VMC 観測データを基に、LMC の数か所で SFHs を導いた。3箇所は1.4 deg 2 の大きさで LMC 中心から 3.5 ° 離れている。加えて二つの 0.12 deg2 (21.5'x21.5')の大きさの副領域と、 30 Dor タイル中の 減光が一様な 0.036 deg2 (11.3'x11.3') の副領域を解析した。SFH の導出には極小探索プログラム StarFISH を用いた。距離指標 (m-M)o は 0.2 Av は 0.5 くらい変わるのでそれぞれの領域で独立に解析を行った。 | ルックバックタイム を t として、 log t = 9.3 と 9.7 に星形成ピークが現れた。 最近の星形成率は場所により大きく変わる。バー領域では、log t = 8.4 - 9.7 の間非常に一定である。各領域の距離指標が正確なので、 LMC 円盤の空間モデルを 作った。円盤の傾斜角 i = 26.2 ± 2.0° ノード線の位置角は θo = 129.1 ° である。LMC 中心までの距離は (m-M)o = 18.470±0.006 mag となる。 |
シミュレイション VMC の目的の一つは空間分解された SFH の導出である。その為にサーベイ は古い種族星の MSTO に届くことを目的に計画された。 Kerber et al 2009 はサーベイ前に VMC 画像のシミュレイションとそれからの SFH 回復実験を 行い、LMC バーでも SFH の回復が可能であることを確認した。図1にその例 を示す。MW 矮星による二本の垂直帯は衝撃的である。 NIR サーベイは初めて 今や局所群銀河で古い星の MSTO までたどり着く測光は当たり前となっている。 しかし、広域 NIR サーベイでのそのような試みは今回が初めてである。 |
![]() 図1.LMC の平均的星密度に対する 0.037 deg2 シミュレイション CMD. 黒点= MW 前景星。色は表面密度を表す。 |
![]() 図2.LMC の Hα 画像。Southern H-Alpha Sky Survey Atlas (Gaustad01) =灰色に 赤線= VMC タイルを貼り付けた。青とマゼンタは今回使用したタイル。 シアンの十字=LMC中心。 解析した領域 表1に観測タイルの特性を示す。図2には、それらの位置を示す。 2.1.測光と人工星テスト図3に CMDs の例を示す。compact galaxies の混入は j-Ks > 0.88 と Y-Ks > 1.56 の天体を消すと防げる。 図4にエラー分布を示す。図5には人工星テストからの完全性マップの例を示す。 |
![]() 図3.Ks - Y-Ks CMDs の例。 |
![]() 図4.Y, J, Ks でのエラー分布の例。 |
![]() 図5.人工星テストから得た完全性マップの例。 |
2.2.モデルとデータを同じゼロ点へ2MASS 等級への変換は次の式で行った。![]() |
![]() 図7.上:タイル 8_8 の Ks - (Y-Ks) CMD. 茶点=LMC 巨星。緑=MW 矮星。 シアン=明る過ぎて一部サチった星。黒= 2MASS がない。 下:VMC 測光値と 2MASS からの推定等級との差 |
SPMs=恒星部分モデル SFH の回復法は Kerber09 に述べられている。SPMs = "stellar partial models" は log t = 6.6 - 10.15 を14に分けた年齢区画とメタル量区画 で指定された部分区画に対するモデル表示である。それらは5つの AMRs を 追う。こうして、70 の SPMs の重なりとして、LMC の星種族を表現する。 IMF は Chabrier et al. (2001) を用いた。連星率は 30 % とした。 図9ー12:解の例 図9−12には求まった解の例を示す。 |
![]() 表2.70の星モデルのグリッド |
4.1.円盤円盤の向き表3に示す36 副領域で独立に CMD フィッティングを行い、中心距離を得た。 その 36 個の距離と方向を用いて、円盤の幾何学を決定した。そのパラメター は、LMC 中心の方向 αc, δc, LMC 中心の 距離指標 (m-M)o, 円盤の傾斜角 i (i は円盤の軸と視線との角度だから、=0 は対面を意味する)、ノード線の方位角 θo である。 円盤の位置と方向を決める際には、αc, δc として、表4に示す4つの候補を検討した。 図13=円盤位置のベストフィット 図13には Nikolaev et al. (2004) の中心位置を用いたベストフィットの結果を示す。表4と表5には文献に載った 円盤パラメターと我々の決めたパラメターを載せた。 距離指標 (m-M)o 我々の距離指標 (m-M)o は最近の研究結果と良い一致を示す。最近の値は Schafer08 にまとめられているように、 HST Key Project Freedman01 で決め られた (m-M)o = 18.50±0.10 の周りに集中している。しかし、それらは 恒星進化モデルや測光ゼロ点による系統誤差を共通に受けている可能性があり、 独立な距離決定は重要である。 |
4.2.減光MCPS との比較表3に今回我々が求めた各領域の Av と Zaritsky04 のMCPS = Magellanic Cloud Photometric Survey からの Av マップとを比較した。Zaritsky04 の Av は星毎に定めているため、領域毎に平均 Av を決めたわれわれよりエラー バーは大きい。 低減光領域では我々の Av は Zaritsky04 に比べるとずっと小さい。Av の 小さい領域では差が小さい。似たような違いが Haschke11 でも報告されている。 かれらの OGLEIII に基づく RCs と RR Lyrae 星の V-I カラーからの減光を Zaritsky04 と比較した結果も同様であった。 |
5.1.SFH エラー5.2.SFH図14ー図17を見ての通則として、LMC でこれまでに形成された星の大部 分は log t > 9.5 (t>3Gyr) に生まれたことが判る。t < 1 Gyr で 生まれた星は全体の 9 % 以下である。したがって、若い星種族に取って重要な 最大級に強い星形成活動といえど、lMC 全体にとっては僅かな寄与でしかない。5.3.タイル 8_8図14にタイル 8_8 の SFR(t) と AMR が載っている。このタイルは (m-M)o = 18.39, Av = 0.2 である。最古の時代 log t > 10.0, [Fe/H] < -1.0 における星形成に加え、このタイルには次の2つ の星形成ピークがあった。1.log t = 9.9, [Fe/H] = -0.70. 星の 31 % を作る。 2.log t = 9.1 - 9.3, [Fe/H] = -0.42. 星の 21 % を作る。 より詳細な 図 A1 を見ると、中心に近い G1, G5, G6 では log t = 8.5 - 8.7 に第3のピークが見える。これは外側の G7, G10, G11, G12 には見えない。 つまりこの第3ピークは LMC 円盤内側領域に限られていたらしい。 log t < 8.3 での星形成は無視できる程度である。 |
5.4.タイル 8_3図15にタイル 8_3 の SFR(t) と AMR が載っている。このタイルは (m-M)o = 18.45, Av = 0.33 である。t <2 Gyr の強く持続する SFR が特徴的である。 この若い星形成活動は副領域毎に変化が激しい。図 A2 を見よ。タイル西半分 G5 - G12 では log t < 8 に星形成が盛んである。この最近の星形成は LMC で二番目に盛んな星形成領域 N11 のガスに関係するのだろう。 最古の時代 log t > 10.0, [Fe/HJ] = -1.0 における星形成に加え、この タイルには次の2つの星形成ピークがあった。1.log t = 9.7, [Fe/H] = -0.65. 星の 22 % を作る。 2.log t = 9 - 9.4, [Fe/H] = -0.47. 星の 27 % を作る。 5.5.タイル 4_3図16にタイル 4_3 の SFR(t) と AMR が載っている。このタイルは (m-M)o = 18.54, Av = 0.33 である。log t < 8 の若い種族 SFR はタイル 8_8 と 同様に低い。一方、古い種族星の SFR は他の副領域の多くととよく似る。 最古の時代 log t > 10.0 における星形成に加え、このタイルには次の3つ の星形成ピークがあった。1.log t = 9.7, [Fe/H] = -0.62. 星の 31 % を作る。 2.log t = 9.3, [Fe/H] = -0.35. 星の 15 % を作る。 3.log t = 8.7, [Fe/H] = -0.18. 星の 1.5 % を作る。 log T < 9 の若い星形成は G4 と G8 に集中している。それらは、円盤 中心に最も近い領域である。二つの古いピークは 8_3 タイルとよく似ている。 古い種族の混合が進んでいることを意味する。 |
5.6.タイル 6_6このタイルでは、二つの副領域 D1 と D2 を調べた。 図17にそれらの SFR(t) と AMR を示す。これら二つはタイルの反対側に位置し、 30 Dor SFR から離れている。D1 は最も混んでおり、おそらく測光エラーの せいで χ2 も大きい。 D1 では Av = 0.65, D2 では Av = 0.60 である。混んでいるに拘わらず検出星数は 多く、このため SFR(t) エラーは小さい。kig t > 8.0 では D1, D2 の SFR(t) は互いに似る。第1ピークは log t = 10.1, log t = 9.9 に谷があり、log t = 9.7 - 8.4 の間は連続的な SFH が続く。この連続期間中に D1 で 64 %, D2 で 53 % の星が作られた。この長期にわたる星形成活動がバーの形成に関係すると考え たくなる。log t < 8 での星形成は D2 の方が激しい。5.7.相互作用史二つの古いピークタイル 4_3, 8_3, 8_8 の SFR(t) には古いピークが二つ見える。それらは、 各自で 15- 30 % の星形成を担っている。 Bekki, Chiba (2007) の力学進化シミュレイションによると、log t = 9.3 に観測される SFR(t) の 第2ピークは LMC-SMC 距離が極めて近くなった時期に相当する。また、LMC が MW と強い力学作用を起こしたのは t = 5.5 Gyr と 6.5 Gyr である。これらが t = 5 Gyr の第1ピークに関係する可能性がある。t > 5 Gyr に SFR(t) の ピークが見られないことは、第1ピークは LMC が MW に降着してきた際の 最初の相互作用の化石なのかも知れない。 タイル 4_3 と 8_3 には log t = 8.0 - 8.2 に SFR(t) ピークを示す 副領域がある。これらは SMC-LMC 相互作用が強まった時期なのではないか? [Fe/H] の低下現象 我々の研究では、いくつかの領域、例えば 6_6、では、 log t < 8.1 で [Fe/H] が低下する。それは log t = 8.2 から 7.0 にかけて Δ[Fe/H} = 0.2 になる。その説明として、 (1)LMC 周辺部に在った低メタルガスが中央に移ってきた。 (2)MW ハローか SMC のような処から低メタルガスが降ってきた。 LMC は 0.047 dex/kpc の緩いメタル勾配を有する。したがって動径方向に 4 kpc 離れると 0.2 の差になるから、(1)はあり得る。(2)に関しては、 Bekki, Chiba (2007) の力学モデルが 0.2 Gyr 昔に LMC - SMC 間のガス移動を示している。 モデルによると SMC-LMC 潮汐作用の結果 SMC 円盤のガスが剥がされて、 LMC に降着する。SMC のメタル量は LMC より著しく低いので、 降着ガスから生まれる星のメタル量は下がるのである。 |
![]() 図17.タイル 6_6 内の 上=D1 と下=D2 の 左=SFR(t), AMR と右=各ビ ン内で形成された星の量。 SMC からの降着 Olsen11 は 視線速度の観測から、LMC AGB 星の 5 % は逆回転している事を 示した。かれらは又この運動学的に他と区別される星種族が LMC の特異ガス腕 に随伴していることから、それらの星とガス腕は SMC 起源とした。しかし、 モデルと観測との定量的な検討は未だなされていない。 LMC の速度 HST による固有運動の観測は、LMC が 380 km/s という高速で運動しており、 LMC が MW と遭遇したのは 0.2 Gyr 昔が最初であったことを示す。 Besla07. 一方、Costa09 の地上観測はもっと低い 300 - 340 km/s を 示している。また Bekki11 によるシミュレイションはもし LMC 速度が 360 km/s 以下ならば、それは LMC が過去 5 Gyr の間 MW に拘束されて いたことを示す。したがって、LMC の速度の観測は重要である。 |
良い結果が出た。もっと多くのタイルを解析するともっと良くなる。 |