The ARAUCARIA PROJECT: Dependence of mean K,J,and I absolute magnitudes of Red Clump stars on metallicity and age


Pietrzynski,G., Gieren, Udalski
2003 AJ 125, 2494-2501




 アブストラクト

K等級にはメタル量依存が無い 

 進行中の Araucaria 計画(星の距離指標を改善する)の一環として、4つの局所 群銀河、LMC, SMC, フォルナックス、カリーナ、の深い J,K 撮像を行った。観測は ESO VLT および NTT を使って行われた。4銀河でレッドクランプ星の平均等級を定めた。 減光を補正したレッドクランプK等級を TRGB 等級、 RR Lyr 平均 V 等級、P=10d セファイドの平均K等級(LMC, SMC)、と比較した結果、レッドクランプの平均K等級は メタル量依存がほとんど無いか、もしあっても非常に低いことが判った。

I, J 等級はメタル依存が大きい 

この結果は I, J 等級ではメタル依存が大きいという事実と強い対照を示している。 今回の観測は、以前 Udalski が出した I バンドのメタル依存性とよく一致する。

K等級は年齢効果も無い 

 Grocholski, Sarajedini の銀河星団中のレッドクランプデータを用いて、我々は レッドクランプK等級の 2 - 8 Gyr では年齢効果も小さいことを示した。

モデルの精度は不十分 

 そういうわけで、本研究によりレッドクランプK等級は種族効果の補正が極めて小さい か又は必要ない、優秀な距離指標であることが示された。我々の発見は、現在モデル 計算から決められている種族効果は ±0.15 等の精度しかないことを意味する。 この精度では高精度距離スケールの研究には不十分である。

ヒッパルコス較正は再検討が必要 

 RC K 等級から対象天体の距離を求めた。それらを、I 等級から決めた距離と比べた所、 太陽近傍の RC K か I 等級に 0.2 等の問題のあることが判った。ヒッパルコスによる RC 等級決定の再検討が必要である。それによって、局所群銀河の距離を RC により はっきりと決めることができる。

 1.イントロ 

ARAUCARIA 計画の紹介

 われわれは ARAUCARIA 計画(Gieren et al 2001)を発足させ、恒星の距離指標を 同じ近傍銀河に適用して比較するという方法で再検討している。その結果それらの 真の精度、メタル量・年齢依存性がはっきりするはずである。

RC 星の利点 

 レッドクランプの利点は明るさがまとまっていて、太陽近傍にも数が多いことで ある。ヒッパルコスでは誤差 10 % 以下の RC 星が約 1000 個観測されている。 Paczynski, Stanek 1998, Alves 2000

⟨I⟩RC のメタル依存性 

 恒星距離指標に共通する心配は種族効果である。LMC RC 星の観測から、RC 平均 I 等級は 2 - 9 Gyr の範囲で年齢依存性が無視できる程度に小さい (Udalski 1998) ことが知られている。分光的にメタル量を定められた近傍 RC 星 (McWilliams 1990) を用いて ⟨I⟩RC のメタル量依存性が調べられた。その結果、 -0.5 < [Fe/H] < 0.1 で ⟨I⟩RC のメタル依存性は 0.14 mag dex-1 ある (Udalski 2000) ことが判った。

⟨K⟩RC のメタル依存性 

 Alves(2000) はヒッパルコス RC 星を用い、 -0.5 < [Fe/H] < 0.0 で  ⟨K⟩RC にはメタル依存性が認められないことを発見した。 Grocholski, Sarajedini 2002 の最近の結果は ⟨K⟩RC が 優秀な標準光源であることを示している。

近傍銀河での RC 観測

 これらの結果に励まされ、LMC, SMC, カリーナ、フォルナックスの深い近赤外 撮像を行った。目的は ⟨J⟩RC と ⟨K⟩RC の年齢・メタル量依存性をこれら環境が大きく異なる銀河で調べることである。



 2.観測 

観測スペック 

 観測は VLT+ISAAC IR カメラで行った。視野は 2'.5×2'.5, 0".148 pixel -1 である。観測は 2000 年 11 月 9,10 日の 2 晩行った。 表1に 観測した場所の座標と検出された RC 数が載せてある。
 Ks では 12 秒積分を 5 回繰り返してから 20" ずらした。カリーナでは 24 回 フォルナックスでは 78 回そのようなジッタリングを行い、総積分時間 24 分と 78 分にした。J バンドも同様の方法を採用した。J では第1晩 480, 240 秒、第2晩 800, 360 秒であった。

データ整約 

 測光システムの変換のため、UKIRT 標準星6個が様々なエアマスで観測された。 データ整約は DAOPHOT を用いた。詳細は Pietrzynski, Grieren, Udalski 2003 に 述べる。

LMC, SMC の RC 観測

 LMC, SMC の10箇所でも NTT により J, Ks 観測を行った。データの一部は RC の K 等級を用いた LMC 距離の決定 Pietrzynski, Gieren 2002 に使用した。マゼラン雲 データの完全な記述は別に述べる。ここでは、LMC 3箇所と SMC 2個所の測光結果 について述べる。

表1.観測した場所とそこで見つかった RC の数


図1.LMC, SMC, カリーナ、フォルナックスの K, J-K 色等級図。銀河毎に 異なる領域のデータが足されている。

 レッドクランプ星の平均 J-, K- 等級 

フォルナックス4領域での RC 星の平均 J, K 等級 

 図1には色等級図を示した。フォルナックス4領域は RC 星の数が多かったので 各領域毎に平均等級を求めた。そのため、18.3 > K > 20.3, 0.3 > J - K > 0.85 の範囲にある星を選び、 0.06 等のビンで光度関数を作った。フィット には Paczynski, Stanek 1998 に倣って ガウス+2次式を使った。

n(K)=a+b(K-Kmax) +c(K-Kmax)2
+ NRC exp [ - (K-Kmax)2 ]
RCSQRT(2π) RC2


 こうして決めた 4 領域での平均 J, K 等級を表1に載せた。これらは2晩の 独立な観測であるが値の一致がよい。そこで、全体を結合して平均等級を決めた。 それも表1に載せてある。

 フィットの様子は図2に示されている。結果は、⟨K⟩ = 19.215 ±0.013, ⟨J⟩ = 19.687 ±0.014 がフォルナックスの 平均値である。,

LMC/SMC の平均等級 

 SMC の FI, FII フィールドと LMC の FIII フィールドの平均 J, K 等級が 同じ方法で決められた。 LMC の FI, FII フィールドの平均 J, K 等級は Pietrzynski, Gieren 2002 を採用した。再び、良い一致が見られ、フィールドを 結合する根拠を与えた。その結果、⟨K⟩LMC = 16.894 ±0.007, ⟨J⟩LMC = 17.472 ±0.007, ⟨K⟩SMC = 17.346 ±0.018, ⟨J⟩SMC = 17.857 ±0.020, である。 これらは UKIRT システムの値であるが、 Alves et al 2002 が Koorneef システム で決めた 、⟨K⟩LMC = 16.974 と近いことを注意しておく。 この点の詳細は Pietrzynski, Gieren 2002 を見よ。

LMC/SMC の幾何学効果 

 今回の LMC/SMC フィールドは皆中心から 0.5° 以内で幾何学効果は無視して よい。この点をチェックするため、 Marel et al 2002 の LMC モデル,Groenewegen 2000 の SMC モデルを使った。その結果は我々の前の結果と 0.01 等以内の範囲で 一致した。これは我々のゼロ点誤差より小さい。

カリーナ 

 カリーナではレッドクランプ星の数が少ない。しかし、フィールド間隔は 10' 以下なので合算した。⟨K⟩Carina = 18.533 ±0.015, ⟨J⟩Carina = 18.970 ±0.014 である。



表 2.各銀河での RC の J, K 等級


図2.カリーナとフォルナックスの光度関数。ガウス+多項式でフィット。


図3.LLC, SMC の同様のフィット。



図4.右:KRC - ITRGB と 左:ITRGB- KRC のメタル量依存性。ITRGB は 0.18[Fe/H]補正済み。

 4.他の距離指標との比較 

赤化の補正値 

 表3に赤化補正済みのレッドクランプ等級を TRGB I 等級と RR Lyrae V 等級 と比較した。LMC と カリーナは Udalski 2000 から、フォルナックスの ITRGB は Bersier 2000 から採った。フォルナックス、カリーナ方向 の赤化は Schlegel et al 1998 減光マップから、E(B-V)Car = 0.06±0.01, E(B-V)For = 0.03±0.01 とした。マゼラン 雲は Udalski et al 1999 の OGLEII 減光マップを用いて LMC では E(B-V)FI,FII = 0.152, E(B-V)FIII = 0.115, SMC では E(B-V)FI,FII = 0.089 とした。減光則には Schlegel et al 1998 を 採用した。

セファイド等級 

 マゼラン中のセファイドの P = 10 d 平均 Ko 等級を Groenewegen 2000 から 採った。

メタル量 

 LMC 中間年齢種族のメタル量として Bica et al 1998, Smecker-Hane et al 1999 より [Fe/H] = -0.5, SMC に対しては Udalski et a; 2002 から [Fe/H] = -1.0 とした。カリーナの赤色巨星 52 個のスペクトルから Smecker-Hane et al 1999 は [Fe/H] = -2.0 とした。Tolstoy et al 2002 の VLT UVES 5 星の観測によると [Fe/H] = -1.6 であった。そこで、カリーナに対しては平均値 -1.8 を採用した。

種族効果 

 今回の 4 銀河がカバーする年齢、メタル量の範囲では TRGB の I 等級が一定で あるという結果が観測的に得られている。Le, Freedman, Madore 1993, Udalski 2000 多くの銀河での TRGB 距離とセファイド距離との比較も Lee et al 1993, Kennicutt et al 1998, Ferrarese et al 2000, Udalski 2000 よい一致を示す。したがって、 ⟨KRC⟩ と ⟨ITRGB⟩ を比較することで ⟨KRC⟩ の年齢、メタル効果(種族効果)を調べることが できる。
セファイドに種族効果がないとして、それとの比較で ⟨ITRGB⟩ には種族効果がない。だから ⟨ITRGB ⟩ との差は ⟨KRC⟩ の変化という論理。

 図4にはメタル量の関数としてその差を示した。系統的な変化は見られない。両 者の差は ⟨KRC⟩ - ⟨ITRGB⟩ = 2.51 ±0.04 である。図4の左には RR Lyr に 0.18[Fe/H] の補正を加えて同様の 比較をした図を示す。こちらも似た結果である。

表 3.色々な距離指標の平均等級 


LMC/SMC でのセファイドとの比較 

  ⟨KRC⟩ のメタル量依存を調べるもう一つの方法は マゼラン雲セファイド(Groenewegen 2000)の 2MASS データを使う。2MASS の Ks とここで使っている UKIRT K の間には実際上の差はないので、Groenewegen の P-L 関係をそのまま使い、 ⟨KRC⟩ - ⟨KCep, P=10d⟩ = 4.05 ±0.03 (LMC), 4.03 ±0.03 (SMC)を得た。これは少なくとも LMC と SMC のメタル量範囲内では等級差がメタル量に依存していないことを示す。

太陽近傍 RC 星のメタル依存性 

 これら全ての比較から、-1.8 > [Fe/H] >: -0.5 の範囲内では  ⟨KRC⟩ がメタル量、星形成史によらないと言える。これは ALves 2000 の結果、すなわち太陽近傍の RC 星は -0.5 > [Fe/H] >: 0.0 でメタル依存性がない、と良い一致を示す。

年齢効果の方ははっきりと述べられていない。メタル量の 比較も同じ年齢で揃えているわけではない。混ぜて種族効果という言い方のして いるらしい。


星団のレッドクランプ 

 原理的には年齢・メタル量依存性は星団中の RC 星を調べればよい。しかし、 精度の高い赤外測光がなされた RC を含む星団の数は現在のところ少ない。最近、 Grocholski, Sarajedini 2002 は銀河星団の ⟨KRC⟩ を 研究した。彼らは 2MASS から 14 星団の赤外等級を集めた。彼らはデータ から求めた ⟨KRC⟩ がモデル フィットから予想される年齢、メタル量依存性を持つことを示した。しかし、 彼らの結果の精度はサンプル数の少なさと MS フィットで決めた距離の精度 から制約を受けている。彼らが到達した ⟨MRC⟩ の 精度は 0.11 - 0.12 mag である。しかし、それでも Grocholski, Sarajedini 2002 データを使い RC 星の年齢依存性を粗くであるが調るのは可能である。 そこで、我々の銀河のレッドクランプ星の年齢範囲 2 - 9 Gyr に対応する星団を 三つ、NGC 6819, M67, Be 39 を選んだ。それらのメタル量はヒッパルコスレッド クランプ星の範囲内であり、従って Alves 2000 が示したように、  ⟨MKRC⟩ にメタル量効果はない。図5に MKRC を年齢に対して示した。エラーバーの範囲内で 系統的な変化は検出されない。これは MKRC がメタル量 のみならず、年齢に対しても依存性がないことを示している。

4 銀河の RC 星に対して年齢が何処にも示されていない。 いくつなのか?  


図5. 年齢 2 - 9 Gyr 星団の ⟨MKRC⟩ Grocholski, Sarajedini 2002)星団メタル量は Alves 2000 によるヒッパルコス RC 星の範囲内にあり、従ってメタル依存効果はない。データは年齢効果も存在 しないことを示している。


 5.レッドクランプ I, J 等級への種族効果 

I, J 等級の出典 

 銀河の I バンドデータは LMC, SMC, Carina に関しては Udalski et al 1998, Udalski 2000, Fonax に関しては Bersier 2000 を採用した。平均等級は表4に 載せた。

I, J 等級はメタル量依存性がある

 図6に示された通り、 ⟨IRC⟩ - ⟨KRC⟩ と ⟨JRC⟩ - ⟨KRC⟩ のどちらも、メタル量 と強い相関を示す。最小二乗フィットの結果得られた傾きは 0.09 ±0.02, 0.13 ±0.02 mag/dex である。この結果は Udalski 2000 がヒッパルコス星 のメタル量依存に対して得た

   ⟨IRC⟩ = (0.14 ±0.04 )[Fe/H] + const. ([Fe/H] = 0 to -0.5)

と極めて良い一致を示している。

ヒッパルコスの結果は年齢とメタル量を分離して 得られているのか?  


表4.レッドクランプ星の I, J, K 等級。

図6. ⟨IRC⟩ と ⟨JRC⟩ を ⟨KRC⟩ と比較した。はっきりした傾きが見える。 I, J 等級に関しては年齢効果がないという結果は 出ていないのではないか?  


 7.議論 

太陽近傍星のゼロ点エラー 

 図7には,LMC を基準にし、メタル効果を補正したレッドクランプの I 等級 と 同じく LMC を基準にした K 等級との差をメタル量に対して示した。太陽近傍 を除いては互いの一致が良いことが判る。これはかなり大きなゼロ点エラーが K か I 等級にあることを示唆する。

K 等級距離

 我々の K 等級を Koorneef システムに変換し、Alves 2000 の K 等級較正 を用いて、我々は4銀河の距離指数を定めた。

 1. LMC 18.498 ±0.007
 2. SMC 18.967 ±0.018
 3. Carina 20.165 ±0.015
 4. Fornax 20.858 ±0.013

LMC の距離は RC K 等級から Pitrzynski, Gieren 2002, Alves et al 2002, Sarajedeni et al 2002 が以前求めた値とよく一致する。

I 等級距離とのズレ 

 メタル効果を補正した I 等級を用いた距離は 18.26 ±0.07 (LMC), 18.71 ±0.07 (SMC), 19.96 ±0.08 (Carina), 20.60 (Fornax) である。 これは K 等級からの値に比べるとほぼ 0.2 等小さい。 K 等級の較正は ALves 2000, I 等級は Udalski 2000 であり、近い将来に何が おかしいかはっきりさせる。

モデルフィットは役に立たない 

 Girardi, Salaris 2002 のいわゆる「種族効果」補正を入れた K 等級距離は DM(SMC) - D(LMC) = 0.43, DM(Car) - DM(LMC) = 1.53 である。これを観測的に 導いた DM(SMC) - D(LMC) = 0.47&plumn;0.03(KRC), = 0.50&plumn;0.04 (TRGB), 0.52&plumn;0.03 (RR Lyr), 0.49&plumn;0.03(セファイド), さらに、 DM(Car) - D(LMC) = 1.70&plumn;0.05(TRGB), 1.71&plumn;0.03(RR Lyr), 1.67&plumn;0.03(KRC) と比べると、モデルフィットからの距離精度は 0.1 - 0.15 等程度である。これは使うには低精度すぎる。 -DM(Car) - DM(LMC) = 1.53

図7. LMCを基準にしたレッドクランプの I 等級と K 等級の差を 同じく LMC を基準にしたメタル量に対し示す。太陽近傍のみが他と離れている。 これはヒッパルコス星の K または I 測光データは 0.2 等のゼロ点エラーが あることを示唆する。



セファイド K 等級に種族効果がないとして、 RC の K 等級がセファイドに対して一定の差を示す事が根拠になっている。 近傍銀河の RC 星に対しては年齢は問題にせずに、メタル量による変化が ないという解釈をする。 星団に対しては Alves 2000 のメタル依存がないという話に準拠して 変化がないのは年齢効果がないという解釈にしている。 モデルなしでは立ちいかない話と思うが