksnis 1994 は R CrB 星であるとした。 このスペクトルは極大に回復後の極小時に撮られた。RV Sct と似ている。低温性は青スペクトルの低下とバルマー線の消失から分かる。炭素系 分子のラインが重なり合うため、通常温度決定に使われる Cr 線は信頼できない。 C-R4 より晩期は脈動しているのかもしれない。

 炭素量系列 

 HD 112127 (C-R3 C21.5 III) 

 C2 4737, 5165 は低分散では R 星と分かるギリギリの強さ。

 HD 123821(C-R2+ C22.5 III) 

 Cr 4254 は HD 112127 より少し早期であることを示す。しかし炭素系の強度は強い。 青端の連続光は少し強く、赤端の勾配が緩い。

 HD 76846(C-R2+ C24 IIIa:) 

 Cr/Fe から HD 123821 と同じくらいのスペクトル型だが、炭素系吸収が青端連続光を 下げ始めている。Ba II 4554 は増強無し。 6500 付近の吸収は CN(6,2) Q2 である。








 図1b : J 星スペクトル 

 温度系列 

 HD 10636 (C-J4 C25.5 j5.5) 

 炭素系吸収が強く原子線による通常の温度決定は低信頼度だが、バンド間の 青連続光が 強いことから温度はそう低くはない。Ba, Sr の超過はない。

 EU And (C-J5- C25 j3.5) 

 Barnbaum 高分散スペクトルから抽出した原子線で温度決定。シリケイト炭 素星の一つ。

 T Lyr (C-J4:p C25 j3.5) 

 非常に赤いため、スペクトルの短波長側はほぼゼロ。しかしBarnbaum 高分散 スペクトルの原子線は非常な低温は示していない。J 星の青波長減光が原因か。

 13C の量系列 

 NQ Cas (C-J4.5 C25 j4) 

 12C13C 6100 は 6122 より弱い。

 HO Cas (C-J4.5+ C25 j5) 

 13C が多いことは 12C13C 4754 から分かる。

 HD 19557(C-J4 C25.5 j5.5) 

 12C13C 4754 は非常に強い。6100 は 6122 より強い。 12C/13C = 2 - 3 であろう。








 図1c : N 星スペクトル 

 温度系列 

 BD +2°3366 (C-N4 C23 CH3) 

 R 星と同じくらい暖かそうに見える。Ba, Sr が強いので N 星に分類された。 バルマー系列が強いのも高温の根拠である。Barnbaum アトラス中の N 星には Hα 吸収線を持つものは一つもない。

 TV Lac (C-N5 C25) 

 青波長域の Cr 線はあまり強くない。Ba II 4554 は Sr I 4607 と同じくらい強い。 スペクトル勾配強い。

 HD 19881 (C-N5+ C24.5) 

 N 星の温度は狭い領域に集中している。この星の温度は平均よりも低い。

 炭素量系列 

 RS Cyg (C-N5.5 C23 NaD 15) 

 低温の認定はやや怪しいが、Ba, Sr など原子線比から決めている。普通の N 星より低温で、C2は弱い。非常に強い Na D 線を示す。明白に N 星であるが、スペクトルには SC 星の特徴もある。

 Z Psc (C-N5 C24) 

 C2 バンドは RS Cyg より少し強いが、 CN は同じくらいの強さ。

 V460 Cyg(C-N C24.5) 

 最も明るい N 星の一つ。








 図1d : 特異炭素星スペクトル 

 Merrill-Sanford バンド (SiC2) 星 

 FO Ser (C-J4+ C25.5 j5 MS1:) 

 強い J 星で弱い SiC2 バンドを示す。最も強い MS バンド 4976 のみが 見える。このバンドは C2 5165 と被っているので弱いと MS 指数が作れない。 高分解 Barnbaum アトラスには Hα がはっきり見える。他の N, 晩期 R では見えない。

 TW Oph (C-N5 C25 MS3.5) 

 N 星では J 星ほどは MS バンドが見えることはない。この星でははっきり見える。 温度タイプは高分解 Barnbaum アトラスの原子線に基づいて決めた。低分解能だと スペクトル勾配以外に温度の手がかりがない。

 VX And (C-J4.5 C25 j5 MS5) 

 炭素同位体バンドと MS バンドの相関はないと Gordon, 山下は述べているが、 VX And, T Mus その他の J 星ではどちらも強い。

 特異組成系列 

 HD 182040 (C-Hd1: C24- CH0 Ib:) 

 分光的にはこれら水素欠乏炭素星は超巨星に見える。しかし本当に明るいかは議論がある。 その大部分は R CrB 星である。光度は殆ど一定の星は全て南天にある。

 WX Cyg(C-J6 C23- j4 Li7) 

 数個しかない Li 6707 の強い星。Sc 星の WZ Cas は Li 二重線と強い Na D 線を持つ。 同位体線も強い。このアトラス中の他の J 星より低温である。

 SZ Sgr(C-N5.5 C24.5 + A0V) 

 5000 A から先では通常の晩期 N 星の特徴を示す。しかし、短い側では青い星の 成分が卓越する。連星の合成スペクトルと解釈される。








 図1e : CH 星スペクトル 

 温度系列 

 HD 26 (C-H1.5 C21.5 CH3.5) 

 CH の卓越ははっきりしたバンドヘッドの存在と、 Ca 4226 の弱化、4200 - 4300 間 での金属線のゆがみに現れている。そのため温度指示計としては Ba II 4554/Sr I 4607 しか使えない。

 HD 198269 (C-H2 C22 CH4) 

 温度は HD 26 よりやや低めに見える。CN と C2 が強いのは炭素 量が大きいからである。Vanture 1992 は C/O が HD 26 の2倍とした。

 CN 系列と特異 CH 星 

 HD 201626 (C-H2 C23.5 CH5 CN2.5 IV:) 

 CH 星としては CN が異常に弱い。通常は CN4 である。原因の一つは HD 26 と 同様、温度が高いからである。しかし低光度のためもある。s元素の超過は CH 星の普通値である。同位体比は弱い。

 HD 209621 (C-H3 C24.5 CH5 CN4 II) 

 HD 201626 よりやや低温なだけだが、 CN 強度が強いので、光度クラスを II とした。C2 と CN の同位体比は高い。しかし CH 星と呼ぶほどでない。

 HD 100764(C-H1.5 C24- CH4) 

 以前は R 星とされていたが、CH が強いのでギリギリ CH 星とした。運動か ら、この星は中間厚い円盤種族星と思われる。この星は永らく以上に大きな赤 外超過(Dominy 1984)で知られていた。しかし、パタ 1991 は 12 - 100 μm 超過が 知られるどれよりも大きいことを示した。彼はこの大きな超過と赤化の欠如との乖離を 離れて存在する大きな粒子のためとした。Skinner 1994 は円盤またはリング説を唱えた。








 図1f : Ba 星スペクトル 

 温度系列 

 HD 217143 (K0.5 Ba4) 

 通常の温度決定指標 Cr 4254, 4274, 4290/Fe が Ba 星温度基準に使われた。

 HD 211594 (K2: Ba4) 

 Fe が欠乏している。

 HD 178717 (K3.5 Ba4) 

 Cr 4254 と他の Cr 線が強く、水素線は弱い。

 Ba 4254 系列 

 HD 223617 (K1 Ba3) 

 ここの3つは同じ温度だが、 Ba 4554 強度が異なる。この星は 穏やかな Ba 星。

 HD 211594(K2 Ba4) 

 Ba 4554, Sr 4607 双方が強い。








 G9 巨星と Ba 巨星、準巨星との比較 

 6 CVn (G9 III) 

 正常な G9 巨星。温度は Cr 三重線と周囲の Fe 線との比から決まる。  Sr II 4077/Fe 4063, 4071, Y II, Fe 4376/Fe 4383 および CN バンド強度から 光度クラス III が得られる

 HD 183915 (K0 Ba3.5 III:) 

 典型的な Ba 巨星。しかし、低光度では光度基準は見えない。

 HD 130255 (G9 Ba2 IV) 

 CN が弱いことは低光度を示す。








 図2 : 炭素星低分散スペクトル