Asymptotic Giant Branch Stars in the Fornax Dwarf Spheroidal Galaxy


P.A.Whitelock, Menzies, Feast, Matsunaga, Tanabe, Ita
MN 394, 795 - 809 (2009)
Whitelock et al. 2009 PDF はここをクリック




 アブストラクト 

 フォルナックスの変光星 

 フォルナックス 42'×42' でのIRSF 赤外モニタリングの結果を 述べる。CMD は幅広で発達した、その年齢とメタル量から期待されるような 傾きの巨星枝を持つ。大きな AGB は 7 つのミラと、 10 の SR を含む。 周期は 215 - 470 日に渡り、母星質量に巾があることを示す。

 フォルナックスミラの内3つは LMC の同じ周期のミラより赤い。おそらく それらが特に大きな質量放出をしているからであろう。

 等時線 

 AGB の性質の多くは Marigo et al. の t = 2 Gyr, Z = 0.0025 等時線に より再現された。しかし全てではない。

 周期光度関係 

 ミラの周期光度関係を適用してフォルナックスまでの距離指数を、 20.69 ± 0.04(内部エラー) ± 0.08(全エラー) と定めた。
  

 1.イントロ 

 フォルナックスの概容 

 フォルナックス (l = 237°.24, b = -65°.66) は銀河系に付属する 矮小楕円銀河の中では、壊れつつあるサジタリウス矮小銀河に次いで最大の 一つである。この銀河は非常に長期間にわたる星形成史の証拠を示し、数百万年 前に終えたばかりである。Gallart et al 2005, Coleman, deJonh 2008 メタル量 の巾の大きい。 Battaglia et al 2006. そこには 5 個の低メタル球状星団が 属しており、Buonanno et al 1999, Letarte et al 2006. 拡がった AGB には 多数の炭素星が存在する。Westerlund, Edvardsson, Lundgren 1987, Lundgren 1990. 副構造の証拠も見え、多分他の銀河との合併の結果であろう。Coleman et al 2004, Olszweski et al 2006. 若い星は中心部に集中しており(Coleman, de Jong 2008) 鉄組成と速度分散の間には逆相関が見られる。 Battaglia et al 2006. これは 年齢 - メタル量関係を示唆する。

 ミラの有用性 

 この論文は局所群銀河の変光星を特徴づけるシリーズの一つである。 Leo I と Phoenix (Menzies et al 2002, 2008)に続くものである。ここでは JHKs 測光により フォルナックス内の変光星を明らかにして行く。ミラは 中間年齢種族の性格を示し、距離の決定に役立ち、さらに現在星間空間に 放出されつつある物質の供給源として重要である。

 フォルナックス方向の星間減光は 0.03 ≤ E(B-V) ≤ 0.1 (Greco et al 2007) である。ここでは中間値 E(B-V) = 0.07 を採用した。


 2.観測 


 観測スペック 

 観測は IRSF + SIRIUS を用い、J, H, Ks 7.2' × 7.2'(ディザリング後) 画像の 6 × 6 = 36 グリッドで行われた。 中央 4 × 4 = 16 グリッド は3年間に渡って15回の観測が行われたが、天候等の問題で他の20グリッドは 約11回ていどであった。各フィールドでは10ディザリング画像の重ね合わせ が行われた。一回の露出は 10 - 20 秒である。グリッドと観測星の関係は 図1を見よ。

 整約 

 測光は DOPHOT の FIXED-POSITION モードで行い、2MASS との比較でゼロ点を 定めた。カラー変換は行わなかった。Kato et al 2007 の変換は非常に赤い 天体を用いて行われており、炭素星に適用可能かどうか明らかでないからである。 IRSF と 2MASS との平均標準偏差は J, H, で 0.06 等、Ks で 0.08 等であった。

 フィールド周辺部  

 各フィールドではメディアン平均の画像が作られた。画像周辺部はディザリング で欠ける場合もあるため精度が低い。フィールド間の重複領域ではこのため 変光星の検出が逃された可能性がある。しかし、振幅の大きな変光星が見逃さ れることはないであろう。

図1 AGB 候補星分布。赤丸=ミラ、青四角=長周期SR、緑三角=SR
   空三角=周期未定。大クロス=球状星団、棒=密度超過(Coleman et al)
    van den Bergh 中心=(02h39m53s,-34°30'16")
   鎖線は今回の観測領域。点線=Gullieuszik et al 2008 の観測領域。


 3.色等級図と二色図 


 標準偏差による天体の選択 

 図2は Ks - (J-Ks)、図3は(J-H) - (H-Ks) を示す。選択リミットは次の 通りである: 明るい星、J < 16, H < 15.5, 又は Ks < 15 では 標準偏差 σ < 0.11 mag; 暗い星では等級に依存して、16 < J < 19 で σ < 0.1J - 1.5, 15.5 < H < 18.5 で σ < 0.1H - 1.45, 15 < K < 18 で σ < 0.15Ks - 2.15。

 このような制限を設けたのは測光精度の悪い星を落とすためである。しかし、 この制限は同時に振幅の大きな変光星を排除することになる。それらは変光曲線 を個別に調べて平均光度を載せた。


 前景星と銀河 

 図2中の 0.2 < J - Ks < 1.0 で垂直に立つ柱は前景星である。

 Morris et al 2007 はフォルナックス銀河団の中心部 2.9 deg2 で cz > 900 km/s の 2MASS 銀河を 228 個確認した。それらは、点源であり、 視線速度からフォルナックス銀河団の背後にある銀河と考えられる。

それらは 平均で、J - H = 0.78, H - Ks = 0.61, Ks = 15.12 付近に分散し、明らかに 等級リミッテッドである。しかし、図2ではそこ、J-Ks = 1.39, Ks = 15.12、 には何もない。その下の Ks = 16 - 17.3 の約130天体(J で制限)がそれか?  すると平均は Ks = 16.7 で Morris 天体より 1.5 等暗くなる。

図3では Morris 天体の位置にそれらが存在していることが見える。おそらく、 Morris et al では分解されない天体を、本観測では分解して銀河と分類して測光の段階で 排除したのであろう。実際、Morris et al の銀河と同じような性質の天体が この領域にも 2MASS では存在しているが、IRSF観測では銀河として排除 されている。


図2 フォルナックス色等級図。大きな丸=ミラ。四角=大振幅SR。
   三角=小振幅SRかIrr。小さい黒丸=AGB星。
   曲線= Marigo et al 2008 の 2 Gyr, 10 Gyr 等時線。
 色等級図 

 Ks < 14.5 にはフォルナックス巨星枝が延び、TRGBの上に AGB 星が かたまって見える。J - Ks > 4 には変光星が存在する。 TRGB は明らかに 傾斜している。J - Ks =1.07 で Ks ∼ 14.5, J - Ks =0.81 で Ks ∼ 14.9 である。図4、図6には TRGG 付近を拡大して表示した。これは年齢と メタル量に巾のある恒星集団で期待されることである。Battaglia et al 2006 は若い(数億年)、 中間年齢(2 - 8 Gyr)、古い(> 10 Gyr) の種族が存在する証拠を見出した。 彼らの引用によると(?)巨星枝は [Fe/H] ∼ -0.9 にピークがあり、 低メタル側 [Fe/H] ∼ -2 までテールを引いている。高メタル側には [Fe/H] ∼ -0.4 まで伸びている。我々自身の結果は中間年齢種族が 圧倒的であろう。

 巨星枝をはさむ 

図2と図3には Marigo et al 2008 の二つのモデルを重ね た。これらは定性的には役にたつ。距離指数=20.69 とした。 変光星の領域を通過するラインは t = 2 Gyr, Z = 0.0025 ([Fe/H]=-0.88) のものである。このモデルでは TRGB は Ks = 14.9, J-Ks=0.92 となる。 もう一本は t = 10 Gyr, Z = 0.0025 のラインで、その TRGB は Ks = 14.5, J-Ks=1.06 となる。

 この2本は巨星枝の観測を囲い込む。大部分の星は 2 - 10 Gyr の年齢なので あろう。これは、Gallart et al 2005, Coleman, de Jong 2008 が既に指摘 したことである。

 二色図 

 図3を見るとモデルはダスト星の再現に成功していない。これはダストの性質 、特に組成とサイズ、の選択を誤ったためではないか。モデルは他のモデルを 選択できるようにはなっている。しかし、どれも観測とは合わない。ダストの 性質をさらに上手に調整すればもっと合うようになるだろう


図3 フォルナックスの二色図。記号の意味は図2と同じ。点線は銀河系炭素星
   ミラのカラー(Whitelock et al 2006)。(H-K) = -0.428 + 1.003(J-H)
   他の2本の線は図2と同じモデル。


 4.AGB 


 上部 AGB 星の選択 

 TRGB より下ではどれが AGB か判らないので、その上の星のみを扱う。 選択基準は、

     Ks <16 - 1.43(J - Ks)
     Ks >19 - 5.6(J - Ks)
     J - H > 0.7

である。最後の条件は前景矮星の混入を防止するためである。

 選ばれた星は図2、図3で黒丸で示した。

 AGB 星リスト 

 表1には, 上部 AGB 120 星を載せた。その他に、2MASS 名、スペクトル型 なども分かる限り載せた。それらの観測等級分散は σ < 0.11 mag なので、もし変光星としても振幅は小さい。実際、 Bersier, Wood 2002 の 長周期変光星候補にはこの中から 30 星が載っている。したがって、短波長 では振幅が大きいのかも知れない。Battaglia et al 2006 と共通な星が 9星ある。それらは視線速度から全てフォルナックスメンバーと考えられる。 Ca II から得られたメタル量は -1.01 < [Fe/H] <: -0.57, ⟨ [Fe/H] ⟩ = -0.86 であり、基本的に図2のモデル線と 同じと言える。

 この論文は メタル一定で解釈している。 メタル変化を考えると変わらないか? 
 AGB 星の分布  

 図1には 上部 AGB 星と AGB 変光星の位置を示した。注意すべきは フォルナックスの広がりは潮汐半径 71' ± 4' におよび、観測領域 よりずっと広い。球状星団 1 と 5 は観測外にある。観測星全体の広がりは フォルナックスのよく知られた楕円形状を示している。面白いのは 中間年齢種族を表わしていると考えられるミラの分布が中心集中の 弱いことである。

 マリゴのモデル  

 Marigo et al 2008 のモデルは先に議論したように、それ以前のモデルに 較べ、AGB をずっとよく表現している。主な改善点はドレッジアップが起きる 時期の分子オパシティが適切になったことである。もう一つの改善点は、 ダストの導入である。図に示した等時線は、M 型星にはシリケイト、C 型星には グラファイト(Nressan, Granato, Silva 1998)を使用した。Groenewegen 2006 のダストを使うと、 AGB が J - Ks < 3.7 までしか到達しないので 観測された最も赤い星が表現されないが、二色図では観測に近くなる。

 炭素星モデル  

 図2、図3に示した等時線は Ks = 14.2 より先で炭素星となる。後で議論 するが、観測的にこれより明るい殆どの星(全てではないが)は実際スペクトル からも炭素星であった。

 Z = 0.001 と 0.005 の等時線は観測点領域から外れる。また、10 Gyr のライン は炭素星にならないことを注意しておく。


表1 非変光( σJ, σH, σKs < 0.11)上部 AGB 星




 5.スペクトル型の判っている星 


 分光サーベイ 

 Westerlund et al. 1987、Lundgren 1990 は広範な分光サーベイを行い、 多数の炭素星の存在を確認した。また、多数の M 型星と少数の S 型星も 確認された。図4と図5ではこれらのサーベイで確認された S, S, M 型 星を示している。

 その後のスペクトル観測 

 Demers, Dallaire, Battinelli 2002 は狭いカラー・等級領域で 2MASS 星を 調べ、さらに5つの炭素星を加えた。Mauron et al 2004 はそれらの一つ、M 30 を確認した。Groenewegen, Lancon, Marescaux 2008 はさらに多くの炭素星を 近赤外スペクトルから確認した。その内の幾つかは変光星で、以下の議論に登場 する。松浦ら 2007 は 5 星の Spitzer 分光観測を行い、全てが炭素星である ことを示した。それらの星は同定されて表1,2,3に載せられている。 Groenewegen et al. 2008 が G/K 型星と同定した星の幾つかは我々の観測領域内 にある。それらは全て TRGB の下である。

 ドレッジアップ  

 AGB 進化の後半に熱パルスがドレッジアップを引き起こす。低メタルの場合、 炭素星への変換は容易で早い時期に炭素星が誕生する。また、星の質量が低すぎる と第3ドレッジアップは起こらない。このように、O- から C- 星への転換は 星の質量とメタル量に依存する。

 O- 星の最高光度と C- 星の最低光度  

この転換が起こる光度はモデルにより予想され、 したがって O- 星の最高光度と C- 星の最低光度は非常に興味ある問題である。 注意すべきは、連星などで外部からの物質降着による組成変化がおきることである。


図4 分光で確認された星。赤丸=炭素星。青三角=S型星。星型=M型星。
 S 型星  

 分光で確認された M 型星は9つある。その等級は 14.34 > Ks > 13.36, カラーは 0.9 < J - Ks < 1.2 である。S 型星は7つあり、6つは表1に 載せてある。7番目は DK 54 で、TRGB より下にあるので外因性の炭素星であろう。 他の6 S-型星は、等級は 13.95 > Ks > 13.38, カラーは 1.1 < J - Ks < 1.3 である。どの M-, S- 星にも質量放出を示唆するカラーはない。 S- 型星の内、最も暗い二つは SC 型で、最も明るい二つは S 型という事実は、 これらの星が単一種族からではなく、年齢、メタル量がある範囲に渡ることを 示している。

 しかし、Lebzelter et al 2008 は LMC 星団 NGC 1846 の星の C/O 比と 光度を詳しく調べ、二つの量に似たような混合を見出した。かれらはこれを 熱パルス後の光度低下の効果と解釈した。類似の説明はフォルナックス S 型星 にも影響するかもしれない。

 M 型星の幾つかが前景星で、また幾つかは < 1 Gyr の若い星種族 かも知れない。しかし、S 星が中間年齢種族以外のものであることはありそう にない。


 炭素星  

 Ks = 14.6 という暗い炭素星、F23007 = WEL-C19、は選択領域外のため 表1には載せていない。この炭素星は外因性か AGB かはっきりしない。 他の炭素星は Ks ∼ 14.2 より明るい。4つの 14.2 < Ks < 14.0 炭素星は低光度リミットを示している。この光度は Marigo et al 2008 の t = 2 Gyr, Z = 0.0025 モデルと一致する。

 それでも、S 星と C 星とが光度を共有している事実は年齢とメタル量に ある広がりがあることを示唆している。



図5 二色図上、分光で確認された星。シンボルは図4に同じ。
    一気に炭素星になり、S 型は無いと思った。 


 6.変光星 


 Bersier, Wood 2002 との対照 

 Bersier, Wood 2002 のフォルナックス変光星探査は多くの RR Lyr、特異セファ イド、 種族IIセファイド、それに長周期変光星 85 個を検出した。我々はそれら 長周期変光候補星を自分たちのカタログと対照し(8個は領域外)その結果を図6 に示した。図を見ると、上部 AGB のほとんど、それに巨星枝先端の幾つかは、変光 しているようだ。それら巨星枝先端変光星はおそらく板ら(2002)が LMC で発見した 巨星枝先端変光星と同じものだろう。

 変光星候補 

 この研究で発見した変光星は表2と表3に まとめた。表3の変光星に対しては


図6 フォルナックスの CMD. 赤丸=Bersier, Wood 2002 と共通。
周期を求められなかった。それらには 観測された変化の頂点と底の間隔 (δJ, δH, δKs) を与えた。 それら変光候補星は少なくとも 0.1 等の変化と各バンドで類似の変動を示す ことが求められる。


 赤外変光 

 Bersier, Wood 2002 と同定された星が赤外でも変光しているかどうかを 確認することは大事である。図7には Ks = 14.5 より明るい星の観測等級 の標準偏差をカラー J - Ks に対してプロットした。J - Ks = 1.2 までは 標準偏差はほぼ一定である。そこからはカラーと共に増大していく。これは 変光振幅の増加を表わしていると考えられる。


図7.J, H, Ks の等級分散の J-Ks による変化。赤四角は Bersier, Wood
   と共通。赤くなるほど分散が大きくなる点に注意。変光振幅が大きくなる
   効果と解釈される。


表2 周期的変光星のリスト



表3 非周期的変光星のリスト





 7.長周期変光星 


 

 7.0.  


 変光曲線  

 表2には周期変光星のフーリエ平均等級と二次サイン曲線フィットでの ピーク - 谷底の等級間隔を載せている。図8にはミラ型変光星の Ks 変光曲線 を示すが、規則的な変光を示す星とそうでない星とがある。図8には IRSF 観測 の約 1000 日以前に行われた 2MASS 観測の値も打ってある。2MASS も入れて 変光曲線を作ろうとしたがうまく行かなかった。炭素星ミラでは周期の変動、 エラッティックな挙動、長期変化があるので、上手くいかなかったことは 理解できる。

 F12010 

 最後の観測が例外的に暗く赤かったので、F12010 はそれを除いて周期等 をフィットした。 1300 日前に行われた 2MASS 観測は IRSF より明るく青い 値を与えている。これは長期変動の現れと見ることも可能だが、観測が不足である。

 炭素星ミラ 

 Whitelock et al. 2006 は銀河系の炭素星ミラの赤外測光を調べた。彼らに 従い、ミラの定義を、頂上から谷底までの K 等級変化が 0.4 mag 以上で 周期が定められる星と定める。表2でミラとSRが区別されているのはこの 定義による。

 ”SR+傾向”なら ΔKs > 0.4 になることもあるが、脈動振幅 は比較的小さい。この問題は7.1.節で論ずる。

 観測限界 

 この領域では全てのミラを観測していると考えられる。ひなこはあかりデータ との同定を行ったが、IRSFで見つかった以外の星は無かった。しかし、 観測領域外にミラが存在する可能性は残る。2NASS を使い、J - Ks > 2 の 星を半径 1° で探した結果、 02400946-3406256 と 02380618-3431194 の 二つが浮かんだ。これらは Gro3n3wegen et al 2008 の Fornax 15, 31 であり 炭素星である。これらはミラである可能性が高く、その他に、J - Ks < 2 の ミラが1−2個あるかも知れない。

 等時線は変光星全体を説明するか?  

 2 Gyr 等時線は図2で変光星の中央を通るので、多分フォルナックスの AGB 種族を代表すると言ってよいだろう。しかし、それはこれは全ての変光星が同時に 作られたことを意味するわけではない。実際、フォルナックスで知られている年齢 徒」メタル量の範囲を考えると、全ての変光星が同じ種族から出現すると考える 方が異常である。Feast, Whitelock 2000 によるとO-系ミラの場合、脈動周期は 主に質量の関数であり、短周期になるとメタル量も効いてくる。炭素星の場合も 並行の傾向を有すると考えられるし、観測データもそれと矛盾しない。西田ら の研究した3つのマゼラン星雲星団は年齢約 1.6 Gyr (Mucciarelli et al 2007, Mucciarelli, Origlia, Ferraro 2007, Glatt et al 2008) でその炭素ミラ3星 の平均周期は 470 日であった。一方、van Loon et al 2003 は星団 KMHK 1603 は年齢 0.9 - 1.0 Gyr で、周期 680 日の炭素ミラを含んでいる。銀河系炭素星 ミラの運動学特性(Feast, Whitelock, Menzies 2006) はやはり、年齢が若くなる ほど周期が長くなるということを示唆する。

 ミラの周期と年齢  

 ミラが進化トラック上で次第に周期を伸ばして行くとして、単一種族なら 期待される周期とカラーの関係は図2上にはない。その上、フォルナックスの 光度を Marigo et al. 2008 の図1にあるような log L - log Te 関係と 比較すると、暗くて短周期変光星は彼らのモデルで許される限りの古い炭素星 であるが、明るく長周期のミラに対しては年齢を決めることが難しいことが 判る。それは、年齢が Te に依存するからであり、Te の精密な決定は困難 である。

図8.ミラ型星の Ks 変光曲線。各観測点は見やすさのため2回現れている。
   クロスマークは 2MASS 測光値。曲線は2次サインカーブフィット。


 等時線と観測との不一致 

 Marigo et al. 2008 が AGB 変光星に与えた周期はこの観測で得られた値とは 全く一致しない。しかし、この段階の星は進化が速く、オンライン等時線上では 1歩で J - Ks = 1.6 (P=162d) から J - Ks = 8.1 (P=257d) へと跳んでしまう。 このようなので、観測に等時線を合わせるのはやさしいことではない。理論上、 周期は星が進化するに連れて増加して行く。観測では周期は初期質量により決定 され、時間的にはあまり変化しない。これは、主に星がミラになっているのは 105 年程度で AGB 進化の最後の短時期を占めるに過ぎないからである。 ミラが AGB を去る前に長期に渡り急速な進化を遂げる可能性も否定できないが 観測からは確立されていない。婉曲な否定?

 ミラの年齢 

 フォルナックスのミラの周期とそれらのマゼラン雲星団ミラとの比較からは ミラの大部分が数 Gyr の年齢であることを示唆している。短周期ミラはおそらく それよりやや高齢であろう。最も周期の短い F5010, P = 215 d, はかなり 高齢で 10 Gyr 程度であろう。この星は図2で最も青い。10 Gyr とすると炭素星 である可能性は低い。J - Ks = 1.57 というカラーは O-rich か C-rich かを はっきり決めにくい値で分光観測が必要である。 

 この後の議論ではフォルナックス変光星の等級とカラーは SAAO システムに 直して行う。そうすると、銀河系、LMC のデータとの比較が行えるからである。 また、そうすると Whitelock et al 2006 の輻射補正が使える。


 7.1.長期変動 


 雲塊の放出 

 Whitelock et al 2003 は LMC 炭素星ミラの中に長期変動するものを 見つけたが、Whitelock et al 2006 は 銀河系の 炭素星ミラ, SR に長期変動する 天体を発見した。彼らはこの挙動は水素欠乏の RCB 型変光星の間に見られるもの と類似であり、ダストの雲を色々な方向に吐き出す結果起こるのではないかと 考えた。雲塊が視線方向に吐き出されると星は暗くなるが脈動は継続する。 ダスト駆動の2次元星風モデル (Woitke 2006) によるとこれは非常にもっともな 説明である。

 長期変動を示す SR 炭素星 

 図9は長期変動に SR 脈動が重なっているフォルナックス炭素星 3つの J バンド 光度曲線を示す。図のキャプションにはフィットに使った二つの周期が載せてある。 短い方の変動は ΔKs < 0.4 mag でこの星を SR とした理由である。長 い方の周期は単にカーブを合わせるためにだけ使用した。


図9.長期変動を示す SR 型変光星3つのJ光度曲線。F32007 のラインは周期
   255 日と 3000 日のサインカーブを足したものである。 F1006 は 380,
   2000 日、F1105 は 270, 1600 日のサインカーブでフィットした。




 乱れた質量放出 

 図10は表3の中から変光巾が最も大きい星3つの変光曲線を示した。全ての 星は明らかに変光星である。F6013, F1010, F14006 は炭素星であり、かなり 赤い J - Ks > 1.9 が、これらは R For (Whitelock et al 1997) などに 見られる極度に乱れた質量放出を行っている炭素星ミラまたは SR である可能性 がある。もしもっと長くモニター観測が行われれば図9のような振る舞いを示す かも知れない。


  F11020 の将来 

 もし F11020 が周期光度関係図上で暗い原因が雲塊による遮光のためという 仮説が正しいなら、同じ現象を示し将来は再び明るくなるであろう。



図10.変動巾の大きな非周期型変光星3つのJ光度曲線。


 7.2.カラー 


 銀河間の炭素星ミラのカラーを較べる 

 図11には周期に対して (H - Ks) カラーをプロットした。比較のため銀河系 (Whitelock et al. 2006)と LMC(Feast et al 1989, Whitelock et al 2003) の ミラも載せた。各銀河の内部では一定カラーに対して周期の巾が大きいが、銀河 間の差も明らかに見える。LMC 星は平均すると短周期では銀河系の炭素星より 赤いが、長周期になると青くなる。フォルナックス星は 短周期では LMC 星より 赤い。フォルナックスには 500 日を越える周期のミラが存在しない。

 板 LMC データとの比較 

 板ら(2004) は LMC の 8000 を越える変光星の特徴を調べた。彼らのオンライン データから Δ I > 0.9 mag で選んだ LMC ミラは銀河系ミラとカラー 分布が重なっている。従って、図11に見られる分離はサンプル数が少ないためか、 文献の差による選択効果であろう。図11で他の星より赤いフォルナックスの3つ の星は、板らの LMC サンプルの分布上辺付近に位置する。総数には差があるが フォルナックスでは lmc より赤い星の割合が高いと言える。

 アセチレンとマスロス 

 極端な赤さは明らかに厚いダストシェルが原因である。松浦ら(2007)はそれら 3つの内2つ(F13023, F3099) がそれらのカラーの割には 7.5 μm アセチレン バンドが特に強い (3つ目は未観測)ことを見出した。これは強いラインブラン ケッティング効果を示唆するものである。周期がもっと長い F12010 は質量放出 率が同程度であるに拘わらず、カラーが青く、アセチレン強度も弱い。炭素星 の質量放出率はそのメタル量にあまり依存しないが、C/O 比には強く依る。なぜ ならそれがダストを作れるCの量を決めるからである。Lagade, Zijlstra 2008。 van Loon et al 2008 は別の見解を出している。

図11.フォルナックスミラ(赤丸)と SR(三角、緑丸?) の周期 - カラープロット。
    白丸=銀河系ミラ。クロス= LMC ミラ。 カラーは SAAO システム。


 7.3.輻射等級と PLR  


P - K 関係  

 図12にはフォルナックスの P-K 関係と LMC 炭素星ミラの関係式、Whitelock, Feast, van Leeuwen 2008, の MK = -3.51[ log P - 2.38] -7.24 を 示した。フォルナックスの距離指数 = 20.69 を仮定した。ミラの内4つは LMC 関係式のかなり下に落ちる。図11を見ると4つの暗いミラは最も赤く、 PLR 関係式を作るのに使われた LMC の同じ周期の星に較べずっと赤い。それらの 赤いカラーは星周減光が K バンドでの光度に影響していることを示唆する。

 距離指標 

 輻射等級は (J - K) と (H - K) のそれぞれに対する輻射補正 (Whitelock et al 2006) の平均値を用いて求めた。結果は表2の第9列に示されている。 Whitelock et al 2008 が示したように様々な観測が PLR は非常に異なる環境 の下で共通であるらしい。したがって、 LMC の PLR を用いてフォルナックス までの距離指標を求めた。7つのミラからは、(m - M)o = 20.77 ± 0.09 となる。明らかに他と離れている F11020 を除いた 6 ミラを使うと 20.69 ± 0.04 となる。図13にその PLR を示した。

 上のエラーは内部エラーであるが、PLR 自身に ± 0.12 等の分散エ ラーがあり、LMC の距離は 18.39 ±0.11 の不定性を含む。これらを 勘定に入れると (m - M)o = 20.69 ± 0.08 となる。

 F11020 が暗い理由  

 F11020 が暗い理由ははっきりしない。しかし、カラーから考えるとこの天体


図12.フォルナックスでの周期 - MK 関係。距離指数 = 20.69
    赤丸=ミラ。緑三角=SR.直線は LMC のPLR。
も遮光を受けているのかも知れない。Whitelock et al 2006 は銀河系内の 炭素星ミラの内、少なくとも 1/3 はそのような遮光を受けていると評価している。 従って、フォルナックスにおいて7つの炭素星の内の一つで雲塊が丁度視線上に あったとしても不思議は無い。

 松浦のモデル   

 松浦ら 2007 は 2MASS + Spitzer スペクトルにモデルスペクトルをフィット させて輻射等級を求めた。中間赤外フラックスの強い星は周期の長い3つの星 であった。彼らの求めた輻射等級は -4.87 (F13023), -5.49 (F12010), -4.92 (F3099) であった。この値は我々が輻射補正から求めた値、-4.81, -4.69,(F13023) と -5.23, -5.17 (F12010) より大幅に明るい。注意しておくが、Mbol = -5.49 は PLR に当てはめると周期 P = 740 日に対応する。

Lagadec 2008, Groenewegen et al 2008 は 2MASS 等級に我々と同じ輻射補正を 採用して、松浦らと我々の値のほぼ中間の値を導いた。  差の半分くらいは 2MASS の明るい等級を採用したことに起因する。 実際、 2MASS 等級が我々の平均等級に近かった F3099の場合両者の Mbol は かなり良く合っている。もし、MIR モニターが可能となれば、Mbol の精度は かなり高くなるだろう。それまでは、様々な時期に取られた多波長測光データ に DUSTY プログラムを適用して SED をフィットすることは危険である。

 SRの振動モード  

 図13には SR 変光星をミラの PLR ラインの上にプロットした。行くつか はこの関係のすぐ近くにいることが判る。おそらく、PLR の上にいる SR は 進化がまだ進んでいなくて、1st オーバートーンで振動しているのではないか? LMC 変光星では SR が幾つかの PKR ラインの上に落ちたが多くはミラの PLR 上に載ったことに対応しているのであろう。 



図13.フォルナックスでの周期 - Mbol 関係。
    赤丸=ミラ。緑三角=SR.直線は 6 ミラのフィット。


 フォルナックスまでの距離 


 様々な手法による距離指数 

 文献にはフォルナックスの距離として様々な値が記録されている。それらの 値は異なる、またしばしば矛盾する仮定の下に得られている。したがってここで 主な結果を検討し、相互に比較可能なようにしてみよう。

表4は様々なフォルナックスの距離指標を載せている。それらを分類すると、

(i)  TRGB 光度

(ii) HB (red HB, RR Lyr, 星団RR Lyr を含む)

(iii) RC

(iv) δSct

で、表には観測バンドも示した。

 TRGB の見かけ等級  

 第3章で議論し通り、 TRGB は J - Ks = 1.07 での Ks = 14.5 から、J - Ks = 0.81 での Ks = 14.9 へと変化が見られる。この両端値は Gullieusxik et al 2007 が採用した Ks = 14.61 を挟んでいる。Valenti, Ferraro, Origlia 2004 の 与えた TRGB 光度とメタル量、年齢との関係を使って、我々の値を距離に換算する ことは可能であろう。しかし、メタル量と年齢をどう与えるかがはっきりしないので この方法で距離を決めても大きな進展は期待できない。
 ゼロ点エラー  

 表4において、原典の値は "(m - M)ori" として表示した。それらの多くでは 内部エラーのみが考慮されていて、絶対較正の不定性が抜けている。TRGB に関し、 Bellazzini 2008 は、「...ゼロ点は最良の場合でも ±0.12 の不定性 を含む。この数値よりエラーバーが短い TRGB 距離指数はエラー勘定の一部が 抜けている。」と述べた。

 V バンドでは赤化の不定性の効果が大きい。Rizzi et al 2007b は 彼らの HB 指数は、もし E(B-V) が 0.03 の代わりに 0.05 だったら、0.1 mag 減少 すると述べた。

 TRGB のメタル年齢効果  

 TRGB(表4の 1 - 3) と HB(表4の 4 - 8) は、HB 又は RR Lyr 絶対等級に ある値を仮定して導かれている。"(m-M)rev" 列では、それらの値を共通の ゼロ点、すなわち LMC の RR Lyr 見かけ等級 (Gratton et al 2003)、と LMC セファイドの視差に基づく LMC 距離指数 = 18.39 (van Leeuwen et al 2007) へと直した。Feast et al 2008 も参照。これらの評価は独立ではないので、 表の最後の列で平均値を載せた。この平均値にあとで平均を取る時の重み1を 与えた。この論文の結果は LMC 距離指数は同じ値を使用し、それに LMC 炭素星 ミラの PLR(Whitelock et al 2008)をつなげて得られた。従ってその値は 1 - 8 の結果と一部独立である。

 他の方法 

 レッドクランプと δScuti の結果は近傍の同じタイプの星の視差が ゼロ点を決めている。

 これらの独立と看做せる手法の平均をとって、フォルナックスまでの距離指数 を 20.69 とした。


表4 フォルナックスの距離指標



 付録A 新しい輻射補正を用いたPLR 


 この論文では Whitelock et al 2006 の J - H, H - K カラーによる 2種類の K バンド輻射補正を用いて輻射等級を導いた。この値を PLR と 合わせて用いるため、われわれは LMC PLR で 同じ輻射補正に基づいた 輻射等級を使う必要がある。

 このため、 Feast et al 1989 の炭素星ミラに Whitelock et al 2003 からの炭素星ミラ5個を加え、以下の式を導いた。

  Mbol = -4.271(±0.026) - 3.31(±0.24)[log P - 2.5]

この式は、Whitelock et al 2006 の式(1)と比較されるべきものである。LMC 距離指数 を共通に直してから較べると、新しい関係式は log P = 2.4 では 0.18 等暗く、log P = 2.7 では 0.05 等明るくなる。


  


  

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