Infrared Excess and Molecular Clouds : A Comparison of New Surveys of Far-Infrared and HI 21 cm Emission at High Galactic Latitudes


Reach, Wall, Odegard
1998 ApJ 507, 507 - 525




 アブストラクト

 FIR - 21 cm 相関を領域ごとに取って、原子状星間媒質に対する赤外超過放射 の輝度分布を求めた。これは以前の IRAS/Parkes/Berkeley 研究の改定拡張 である。ここでは COBE DIRBE/Dwingeloo/Parkes の組み合わせを使う。 COBE 100, 140, 240 μm 超過放射マップは、他より暖かいダストがあるか、 星間原子に付随しないダストの存在を意味する。温かい雲、 60 μm で 明るい、は非常に少なく、例えば高銀緯 B 型星 α Vir の周りの HIIR や正体不明の雲 DIR015+54 くらいである。 F240/F100 から温度を 定めると、赤外雲は冷たいことが分かる。原子状星間媒質中のダスト温度は 19±2 K であるのに対し、分子雲中では 15.5±1 K である。

 1.イントロ 

 高銀緯での分子雲 CO 探査は膨大な時間がかかる上、ほとんどの箇所で非検出 に終わる。IRAS の 100 μm は HI と相関がよい。相関関係に対する FIR の超過は分子雲に起因するのであろう。この考えは Ursa Major (de Vries et al 1987) で確認された。Desert, Bazell, Boulanger 1988 は Berkeley HI Survey と IRAS 100 μm マップから赤外超過雲のカタログを作った。
 Schlegel, Finkbeiner, Davis 1998 は IRAS/COBE データから減光マップ を作成した。温度とダスト/ガス比の較正は我々と似た方法を採っている。 しかし、低分解能のダスト温度分布を用いてダスト柱密度を決めているので、 彼らの減光マップは分子雲のように冷たい雲に対しては低めの値を与える。 従って我々が与える分子雲アトラスを参考にするのがよいだろう。
ここでは、COBE 100, 140, 240 μm データと Dwingloo HI サーベイ を組み合わせる。


 2.FIR と HI の相関 

 2.1.観測 

 2.2.領域ごとの FIR と HI の相関 

  FIR 放射の分離 
 FIR 放射 = HI 中ダストからの星間ガス成分 + 電離帯と分子雲ダスト成分

と分ける。星間ガスの柱密度は HI 強度に比例するが、FIR 放射はダスト温度 に強く依存する。ダスト温度を決めるには二つの方法を考えた。

(1)各ピクセルごとに 100, 140, 240 μm 強度比から単一ダスト温度を 導く。その温度からダスト柱密度を得る。
(2)FIR/HI 比を領域ごとに定める。

(1)法は原理的には良いのだが、140, 240 μm は非常にノイズが高く、一方 100 μm マップは黄道光の影響が強い。その上、分子雲のダスト温度は 星間ガス温度よりずっと低く、単一温度の扱いは不正確である。そこで、第2法 を採用した。ここでは、天空を半径 10° の「セル」に分ける。セルの格子 は 10° 間隔とする。各セル内ではピクセル毎に測った FIR と HI 強度を プロットする。(l, b) = (140°, 35°) での例を図1に示す。

 星間ダストの温度 
FIR が HI に比例する低柱密度ピクセルでの F100/F240 比とダスト放射率 ∝ ν2 と仮定し、星間ダスト温度を決めた。 (l, b) = (140°, 35°) で 17.2 K、(l, b) = (40°, 35°) で 19.0 K であった。2 K の差は小さいようだが、 100 μm で 2.4, 240 μm では 1.7 倍の差を生む。このようにして、領域ごとに ダスト温度とダスト/ガス比(FIR と HI 強度比から?)を決めた。 もし分子雲サイズがセル(10°)より大きいと、この方法はうまくいかない。 そのような領域は銀河面に近い著名な星形成複合で、より詳細な 観測が必要である。

 全天分布
 全天での HI slope と 100 μm の超過を図2に示す。HI 勾配で際立つのは (l, b) = (300°, +50°) と (90°, -40°) である。前者は 近くにある早期型星 Spica が周囲のダストを照らしているためであり、後者は MBM53/54/55 分子雲複合のためである。これらコンパクトな領域以外にも、 温度変動に基づく 100μm - HI 勾配の変動が見られる。



図1.Ursa Malor - Ursa Minor - Camelopardalis 領域における DIRBE 240 μm と Leiden-Dwingloo 21 cm の比較。
(上)全体の表示。ただし、N(HI)>1.6×1021cm-2 の 56/2393 点は省く。縦破線= FIR と HI の関係が直線かどうかの境界。 比例関係線からの FIR 残差を電離ガス、分子ガスに付随するダストの放射と看做す。
(下)破線左側の線形領域の拡大図。N(HI)<3.75×1020 cm-2 のみを表示。実線=この領域の点に対するフィット。 上の図の実線は同じ直線。



 3.赤外超過の分布 

 3.1.赤外超過の定義 

 赤外超過を次の式で決めた。

     Iνex = Iν - S N(HI) - O

ここに、S と O は局所的に決めた、赤外 - HI 関係式の勾配と切片である。 我々は 100, 140, 240 μm のそれぞれで赤外超過マップを作った。 図5には 240 μm でのマップを示す。

 3.2.赤外超過雲のマップ 



 高銀緯分子雲の形成 
 高銀緯分子雲は HI の大規模構造に随伴していることが知られている。 それはこれ等の分子雲形成が HI 大規模構造を作るのに関係した超新星 爆発や恒星風と関係することを示唆する。
 マップ 
 ここでは全天を8枚のマップに分けて提示する。図7の 20° < |b| < 50° ではデカルト座標系を採用して、座標が分かりやすい ようにした。図8の銀極付近は orthographic 表示である。マップは 100 μm のものを示してあるが、 140, 240 もよく似ている。

 分子雲リスト 
 表3には既知の分子雲を示す。赤外超過マップ上で眼試検査により 発見した分子雲は表4に示す。赤外超過雲は一般的に 240 μm で 明るい。そしてその色温度は普通の原子雲よりかなり低い。


表3(左)既知の分子雲。                                         表4(右)新発見の分子雲










図5.HI 柱密度に付随する放射を引いたのちの 240μm 超過の全天マップ。



図7.100 μm 超過マップ。著しい分子雲はパネル内に Magnani et al 1996 の名前を記した。新しい 分子雲には DIR lll+bb の形で名前を与えた。グレイスケールは -0.2 (白)から 5(黒)MJy st-1 まで、等高線は 0.3, 1, 2, 3, 4 MJy st-1 である。大きな黒領域は HI データがないか、マゼラン雲か、系外の赤外光の 領域である。
















 3.3.暖かい赤外超過雲 

 スピカ HIIR
 多くはないが平均より高温の赤外超過雲もある。著しい例はスピカ、 r = 80 pc の B 型星、の周りの HIIR である。これは Reynolds et al 1985 が Hα で発見した、低密度空間における HIIR で 15 ° に渡って広がっている。 Spica HIIR 中のダストは星間シラス のダストに比べ高温で、かつ、IRAS 12 μm、25μm では 100/240 放射からの予想より強い放射を示す。Zagury 1997 はサイズ 分布が変形を受けたためと解釈した。Spica HIIR に匹敵するサイズと 輝度を持つ「暖かい」赤外超過は他にはない。

DIR 015+54 
 以前に注目されて来なかった「暖かい」雲として DIR015+54 がある。 この雲は 60 - 100 μm 超過雲の中では最も明るい天体の一つである。 図8a を見よ。この雲は 240 μm では検出されない。従って表4には 載っていない。この雲の光学対応天体は見つかっていない。この雲の 遠赤外カラーは NGC6822 と似ているが、 HI 21 cm 観測の視線速度 は -17 km/s で、ライン巾は 3, 15 km/s の 2 成分を持ち、銀河系 の雲がダストサイズなどの影響でこのようなSED を示して いるらしい。



図10.DIR 015+54 の IRAS 60 μm マップ。



 3.4.赤外超過と分子雲 

 3.4.1.既知分子雲との比較 

 
 我々のリストには実際上これまでに登録された Magnani, Hartman, Speck 1996 高銀緯分子雲は全て載っている。しかし、Desert et al 1988 による 赤外超過の 515 雲 (DBB88) とは大いに異なる。彼らの使ったデータ の質が低いことが原因らしい。



 4.結論 

 分子雲 
 星間水素原子に随伴する放射を差し引いた後に残った赤外超過 から赤外超過雲が見つかった。それらは主に分子雲であった。 雲の内部に存在するダストと分子は外側ダストの吸光により星間輻射場の 破壊作用から守られている。

 雲物質の表面密度 
 雲の柱密度は較正の結果、

     Iex(100)/N(H2) = 0.26 ±0.05 MJy sr-1(1020cm-2) -1

で与えられる。雲物質の表面密度は 0.3 Mo pc-2 であった。
 
 赤外超過マップは減光が高い領域を調べるのに有用である。 HI 柱密度から決めた Burstein, Heiles 1978 の減光は高銀緯帯では 大幅な過小評価へと導く。もし、希薄星間雲と同じ関係 Bohlin, Savage, Drake 1978 が分子雲にも適用できるなら、以下の式 が使える。

     Av/Iex(100) = 0.027 mag MJy-1 sr