A Survey of Present Knowledge of Globular Clusters and Its Significance for Stellar Evolution


Sandage
1954, Liege Symp 5, 254 - 274




 アブストラクト 

 M3 の Mpv = +7 までの色等級図が得られた。Mbol = +3.5 のターンオフは 主系列星進化計算から初期 Mbol = +4.5 であることが判る。年齢は 5.1 Gyr である。初期 Mbol = [4.5, 7.0] 区間の主系列光度関数を外挿して、[3.9, 7] 主系列光度関数を作る。  M3 の観測光度関数をこうして作った主系列初期光度関数と対応させて、 モデル計算が不十分な主系列の先の恒星進化を観測的に導いた。M3の赤色先端 星はターンオフからそこまで 1.6 Gyr 掛かったことが判った。


 1.イントロダクション 

 1938年に星のエネルギー源が原子核反応であることが判り、 星の進化に対する新しい研究が開始された。水素がヘリウムに変換 され、星の内部元素分布が変化する。この組成変化を適切な恒星モデル で追えば、星の進化史が完成するはずである。  残念ながらまだ、観測 HR 図を説明するモデルはない。 しかし、球状星団の変わった HR 図は II 型種族の星の進化の結果 であろう。そこで、球状星団の観測からそのような星の進化に関し どのような知識が得られるかを調べた。


 2.色等級図 

 図1= M3 の CMD 

 現時点 1954 で Mpg = +4 まで達する CMD が得られているのは M9 と M3 のみである。図1に M3 の CMD を示す。この図には はっきりした巨星枝が Mpv = -3.0 まで現れている。また、 星団型変光星のすき間を伴う水平枝、準巨星枝、主系列も はっきりとわかる。図の特徴は

(1)Mpv = +3.5 より明るい主系列星が存在しない。

(2)銀河星団と較べると変わった形の CMD

(3)Mpv = 0 CI = [0.0, 0.18] に不安定性ギャップ。



 図2=M3とM92の比較 

 図2ではM3とM92を比較した。最も大きな差は M92 が log Te にして、 +0.17 ずれたことである。


図1.M3の色等級図。既知変光星は図から除いた。図は一様な サンプルから採ってないので、点密度は光度関数を示すと考えて はいけない。
 Arp による球状星団の比較研究 

 Arp は Mpv = +1 までの CMD を M2, M5, M10, M13, M15 で作り、比較して いる。それによると、

(1)巨星枝位置が金属吸収線の強度と相関して左右にずれる。また

(2)水平枝上ギャップの左右の星の数が巨星枝位置と相関する。赤いM3では 赤い水平枝星が多い。青い巨星枝のM13は青い水平枝星が多い。










図2.M3 と M92 のCMDの比較。参考に種族 I 主系列を示す。


 3.光度関数 

 ヘイル200インチ望遠鏡により、M3を Mpv = +7 まで測光した。 図3に Mpv = [-3.0, 6.8] の光度関数 ψ(Mpv) を示す。Mpv = 0 にある ピークは水平枝の星による。Mbol = +0.7 から +4.0 までは、

   ψ(Mbol) = 0.380 Mbol + const.

でよく表される。

 Mpv = +5.5 のピークは意外だったが、リアルである。Mpv > 5.5 での 減少は確かであるが、関数形はやや不確かである。

図3.M3の総光度関数。


 4.CMDと光度関数の進化上の意義 


図4.Schonberg, Chandrasekhar による主系列からの進化モデル。当初 Mbol = +4.5 にあった星は 5.1 Gyr の進化の後、今まさに等温核の限界値に達しよう としている。  

 図4=主系列星の進化 

 Schonberg, Chandrasekhar 1942 は主系列星の中心に形成されるヘリウム 等温核が全質量の 12 % になるまでの進化モデルを追跡した。その時、光度 は1等明るくなり、半径は 1.7 倍に増大する。図4には t = 5.1 Gyr に おける等時線を描いた。Mbol = +4.5 からの星が Mbo, = +3.5 で丁度臨界 核に到達している。Mbol = +3.5 の先の主系列星は存在しない。それらの 星は既に臨界核に到達して、もはや主系列近くにはいないからである。

 初期光度関数 

 M3 も M92 も Mbol < +3.5 には主系列を持たない。ターンオフの鋭さは 臨界核に大きな物理過程の変化が起きることを物語る。Sandage, Schwartzschild 1952 は核が重力収縮を起こすことを主張した。満足のいく進化モデルは 存在しない。しかし、CMDを使えばその後の進化を観測的に決定できるだろう。 そのためには初期光度関数の知識が必要である。図4には初期に Mbol = [4.5, 7.0] にあった星が、現在の Mbol = [3.5, 7.0] に移る様子が示されて いる。図3には Mbol = [3.5, 7.0] の現在の光度関数が示されている。 S-C 計算を逆に戻せば、Mbol = [4.5, 7.0] の初期光度関数が得られる。 本研究ではそれを Mbol = 3.9 まで外挿して、巨星領域の星まで含めた 初期光度関数を仮定した。

表1.マッピングデータ。  

 表1=マッピング 

 現在の光度関数と初期光度関数を対応させて、進化を追うことが可能である。 例えば、M3 の光度関数 Mbol = [3.14, 7.0] に含まれる星は初期光度関数 では Mbol = [4.3, 7.0] に含まれることが判る。これは、当初 Mbol = 4.3 主系列にあった星が 5.1 Gyr 経った今は Mbol = 3.14 の位置にいることを 意味する。表1にこのマッピングを示す。

 半経験的な進化経路 

 Mbol = [4.4, 7.0] の表の値は単にモデルを反映させただけである。初期 光度関数で Mbol = 4.4 より明るい部分に新しい情報が含まれている。 表1のマッピングを図1の CMD と組み合わせると、半経験的な進化経路が構成 される。



図5.半経験的進化経路。現在 Mbol = 3.5 より暗い部分は図4の進化図を採用。 M3 CMD の Mbol = 3.5 より明るい部分は

 進化経路を作る 

 図5の太い実線は図1を Mbol, log Te に直したものである。図4の経路に 加える最初は M3 等時線の Mbol = 3.14 を 初期 Mbol = 4.3 の点とつないで 得た。次に明るい経路は最初の線と平行に Mbol = 4.2 から出発し、M3 等時 線 Mbol = -2.64 に辿りつく。この方法を一つづつ繰り返していく。

表3.図5の最も明るい星が各区間の進化にかかる時間



 (1)主系列の狭い区間=巨星 

(1) Mbol = 3.5 より明るい M3 の星は 初期主系列では非常に狭い区間から 生まれている。その領域は図5の初期主系列、 Mbol = 4.4 と Mbol = 3.94 に付けた弐本の矢印で示されている。水平枝はその先端部 Mbol = [3.94, 3.98] の星から成っている。

 (2)進化系経路と等時線の類似 

 進化系経路と等時線は類似している。これは、巨星が主系列上で狭い区間か らの星で形成されていることの自然な帰結である。

 進化の速度 

 図5の最も明るい星が TO に到達するまで、3.46 Gyr かかる。M3 の年齢は 5.1 Gyr なので、この星が現在の Mbol = -4 に達するまで 5.1 - 3.46 = 1.64 Gyr 掛かったことになる。