赤い炭素星のスペクトル分類を改訂 MK システムに取り込んだ。それには山下 による旧式の R, N, C 分類の改訂版の特徴を加え、組成指数を加えた。 | 新しいシステムは、(1)星の属する種族を定義し、(2)個々星の詳細な大気解析 の中間を素早く内挿でき、(3)銀河系の様々な個所での炭素星の違いを示すことを 目的とした。スペクトル型の指定子を柔軟にして新しい基準も取り込めるようにした。 |
歴史 Secchi から山下まで。藤田の名前がない。C/O 比が原因と直ちに分かったと 引用無しに書かれているのがそれか? これまでの分類は炭素星スペクトルの記述として不完全であった。C-分類は 広く使われているが欠点は、 欠点1 N 型星のサブタイプは温度との相関が悪い。辻が述べているが、その理 由の一つは、C 分類が温度基準として D 線強度に強く依存しているからである。 D 線に CN の (7,2) レッドシステムが重なっているのが星毎に見かけの D 線 強度が大きく変わる。 欠点2 R-星と C-星は全く別の種族である。 C-星はスケール高 186 pc (Dean 1976) で中間薄い円盤種族に属する。 R-星はスケール高 226 pc で中間厚い円盤種族に 属する。 |
炭素星には CH 星という第3のグループが存在する。これはスペクトルの
青部分が CH バンドで占められているからである。これらはハロー種族 II の星
である。C 分類はこれらの差を現さない。
欠点3 C 分類は温度と炭素量の二つの変数しか表現しない。 欠点3の補正 そこで新しい分類法では、追加情報が組み入れられるように工夫した。 (a)大気解析(Luck, Bond 1991, Lambert et al 1993) は個々の炭素星の光度 を与える。マゼラン雲の炭素星は観測から光度が定まる。 (b)少なくともいくつかの炭素星に新しい分光温度基準を設ける。 欠点4 バルジ、LMC, 近傍銀河の炭素星光度分布は異なる。 |
R-型と N-型の分離 低温 R-型星と高温 N-型星の区分は難しい。今でも R-型星の明瞭な定義は 存在しない。Shane 1920 は N-型星に Ba, Y, Zr, La がはっきりと見える 事に気付いた。これらは R-型星には存在しない。これは現在では s-プロセス 元素の存在量の違いとして理解されている。 s-元素で R/N 分離は可能か? では Ba や Sr の強いラインがないなら R-型と言ってよいだろうか?実際面上 の問題が二つある。 (1)CN バイオレットシステムの Δv = -2 バンドヘッド 4553.1, 4606.1 A が Ba II 4554 A, Sr I 4607.3 A と低分解では重なる。この CN バンドは Δv = -1 4216 A よりずっと弱いが、CN が非常に多い場合には 無視できない効果を持つ。 (2)低温 R-型星の中には CN ブレンディングにも拘わらず Ba II と Sr I ラインが見えるものがある。しかし、その強度は同じ温度の N-型星に較べずっと 弱い。また青色の強い吸収が見られない。そこで、それらは臨時に R-型星とし、 コロンを付けた。 温度 今では C システム導入当時は知られていなかった温度と光度の基準が分かって いる。R-星の吸収線は G, K 巨星と似ているので温度系列を作るのは易しかった。 |
しかし、 N-星は分子線が多すぎて似たような作業が出来なかった。
Ba II 4554 と
Sr I 4607 は強いので低分散でも観測可能である。その強度比は C-ミラと
SC-ミラで強い温度依存性を示す。そこで、この比を N-星の温度基準に用いる。
光度 CN は光度と正相関があり、逆に CH, C2 は負相関を持つので、 CN/CH と CN/C2 を光度クラスの基準に使える可能性がある。 酸素過多の G8 - k3 星で CN/CH 比が分類に有用であった。そこでは、 CH の G バンドと CN の λ4216 バンドが巨星で目立つ。バリウム星 HD 130255 では CN/CH 比からこの星が低光度であることが示され、さらに log g からこの 星が準巨星光度を持つことが判った。 Green et al 1992 は炭素矮星で C2 が強いことに注意した。彼らはまた CH も強いことを示した。 CN は非常に弱かった。 光度基準の注意 以上の基準が炭素星間で働くには、CN 4216/CH 4300 比が与えられた温度、光度、 炭素量に対し一定であることに依存している。この仮定は低メタルのため CN バンド が CH より弱められる CH 星を例外として成立する。そこで、上の比を R-, N-星の 光度基準で採用する。 |
表1=新しい表記 表1=新しい表記では、最初の "C" がこの天体が炭素星であることを示す。 続く "-" と "R" = 以前の早期 C タイプを意味し、次の数字 0 - 6 が温度系 列で以前の C 分類(山下)と同じである。CH-星と N-星では温度タイプを表す 数字が C 分類とは違い、同じ温度の R-星と一致するようにした。 光度クラス 可能ならば光度クラスが加わる。多くの R-星では s-元素 Ba と Sr の量が 正常なので G-,K-型星と同じ基準を適用する。フィールドの CH-, N-星の 光度は不確定である。Alksne et al 1991 には連星系にあって光度の分かる例 が集められてる。しかし、大部分の星では光度クラスは怪しいので後ろにコロ ンが付いている。 組成クラス 存在量指数は光度クラスの次に来る。その形式は C2x x = 1 - 8 である。スワンシステムの C2 バンド強度 5165, 5635 と バリック・ ラムゼイシステム C2 バンド強度 1.77 μm は強くて、非常に 低分散のプリズム分光 Blanco et al 1978, Westerlund et al 1978, Sandleak, Philip 1977 でも測定可能である。 Jクラス 12C/13C = 80 が太陽である。HD 76396, HD 180953, V460 Cyg では 13C が殆ど見えない。これらは J0 - J1 である。 通常の N 星では J1.5 - J3, R 星で J2.5 - J4 である。J 星では 12C/13C = 4 にまで達する。 メリル・サンフォードバンド メリル・サンフォードバンドは 4640 - 5200 にある。SiC2 が原因である。 その指数は MSx x = 1 - 7 で表す。第5章でその分類への応用を述べる。 |
![]() 表1.炭素星の新しい記述 Hs 星 稀な炭素星として、水素欠乏星 Hd がある。この星は G バンドとバルマー線 が非常に弱い。その大部分は C Br 変光星である。 Warner 1967. それらの温度は R 星に相当するが、明るさは R 星よりずっと大きい。 H, K 輝線巾から Mv = -4 が示唆されている。これらには C-Hd という 種族分けをする。 |
データ ローウェル天文台 1.8 m と セロトロロ 1.5 m で撮った写真スペクトルが おもなデータである。分解能は青で 2 - 3 A である。 R 星 温度基準は Cr I 4254, 4275, 4290 と近隣 Fe 線との強度比。早期型 では Hδ/Fe4143 も使われる。 光度基準は、 Sr II 4077/Y, Fe4376/Fe 線。 HD 156074 C-R2 III C21.5 HD 123821 C-R2 IIIa C21.5 HD 113801 C-R3 III C21 BD +22°2298 C-R3 IIIa; C20.5 HD 223392 C-R3 III C24 TZ Car = HD 93506 C-R4 III: C27 N 星 温度基準は Ba II 4554/Sr I 4607. 光度規準は CNバンド/C2バンド SZ Lep = HD 37212 C-N3.5 III: C25 HD 104214 C-N4 IIIa: C23.5 T Cae C-N4 IV: C24.5 BD +5°1890 C-N4.5 III: C25 BS 2591 = HD 51208 C-N5 III-IV: C23 BD +2°3336 C-N5 III: C23 TW Hor = HD 20234 C-N5 IIIb: C23.5 Z Psc C-N5 C24 RU Pup C-N5 III: C27 19 Psc = HD 223075 C-N6 C26 CH 星 定義は CH P-ブランチのバンドヘッド 4352 がはっきり見える。 HD 5223 C-H2 IIIb: C22 HD 76396 C-H2 IV: C24 HD 100764 C-H2.5 C22 HD 198269 C-H3 IV: C21 HP Peg = HD 209621 C-H3 III: C24 HD 16115 C-H3 II: C24 CN6 HD 91708 C-H4 IIIa: C24 J 星 13C12C 4744/12C12C 4737, 12C12C 6191/13C12C 6168, 13C12C 6102/12C12C 6122, 13C14N 6260/12C14N 6206. V614 Mon = HD 52432 C-R:3.5 III: C26 J5 HD 70138 C-R:4 IIIb: C27 J5 V623 Cas = HD 19557 C-R:4 IIIa: C26. J5 Y CVn C-N:5 IIIa: C26. J5.5 RT Pup = HD 67190 C-N5.5 IIIa: C23.5 J4 Hd 星 定義は CH G バンドとバルマー線 がはっきり見えない。 HM Lib = HD 137613 C-Hd1 Ib: C23.5 CH0 LV TrA = HD 148839 C-Hd1 II; C23.5 CH0 HD 182040 C-Hd2 II: C23.5 CH0 MS バンドの強い星 温度と光度クラスははっきりしない。 RY Dra = HD 112559 C-N3 III: C26.5 J3.5 MS4.5 X Vel = HD 86111 C-N3 C24.5 MS5 T Mus = HD 115673 C-R:? C25+ J7 MS7 |
![]() 図1.炭素星の主要3種族。(a) 早期 R 星 HD 123821 C-R2 III C21.5。 大部分の R 星はもっと強い C2, CN バンドを示す。この星が選ば れたのは、弱い Ba II 4554 A 線が CN 4553 で隠されていないからである。 (b) CH 星 HD 24281 C-H4 IIIa: C23. エリダヌス座にある典型的な ハロー CH 星。CH 4352 A は 4382 A まで広がる C2 バンドに拘わらず 見える。Ca 4227 は CH 吸収で弱められていない。 (c) N 星 19 Psc C-N6 C24. 4800 A 付近の強い吸収が目立つが RY Dra ほどではない。 Li 6707 の強い星 WZ Cas = HD 224855 C-N7 III: C22 Li10 |
改訂分類は赤と青のスペクトルが両方得られればかなり容易に分類が
可能な方法である。規準は例えば山下のリストにあるのと同じラインを用いている。
ただし、この方法はまだ改良の余地があることを強調したい。
5.1.低速度 CH 星山下 1975 は、スペクトルとしては典型的な CH 星に見えるが、ハロー種族 の CH 星に特有な太陽に対する大きな空間速度を持たないグループを CH-like 星 と呼んだ。改訂 MK 分類はスペクトルの形のみで分類を行っているので、 現在 CH-like 星は CH 星に分類されている。 |
5.2.晩期 R 星か、早期 N 星か?晩期 R 星か早期 N 星かの区別は曖昧である。通常温度指数 4 以上では C2 と CN 分子線が強くなって、原子線の大部分は分類用の スペクトル分解能では識別できなくなる。Lloyd-Evans 1986 はこれらの 星の大部分を N 星に移した。その根拠は MS バンドが強いことであった。 しかし、辻 1964 の平衡計算では SiC2 のコラム密度は 1700 K 付近のやや幅広のピークの両側で鋭く落ちる。従って、C2 の強さから示唆されるような自由炭素原子が存在する限り、R 星でも N 星 でもある温度帯では MS バンドは現れる。なのでLloyd-Evans が正しいか どうか疑問である。現状では C-R4 より晩期に分類するのは確証がないと 危険である。 |