A long Term Study of SiO(v=1, J=2-1) Maser Emission from Evolves Stars and Orion A


Nyman, Olofsson
1986 AA 158, 67 - 82




 アブストラクト 

 8 星の SiO v=1, J=2-1 メーザーを 4 年以上継続観測した。5/8 星で赤外 変光とよく相関した周期的なメーザー強度変化が見られた。SiO メーザーの 極大強度 Fmax と Fmax/Fmin は周期毎にまた、星毎に大きく変動する。 メーザースペクトルの個々の成分 (ピーク) の速度は変光周期の時間巾では 安定している。恒星中心速度で強いピークが現れることは稀である。 幾つかの星ではメーザーピーク速度に変光周期を越す長期間に亘る変動が 観察された。&omikron;Cet では速度変化は連星の公転によるのかも知れない。  個々の星毎に全観測スペクトルを重ねたグランド平均スペクトルを用いて 速度構造を調べた。中心速度は星本体の視線速度に近い。これは SiO メーザー を星の視線速度決定に使用できることを意味する。グランド平均のスペクトル 巾は星同士で似た値となり、星周ダストシェルの膨張速度にあまり相関しない。 幾つかの例ではメーザー視線速度が膨張速度を上回る例もあった。ミラ型 変光星の全体平均スペクトルは、最高ピークが星本体速度に対し青色シフトし ていることを示す。一方、速度の広がりは赤色シフト側の方が大きい。 これがメーザー増幅機構とどう関係するかを議論した。
 オリオンAメーザーの周期変化が初めて検出された。


 1.イントロダクション 

 発生箇所 

 Scalise, Lepine 1978 は中心星近傍から発生と推定。 Lane 1982, 1984 は VLBI 観測から 6 Rs 以内からメーザーが放射されていることを示した。

 増幅機構 

 Elitzer 1980 は衝突励起を提案。Nguyen-Q-Rieu 1981, Langer, Watson 1984 は赤外励起を提案した。

 時間変化 

 SiO メーザースペクトルは通常幾つかの成分からなり、それらは現れたり 消えたりする。これはメーザーがダストシェル内側の乱流が支配的な領域から 発生することを意味する。その外側は運動がダストが輻射により吹き飛ばされ て、安定な速度場となるのであろう。このように、SiO メーザーを正しく 解釈できればマスロス機構の理解につながるであろう。

 他のモニタリング観測 

(1).Hjalmarson, Olofsson 1979
(2).Lane 1982
(3).Clark et al. 1982, 1984a,b, 1985
(4).Miller 1984

表1.観測星のパラメタ―


 2.観測 

 望遠鏡 

 観測は Onsala 20m 望遠鏡を用いて 1977 年 12 月 - 1984 年 1 月に掛けて 行われた。観測スペクトルは Nyman 1985 に示す。


 3.SiO v=1, J=2-1 メーザーの時間変化 

 3.1.SiO v=1, J=2-1 メーザーフラックス 




図1.SiO 周波数積分フラックスの時間変化。



図2.SiO 周波数積分フラックスの変光位相による変化。矢印= 1.04 μm 極大。


表2.SiO メーザーフラックスと 1.04 μm フラックスとの比較


 3.2.速度構造の時間変化 


図3a.SiO v=1, J=2-1 メーザー速度構造の時間変化。矢印=星本体。 等高線は Jy 単位で (min/step/max) で表されている:a=(20/60/620), b=(20/30/350), c=(10/10/140), d=(20/100/1800),

図3b.e=(10/10/80), f=(20/40/800), g=(10/20/190), h=(10/20/510)


 4.グランド平均 




図4.SiO v=1, J=2-1 のグランド平均スペクトル。矢印=星の視線速度。 巾が星同士で似た値であることに注意。




図5.SiO メーザーの巾 Δ&v とシェル膨張速度 vexp の関係。 実線は、Δ&v = 2×vexp.




図6.観測星全部の平均スペクトル。星の視線速度を v = 0 にした。

 



表3.SiOメーザースペクトルのグランド平均。






表4.H2 メーザー。ガウシャンフィット。


 5.SiO メーザーの場所 

 SiO メーザーは星表面に近い 

(1)SiO メーザースペクトルは複雑な構造を持ち、周期毎に大きく変わる。 これは H2O メーザーが単純な構造で、速度も数周期に亘り変わら ないことと対照的である。水メーザーは励起レベルが E = 640 K であること から多分 数十星半径で発生する。 
(2)グランド平均プロファイル巾がダストシェル膨張速度の2倍以上になる ことがある。これはメーザー成分の幾つかはシェルの内側、速度がもっと大き くあり得る Hinkle, Hall, Ridgway (1982) 場所にあることを示している。 
(3).全平均スペクトルの巾は星同士で良く似ている。その値はシェルの 膨張速度と無関係である。これはメーザーが生まれるのはダストシェルの膨張 と無関係の類似の速度構造の場所であることを意味する。
(4).SiO フラックスの平均値は星のマスロス率と関係しない。これは、 SiO メーザーが生まれるのが星周辺層であることを考えると期待されることである。

 もっと正確な場所は 

 SiO メーザーの正確な場所を決めるには、増幅が動径方向か接線方向かを 知る必要がある。もし増幅が動径方向ならばメーザー速度はその領域の実際の 速度変化をなぞるし、接線方向ならば星の視線速度と大体同じ視線速度スペク トル成分が卓越するだろう。我々の観測からはどちらとも言えない。

 衝撃波 

 9つの晩期型星大気の運動が Hinkle 1978, 1979, 1982, 1984 により 研究された。衝撃波が可視極大の直前からピークにかけて、光球を通過すること が示された。衝撃波はおそらく脈動で駆動され、外側に広がる部分と前回 膨張して今上から落ちてくる物質との衝突面で発生したのであろう。 位相 0.1 - 0.8 の間、物質は一様に下向きに加速される。速度巾は 30 km/s で ほぼ全ての星で共通である。これはメーザー速度巾と一致する。ガスの励起 温度は一サイクルの間に 3500 K から 2000 K に落ちる。
 低温層 

 より低温 Tex = 1500 K の層が低励起 CO 線と OH, H2 ライン で見える。これは赤方シフトした速度成分で見える。χCyg ではさらに低い Tex = 800 K の定常層ラインが 1975 年に形成された。この層は次の3サイクル の間に次第に消えて行き、ついに消滅した。この定常層までの距離は CO 励起温度から < 10 Rs と見積もられている。

 衝撃波 

 SiO が衝撃波通過域で発生するなら、増幅は接線方向であろう。なぜなら、 赤外ラインでの速度変化は非常に大きいのに、メーザー速度に変化がないからで ある。衝撃波面がメーザー領域を通過すると、可干渉光路長が変化し、衝撃波 背面での温度上昇が SiO を解離し、大きな速度変化も起きるので スペクトルの変動が見られるはずである。しかし、そのような明らかな変化は 観察されていない。新しい成分は通常, 極小時、位相 0.7 付近で現れる。 速度成分が突然壊れる現象は見られず、変化は滑らかである。もう一つ、 SiO メーザー位置は恒星大気近くではないだろうという議論は Hinkle et al 1984 によるもので、そこでは H- イオンの mm 波長域での減光が 非常に大きく、 SiO メーザーが観測不能になるというものである。

 結局どこなのか? 

 しかし、SiO v=1 レベルは 1750 K あるので、SiO メーザーの場所をそう遠く には置けない。落下ガスか定常層が候補となる。 SiO v=1, J=2-1 ラインは 星速度を中心に分布し、v=1, 2 J=1-0 は赤方遷移優勢である。それから考え ると、v=1, 2 J=1-0 は落下ガス中で生じ、J=2-1 は定常層と別れて生じる ように見える。しかし、J=2-1 ラインの巾が大きい事実はそれと合致しない。 その上、SiO 振動遷移の励起温度が CO と同じ 800 K とすると、v = 1 状態 にある SiO の数が少なくなり過ぎる。v = 1 メーザーの強度はもっと近距離を 要求する。このようにメーザーの位置を決めることはまだできていない。


 6.増幅機構 

 7.H2 メーザー 




図7.左= R Cas と右=NML Tau の H2O スペクトル。 ピーク強度を規格化して示す。



 8.オリオンA 


図8.オリオンAの積分 SiO フラックス時間変化。 Low = v < 6 km/s 成分。High = v > 6 km/s 成分。

図9.オリオンA SiO v=1,J=2-1 メーザー の時間 - 速度図。等高線は 50, 75, 100, 200, 300, 400 Jy.


 9.結論